沢田太陽の「非英語圏名作アルバム100選」2021年版 (前)1950s〜1986年の50枚
どうも。
僕が以前に
2018年、ちょうどサッカーのW杯のタイミングで「非英語圏の101枚の重要なロック・アルバム」という特集をやったことを覚えていらっしゃる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
これは、このときは101枚レビューをW杯やってるあいだいに発表して、結構おおがかりな企画でした。ただ、これ、僕自身には多少後悔があって。
ひとつは僕自身が非英語圏の音楽に対して未成熟だったこと。ふたつめは「非英語圏」にこだわるあまり、アフリカの英語の国のいいアルバムなどが選べなかったこと。それから、僕自身が趣味のマニア志向に走りすぎてたこと。さらに、日本のものを選びすぎて、他の国の興味深いものを選び損ねたこと、そして、前回の企画を終えたあとに優れた非英語圏の国のアルバムがたくさん出たこと。こういうことが僕の中で後悔になってたんですよね。
そんな矢先
僕が以前からツイッター上でやりとりさせていただいているPeter庵という方が、「非英語圏のオールタイム・ベスト・アルバム」の企画をやることを宣言したんですね。そうしたら、ものすごく反響あって、150人くらい、このマニアックな企画で投票が集まったんですって!
これは楽しくて、僕も自分のランキングを提出してます。これの集計結果がそんなに遠くないうちに出ると思うのですが、その前に
僕自身の、非英語圏アルバムをこの際、リニューアルしたい!
そう思った次第です。
今回のは前回からルールを変えています。
①対象は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド以外
②邦楽は原則禁止
この規則で作ってみました。
そうすると、やっぱりレゲエとか、アフリカの音楽が選べるので、それだけでだいぶ気が楽だし、良い選盤できるんですよ。そうして選んだ結果
2018年版から半数を入れ替え、42カ国から選出するのに成功しました!
42カ国って言ったら、サッカーのW杯よりも多いですからね。ここまで増やせたのはすごく収穫でしたね。
あと、これに伴い、Spotifyでプレイリストも作ったんですけど、全作、選んだアルバムの曲で構成されています。2018年の際には未サブスク化のアルバムが結構多くて、そこの部分を代替候補で埋め合わせていたんですが、今回は100枚中98枚がサブスクにあったし、残り2枚もコンピに僕が選んだアルバムの曲があったのでそこから選んでます。
それから、厳密には日本人も2人入れてますが、「キャリアの最初から日本を拠点に活動している日本人」は入れてません。
このニュアンスがなんなのかはランキングを見たらわかると思います。
では、今日は前半の50枚から見てみましょう。1950年代から1986年まで。非英語圏でロックが芽生えてから、南米や東欧のような国々でもバンドブームが起こり始めた、そんな時期のアルバムまでを集めています。
それでは僕が選んだ最初の50枚の非英語圏のアルバム、こんな感じです!
Live In Germany/The Tielman Brothers(1960/62, Indonesia)
Los Teen Tops/Los Teen Tops(1961 Mexico)
Tous Les Garçons Et Les Filles/Françoise Hardy(1962 France)
We And Our Cadillac/The Hep Stars (1965 Sweden)
Studio Uno/Mina (1965 Italy)
Ces Gens-Là/Jacques Brel (1966 Belgium)
The Good, The Bad And The Ugly/Ennio Morricone (1966 Italy)
Pata Pata/Miriam Makeba (1967 South Africa)
A Go Go/Dara Puspita(1967 Indonesia)
Ezek A Fiatalok/Soundtrack(1967 Hungary)
Tropicália : Ou Panis Et Circencis/Various Artists(1968 Brazil)
Tutti Morimmo A Stento/Fabrizio De Andre(1968 Italy)
In The Plain/The Savage Rose(1969 Denmark
Songy A Balady/Marta Kubisová(1969 Czech)
Monster Movie/Can(1969 Germany)
Rivière…Ouvre Ton Lit/Johnny Hallyday(1969 France)
Almendra/Almendra(1969 Argentina)
At Home/Shocking Blue (1969 Netherland)
Shablool/Arik Einstein & Shalom Hanoch (1970 Israel)
