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全オリジナル・アルバム FromワーストToベスト(第36回) アイアン・メイデン 17位〜1位

どうも。

今日はひさしぶりにFromワーストToベスト、やりましょう。

今回のお題は、この人たちです!

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はい。先日、ニュー・アルバム、その名も「センジュツ」をリリースしたばかりのアイアン・メイデン。彼らをとりあげてみたいと思います。

 メイデンといえば、もう今やメタル界の大御所、キング的なポジションにいるバンドですよね。僕がこれまでこの企画でやってきたバンドの中ではもっともメタル色濃いバンドなので多少緊張もあるのですが、メタル。ファンの方以外にもぜひ聞いてほしいバンドだとも思うので、やってみようかと思った次第です。

今回は17枚のアルバムを1回でやります。まずは17位からいきましょう。

17.Virtual XI  (1998 UK#16 US#124)

ワースト1位は1998年発表の「Virtual XI」。これはブルース・ディッキンソンの後釜ヴォーカリストのブレイズ・ベイリーと製作した2枚目のアルバムですね。彼の体制がすべて悪いとは思ってないんですけど、この前作で思わぬ形で成功していたものまでポシャっていて、パッと聴き、メイデンのアルバムに聞こえないんですよね、これ、メイデンとしてのテコ入れが必要になってもこれでは無理がありません。でも、バンドの将来のためには必要な失敗作だとも言えると思います。

16.No Prayer For The Dying (1990 UK#2 US#17)

ワースト2は「No Prayer For The Dying」。いわゆる世界的なメタル・ブームの時に出たアルバムでメイデンもその波に乗って売れてはいるんですけど、特に欧米のファンのあいだでは不人気な作品として有名です。ここから「Bring Your Daughter」の全英ナンバーワン・ヒットも出てるんですけどね。その理由は、ひとつはエイドリアン・スミスが抜けたことでバンドのソングライティングのバランスが崩れたこと。もうひとつはスミス抜けてディッキンソンの曲が目立つようになったことで、彼の望む、ちょいとアメリカンなカラッとしたニュアンスがメイデンに微妙に合わなかったかな、というのがあるかもしれません。同じロックンロール色の強い曲でも、なんかこの当時のアメリカ市場の雰囲気がしてなんか”らしくない”というか。多少、マーケットを意識したところもあるのかな

15.Fear Of The Dark  (1992 UK#1  US#12)

 続いて15位は、その「No Prayer For The Dying」に続く「Fear Of The Dark」。前作に感じた不似合いな感じは後退してるし、現在もライブでよくプレイされるアルバム・タイトル曲の存在もあるので見逃せない作品ではあるんですけど、前作で狂ってしまった何かが帰ってこなかった感じはあるんですよね、これ。結局、歯車が噛み合わぬままブルースが脱退。バンドが低迷の時代に入ってしまうわけです。

14.The X Factor  (1995 UK#8 US#147) 

 そして14位に「The X Factor」。このアルバムから元ウルフズベインのブレイズ・ベイリーが入るんですけど、決して悪いことばかりでもありません。一番の収穫は、ソングライティングの負担のあがったスティーヴ・ハリスが、このアルバムから、これまで少しずつ試していたアイリッシュ・フォークのテイストをすごく濃くしたことです。この要素は、ブルース戻ってきた後のメイデン・サウンドの一つの大きな核にもなったわけですから、ここでの気づきが非常に大きかったかもしれません。ブレイズのヴォーカルも一生懸命ブルース・ディッキンソン風に聞かせようと強い努力のあとを感じさせます。

13.The Final Frontier (2010 UK#1 US#4)

13位は2010年発表の「The Final Frontier」。2000年代に入って、ブルース・ディッキンソンとエイドリアン・スミスが復帰して以降、メイデンのサウンドの方向性はぶれなく一貫している感じがあるのですが、その中でこれはちょっとだけ落ちるかな。これ、曲の尺が長い曲が連発されている割に決定的な決め曲がなく、ちょっと弛緩した印象を受けるんですよね。もう少しタイトに絞って、焦点決めた法がいいかな。本人たち曰く「レコーディング前の準備がもっともできてなかった」作品らしいんですけど、リラックスはしていたんだとは思いますが、詰めの甘さが出た感じがしますね。

12.The Book Of Souls (2015 UK#1 US#4)

12位は前作にあたります「The Book Of Souls」。ブルース、エイドリアン復帰後のメイデンは楽曲のスケール・アップによる長大化が顕著になりはじめるんですけど、このアルバムはそれがマックスまで行きますね。13分、そして18分の曲がありますからね。中には先行シングルにもなった「Speed Of Light」みたいなシングル向きのロックンロールの曲もあるわけで、バランスよく並べればもっと聴きやすくなったような気もするんですけど、長大な2曲の配置がいまひとつはまりが良くないというか、ちょっとダレて聞こえる瞬間があるんですよね、これ。長い曲をやること自体は聴きどころになるポイントだけに「全体の中での聴かせ方」が腕の見せ所になると思うんですけど、そのあたりが次への課題として残ったかな、という感じでしたね。

