メダルかじりも戦略
オリンピック結果報告のため、表敬訪問に訪れた選手のメダルをかじった市長のことが連日話題になっていますね。
「メダルが汚された」「オリンピック選手やメダルを人気取りに利用するな」などの非難する声が多く、全てに共感しますし、もし私が住む街の市長だったらと考えると暗澹たる気持ちになります。
件の市長、少し気になって調べてみると、ああ見えて、一橋大学を出た秀才だったのですね。しかし、司法試験に失敗し、その後は政界入りを目指すも何度も挫折を味わっています。たたき上げの人であればともかく、もともとがエリートですから、その挫折は堪えたはずです。
名古屋市長には2011年に当選して以来、連続再選されています。「ビートたけしのTVタックル」に出演し人気を博します。その経験を通じ、毒舌もやり方によっては庶民派アピールに有効と学習したのでしょう。
今回の「メダル騒動」ですが、彼なりのしたたかな戦略があるように見えます。まったくの蛮行ですが、どこか名古屋市民に支持されているのではと思いました。
アートやファッションなどにおける意識の高さを自負する人ほどバッドテイストに走る傾向があります。皆が鼻摘む、悪臭漂う中の馨香が私にはわかる、と。皆が目をそむける悪趣味の中に潜む美は、私のような審美眼が備わっていなければ見えてこないと言います。そもそも塩梅の妙が芸術の真髄でしょうに、そこに量の勝負を持込んでしまう人はアートやファッション界隈には多い。河村市長もそういう、なんでも勝ち負けのものさしで計りたがる野暮な輩と思っていましたが、彼には才覚があり、秀才の算段があった。
「名古屋飛ばし」の扱いは名古屋市民にとって屈辱でしょう。その怨恨は江戸城明け渡しにまで遡る。大村知事のようなエリートでは、良くて東京・大阪に次ぐNo.3のポジションどまり。これでは名古屋市民のプライドは満たされない。リコール署名問題など、大村知事に食ってかかる河村市長は対抗心むき出しですが、東大法学部卒の大村知事には学歴でもかなわない。トップを引きずり降ろしたい。こういう、人に食ってかかる姿は見苦しいですが、市民の心に暗く沈殿するコンプレクスを神輿に乗せ昇華させ、ルサンチマンを晴らしてくれる救世主に見えたかも。自分を含めた「みんなの哀しみ」を彼は受け止め、叶えようとしてくれている。この共感こそ暗く閉じた心の扉を開ける鍵。エリートには虐げられし者の悲哀は分からない。逆転ホームランを一発かましてちょとの、ジャイアントキリングへの期待が、河村市長を下支えする人気の源なのでしょう。
ワイドショーなどで叩かれるほど、周りは敵だらけと名古屋市民の結束は固まり、彼への支持は強固になる。名古屋は徳川による天下取りの再来を夢見る。その日までのあいだ、次の選挙も再選間違いなしと、彼と選挙参謀はほくそ笑んでいることでしょう。