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星空の下【喫煙室】vol.11

私の派遣先は、製造業の会社だった。

工場もあり100名以上が働き、8つの部署があった。

私が入った部署は、機械の調整をする部署だったので、納入先への出張が多かった。

入社した時には、6人中1人居た社員も、1週間後には出張。
全員が、名古屋、大阪、韓国、シンガポールへと出張して行った。

数値が安定するまで帰れないので、10日の予定が1ヶ月になることも多かった。

私は、事務所で1人、頼まれた仕事をしていたが、
すぐに終ってしまう。

お給料をいただくのに申し訳なかった私は、
【他の部署に雑用があればします】
と派遣担当者に伝えては、各部署の雑用をしていた。

30歳の私は、主婦であるブランクもあり、技術も知識も若い人には勝てない。

だから、お願いしやすい人、頼みやすい人になろう!

そう思いながら、いつ切られるか分からない派遣の仕事を一生懸命していた。

働きだして半月が過ぎた12月の終わり、、、
彼と廊下ですれ違った。

うつむき加減で、肩を落としながら、、、
水色の作業着、黒いサンダルをはいて
茶色くパーマがかかった前髪をゆらしながら歩く彼。

すれ違いながら、、、
『お疲れ様です』と私

彼はうつむいたまま
『お疲れ様です』と目を合わせずに通り過ぎた。

私は、もう彼に惹かれていた。

【男性を2度と好きにならない】と決めたはずなのに、、、

そう思いながらも、年明けから、何度か彼を見かけた。

その頃、まだ私はタバコを吸っていた。
その日も、時間をずらし、誰も居ない喫煙室にいた。
そこに彼がドアを開けて入ってきた。

『あ!? 新しく入ってきた人?』と声をかけられた。
『はい。調整部の下浦ゆきです。よろしくお願いします』と私。

『20円持ってない?』と彼。
『あ、はい。』と、差し出した。

タバコを購入し、『後で返しに行くね』と彼。
『20円くらい良いですよ』と私。

調整部に帰った私に、5分後、彼は返しに来てくれた。

そこで、同部署の方と前回の製品の納入状況の話をしていた。

彼は、隣の部署【製造部】だと知り、出張が多いことも知った。

私が初めて逢ったのは、彼が、長い出張から帰ってきたばかりの時だったのだと、、、

後に彼から聞くことになった。

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