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「調査趣味誌」由来記②―あまり使用したくなかったキーワード

 以下の記事でお知らせした調査趣味誌『深夜の調べ』第1号が完成しました。最終的に確認した後に通販で販売を開始いたしますので、もう少々お待ちください。

調査趣味誌『深夜の調べ』第1号書影

このお知らせだけでは物足りないと思われるかもしれないので、以下の記事で紹介した「調査趣味誌」、「調査研究趣味誌」の由来記の続きを述べていきたい。雑誌名を決めるにあたって私自身引き付けられ大きな影響を受けたが、あまり使いたくないキーワードとして「在野研究」(あるいは在野学。以下「在野研究」で統一する。)、「民間学」があった。

 前者の「在野研究」は、荒木優太さん編『在野研究ビギナーズー勝手にはじめる研究生活』(明石書店、2019年)(この本には私の雑誌に寄稿いただいた星野健一さんも投稿している)、礫川全次編『在野学の冒険:知と経験の織りなす想像力の空間へ』(批評社、2016年)などが出版されるなど近年盛り上がっている。背景には、大学や研究機関に対する予算が年々削減されている、大学院を出ても大学や研究機関に所属できるかどうかが分からないなどの不安定な状況があり、これらの機関に所属せずに研究を続けるという可能性が現実の選択肢となってきたことがあげられるだろう。

 後者の「民間学」は、鹿野政直が唱えていたキーワードで『近代日本の民間学』(岩波新書、1983年)が知られており、私の大きく影響を受けた思想家・鶴見俊輔も加わって鹿野政直,、鶴見俊輔、中山茂編『民間学事典』事項編、人名編(三省堂、1997年)も発行された。

 「在野研究」や「民間学」の定義は人によって大きく異なり、論文というフォーマットで著名な学会誌に投稿するという狭い意味や調べた内容を論文に限らず、同人誌、ブログ、Twitter、YouTubeなど様々な媒体で発信するという広い意味があるだろう。『在野研究ビギナーズ』には、吉川浩満さん、山本貴光さんは、調べている本人は研究とは認識していないが、確かに研究であるような営みを紹介して「潜在研究(者)」と述べている。このような多様な定義がありながらも、「在野研究」や「民間学」に対して広く流通しているイメージのひとつに「対アカデミズム」があるだろう。『近代日本の民間学』によると、「「民間学」というとき、そこには「官学」という範疇が陰に陽に前提とされている」という。

 以上に紹介したような「対アカデミズム」のイメージのある「在野研究」や「民間学」ということばは、今回発行する雑誌にはあまり使いたくなかった。ただし、私の「調査趣味誌」も広い意味で「在野研究」や「民間学」の系譜の末席であると評価されれば幸いである。


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