大動脈解離と共に生きるepisode4
Lucy in The Sky With Diamonds
救急車は無事に宇治徳洲会病院へ到着した。
心配していた距離も、いざという時は意外に短く感じられた。朝夕のラッシュ時ではなかったことが幸いだったが、もしそうだったらと思うと背筋が凍る。高速道路という交通インフラに命を救われることもあるのだと実感した。今では救急車を見かけるたびに祈るような気持ちになる。皆の少しの配慮で救える命があるはずだ。
到着後、私はすぐに手術台へと運ばれた。
全身麻酔が効く瞬間までの記憶はある。
あれからどれほどの時間が経ったのだろうか？
2023年12月17日 深夜
手術をするには心臓を一時的に停止させる必要があり、私は生物学的に一度「死」を迎えた。
心臓を停止させることには、多くのリスクが伴う。血液を全身に循環させる機能が止まるため、術後に脳梗塞やさまざまな合併症が発生し、後遺症が残る可能性があると家族に説明があったそうだ。
手術は10時間にも及んだ。
翌日、12月18日 未明
日をまたいで手術は無事に成功し、
私の大動脈は人工血管に置き換えることで命を取り戻した。
私は蘇生して新たな命を授かった事になる。
しかし、、
その後の1週間、
私は意識が定かではない状態を彷徨っていた。
どの段階かは覚えていないが、
何度か窒息して死んでしまいそうな息苦しさで目が覚めた。文章で書くと語彙力のなさで淡々としてしまうのだが、稚拙な書き方をすれば、マジで死ぬかと思った。ベッドの格子を必死に叩いて看護師さんに助けを求めた事を覚えている。
後で聞くと、人工呼吸器を必死に外そうとしていたとの事。外すと死んでしまうので、両手両足はガッチリと縛られていたそうだ。
その後も意識が戻る前後で奇妙で鮮烈な体験が次々と訪れた。忘れてしまう前に記録しておきたいと思う。
「頭おかしくなった？」と思われるかもしれないが、どうか戯言だと思って読んでほしい（笑）
•天井に寺社仏閣や僧侶が現れる
8bit風のRPGのようなグラフィックで、総本山から塔頭まで詳細に描かれていた。元気になったら本気で参拝しようと考えていた。あれはどこのお寺だったのだろうか？
•病室のカーテンに歌川広重のような絵が映し出される。江戸の下町の風景で町人達がまるで動画のように動いていたので、目で追う様に眺めていた。
•病室の前の部屋が楽器屋になる
自分のリッケンバッカーが飾られていて、私の病室では知り合いのギタービルダーの展示会が開かれていた。枕元に2本のギターが並んでいたのが印象的だった。
•病室の設備が西洋家具や江戸家具に変化する
目を閉じるたび、病室が全く異なる空間に変わる。これには流石にビビってお医者さんに相談した
•100個ぐらいのワウペダルが並ぶスタジオ
そこでリーゼントの人達がギターを弾いたり、ツイストしながらリハーサルをしている映像
・おばあちゃんの飼っている猫、長崎の離島の福江島か五島（行った事ないが島に教会があった）、昭和の暴力団の抗争、それらの映像がブラウン管のテレビに映し出されている
・Apple Watchみたいなデバイスがベッドまわりあちこちに現れ、知らない人の色んな通知が液晶でモニタリングされてた。驚いたのが、病室においてある飲み物や食べ物に液晶の時限タイマーがついてあり、賞味期限が管理されていた事。
•知り合いに似た看護師さんが現れ、ケアして下さる。必死に話しかけたが、話の辻褄が合わない。後に別人と判明。
•バンドメンバーのルイージ君が現れる
彼がスマホを片手にICUに入ってきて私を撮影している。「やめて～」とお願いしたら、実際は若い男性看護師だった。
他にも挙げればキリがないが、これらの体験は今も鮮明に覚えている。看護師や家族に一生懸命説明したが、「ここがどこかわかりますか？」
「大丈夫ですか？」と何度も確認された。
後に医師から、点滴に含まれる薬剤が麻薬に近い作用を持つことが原因だと聞かされた。幸いなことに自分が興味のある世界観への幻想が多く、悪夢みたいにうなされる事はなかった。
酒もタバコもドラッグもやらない私が、合法的にLSDのような体験をしたのかもしれない。
例えるならビートルズの
「Lucy in the Sky with Diamonds」
の世界に迷い込んだようだった。
不謹慎かもしれないが、バンドマンとしては一度は経験しておきたかった貴重な世界が体験できた。
つづきは意識が回復してからのお話です
episode5につづく
The Mayflowers
里山 理
大動脈解離について知ってください
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