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マーベルの好きな「最終回」を語りたい

読んだアメコミの感想って、意外と序盤と最終回だけで固まってたりする。もちろん本当にどハマりした作品とかは中盤の詳細まで事細かに覚えてたりするんだけど、自分はそんなに頭も記憶力も良くないので数年続いてる長期シリーズだと「詳しく覚えてないけど面白かった記憶だけある」みたいな作品も少なくない。中でも最終回は、単純に一番直近で読んでいる回というのもあって記憶に残りやすい。今回はマーベル・コミックスを読んでいて好きだった最終回たちについて、ゆるく書いていきたい。

デアデビル (2022) #14

以前にも紹介したことがあるチップ・ズダースキーのデアデビルは、本編のどこをとっても名シーンと言えるような名作だけど、中でも最終回はこれまでの総括としての美しさと、その全てをひっくり返す意外性を持ち合わせた最高のエンディング。このシリーズはデアデビルというヒーローの存在の意義や社会への影響を突き詰めて、そして最後には「デアデビルには何も変えられない」と突き放してしまう非常に残酷な作品だ。最後にマット・マードックはこれまでの記憶と能力を失い、半分呪いとも思えるようなデアデビルの責任からついに解放される。「転生」というめちゃくちゃな理屈でデアデビルそのものを消してしまったこの最終回は、これまで自警団活動の意義を否定し続けてきたこのシリーズにとっては究極のゴールとも思えるようなラスト…かと思いきや、路地裏でチンピラを見つけたマットは、本能に突き動かされるように棍棒を拾い上げて、犯罪者の元へと歩んでいくところで物語は完結する。

デアデビルの意義を全て否定した物語のゴール、そしてそれでも犯罪との闘いをやめずにはいられないマットという人間の本質をついたエンディング。もう理屈では語れない「デアデビル」というヒーローを体現した最高の最終回だ。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー (2020) #18

記念すべきラストなのに表紙に主役キャラが1人もいないという、打ち切りの事情をひしひしと感じてしまう何とも味わい深い最終回。アル・ユーイングがライターを務めていたこのシリーズでは「誰もが逃げ出すような脅威を前にした時に、立ち向かっていくのがガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」というテーマで純然たるヒーローとしてのガーディアンズを描いてきた。その象徴とも言えるセリフが”Then it’s us.”、闘えるものが誰もいないなら「じゃあ俺たちだ」というセリフと共に未曾有の脅威にヒーローたちが立ち向かう。

そんな物語のラストは、全員が酒場で祝杯をあげて「誰かが祝杯に値するなら、それは俺たちだ!」と、最後の最後に”Then it’s us.”を持ってくる粋なものだった。チームが結束してとてつもない脅威を撃破し、そして最後には祝杯で締めくくる。ベタだけどスッキリする、僕史上一番読後感が爽やかな心地よい最終回でした。

ヒストリー・オブ・ザ・マーベル・ユニバース
(2019) #6

この作品はかなり特殊で、そもそも物語と呼んでいいのかちょっと怪しいコミック。舞台は遠い未来、我々の知るマーベル・ユニバースが終焉を迎える最後の瞬間。人生をこの宇宙と共にするギャラクタスが、これから生まれる新たな宇宙へと旅立つフランクリン・リチャーズに対して、滅びゆくマーベル・ユニバースの歴史を全て説明していくというもの。なのでコミックの中身のほとんどはそれぞれ独立したページがマーベルの歴史の名シーンを説明していくというもので、大きく動く物語というものはないコミックだ。

最終回ではいよいよマーベル・ユニバースの歴史を全てフランクリンに伝えたギャラクタスが、自身のパワーを全て彼に分け与え、滅びゆく宇宙と運命を共にする。その最後の瞬間に彼が伝えたのは、フランクリンの両親であるファンタスティック・フォーの面々から始まったヒーローの歴史の偉大さ。「大いなる力には大いなる責任が伴う」という思いを背負ってこれまで闘ってきたヒーローたちが見開きで一堂に集結し、その思いを受け継いだフランクリンは新たな世界へ旅立っていくのだった。

話が話なだけに内心「これどうやって終わらせるんだ…?」と思っていたけど、変わり種のコミックから飛び出してきた突然のあまりにど直球なストレートで、かつ突然のヒーロー大集合見開きを心にぶち当てられて、読み終わった後しばらく泣いてしまった。歴史の解説の中で「あっこれは読んだことあるシーンだ!」とニコニコする時も多くあったけれど、僕たちが読んできたマーベルの歴史そのものを一つの物語だとするならば、これこそまさに「マーベルの最終回」と呼ぶに相応しい一冊かもしれない。

