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大動脈解離と共に生きるepisode2

「私は生物学的には死を迎えた」

私はこれまでの人生で持病や入院歴はなく、健康には比較的恵まれていたと思う。唯一気になるとすれば、血圧がやや高めなことくらい。

特にコロナ禍を機に健康への意識が高まり、食生活には一層気を配るようになっていました。この4~5年はファストフードやインスタント食品といった加工食品をほとんど口にしなかったし、無添加やオーガニック食品にこだわる生活を送っていました。さらに、3年ほど前からは畑を2区画借り、自分で無農薬の有機栽培に取り組み、土壌から健康的な食材を育てることにも力を入れていました。

それでは、こんな私が何故発症したのでしょうか?当時の状況を振り返っていきたいと思います。私の大動脈解離はライブの演奏中に起こりました。

2023年12月17日
この日、私は生物学的には一度死を迎えることになる。奇しくもバンド結成20周年の最後のライブで事故は起きた。今思えばライブ前から悪因は重なっていたのかもしれない。

①咳・痰が2ヶ月続いていた
ひとつは、2か月前から謎の咳と痰が続いていた事。以前から気管支炎を患うと長引く事があり、いつもの事かと身勝手な判断をし、漢方医の処方だけで様子を見ていた。しかし、今思い出しても2ヶ月間は異常な長さである。あと、既にご存知の方もおられるかと思いますが、バンドと別に声を出す仕事をしており、声帯や心肺を休める事ができない状況が悪循環の原因になっていた様にも思う。

②雪が降るぐらい寒い日であった
次は、この日の京都は雪が降るぐらい寒かった事。データを調べると、前日の気温15.5℃から4.1℃まで下がっている。後にお医者さんから聞いた話では、寒暖差の激しい日に特に発症が多い病気。私が救急搬送された日も大動脈解離の患者さんが沢山居られたそうです。寒くなると血管が収縮し血圧が上がる。水道のホースを絞めると水圧が増すイメージを持つとわかりやすい。血圧が少し高い私にはヒートショックの影響があり、血管に負担がかかっていたのかもしれない。

③気合が入ってイキんでしまった
三つ目は20周年の最後のライブ、年内ラストライブで気合いが入りすぎていた事。本番までのスタジオ練習はいつも通り週一回で重ねていたものの、ライブの熱量で歌う事は2か月間なかった。弱っていた身体での本番。いきなり全力でシャウトしてしまった事は大きな原因ではないかと思う。冬場に力仕事の方がいきむ事で発症する病気でもあるのだ。

いつも通り120%のライブがスタート

無論、ステージに上がる時は、このような身体のコンディション、神経質な事は一切考えていない。この日はDJ、バンドの皆さんも気持ちの良い方ばかりでステージを盛り上げて下さる。

アドレナリンの高揚感も手伝い、1曲目のサビをいつも以上に張り切ってシャウトした瞬間。

胸のあたりで

強烈に何かが張り裂ける感触があった。

同時に身体中が直感的に「死んでしまう」という恐怖を察知していく。目の前の景色はカラーからモノクロに変わっていき、スローモーションの様に時が流れていく。それと、身体中の何かが全て下に流れ出していく感覚があった。(後に血液だと判明)私は死を察知しながらも、ギターソロからエンディングまで演奏したが、曲の最後のキメの時には手が動かなくなってしまった。頭でわかっているのに身体が動いてくれない。

曲が終わった瞬間にマイクで絞り出すような声で

「救急車呼んでください」

と自ら伝えた。
最初はメンバーやお客さんも冗談だと感じていたが、すぐに正気の沙汰じゃない事に気づいてくれた。曲が終わると腰から下にかけて激痛が走り、立っていられなくなりそのままステージで倒れてしまった。

バッテリーの切れたロボットみたいに身体からみるみる精気がなくなっていく。私は恥じらう余裕もなく、意識も徐々に朦朧としてきた。

「あぁ、俺ってこのままステージで死んでしまうんやなぁ。ジョニー・ギター・ワトソンみたいやなぁ」

そんな事が頭をよぎる中、衣装を緩めてくれたりケアして下さる方の存在は覚えている。その中でも、大きい声で「大丈夫やからね!」と共演バンドのShe Says Sheのメンバーさんが何度も何度も叫び続けてくれたのは本当に力になった。意識が切れそうな人間、恐怖心に洗脳されている人間には魔法の言葉だ。

もし皆さんがこの様な現場に遭遇されたら、大きく声を出して何度も励まして欲しい。その言葉は、きっと大きな力になるはずだから。少なくとも私はこの言葉のお陰で意識を保つ事ができた。心から感謝している。

程なくして救急車が到着。不幸中の幸いは師走の繁忙期にも関わらず、直ぐに救急隊が駆けつけて下さった事である。

ライブハウスは防音上、地下にある事が多い。エレベーターが無い所も多く、私のデカい図体を急斜面の階段で運んで下さった事に感謝である。担架に乗せられ極寒の外に出た時はかなり身体にこたえた。ライブで汗ばんだ身体と衣装で体温がかなり低くなってきていたのである。

ギターの田口くんが機転の効く動きで私の携帯のキーロックを解除して、家族に連絡をとってくれた。そして、ドラムのルイージ君とともに救急車に同乗してくれ病院へと搬送された。

episode3へつづく

The Mayflowers
里山 理

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