アルティメット・ユニバース、結局どうなの?
2023年7月に始まった「アルティメット・インベージョン」を皮切りに次々と展開していき、今や月に四つのシリーズが連載されるにまで至っているアルティメット・ユニバース。既存のマーベル・ユニバースからは距離を置きながら、単なるリブートに収まらないような自由な発想で独自の世界観を作り上げている本作だけど、結局面白いの?各タイトルで何が違うの?と疑問な方も多いはず。今回は僕の視点で各タイトルの特徴をアピールできたらと思う。
以前書いたアルティメット・インベージョンの紹介はこちら。
アルティメット・スパイダーマン
「ヒーローにならずに中年になったピーター・パーカー」や「MJと結婚し子供が2人いる大人がスパイダーマンになる」という斬新なコンセプトが話題をさらった作品。アルティメット・インベージョンと同じくジョナサン・ヒックマンが執筆しているだけあり、アルティメット・ユニバースの看板とも言えるタイトルだ。僕はマーベル・アンリミテッドで6号まで読んでいる状態。
今のところメインとなる登場人物はピーターにMJ、ジェイムソンなどいつもの面々に加えて、本作では仲間としてグリーン・ゴブリンに変身しているハリー・オズボーンなど、あくまでスパイダーマンの物語として独立している印象。でもその根幹にはこの世界の裏の支配者であったり、前日譚となる「アルティメット・ユニバース」で起きた悲劇であったりと、物語をしっかり理解するにはこれより前の作品をしっかり読んでおかないといけない気がする。「アルティメット・インベージョン」→「アルティメット・ユニバース」→「アルティメット・スパイダーマン」の順に読むことをおすすめする。
年齢的にはおじさんなのにスパイダーマンとしては超絶ビギナーというギャップで、やたらドジをするおっさんピーターが妙に愛嬌があったり、パーカー家のほのぼのした日常も描かれるのでニコニコしながら読めるけど、その面でハリーは「世界の真相」に近づくにつれてどんどんダークになっていたり…と、ほのぼのとシリアスの塩梅が本当にちょうどいい作品。ピーターもまだスパイダーマンとしての責任を理解しきれていない感じがゆえに「この後とんでもない悲劇が襲うんじゃ…」と不安に思いつつ楽しく読んでます。正史とのギャップも大きいので、まさに「アルティメットならではのスパイダーマン」という感じ。今後このユニバースの中心になりそうな雰囲気も含めて、ぜひぜひお勧めしたいシリーズです。
アルティメッツ
こちらはもう「アルティメット・インベージョン」と「アルティメット・ユニバース」からそのまんま直接続く続編。ライターこそ前作から変わりデニス・チャンプが担当しているものの、登場キャラクターはアイアンラッドやドゥーム、それに復活したキャプテン・アメリカたち。引き続き打倒メイカーのために密かに立ち上がるヒーローの物語です。
まだ2号しか配信が来てないから導入までしか読めていないけど、まさにユニバースの中心を描くド派手なタイトル。メイカーの残した影と直接闘いながら、毎号新たなヒーローが「復活」していく。ある時はお馴染みのキャラがそのまま登場し、またある時は正史とは全く別の人がヒーローの名前を継いだり、とにかく毎号驚きの連発。割とすんなりヒーローになったスパイダーマンと違い、それぞれのキャラが失われた人生に対する複雑な思いを抱えているから人間ドラマもとても濃厚ですごくしんみりくる。1号ではハンク・ピムに焦点が当たる中、本当の人生を知った上でジャネットに「僕は君を殴ったことはなかったよな?」と尋ねるシーンはすごくジーンと来てしまった。とにかく派手なバトル、大きな物語、そしてたくさんのヒーローが見れる豪華な作品です。「とりあえずアルティメット・ユニバースの流れを一本で知りたい」という人はまずこれ!
