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マーベルは「ストレンジ・アカデミー」を救えるか

大袈裟なタイトルだけど、今回は「ストレンジ・アカデミー」と、彼らの今後の話。

みなさんアメコミを読んでいて「新キャラクター」には惹かれるでしょうか?数十年前に生まれたキャラがいまだに看板を背負うマーベル・コミックスにおいて、すでにファンのついた古参キャラを押し除けて新キャラが市民権を得るのは非常に難しい。けれど、マイルス・モラレスにミズ・マーベル、グウェンプールといった成功例から分かるように、ハマれば数十年上の先輩キャラと肩を並べるブランドをたった数年で生み出すこともできるという不思議なジャンルだ。

新キャラの一番の魅力は、登場から現在までの全ての活躍を追いかけられるということ。スパイダーマンやX-MENといった多くのキャラクターは、その歴史の長さゆえに登場から全ての話を読むことは実質不可能だと思う。けれど新キャラに関しては、まさに今読み始めればこれからずっと活躍が読める。新規ファンがどこから読んでいいかわからないということが問題視されているアメコミ業界では、まさにオンリーワンな強みだと思う。

「ストレンジ・アカデミー」はそんな新キャラたちが出てくる、しかも複数のキャラが登場する学園ものとして、多くの注目を浴びながらスタートした作品だった。

細かいことを抜きにすれば、本作はマーベル版ハリー・ポッター。魔法学校を舞台にいろんな種族の生徒たちが時に青春、時にバトルをしながら学園生活を送る物語だ。魔法学校といえども単にハリポタのパクリで終わることはなく、アスガルド人や氷の巨人、そしてドルマムゥの息子(?)が出てきたりと、常に他のキャラとのつながりを感じさせてくれるところがマーベル・ユニバースにおける物語としての存在感を醸し出している。

教師陣としてお馴染みのマーベルヒーローが登場するけれど、魔法キャラが一堂に会する顔ぶれも豪華だった。アベンジャーズやX-MENといった違う舞台で活躍するキャラも「魔法」というテーマでくくるとあら不思議。スカーレット・ウィッチにマジック、そしてヘルストームといった珍しい絡みが見れるのも本作の魅力だと思う。

そして何より、生徒たちが超〜〜〜〜〜〜可愛い!主人公で超優等生のエミリーと、そんな彼女に片想いする若干おっちょこちょいなドイルが超可愛い!エミリーがいく先々についていくドイルとか、照れると頭の炎の色が変わっちゃうドイルとか、そんなドイルのオドオドした恋心をがっつりホールドして受け止めるエミリーとか、本当に「可愛い」以外の言葉では表せない!他にもカップルがいっぱい誕生するし、アスガルド人兄弟や、窓の外からいつもクラスを見ている巨人のガスも超可愛い!まさに可愛い尽くしのコミックで、細かいことを考えずにただ楽しい気持ちにしてくれる、そんなストレンジ・アカデミーはずっと自分のお気に入りの作品だった。

作品の雰囲気が変わったのはTPB三巻から。とある事件で魔法を失った生徒のカルヴィンが、「ウィッシュ」という魔力のドラッグのようなものに手を出すところから雰囲気が変わり始める。これをきっかけにカルヴィンはアカデミーを退学処分になってしまうが、主人公エミリーたちがこれに反発。「自分たちをコントロールする大人と闘う」と宣言すると、学園の教師たちを押し除けて彼女はダーク・ディメンションに立てこもってしまう。さらにエミリーの暴走は止まらず、最初は彼女を追いかけていた仲間も徐々に離れていき、最後にはあの魔人ドルマムゥと結託してクラスメイトをも手にかけてしまう…そう、この物語の結末はまさかの主人公闇堕ちルートだったのだ!

物語に開始当初から「全てを終わらせるものと、その悪を止めるもの」という予言が語られており、当初はドルマムゥの息子であるドイルが悪者になって優等生のエミリーがそれを止めると思われていたのが、実はエミリーこそが予言された破壊者だった…というどんでん返しではあるんだけど、いかんせん流れが雑というか「ただこのオチをやりたいがために無理やり話を進めたのでは?」と思ってしまう。カルヴィンのことを思って大人たちに牙を向いたエミリーも作中で仲間に「本当にカルヴィンが大事ならまず彼を助けにいくでしょ」と突っ込まれてるし、エミリーに嘘つきだと呼ばれた大人は最後まで彼女を騙し討ちで倒そうとする。登場人物はお互いの矛盾を指摘しながら誰1人としてそこから成長しようとはしないし、誰も呪いの予言を回避しようとはせず逆に予言に綺麗に沿って行動し始める。そのくせ物語の最終局面が近くなっても妙にゆるい学園生活のシーンが合間に挿入され、緊張感があるのかないのかよくわからない。最後はかつて恋仲だったエミリーとドイルの最終決戦という派手な絵面の反面、全てが中途半端なまま物語は幕を閉じた。

後半の展開を象徴するようなカバー。可愛かったあの頃の2人はどこへ…

マーベル・コミックスの素晴らしいところは、一つの物語が終わってもキャラクターは誌面で生き続けるところ。ストレンジ・アカデミーの最初の物語は終わったけれど、生徒の1人であるゾンビのゾーイは「ミッドナイト・サンズ」という作品でキーパーソンとして登場しているし、前作とは別の作家が担当している続編の「ストレンジ・アカデミー:デッドリー・フィールド・トリップ」も刊行されている。たとえ最初の物語が後味の悪い終わりを迎えたとしても、別の作家がキャラクターの次なる物語を紡ぎ続けてくれるというのはマーベルやDCならではの安心材料かもしれない。

ただ、自分が不安なのは「マーベルは今後ストレンジ・アカデミーの物語を動かしていけるのか」というところ。前述した「デッドリー・フィールド・トリップ」は続編ではあるものの、内容としてはアカデミーの生徒とスパイダーマンら他のマーベルヒーローが手を組んで事件を解決して完結という感じで、良くも悪くも「おつまみ感覚で読めて楽しいけど、内容はあんまりないし短いミニシリーズ」という印象だった。キャラクター人気で盛り上がっているシリーズというのもあって、とりあえずキャラがわちゃわちゃして可愛いやりとりが見られれば一定の支持を得られるというのもあるだろうし(まあ自分もそういうの好きだけど…)「オリジナルのシリーズから物語を再開しよう!」という姿勢はあまり感じられなかった。

これが最新作のデッドリー・フィールド・トリップ。久々にアカデミーの面々が見れて嬉しい反面、前作ラストから物語が動くことはなかった。

さらに現行では「ブラッド・ハント」という大型クロスオーバーに合わせてストレンジ・アカデミーのタイインも出ているみたいだけど、これもタイインなだけあってあまり大きな物語は期待できないと思う。

確かにオリジナルのシリーズの後半はかなり微妙だったけども、それでもストレンジ・アカデミーの物語は今後も続いていく。あのエンディングから物語が動き出す日は来るのか。エミリーたちのその後が語られることはあるのか。あの頃のストレンジ・アカデミーを楽しみにしていたファンとして、そんないつかを遠く待っている。

邦訳コミックも三巻まで出てます。これなら最終巻まで出てくれるか…!?

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