Colección Avándaro Vol.1/Three Souls In My Mind(1970 Mexico)
666/Aphrodite’s Child (1971 Greek) ◎
Histoire De Melody Nelson/Serge Gainsbourg(1971 France)
Construção/Chico Buarque(1971 Brazil)
El Derecho De Vivir En Paz/Victor Jara (1971 Chile)
Moving Waves/Focus (1971 Netherland)
Transa/Caetano Veloso (1972 Brazil)
Clube Da Esquina/Milton Nascimento & Lo Borges(1972 Brazil)
Catch A Fire/Bob Marley & The Wailers (1972 Jamaica)
Gol-e Yakh/Kourosh Yaghmaei (1973 Iran)
Mesafeler/Erkin Koray (1974 Turkey)
Cambodian Rocks/Various Artists(1974 Cambodia)
Gita/Raul Seixas(1974 Brazil)
Anima Latina/Lucio Battisti(1974 Italy)
Introduction/Witch (1974 Zambia)
Autobahn/Kraftwerk(1975 Germany)
Fruto Proibido/Rita Lee(1975 Brazil)
Gas 5/Gasolin’ (1975 Denmark)
Falso Brilhante/Elis Regina (1976 Brazil)
Virgin Killer/Scorpions(1976 Germany)
Zombie/Fela Kuti (1977 Nigeria)
The Album/ABBA(1977 Sweden)
La Grasa De Las Capitales/Serú Girán(1979 Argentina)
Alles Ist Gut/DAF(1981 Germany)
Paket Aranžman/Various Artists(1981 Yugoslavia.Serbia)
Maanam/Maanam(1981 Poland)
Bangkok Shocks, Saigon Shakes, Hanoi Rocks/Hanoi Rocks(1981 Finland)
Dure Limite/Téléphone(1982 France)
La Ley Del Desierto/La Ley Del Mar/Radio Futura (1984 Spain)
Hunting High And Low/A-ha(1985 Norway)
Signos/Soda Stereo(1986 Argentina)
こんな感じですけどね。
前回から半分入れ替えてますが、変更を、選んだ傾向と共に語っていきますね。
60sは、フランスやイタリアが、アメリカに負けないカルチャー先進国。映画やファッションでもそうでしたが、音楽もそうでした。それを考慮して今回、イタリアからミーナと、エンニオ・モリコーネを足しました。
ミーナって、もうすぐ80代ですけど、50年代の「月影のナポリ」、これ当時日本でも大ヒットしてるんですけど、そこから2020年代の現在に至るまで、ずっとイタリアのチャートの上位でヒットし続けているんですよ。こんなに息の長い女性シンガー、世界の他にどこにもいないので入れました。実は前回も候補だったんですけどね。
あと、エンニオ・モリコーネはいわずと知れた映画音楽の巨匠ですけど、この当時、映画音楽もロックより売れてた時代だし、アルバムでの音楽手法ならロックにまだ勝ってたような時代ですからね。特に今回選んだ「続・夕日のガンマン」のエレキギターの使い方がすごいロック的ですしね。
あと、前回に割とこだわった「非英語圏のビート・バンド」に関してはかなり絞りました。ABBAのベニーがいた「スウェーデンのビートルズ」ことヘップスターズ。これを今回新たに入れてあとは外しましたけど
このインドネシアのガールズ・バンド、ダラ・プスピータだけは外せなかったですね。ガールズ・バンドで商業的な成功した人たちって欧米圏でもいないのに、なんでそれがインドネシアで可能だったのか。本当にこの先駆性、不思議なんですよ。ここ、すごく研究したいポイントです。
あと60sの終わり頃になると、サイケデリック・ロック。ここから非英語圏、良いアーティスト増えます。ドイツのクラウト・ロックもそうですし、イタリアもプログレ盛んで、シンガーソングライターのファブリツィオ・デ・アンドレやルチオ・バティスティもオーケストラやバンドと組んでコンセプト・アルバム風なものを作ったり。フランスからも