アルティメット・ブラックパンサー
ここまでの二つのシリーズは正史と比べて結構大きな違いがあるけど、ブラックパンサーに関しては「アルティメットならではのこれ」という要素はあんまりありません。強いていうならオコエとティ・チャラが結婚してるくらい…?父が死んだことで闘いに身を投じることになる流れやシュリが天才少女になっているところはMCUの実写映画版ともかなり近く、他のアルティメット・ユニバースのシリーズともほとんど関連はないので、キャラクターに馴染みがあればこれ単体ですんなりと読み始められる作品だと思う。その分アルティメット・ユニバースの変化球な楽しみはまだあまりないかも。
ただその分、最初からリメイクして作ったブラックパンサーの物語としてはめちゃくちゃ面白い。科学と魔法が入り混じるワカンダの神秘的な世界観に加えて、ストームやキルモンガーといったお馴染みのキャラとブラックパンサーの絡みも秀逸。徐々に仲間が集まっていくワクワク感を感じつつ、特にキルモンガーなんかに関しては正史での関係性を踏まえて「この友情はいつまで続くのか…」みたいなドキドキもあり、まだまだ楽しみが続いていきそう。
そして忘れてはいけないが、なんといっても「ムーンナイト」の存在。さっきアルティメット・ブラックパンサーは正史とそんなに違わないと書いたけど、これはあくまで「ブラックパンサー」というキャラクターの話。本作でティ・チャラと闘うムーンナイトは正史のマース・スペクターとはまるで別物で、太陽の王ラーと月の王コンスの2人が名乗るユニット名みたいな感じになっている。5号まで読んでもいまだにムーンナイトの秘密はあまり明かされていないので、彼らの正体や本物のマーク・スペクターの行方なんかにも注目していきたい。
アルティメットX-MEN
個性派だらけのアルティメット・ユニバースの中でも、飛び抜けてぶっ飛んでるのがX-MEN。ライターとアーティストを共に務めるのは、日本人マーベルファンにはお馴染みの桃桃子先生。可愛らしい絵柄でドロドロした怪奇を描く非常に独特な絵柄が魅力。セリフが少なめでとにかく絵で見せる語り口も、英語が苦手な僕にとっては安心です。
本作は「X-MEN」を感じている作品だけど、4号のラストでやっと「ミュータント」という単語が出てくるくらい正史のそれとは離れている。そういったSF要素よりむしろ怨霊や呪い、妖怪といったオカルト要素が全面に出ていて、特に最初のうちはX-MENの要素は皆無と言っても過言ではないほど。あまりに予想外で先が読めないので、読んでいる時のワクワク感では個人的にダントツ優勝かな。物語の舞台がヒノクニ(アルティメット・ユニバースの日本に当たる場所)で、キャラクターも正史で日本人だったアーマーやサージ、ニコ・ミノルに加え、何故か日本人の女子高生にされてるサイクロップスや、なんとオリジナルキャラのメイストームなど、多種多様ながら全員日本人なので親しみやすさも抜群。セリフや効果音は英語だけど、オノマトペや小さな「えっ…」は日本語でそのまま書いてあったりすると「やっぱ日本語最高!!!」とテンション爆上がりする。日本語のオノマトペってやっぱ響き可愛いよね!
ワンショットの「アルティメット・ユニバース」に序章となる短編が収録されてはいるものの、それ以外は現状他作品とは全く絡みがないので、あくまでこれ単体で完全に楽しめる作品。予備知識がいらない完全新規の世界観や桃桃子先生の絵柄もあって、普段アメコミを読んでない人でも何も心配なく楽しめる作品だと思う。「普段のマーベルの情報量に疲れた」という人の休息地としてもおすすめかも。
以上、現在連載中の全シリーズに関する軽い紹介でした。それぞれのシリーズも純粋に面白いけど、アルティメット・ユニバースの最大の魅力は「新たなユニバースが形作られていく様をリアルタイムで見ている」というワクワク感だと思う。おそらく今後数十年語られていく伝説の始まりを実際に目にしているというのは、歴史の長いアメコミのファンにとっては耐え難い幸福のはず。乗るしかない、このアルティメットなウェーブに!