竹内正実

テルミン奏者。1993年ロシアに渡り、テルミン博士の血縁のリディア・カヴィナにテルミン演奏法を師事。

竹内正実

テルミン奏者。1993年ロシアに渡り、テルミン博士の血縁のリディア・カヴィナにテルミン演奏法を師事。

最近の記事

私の愛機のテルミンの秘密

 私の愛機のテルミンSeries91は、一般的なテルミンと異なる点があることについては前号のブログで述べました。それらはSeries91というテルミン特有の特性であるのですが、私の個体にはMoog博士にお願いしてカスタマイズしてもらった固有の特徴があります。  Series91テルミンには音色が4つ搭載されています。「1番」の音色は作曲家青木朋子さんに書いていただいた「Sundowner」という曲を演奏するための音色です。倍音の乗りが少ない柔らかい音色が特徴ですが、カタログモ

    • 待たせたな、相棒

       2024年8月8日、かつて過ごした小坂井町(現:豊川市)に建つフロイデンホールにてコンサート出演しました。小坂井町は二歳から過ごし、高校卒業まで暮らした町。ロシア留学中は実家もあった小坂井町に住所を移し、私のテルミン奏者としての活動の礎を築いた場所。  ロシアから帰って来たものの、テルミンなど誰も知らない。現代のようにSNSもなく、広める術もない。また、未熟な己の演奏を広めてしまっては、テルミンはガジェットであると誤解させてしまう。沈黙を保ち、ひたすら練習に打ち込むしかなか

      • 不器用さが創った私の音

         20世紀の終わりごろ手に入れたテルミンがあります。無数のコンサートで弾き、テレビやラジオ番組に出演して、外国にも共に赴きました。2010年頃から不調になり、長い間弾いていませんでした。その間、私は脳出血を患い、利き手の役割を入れ替えたりしていました。ふと、かつての愛機の修理について知人に相談したところ、安曇野にお住いのビンテージ・シンセサイザー修理の名人を紹介してもらい、診ていただきました。もう、治らないと諦めていただけに嬉しかったです。  脳卒中後遺症で右半身に麻痺が残

        • 身体性の高いテルミン演奏と時短

           静岡の教室が引っ越ししました。駅ビルの上にあって、移動に関しては至極便利でしたが、バスでの移動が必要な場所への引っ越しとなりました。私は田舎暮らしが長くどこに行くにも車を用い、バスはほとんど利用したことがありません。使ってみると交通系ICカードは使えるし、大きな液晶ディスプレイが車内にあって、これからどういうバス停に止まるかについてもよく分かるなど先進的で、たいへん便利。しかし乗り降りについては問題があります。半身麻痺で楽器ケースを片手に持つ人が使う交通手段ではない。幸いこ

          ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2024出演してきました

           クラシック音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2024」のキオスクステージでの出演、終わりました。東京国際フォーラムで開催されるのは以前と変わりませんが、これまでの地下ホールEから、地上広場でのステージへと、演奏場所が変わりました。  ホールEは赤パンチカーペットが敷かれた大きな舞台で、四方からご覧いただける客席が特徴的でした。  地上広場での演奏は初めてでしたが、信じられないくらいの多くのお客様にお集まりいただきました。カジュアルにクラシック音楽を楽しむというコ

          ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2024出演してきました

          自分の音の個性について

           浜松のカフェでテルミン、マトリョミンのコンサート出演でした。当日は雨にも関わらず、お友達やお弟子さんたちが集まってくださいました。  振り返れば、自分の人生には常に「挑戦」が要りました。私がロシアに渡った1993年当時、テルミンは楽器未満と目されていて、音楽などできないと考えられていました。パフォーマンスや前衛音楽をやる人はいましたが、聞く人の心に触れる音楽をテルミンでやろうと考える人はほとんどいなかった(これもすでに主流とは違うアプローチです)。ゆらゆら揺れる身体をピタ

          自分の音の個性について

          私の中の「Perfect Romantic」を探して

           テルミン演奏活動を日本国内で本格化させた20世紀の終わり頃、田仲容子さんについて、知人のミュージシャンから知りました。  旅先のグアテマラで33歳の若さで急逝した画家 田仲容子。「涙が出るほどロマンチックな絵が描きたい」と言っていた彼女の遺作集。  一度も実物のテルミンを見聞きすることがないまま、ロマンティックな想像を膨らませて描かれました。私もテルミン演奏で自分の中の永遠のロマンティックを探しているようなものです。久しぶりに田仲さんの画を観て、私の中の「Perfect

          私の中の「Perfect Romantic」を探して

          バイクと私

           テルミンとの関わりは30年を超えますが、バイクについてはそれよりもずっと長く、18歳の頃からですから40年近い付き合いがあります。  あんなに暴力性に富んだ乗り物を、アクセル一つでかっ飛ばせる自由を我が手の中に収めておける歓びといったらありません。  バイクに長く乗っている人であれば転倒の経験もあるでしょう。峠でこけた経験は私にもあります。怪我もしましたが、それでも乗るのをやめられません。  脳卒中を患い、右半身に麻痺が残ってからは乗っていません。いつだったか旅行先でレ

