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在野研究の前に金稼げ!ー江戸時代の在野研究者・狩谷棭斎の金言

 在野研究は取り組む領域によるが最低限これくらいかかるという私の実体験を以下の記事で紹介した。当時の私の結論は、研究機関であろうが在野であろうが研究する前にある程度のお金が必要であろうという身も蓋もないものであった。この結論は現在も変わらないどころか自分の中で強まってさえいる。これは広い意味での研究に限らず様々な趣味全般にあてはまることだと考えている。

 残念なことに、研究・調査の前に金を稼げというアドヴァイスは現在だけでなく江戸時代にもあったようだ。『日本における書籍蒐蔵の歴史』川瀬一馬(ぺりかん社、1999年)(以下『書籍蒐蔵』と記載する。)には、江戸時代に活躍した狩谷棭斎の研究に関する以下のエピソードが紹介されている。狩谷棭斎は現在で言うところの書誌学、度量衡の研究など様々なことを研究してた人物であるが、研究機関に所属することなく在野で研究活動をしていた。

(前略)(石橋)真国は、江戸町奉行所の腰掛茶屋の主、七助ですが、学問がしたくて棭斎のところへ相談に行きました。「学問をしたければ、金が無くてはダメだ」と言われて、せっせと稼いで金を溜めて、百両を持参してこれでと申し出ますと、棭斎は、それなら一番金がかからないのは文法の研究だから、どうしてもやりたければそれをやるのがよいと言われました。真国は棭斎の教えの通りに文法をやりましたが、それでも百両ではダメであったと真国が術懐しております。学問研究には金がかかります。昔も今も変わりませんが、世の中が進歩した現在の方がなお大変かもしれません。

簡単に言うと、狩谷は石橋真国(文法を研究した)に研究する前に金を稼げとアドヴァイスしている。『書籍蒐蔵』によると、狩谷もお金に余裕ができたのは狩谷家を継いで富商になってからであるという。それまでは書籍商としてお金を稼いでいたが、余裕はなかったようである。狩谷のアドヴァイスは実体験に基づいている。

 これは私たちにとっても金言であるだろう。『これからのエリック・ホッファーのために』荒木優太(東京書籍、2016年)には貧しいながらも研究に熱心に打ち込んだ在野研究者の群像を紹介しているが、なんだかんだお金がかかるのが現実である。例えば、交通費、論文や資料のコピー代や郵送費、データベースへの課金、書籍代など最低限はかかる。節約することは可能だが、まったくかけないようにするのは非常に難しいだろう。

 この狩谷のエピソードを紹介した川瀬は様々な文庫や蔵書を整理した書誌学の研究者であるが、『書籍蒐蔵』によると、書籍蒐集をしていた2代目安田善次郎に代わって古書、写本、版本を品定めをして購入していたようである。品定めするといっても購入するにはかなりのお金が必要であっただろう。研究にはある程度のお金が必要というアドヴァイスは川瀬自身の経験にも基づくものであったように思われる。

 何が言いたいかというと、今も昔も研究や勉強の前に日銭を稼がなくてはならないという辛い現実があるいうことである。(もちろん例外もあるだろうが。)このようなことを労働の合間にトイレでこの記事を入力しながら考えていた。


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