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【第二十九回】           何者にもなれなかった50男の物語

新婚祝いとして寮にあったTVと
棚を勝手に持ってきてしまった

流石にTVは捨てたが棚は今でも
有難く使わせてもらっている

暫くしてぼくはその会社も辞める
こととなる

色々と自由にやらせてもらおうと
思っていたが所詮他人の会社

只のバイトでは何もできず毎日
金のためにだけ通う始末

そのうちに単調な仕事に飽きて
ある日仕事に行きたくなくなった

その会社で前に勤めていた人が
バイトで飼い殺しにされていた話を
聞いて辞職を決心した

その後新居の近所に職を見つけ
あっさり潜りこむことができた

知ってる業界でしかも得意な営業

ところがこの会社

営業職で雇ったはいいが仕事が
決まっていなかった

社長は職人だったので営業的な
事をしているとどこに行って
たのか聞かれ全く信用されず

工員のように四六時中自分で
監視をしていないとダメな社長

町工場だったので営業なのに
作業で使われることが多かった

台風が来た日は自社ビルの屋上
が雨漏りしたのでぼくら営業は
みな屋上で止水作業をした

全身びしょびしょなのに社長は
ぼくらを物のように扱った

報復したわけでないがぼくは
よく発注ミスした材料を倉庫に
隠していてた

辞めた後あれは
どうなったのだろう?

ある日営業車で出かけていた時
僕は妻から入ったLINEを見た

そのときだった

運転席の窓を叩く警察官

やべ!

ゴールド免許のぼくは
切符切られると思った

咄嗟にぼくは止まるフリをして
アクセル全開で逃げた

頭の中は警視庁24時

後ろからパトカーがサイレンを
鳴らして追いかけてくる

暫く逃げてたら追跡を諦めた

ぼくは会社へ戻り別の車に
乗り換えて再び出かけた

用事を済ませ会社へ戻ると
社長が警察へ出頭しろと言う

仕方ないので出頭し結局1点
引かれただけで済んだ

ぼくは薬をやっていると警察に
疑われていたらしい

警察から戻ると会社で社長が
待っていてそのままぼくは
クビになった

その後お抱えの労務士が
でしゃばって来た

ぼくはスマホの録音ボタンを
押し奴はグダグダ言ってきた

隠し録音したので労働監督署に
持ち込むとぼくは脅した

そうしたら奴は卑怯だぞとか
声を荒げていた

結局奴は社長の犬だ

今までの柔和な顔は彼から消え
悪人の顔に変わっていた

結局好条件で退職することに
決まった

無職になったぼく

実は前からタクシー職に興味が
あったので応募した

タクシーのような気ままの仕事は
本当にぼく向きだなと思っていた

ところが面接前にネットを見ると
身体検査があり刺青はNGらしい

残念ながら自営業時代にぼくは
タトゥを入れていた

後の事を考えない性格は変わらず

この時も客がタトゥを入れたいと
言うのでぼくも付き合って入れた

元々独身で一生海外で生活する
つもりだった

それに温泉も嫌いだし深く考えず
ノリで入れたのは間違いない

急遽タクシー会社に電話し面接を
辞退し家の近所の運送屋へ入った

試用期間中は先輩が同乗した

なんだかんだあったが業界の
輩連中との付き合いは苦手

まぁどうせ一人仕事だし独り立ち
したら自由だなと考えていた

トラックの運転は意外と難しい

特にバックは苦手だった

ミラーが湾曲しているので真っ直ぐ
バックしてくれず斜めに下がる

同乗指導期間は同乗者がいないと
運転してはいけないルールだった

ぼくは構内なら大丈夫だと思い
倉庫に付けようとバックした

「ガシャーン!」

それは突然だった

暗かったのでなにが起きたか
一瞬わからなかったが屋根の
ポールにぶつかっていた

先輩にはガッツリ怒られた

ぼくはもっと大きな事故をやると
思い移動願いを出した

相変わらずの即断即決だったが
結果的にこの決断は失敗だった

事故は事故で反省し続けるべき

ここでも何者にもなれず逃げた

倉庫業は退屈だった

このころ同僚が株で儲けていて
ぼくは投資に興味を持った

社員登用試験も受けたが落ちた

毎日毎日何万歩も歩き重労働で
同じ事の繰り返し

自分の人生でこの非生産的な時間
の使い方はなんかのプラスに
なっているのだろうか?

ある日ぼくの張りつめていた糸が
ぷっつりと音を立てて切れた

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