          バイクと私

          和製ヘビメタと源氏物語

           和製ヘビーメタル音楽と源氏物語に代表される平安文学に相通じるものを感じているのは、きっと私だけでないと思います。  どちらも「なんでもあり」の現代の自由にどこか背を向けています。どちらかというと不自由な様式美を愛しているようにさえ見えます。ハードロックの一部はサイケムーブメントに乗って、ドラッグによりブーストされ性の解放へと一直線に飛んで行きました。それは祝祭的でしたが、一方、和製叙情派ヘヴィーメタルには春への憧れといっても、「愛と誠」的純愛を志向する閉じた耽美があります。

          和製ヘビメタと源氏物語

          小さな喫茶店

           かつて暮らした町の隣町は喫茶文化が盛んで、あちこちに小さな喫茶店があります。コーヒーとホットケーキで有名な小さな喫茶店は、ひさしぶりに訪ねてみれば昔と変わらぬお店の佇まい。美味しさも昔と変わりませんが、マスターの増えた白髪に時の流れを感じます。壁に貼られた「写真撮影ご遠慮ください」の文言に、マスターもご苦労されたんだなと、思いを馳せました。  この町にはお気に入りのお店が他にもありましたが、お客とのトラブルが絶えず、ついにはお店を閉めてしまったところも。善良なお店や店主がお

          小さな喫茶店

          私の密かな楽しみ:レコード鑑賞

           数年前に中古のレコードプレーヤーを手に入れました。  FM放送のエアチェックに興じていた兄の影響を受け、小学校低学年頃にオーディオに興味を持つようになりました。その頃は言うまでも無くネットなどなく、メディアの王様はテレビであり、ラジオでした。未だに日野皓正の「CITY CONNECTION」を愛聴していますが、そのきっかけは70年代頃観たサントリーのテレビCMでした。私は音楽の聞き方が多様化した現代においてアナログのレコードを聞くのを愉しんでいますが、この嗜好の根っこにある

          私の密かな楽しみ:レコード鑑賞

          自由な時代に型にこだわる

           年末のテレビ番組を観ていると、紀貫之を特集しているものがありました。次作の大河ドラマ「光る君へ」と関連させているのでしょう。脚本が大石 静さんとのことで、大いに期待しています。  紀貫之というと、かな文字や和歌の地位を高めたことで知られていますが、「型」も重んじたとは知りませんでした。最近の短歌や俳句などのテレビ番組を観ていると、自由律に脚光を当てているのをよく見かけます。一見すると不自由から解放されて自由ですが、この「自由」が創造性を縛り、人はそれに苦しんでいるようにも

          自由な時代に型にこだわる

          鳴き竜はノイズ?

           テルミンを立って演奏する練習に取り組んでいることについてはこのブログでも書きました。これまでイヤホンでモニターしていたのは、美しくない音で奏でているのを誰かに聞かれたくないがためです。一度思い切ってスピーカーで鳴らしてみたところ、思いがけず音楽を奏でる興奮がよみがえってきました。身体の揺れは相変わらずですが、スピーカーから聞こえてくる音はどこか懐かしく、脳卒中発症前に自分が奏でていた頃の音の要素がそこにはありました。  利き手を左手にスイッチしてほぼ一年。ビブラート動作も

          鳴き竜はノイズ?

          立って弾く

           頭頂部のおできは無事取り除けましたが、入院している間、読書三昧だったり、マトリョミン練習したりと、リハビリをすっかりサボってしまいました。「一日休むと三日分下手になる」と言いますが、リハビリも同じ。麻痺が残っているので癖がつきやすいようで、正すのに時間を要します。  改めてテルミン演奏を身体の使い方という観点で眺めてみれば、動作を止めておくのと柔軟に動かす、まったく性格の違う運動要素の組み合わせで成り立っていることが分かります。  脳出血を患う前の私の演奏の特徴は、動かさ

          立って弾く

          リインカーネーション

           私事ですが、つむじのあたりにできた腫瘍を取り除く手術を済ませ、縫合する手術完了を受けて、一連の治療は終わる予定です。2016年12月のクリスマスコンサート出演中に発症した脳出血以前から居座っていた、私の中の邪悪を取り除くことできそうです。  これも何かの節目と、昨年1月から利き手の役割を入れ替え「左利き」テルミン奏者として奏でてきたテルミンですが、これも原点たる右利きに戻すべく、Etherwavethereminも元の状態に戻しました。脳卒中発症前のようにすぐに弾けるわけ

          リインカーネーション

          「未読スルー」考

           SNSとの接し方は人それぞれ。別にSNSを使っていようがいまいが、どちらでも構わないのですが、普段の言動からSNSに対して無関心と思われたい、そう装いたい欲が透けて見えることがあります。人は最も関心を寄せることほど無関心を装いたがるのは、今も昔も変わりません。  そういう人たちに共通して見られた振る舞いが「未読スルー」。これはSNSこそが自分の居場所と考える人たちにとって、最も重い「罰」にあたるよう。「既読」なのに「未読」と見せかけられるアプリもあるように聞きました。  

          「未読スルー」考