水産養殖の守り方(SDGs14.7 その5~海の豊かさの守り方7-1)水産養殖の最先端
ただでさえお金がない小島嶼開発途上国や後発発展途上国といった小さな国々では中国のような大掛かりな養殖場を作ることはできないかもしれません。たとえできたとしてもまだ壁が2つ残っているのです。1つはその稚魚をどこからくるのか?もう1つは餌やりを誰がするのか?ということです。
養殖の歴史は意外と古く、3000年前には確立していたと言われています。しかし、川や湖など管理しやすい場所かカキや真珠などの動かない貝などがほとんどでした。完全養殖に成功したものとしても、サケやマダイ、トラフグ、エビといった限られた種でしかなかったのです。養殖で有名なマグロやブリといった魚は実は卵から成魚になるまで管理している完全養殖ではなく、わざわざ稚魚を海から獲ってきて、それを人工的に育てているだけなのです。首尾よく稚魚を手に入れたとしてもあとは楽勝とはいきません。餌やりもだいぶ問題です。相手は生き物、おなかがいっぱいなら食べないし、餌にうまくありつけられない魚もいるわけです。その結果、多めに餌を与えざるをえない状況に追いやられます。残ったエサは海底に沈み、小魚やプランクトンの餌食となり、ひどい時にはプランクトンの大量発生、いわゆる赤潮にもなりかねないのです。その費用たるもの100m²で10億円もかかり、餌やりを1つ間違えると赤潮が発生して魚が全滅なんてこともありうるのわけです。
しかし、それも昔の話になりそうです。2017年12月、ニッスイが世界で初のブリの完全養殖事業に名乗りを上げたのです。(※1)つまり不可能とも言われたブリの稚魚を人工授精から作る人口種苗に成功したのです。卵に精子をかければいいのかというと生命はそんなに簡単なものじゃありません。親魚の排卵の環境、温度といった環境条件については手探り状態。海の生き物の生態がまだまだ未知数なのです。ようやく1つ1つの研究が形をなしてきたのです。(※2)他にもタコやカンパチなども続々と人口種苗が成功しているのです。さらに研究が進み、手軽に稚魚が手に入る時代もすぐそこです。(※3)
海面養殖での餌やりについても光が見えてきました。海面養殖は大量の餌やりで海を汚してしまうばかりか、養殖業者の負担も並大抵ではありません。通常の漁師であれば、海が荒れれば船を出さなくてよいものの、海面養殖はそうもいきません。魚ももちろんおなかがすきます。餌を与えるためにどんなに海が荒れていようとも毎日船でイケスのある場所までいかなくてはいけないのです。その課題を水産養殖×テクノロジーで解決したのが『ウミトロン』(※4)もともとは宇宙開発技術のスペシャリストたちで、センシング技術と人工衛星で培った遠隔管理にAI評価も備えた遠隔給餌機を開発したのでした。遠隔医療だのweb会議だの遠隔技術が当たり前になってきた世の中ですが、海の世界ではまだまだ努力と根性が常識です。餌やりの効率も上がれば、働き手が少ない地域へ新たな労働力となる希望の光です。
海だからデジタル化だのDXだのは無縁と言っている時代ではなくなってきているのです。このような技術が当たり前の技術となり、小さな国々でも人口が少なくても大規模な設備がなくとも豊富な海を使って栽培漁業の養殖ができる未来がすぐそこに来ているのです。
※1、水産養殖事業のイノべーション:日本水産(株)の黒瀬ブリの開発事例
http://www.world-economic-review.jp/impact/article978.html
※2、ニッスイ 養殖に関する研究
https://www.nissui.co.jp/corporate/rd/research/cultivation/control.html
※3、日本経済新聞 完全養殖の魚種広がる 日水、タコ20年に出荷へ
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO17436080X00C17A6TJ2000/
※4、ウミトロン
https://umitron.com/ja/index.html