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7-3.お約束のパターンをあえてやってみる

『動画で考える』7.ありふれたものを撮る

あなた自身が俳優になったつもりで役を演じて、それを動画で記録してみよう。

映画やテレビドラマに出演している俳優になったつもりで、あなた自身が役を演じ、動画で撮影してみよう。撮影も演技も一人でやってみるのも良いし、撮影スタッフや役者を何人か集めて、本格的なチームを編成してやってみるのも良いだろう。おそらく、すべてがプロ並みに完璧というわけにはいかないだろうから、照明はないとか、衣装やメイクは自前だとか、ロケーションは学校の体育館を使って撮影するとか、そんな有り合わせで済ませてもよい。

誰かがセリフを書いてくれるのだったら、簡単なシナリオを作って用意しても良い。あなたが演じる役の設定を作って、どんなことを語らせるのか考え、それによってストーリーを作ってみよう。等身大で演じられるような日常劇でも良いし、思い切って歴史上のエピソードを取り上げて、その人物になってみてもよい。時代劇だからと言って、必ずしも衣装や小道具がそろっていなくても良い。

練習は必要?プロの役者ではないのだから、練習の方法もわからないだろう。せいぜい自分のセリフを何回か繰り返し声に出してみて、撮影の時には間違えないようにするだけでも良い。どんな演技をする?表情や手振り身振り、立ったり座ったり。やればやるほど素人臭さが出てしまうから、むしろ無表情で突っ立ったままのほうが良いかもしれない。こうしておよそ映画やテレビドラマとは違った動画が出来上がる。

その動画を視聴して、そこに記録されているリアリティとは何かを考えてみよう。

さて、あなたが映画やテレビドラマでお気に入りの俳優を観るときに、それはその俳優であって同時にその役の人物でもある。あなたは最初はその俳優を見ることを目的に作品を見始めるかも知れないが、やがてその役者を見ているというよりは、その作品の登場人物を見ている、という状態になるはずだ。作品は俳優だけでなく、撮影や美術や音楽などあらゆる要素を駆使して、その作品の世界観を揺るぎないものにしようとしている。だから、プロの制作者にとっては、その世界観にほころびができて、現実のスタッフや俳優の顔が見えてしまうことは、許されないことだろう。

それに対してあなたが撮影した動画は、プロが手掛けたそれとは似て非なるものだ。あなたは役を演じているが、それを観る者は、その役を通してあなたを観ている。その作品はほころびだらけなので、作品の虚構世界が完結していない。どうしてもほころびから現実世界が見えてしまう。

プロの作品は、その虚構世界が観るものに高い精度のリアリティで迫ってくる。だから私たちはそれを観て、泣いたり笑ったり、感動してしまうのだ。どんなに非現実的な内容でも、まるで目の前で起こっていることのように、リアリティを感じさせてくれる。

あなたの作品はどうだろう。誰もがあなたの作った作品にはリアリティが感じられないというかも知れない。演技もいまひとつだし、セリフも下手くそだ。そもそも時代劇なのに衣装は普段の格好のままだし、場所は学校の体育館だ。それでどうやって感動しろというのか。でもそこに本当にリアリティはないんだろうか?

そこにあるリアリティを見誤ってはならない。そこを見誤ると、あなたのやっていることは、プロのやっていることの単なる下手くそなまねで終わってしまう。あなたの作品を「役を演じているあなた」という視点で観れば、それはリアルなのだ。動画の撮影技術は、あり合わせのドラマのほころびから見える普段のあなたやあなたが生活する日常空間まで記録し、それをリアルに伝えることができる。

あなた自身とあなたが演じてみたいと思う歴史上の人物の共通点を探してみよう。

だから不十分な条件の中でも、あなたなりの思いを込めて、役になりきってドラマを作ってみよう。あなたが表現したいと思った虚構はうまく伝わらなかったとしても、それを伝えようとして心を込めて演技するあなたの姿勢はリアルに伝わるかも知れないし、それが感動を生むかも知れない。

さらに、時代劇の主人公が置かれた状況と、あなたが置かれた状況の、共通点を見つけてみよう。その人物とあなたは歳が近いかも知れない、目や鼻の感じに共通点があるかも知れない、あるいは話し方の癖が似ている?

あなたが裸足で踏みしめている土の感触が、草むらを歩くときに草の先端がすねをかする感触が、あなたが共演者の肩に手を置いたときの感触が、そしてその時の相手の反応が・・・視点を変えればたくさんの要素が1000年前と現代とで共通なのではないか?それはリアルとは言わないのか?

現在を生きるあなたが過去の人物を演じると言うことになんら嘘はない。そのことをしっかりと認識しながら、自分が感じたこと、体験したこと、ひとつひとつの声・言葉の発声をしっかりと意識して演じるときに、あなたはあなた自身のリアリティを獲得する。そしてその細部において、過去と現在はさまざまにシンクロしている。そこを外さないように動画で丁寧に記録することで、映画やテレビドラマとは異なるリアリティを獲得することができる。

現在を生きるあなたが、現在の街や建物を背景に、現在の衣類や小物を身につけて、現在の仲間たちを相手に、過去の時代の人物を演じたとき、そこにはないはずの、過去の時代や過去の人物、過去の町並みが、オーバーラップして見えてくるかも知れない。

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