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THE WAY of LIFE#前編 蜃気楼珈琲 オーナー・田上 凜太朗(29)「1回レールから外れてしまえば、楽。そうすればやるしかない。」
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よい大学に入り、よい会社に就職し、正社員として同じ会社で働き続ける。そんな「敷かれたレール」の上を歩く人生がよしとされ、幸せであると認識されてきた。
しかし、個人の生き方が多様化し、あらゆる選択肢が社会に溢れている今、レールから外れる、という生き方が1つの選択肢として認められてきている。そんな生き方を自分のモノにし、活力にしている人がいる。
「敷かれたレールから外れるのって不安だと思うけれど、1回外れてしまうと意外と楽でした。一歩前に踏み出してみると、もうやるしかない!と思考がシンプルになりましたね。そうすると、次にやるべきことが段々と見えてきました。」
慶應大学に入学し、年収1000万を狙える企業からの内定を貰い、まさに理想の「レールに沿った人生」を歩むはずだった、田上 凜太朗さん。
彼がレールから外れたのはいつなのか。ありのままの生き方に踏み出せたきっかけはどこにあるのか。そのルーツを探ってみよう。
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インタビューをした場所は、富士見ヶ丘駅から少し歩いたところにある地下街。どこか懐かしい、レトロな雰囲気溢れる「蜃気楼珈琲」で、おいしいコーヒーと絶品のケーキを頂きながら、凜太朗さんのこれまで歩んできた人生についてお話を伺った。
「両親が実は離婚していて、小学生のときに。暗い感じの中で、お母さんがオムライスを作ってくれて、大好物を食べているからもちろん自分は笑顔。でも、パッと見たらお母さんも笑顔だったんですよね。「食」って、食べる人も作る人もみんな幸せにするんだなって。そのときは、料理が人に与える影響ってすごいなって思いました。そこから料理教室に通ったりして、そこからずっと食が好きです。」
筆者は過去に凜太朗さんと一緒に仕事をしていた経験がある。いつもにこやかで、どこかゆるさを感じる、まさにchillな凜太朗さんから過去の出来事を聞くのは初めてだ。
そんな凜太朗さんの過去は意外にも壮絶であった。しかし、どんなに辛い状況であっても、おいしい食事が人々を笑顔にする。
その光景を間近に見てきた凛太朗さんは、今の自身のミッションである「食を通じて世界の人を幸せにする」という軸が、幼少期に既にできていたという。
このインタビューをしている間にも、さまざまなお客さんが訪れ、凜太朗さんが淹れるコーヒーを飲み、笑顔になっていた。
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「自分で何かをやっていこうと思っていたのは、中学生のときです。夢は社長って書いていて、自分で会社やりたいと思ってました。小さいころから見ていたカンブリア宮殿が好きで、あの番組って波乱万丈があって、社員と一緒に切り抜けましたとか、社員は家族ですっていうのがすごい好きで、自分の会社でそういうのがやりたいなってずっと思ってます。」
中学生の頃にはビジネスに興味をもち、今のキャリアである独立を視野に入れていたという。
なんて早熟…。周りに「カンブリア宮殿」にはまる中学生などいただろうか…。
高校に入学し、そのまま食を極めるために専門学校に入学するか、幅を広げるために大学に入学するか、進路の選択を迫られたとき、行きつけのレストランのシェフに相談したという。
そのときに、シェアから言われた言葉が凜太朗さんの心に響く。
「進路を決めるとき、専門か大学か迷いました。行きつけのレストランがあって、そこのシェフに相談しに行ったら甘いって言われて。『食っていうのはその人の心をうつす。何も経験したことない人が、人を感動させる料理は作れない』。その言葉を聞いたときにすごく心に響いて、俺なんもないかもって思いました。4大で色々経験して、そのあとに専門に行っても良いかもって思いました。」
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そこから4大を目指すことになるが、当時は部活漬けの日々。野球部のキャプテンも務めていた凜太朗さんは、あまり勉強ができなかったという。
「そこで慶應を目指そうと思ったのもビジネスという軸で、慶應出身の社長って日本にいっぱいいるし、人脈も作れる。だけど当時は部活漬けの日々を過ごしていて、全然勉強できなかったんですよね(笑)。でも、担任に慶應行きたいですっていったら無理って言われてしまって、そこで急にスイッチが入て死ぬほど勉強しました。」
しかし、現役での合格は叶わず、1年間浪人時代を過ごすことになる。そこでの生活が今の凜太朗さんを作っているという。
「1年間の浪人生活が今の自分を作っています。言い訳できないくらい追い込んで、小さい目標をコツコツ達成してきました。こんだけやればできるんだな、こんだけやらなければ自分はできないんだろうなっていうラインもなんとなくわかってきました。」
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自身でケータリングやポップアップの出店をメインとしている「Barista Base」というコーヒーブランドを立ち上げ、同時に「蜃気楼珈琲」という店舗を運営している凜太朗さんからは、何もかも卒なくこなしてしまう印象を受ける。
一緒に仕事をしていても感じていたが、いつも軽やかにコーヒーを淹れる凜太朗さんを、どこかみんな憧れを持っていたと思う。
しかし、その背景には自分の強みや興味関心を理解したうえでの、圧倒的な努力が存在している。
「0か100。自分がやりたいと思ったらとことんやるし、やりたくないなと思ったらほんとになんも発揮できない。一緒に誰かと仕事をするときも、面白くないなって思った仕事って、いっぱい迷惑をかけてしまうし、何のパワーも発揮できないんです。」
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1日12時間もの猛勉強の末、慶應大学に合格。合格したときは、職員室の先生たちが感極まって号泣していたという。当時は誰も想像できなかった、難関大学への合格。その成功体験が、今の生き方につながっている。
「小さな成功体験が、そこでできました。目標を立てて、達成するためにどうすればよいのかを逆算する癖がついて、今思えば、今やっていることと変わらない気がします。」
何か目標を達成しようとするとき、人はいきなり大きな目標を掲げ、最短距離で成し遂げようと考える。
しかし、自分の中で何か小さな自信がないと、立ちはだかる壁にたじろいでしまう。第1志望合格という1つの成功体験が、今までの選択、これからの挑戦への確固たる礎となっている。
ここまで聞くと、意外にも真面目な性格で、これからも真っ当なレールに沿った生き方をし続けるのではないかと思われる。しかし、苦節の末に入学した大学では勉強そっちのけでバイト漬けの日々を過ごし、なんと留年。いよいよ「レール」から外れた人生を歩みだす。
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▼バリスタ兼焙煎士 田上 凜太朗さん▼
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