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艶っぽい週末

土曜日の六本木


朝のひと仕事を終えた僕は、静かなハンバーガーレストランで遅めのランチ


先程まで誰もいなかったが、ふと気づくと

遠めの向かい側にまじめそうな男女が向かい合って座っていた。



スーツ姿で少し気弱そうな20代と見える若い男

ゆったり目のワンピースに黒髪ロングでさほど飾り気のない女

見たところ女の方がひとまわりほど年上のようだ。



僕は食事をしながら読書していた。


何気に顔を上げてみたら、彼らはオーダーを済ましたのか

待っている間になにやら、女が男の手をマッサージしていた。


手のひらから指一本一本、丁寧に。


ただそこには全く会話がない。



揉まれている手をずっと見つめる男。

女は時折男の顔を覗いては、目が合うことなくマッサージを続ける。


ゆっくりと滑らかに・・・


右手が終わったら次は左手


一本一本ゆっくりな手つきで


揉んでは、手のひらを伸ばしたり、指を引っ張ったり。


男の親指を立てて、女がそれをギュッと握る


とても官能的なマッサージだ。

すると運ばれてきたハンバーガーがテーブルに置かれた。

2人はマッサージの手を止め、食事をする。


2人の関係はわからないが、

ハンバーガーを食べさせ合いしているところを見ると

おそらく交際関係にあるのか、もしくは不倫関係といったところか

気になるのは土曜日の昼間にスーツ姿の男と
大きなカバンを持った女だということ。


しかもその距離感がなぜか微妙。


2人は食事を終えるとまたマッサージの続きをし始めた。


手つきを見ているとおそらく女はそういった類いの仕事をしているのか
ただ慣れているだけなのか

とてもなまめかしく上手だ。

先ほどの続きからまたゆっくりと丁寧に。


最後に男の手をそっとポンポンとしてマッサージの終わりを知らせる。

すると男もそれをマネしようとして女の手をマッサージし始めた。

男の慣れない手つきを優しい目で見つめる女

徐々に手の動きが小さくなり、そのうち手が止まり無言の空間


よく見ると男はそのまま寝てしまっている。

一杯のビールで少し酔ってしまったようだ。

それでも手を繋がれたまま女は起こそうとはしない

そのひとときをただ愉しんでいるかのようだ。


すると男がふと起きた。

女はくすくすと笑い、男は寝ぼけている。

しかし2人はその手を離そうとはしない。


少し談笑して帰り支度をし始めた。

女は大きなカバンから財布を取り出し、千円札をそっと渡した。

男は少し申し訳なさそうに受け取る。



男はレジで支払いをしている間

女はそれを見ないように少し遠くで待っていた。


スマホを見るわけでもなくただ待っている。


その姿が献身的で健気だ。

するとお会計が終わったのを見計らって、

女は男を通りすぎてドアを開けてあげていた。


僕は甘いものが食べたくなった。

      終

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