アブソリュート・カーネイジ (2019) #5

この話はドニー・ケイツという作家が書いていた「ヴェノム」の物語の中盤に差し込まれた大型クロスオーバー。なのでこの話の後もヴェノムの物語は普通に続くから「これを最終回としていいのか…?」とは思ったけど、このイベントだけ切り取ったら間違いなく最終回だしね!自分で勝手に書いてるだけだし、まあ誰にも文句言われないでしょう。

このイベントは、めちゃくちゃパワーアップして復活したカーネイジを倒すため、ヴェノムやスパイダーマンを中心にヒーローが集結して闘うという物語。この時ヴェノムことエディ・ブロックには彼本人も存在を知らなかった息子、ディランと共に生活をしている。最初は自分の弟だと思っていたディランが実は息子であったことが発覚したが、彼との関係性の正解が見つけられないエディはディラン自身にそのことを伝えられずにいた。そんなエディだったが、復活したカーネイジとの闘いでディランを人質に取られた際「俺の息子から離れろ!」と叫んでしまう。闘いの後静かに座っていたエディとディランだったが、しばらく沈黙した後にディランが「俺の息子って言った?」と聞き返して物語は幕を閉じ、ページを捲ると見開きで大きく「アブソリュート・カーネイジ」のロゴが現れてシリーズを締めくくるのだ。

このエンディング本当に大好きなんですよ!驚きと気まずさがミックスされたようなシュールな雰囲気で突然物語が終わり、最後にでっかくロゴを出して締める。何だか映画みたいなラストじゃないか?ちょうど映画の「スパイダーマン:ホームカミング」のラストみたいに、唐突に次回作へのフックが来てパッと物語が終わる感じ。ドニー・ケイツという作家はかなりロゴの扱い方が上手いんだけど、中でも映画のエンド・クレジットの最後みたいな本作での描写は本当にオシャレで、後にも先にもこのコミックでしか見たことがない。マーベルのおしゃれ最終回選手権、堂々の入賞です。

ムーンナイト (2021) #30

まず言い訳させてください。この号は確かにジェド・マッケイの「ムーンナイト」の最終回なんです。ただ、この号でシリーズが終わったわずか一ヶ月後には同じ製作陣による「ヴェンジャンス・オブ・ムーンナイト」が始まるので、これを最終回とみなすのは相当判断基準がガバガバなのはわかってるんです…でもまあ一応シリーズとしては最終回だし、主人公が死ぬというのも最終回っぽいし、何より僕はこの号の話をしたくてこんな記事を書き始めてしまったので、もう許してください!

このシリーズは、自身の正義を見つめ直したマーク・スペクターが新たにミッドナイト・ミッションという組織を作り、新たな仲間と共に自分の道を歩んでいく物語。中でも吸血鬼にされてしまった少女リースはミッションの中心人物であり、マークはこれまで暴力とは無縁な人生を歩んできた彼女を闘いの世界に巻き込まないために奮闘する。シリーズ最後のエピソードでは、謎の敵ブラック・スペクターとの闘いで瀕死になったマークが仲間たちに全てを託し、自爆スイッチを押して爆発の中に消えていく。残された仲間たちはマークの意思を紡いでいくため、ムーンナイトなしで新たなミッドナイト・ミッションとして闘いを続けていくのだった。

軍人として、傭兵として、そして自警団として暴力に塗れた人生を送ってきたマークは、自身の生き方を恥じながらより良い人間になるためムーンナイトとして闘ってきた。だが、どんなに善行を積んでも決して消えない過去の闇を背負う彼は、もしかしたら彼自身の目指すミッドナイト・ミッションの理想から一番遠い存在かもしれない。そんな彼と対照的なのが、無理やり吸血鬼にされながらも決して人を殺めなかったリース。これまでの物語ではリースが復讐の誘惑に負けて殺人を犯しそうになった時、マークは汚れ仕事は自分が引き受けると引き留め、彼女が自分と同じ側に来てしまわないよう必死に努力していた。そんな彼が死亡し、純粋なリースがミッションを引き継いだことで、マークの目指したミッドナイト・ミッションは完成したのかもしれない。

この号の最後は、ミッションを訪れた人々にリースが「ミッドナイト・ミッションへようこそ、私の名前はリース、お手伝いできる?」と語りかける様子で締められているが、このシーンの構図とセリフは実はシリーズ1号の一番最初のページでのマークのものと完全に一致している。主人公の死という衝撃的なテーマと共にムーンナイトの世代交代を美しく描いたこの最終回は、僕が読んできたムーンナイト作品の中でもベスト回だ。

以上、今回は少しこれまでと違うテーマの絞り方をしてみました。最終回はそれまでの物語を締めくくり、もしかしたら今までの流れをまるっきり変えてしまうかもしれない作品のキモ。「今読んでいる作品はどんな最終回を迎えるんだろう」と想像してみるのも楽しいかもしれない。

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