「フランスのエルヴィス」こと、シルヴィー・バルタンの元夫でもあるジョニー・アリデイなんて、スモール・フェイシズとセッション・アルバムまで出してますからね。解散直前ですよ。そういうことが非英語圏で実際、怒ってたんです。
あと、オランダが60sのバンドブームの”ネーデル・ビート”から発展し、イギリス、アメリカで次々成功するバンドを出していた時期でもあって。
「ヴィーナス」でおなじみのショッキング・ブルーもそうですね。「ヴィーナス」の入った同じアルバムでは、のちにニルヴァーナがカバーした「Love Buzz」も入ってたりします。
あと、前回入れられなかった、ヨーロッパの非英語圏では圧倒的に強かったギリシャのアフロディーテズ・チャイルドなども選べてます。「炎のランナー」のシンセサイザー・アーティスト、ヴァンゲリスのいたバンドですね。
あと、前回もそうでしたけど、60s後半から70s頭は政治の季節で
南アフリカからアメリカに進出して成功したミリアム・マケバ。彼女は有名なアパルトヘイトの闘士だし、
東欧の北の3国、ポーランド、チェコ、ハンガリーには映画、ロックの進んだ文化があって、チェコでは68年のプラハの春の際に、この女性シンガーのマリア・クビショバーの「マルタの祈り」という歌が盛り上がってました。彼女は政府から活動を停止される憂き目にあいましたが、1989年にチェコの社会主義政権が倒れたことで21年かけて復活しています。あと、チェコではヴェルヴェット・アンダーグラウンドやフランク・ザッパが人気ありまして、89年の革命も「ヴェルヴェット革命」と呼ばれてます。
このチリのビクトル・ハラもそうですね。この人はチリのフォークの大物だったんですけど、1973年、南米の共産国化を恐れたアメリカの差し金で起こった軍事クーデターで処刑されてしまうんですね。でも、その後の民主主義の復活後、今に至るまで、南米ではデモのたびにこの「自由に生きる権利」という彼の歌が歌われます。
あと、「カンボジアン・ロックス」もですね。カンボジアでもロック文化、特にサイケデリックでいいものが出てたんですけど、時のポル・ポト政権に虐殺されています。
メキシコでも「メキシコのウッドストック」ことアヴァーンダロ・フェスティバルのあとに、10年近くにわたるロック禁止令が出されています。
あと今回の収穫は
前回、研究できていなかった中東圏のロックが紹介できてるとこですね。イランのクーラシュ・ヤグマーイ、イスラエルのアリク・アインシュタイン、トルコのエルキン・コライ。こうしたところでも70sの前半にはロックが広がっていました。
それから、70s半ばにアフリカ南部の国ザンビアで突然変異に起こったバンドブーム、”ザムロック”からも最大人気バンドのウィッチを選んでます。アフリカでは裕福な南アフリカの隣国で英語圏、しかも大統領がミュージシャンだったことで可能になったブームらしいですね。
あと、さっきも言ったように英語圏のルール、ゆるんだのでジャマイカでボブ・マーリー、ナイジェリアでフェラ・クティを選びました。両者ともに鉄板のアルバムを。
あと、世界はアリーナ・ロックの時代ですが、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」と同じ頃にロイ・トーマス・ベイカーがプロデュースしたデンマークのバンド、ガソリンや、ジャーマン・メタルの先駆者スコーピオンズも選んでます。
あとAORとプログレを融合した素晴らしいバンドがアルゼンチンから生まれてます。セル・ヒラン。それまで同国で実績のあったメンバーが集まったスーパー・グループでもあります。ヴォーカルのチャーリー・ガルシアはこの国のロックの最大のカリスマです。
それから世界はパンク/ニュー・ウェイブ。ドイツでもノイエ・ドイッチェ・ヴィレというニュー・ウェイヴのシーンが浮上しますが
DAFはシンセ・ポップのみならず、その後のエレクトロにも十分通用する先鋭的なセンスの持ち主でした。
東欧でもパンクブームが起き、ユーゴスラヴィア(現在のセルビア)ではユーゴトンというレーベルからオムニバスの傑作アルバムが生まれ、ポーランドでも多くのヒット・バンドが出た中で、マーナムの女性シンガー、コラは同国の後続の女性シンガーに大きな影響を与えました。
80年代に入ると、ヨーロッパや中南米はどこもバンドブームですね。
そんな中から
MTVを経由して存在が知れていくパターンもできました。僕が「非英語圏の音楽」に興味を持ったのはこのときのMTVの影響です。
今回選んだ中から多いのはブラジルなんですけど、ことごとくボサノバ色ははずしてます(笑)。だって60sならともかく、70sはロックっぽいので良いの多いんだもん。
ブラジルのロックのキング、クイーンのハウル・セイシャスにヒタ・リー、あと、脱ボサノヴァ化してすごいソウルフルなエリス・レジーナ。エリスはこの時期の方が歌が爆発してて僕は好きです。
もちろんそれだけじゃなくてカエターノもミルトン・ナシメントもシコ・ブアルキも最高のアーティストなので選んでますけどね。
本当に語り足りないんですがこのへんにして、明日、後編を話しましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?