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海洋プラスチック(SDGs14.1その3)


「丈夫で、手軽で、加工しやすい。」
世紀の大発明、プラスチック。日用品として使われ始めたのは1950年ごろ。たった70年前の話なんですね。この便利な素材はあっという間に世界中に広まっていきました。また、このプラスチックは、それ自体には毒性があるわけではなく(※1)、たとえ誤って口に入れても、その丈夫さがゆえに溶けて吸収されるわけでもなく、排出物として外に出ていきます。なので、私たちは抵抗もなくペットボトルに口をつけて飲んだり、直接食べるものでもラップに包んだり、赤ちゃんがおもちゃをガリガリかじっていてもあまり気にかけません。現代の私たちは、かなりの信頼性を持って、身近な存在としてプラスチックを受け入れています。

では、プラスチック側の視点からその一生を見てみましょう。

私はレジ袋。ポリエチレンでできています。いわゆるプラスチックってやつです。私達プラスチックは人間から絶大な信頼を勝ち得て、人間社会のあらゆる場面に使われています。現在、私達プラスチックの仲間は年間で4億トン以上も人間のために作られています。その多くは、容器やレジ袋など、一時的に利用するため、つまり「使い捨て」として作られています。私もその1人です。ある時、コンビニでおにぎりと飲み物を買いに来た人間に私は必要とされました。その人間は私を持って、とある公園のベンチに座りました。どうやらお昼ご飯のようです。私の中にあるおにぎりと飲み物でお腹を満たしたようでした。おにぎりを包んでいた包装さんも中身がなくなったペットボトルさんもまた、私の中でひとくくりにされ、その人間は私たちがバラバラにならないように私の手持ちのところをぎゅっと固く結びました。私達たちの使命はこれで終わり。さてゴミ箱に捨てられるかな?と思った時、突然風が吹いてきました。その人間は私たちを助けようと追いかけてくれましたが、風の方が強く、あっという間にその人間の姿は見えなくなりました。風は私達をどんどん運んでいきました。そして私たちはある川に辿り着きました。私達は川に身を任せるしかありません。川は少しずつ大きくなり、そして海にたどり着きました。どのくらい漂ったのでしょう?徐々に私の体はぼろぼろと砕けてしまい、おにぎりの包装さんもペットボトルさんももういません。今は1cm程度の破片になってある魚の胃袋にいます。この魚のフンとして出るには私の体は大きすぎるようで、ずっと胃袋の中で過ごしています。

このように、毎年プラスチックが海を漂っているのです。レジ袋やペットボトルばかりではなく、魚に食いちぎられた魚網、流されてしまったウキなど、その数、年間800万トン。毎年新たにプラスチックが海に流されているのです。これは年間で作られるプラスチックが約3億トンとすればの2.67%になります。たったそれだけ?と思うかもしれませんが、その量が2050年まで続いてしまうと、海にすむ魚の量よりもプラスチックの量の方が多くなるという数字になるのです。その兆しが徐々に姿を表してきました。胃袋に100kgのプラスチックが入ってイギリスで打ち上げられたクジラ。プラスチックのストローが鼻の穴に深く入り込んでしまった海亀。胃袋に276このプラスチックがびっしり入っていた生後90日の海鳥。この海鳥なんかは、人間で例えるなら、12枚の消化されないピザが胃袋の中にずっと残っている状態ということになります。(※2)これでは本来栄養となる餌を食べることができません。そうやって、気候変動などでただでさえ減っている魚を死に至らしめているのです。これが海洋プラスチック問題です。

でも海洋プラスチックの問題は、海の生態系だけにとどまりません。その影響は人間にもおよんできました。小魚さえも食べられるような直径5mm以下のプラスチックをマイクロプラスチックと呼びます。そのマイクロプラスチックを食べたいわしなどの小魚をハマチなどの大きな魚が食べ、そしてその大きな型の魚を人間が食べているのです。そんなに小さなプラスチックであれば人間は排出するから別に気にしなくてもいいとされていましたが、2021年1月ある女性の胎盤からプラスチックが検出されたという報告があがりました。

さらに深刻な問題も上がってきました。ナノプラスチック問題です。マイクロプラスチックを食べてしまうのであればどこにあるかわかるものの、ナノプラスチックは目に見えません。その大きさはウイルスレベル。人間の細胞の中にも入ってきてしまうのです。すでに人間の体にカード一枚分のプラスチックが吸収されているという研究結果も報告されています。つまり、人間の体には石油製品が入りこんでいるのです。

このようにプラスチックを含めた人間が捨てるゴミは、見た目に汚いというばかりではなく、実際に生命に被害をもたらしています。その最大の悪こそがプラスチックであるとして世の中に取り上げられています。とはいえ、百歩譲って、このプラスチックこそが悪だということを認めたとしても、今の日常からプラスチックを全く使わないで生きていけるとも言えないと思います。レジ袋やストローなどは替えが効くかもしれません。でもスマホのケース、PCの本体、テレビや本のカバー、ボールペン、消しゴム、今目に見えている中にどれだけのプラスチックがあるでしょう。これらすべてのプラスチックがなくなったら今の生活を維持できると思いますか?そのような世界がくるのは今は想像すらできません。それほど人間にプラスチック文化が浸透しているということです。人間がプラスチックを使う限り、プラスチックのゴミはなくなりはしないのです。

※1 プラスチックを生成する際の添加物には毒性があり、分解する際にその毒素が海に溶け込んでしまうという研究結果など、プラスチックの毒性については様々な分野で分析が行われています。
※2 映画『プラスチックの海』より

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