海は誰のモノ?(SDGs14.4 その1)
海はいったい誰のモノでしょう?
ずばり「海はみんなのもの」です。とはいえ、「海は誰のものでもない」というのではありません。「みんな」のモノなんです。何か禅問答のようですが、1つ1つ紐解いていきましょう。
舞台は16世紀までさかのぼります。ちょうど日本では群雄割拠の戦国時代のころです。そのころのヨーロッパは大航海時代とよばれる世界をまたにかけた群雄割拠の時代でした。いち早く世界へ乗り出していたポルトガルと無敵艦隊で「太陽の沈まぬ国」を築き上げたスペインは早い者勝ち的にどんどん世界へ進出していました。世界の海をほしいままにしていたポルトガルとスペインは「こっちはスペインの土地にするから、こっちは僕ね」といった具合に適当に世界地図に線を引き、世界中を勝手に自分たちのモノにしていきました。(※1)世界進出におくれをとっていたイギリス、フランス、オランダは、魅力満載なアジアと取引したくても、海の先輩のスペインとポルトガルにいちいちお伺いを立てなくてはいけない肩身の狭い状況に置かれていました。そんな中ある事件が起きます。オランダが1隻のポルトガルの船を積み荷ごと横取りするという事件でした。この時代の船の荷物はどこかの植民地からとってきたものなので、他国の荷物であればかわいそうな植民地から搾取されたものを取り締まっただけであり、自国の荷物であれば海賊から守るべき自分たちの大切な財産とされていたのです。(※2)この取った取られたの事件で、その時のオランダ側に弁護側についたのが、のちの国際法の父と言われるフーゴ―・グロティウスという人物でした。グロティウスはオランダが荷物を横取りしたことを正当化するために1つの論文を提出しました。それが『海洋自由論』です。その『海洋自由論』でグロティウスは
「自然というものはすべての人間に等しく与えられるものであり、誰も独り占めなんてできやしない。海もその1つ。だから海は誰のものでもなく、みんなが平等に使えるべきだ」
と主張するのです。この主張がもとでもめにもめ、ひいては戦争にまで発展することになりました。でも重要なのは『海洋自由論』という新しい海の価値観でした。海はみんなのモノであり商売をしようが何をしようが仲良く使いましょうというこの考え方は、その後の世界の海の基準を形作っていったのです。
このグロティウスの『海洋自由論』という考え方は現在まで引き継がれることとなり、海はみんなが自由に平等に使える共有の財産であるという世界共通の認識となっていったのです。しかし時がたつにつれて、この『海洋自由論』を、海はみんなのモノなんだから好き勝手に使っていいんだよなと勝手に解釈して、他の国にまでずかずか入ってくる輩も増えてきました。そんな自分勝手なルールを独自に作る国が増えてきて、収集が付かなくなってきたのです。そこで世界を束ねる国連は、世界共通の海のルールをちゃんと作りましょうということで、1982年に国際海洋法条約を締結します。その内容は、海は基本的に世界のみんなのモノ(公海)です。でも見境なくどこでも取っていいというのでは秩序も何もなくなっちゃうので、その国の近くにある海はその国のモノ(排他的経済水域、※3)にしましょう。ついでに海岸の近くはその国の領土(領海、※4)としましょう。ということになったのです。言い換えれば、公海は世界みんなのモノ。排他的経済水域までは対象の国のみんなのモノ。となったわけです。
国際海洋法条約により海の境界問題は一通りの決着がつきました。この決着により、大きな利益を得た国がありました。その国の1つが日本です。国土面積だけでは世界61位の日本は、海洋面積も合わせれば世界6位の海洋大国になったのです。日本にとっては安心できる内容に収まったものの、今まで自由に海の資源をとっていた国にとっては大問題です。みんなで決めた国際法とはいえ、昔のようには手に入らなくなった海の資源。欲しいものは欲しいわけで、何とかしてでも手に入れたい。こっそり他の国の魚などの海の資源を盗んじゃえば、こんなに広い海だもん、わかりゃしないということで徐々に密漁が増えてきたのです。最初はわからなかったものの魚の量が減ってきたり、変な動きをする船がいたりと怪しい動きが目立ってきました。そこでしっかり調査してみると大変な事実が判明しました。密漁品の量は世界で流通する魚介類の1/10もあり、その額は推定2兆6800億円だという事実です。これだけ魚が好き勝手にとられて、漁業従事者を苦しめている。何とかせねばならないということで、SDGsの中でしっかり取り上げることに決めました。
「⽔産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の⽣物学的特性に
よって定められる最⼤持続⽣産量のレベルまで回復させるため、2020 年ま
でに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制
(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣⾏を終了し、科学的な管理計画を実
施する。」
簡単にいうと「魚を取っていい量をちゃんと考えて、密漁などは徹底的になくしましょう」ということです。ということで今回は密漁をテーマに海の豊かさの守り方を考えてみましょう。前回の海洋酸性化では化学と物理といった理科の分野でしたが、今回の密漁は歴史と法律といった社会の分野になります。2回連続お勉強モードですが、できるだけわかりやすいようにかみ砕いていきたいと思います。
※1、1494年のトリデシャリス条約では西経46度付近より東をポルトガル、西をスペインとして、1529年のカサゴラ条約では東経144度付近より東をスペイン、西をポルトガルにして、2カ国にとって新しい土地はすべて植民地にしてよいという条約を結んだ。
※2、1603年、オランダのヘームスケルクによるポルトガルのサンタ・カタリーナ号拿捕事件。
※3,排他的経済水域、通称、EEZのことで、自分の国から200海里(約370㎞)までの海面、海中、海底、海底より下の土壌にある資源はその国の所有物にすることができるという権利。
※4、国土の海版。資源の所有だけを考えた排他的経済水域とは違い、すべての主権がその国に帰属するとされる場所。もともとは大砲が届く範囲ということで国によって3海里~12海里とまちまちだったが、12海里統一された。
※5、WWF 確かな管理、豊かな資源ーIUU漁業の現状と解決策ー
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20171227_ocean01.pdf
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