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豚汁

社会人1年目でいろいろ結構しんどかった夜、23時とか。お風呂上がりに急にドライブに誘われた日があった。普通に身体が鉛みたいに重たい日々の真ん中だった。急いで乾かした髪の毛はまだ湿っているところもあった気がするけど、玄関のドアを開けたら空気の粒子がピンと並んで冷たくて、でもその尖った空気を掻き分けた奥に深い色の車が停まっていて、びっくりした。うれしかった。私にはよくわからない細い道とかすぐ曲がる道とかいろいろ通って、いや俺もここどこかまだわかってないとか言いながらなんだかんだ24時間ひかり続けるすき家に入った。まだ夜ごはんを食べてない運転手は牛丼をたべて、多分飲み会帰りだった私は豚汁だけ頼んでぺちゃくちゃ喋りながら短い夜を過ごした。タッチパネルを何回も行き来していろんな色の牛丼を見て、こんな夜だし記念に写真撮りたいけどすっぴんだからやめとこって100回思ったり、これ坂元裕二の映画だったら別れるときに思い出すシーンだぞって考えちゃってちょっと悲しくなったり、てか牛丼屋さんなのに牛汁じゃなくて豚汁なのはどういう天邪鬼なんだろうってデカ目のハテナが頭を占拠したりしなかったり。あまい豚汁に、忘れたい記憶の分だけ七味を振る瞬間、その瞬間に少し思い出すすき家の夜。

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