11. Dance Of Death (2003 UK#2 US#18)

 惜しくもトップ10を逃したのは2003年の「Dance Of Death」。復活第2作ですね。これ、個人的な思入れはあるし、印象いいんですよ。このときのツアー、さいたまスーパーアリーナに見に行って、ブルース、足大怪我してるのに完璧なパフォーマンス見せて感動しましたし、このアルバムも復活作となったこの前作の勢いを継続するように「Wildest Dream」「Rainmaker」「No More Lies」と、すごく序盤が攻めに攻めててかっこ良くてね。ここまでだったらもっと上位だったと思うんですよね。ただ、本作、すごく残念なのは、前半飛ばしすぎちゃったか、後半二個の勢いがもたずにかったるくなってしまうんですよね。マラソンで最初に飛ばしすぎて失速しちゃったみたいなところがあります。その意味ですごく惜しいアルバムでしたね。


では、トップ10、ここからはジャケ写つきでいきましょう。

10.Killers (1981 UK#12 US#78)

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10位はセカンド・アルバムの「キラーズ」。メイデンの場合、デビューの時点でNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)のイメージを直接的に具現化したサウンドのオリジナリティを確立してて、ズバリそれだけで歴史に残る価値があるんですけど、その偉大なファースト・アルバムに続くのがこれです。前作で持ち味となったスティーヴ・ハリスのランニング・ベースに導かれるパンキッシュな曲調はここでももちろん生きているわけなんですけど、単なる「メタルのパンク化」を狙っただけでない、メタルとしてのより大きなスケール感を求めた次の段階にこのアルバム、あるんですね。中には「Wrathchild」「Purgatory」みたいな重要な曲もあるんですけど、こういう拡張を目指す世界観の中でポール・ディアノのヴォーカルはちょっと限界点だったのかなと思わせる要素は否定できませんね。

9.Somewhere In Time (1986 UK#2 US#11) 

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9位は「Somewhere In Time」。1986年発表の6枚目のアルバムですね。メイデンの場合、基本的に80年代いっぱいのアルバムに外しはないんですけど、このアルバム、他の黄金期のアルバムに比べるとほんの少しだけ落ちるんですよね。やっぱり、フレーズがパッと条件反射的に思い出すような曲がないですからね。やっぱり名作群が並ぶところだと、そういう曲の存在こそが重要です。エイドリアン作の「Wasted Years」あたりはイントロのギター・フレーズからして外せない曲だとは思うんですけどね。このアルバムはブルースがツアー疲れから曲がちゃんと書けてなくソングライティング・クレジットに加えられないというハプニングの中、なんとかしてエイドリアンのソングライティング力が気を吐いた一作になっていましたね。ただ、誰かがかなり頑張らないと破綻が起きかねない状況には当時からあったんだたということがわかりますね。

7.Seventh Son Of A Seventh Son (1988 UK#1 US#12)

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8位は、その「Somewhere In Town」に続く「Seventh Son Of A Seventh Son」。7にまつわるアルバムなので7位にしたかったんですけど、残念ながらこれより好きなアルバムが7枚ありました。これなんですけど、「アイデンティティははっきりしてるけど、それがしっかりしすぎてるあまり世界観が広がりにくい」状況に陥っていたメイデンの中では変化をつけられたアルバムで、ブルース・ディッキンソンによるシングルヒットした、当時のアメリカ西海岸メタルみたいな「Can I Play WIth Madness」や従来のメイデンの路線での「The Evil That Men Do」みたいなヒット曲も生まれ、彼らがより大御所的なポジションをつかむことになります。また、オーソン・スコット・カードなるミステリー小説家の書いた「Seventn Son」が元になって「家庭環境から悪魔が生まれる」コンセプトをもとに作品のモチベーションがあがったのも事実でしょう。ただ、今から振り返ると、ちょっと企画性に頼りがちで自分たちの内側からの自然な創造性が失われつつあったのかなとも思います。

8.A Matter Of Love And Death (2006 UK#4 US#9) 

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7位は「A Life Of Matter And Death」。これは復活第3段アルバムですけど、復活以降ではもっとも密度の濃いロックンロール・アルバムだと思ってます。これ、プロデューサーのケヴィン・シャーリーからのリクエストですごく生感、ライブっぽさにこだわった作りにしてるんですけど、そこに煽られたからなのか、80年代前半の黄金期を思わせるタイプの攻めのロックンロールが戻ってきてますね。これの前作の「Dance Of Death」は後半にだれたと書きましたけど、このアルバムでは後半にスローからの入りの曲が多いんですけど、中盤からドラマティックにハードになる展開で聴かせどころも「For The Greater Good Of God」「The Reincarnation Of Benjamin Breeg」などをはじめとして目立ちますしね。曲の知名度はそこまで高くこそないものの、アルバム1枚の充実度としては上位に入りますね。あと、メイデンの場合、歴史ファンタジーを描いた歌詞も欧米圏ではすごく人気があるんですけど、ここでのイギリスの清教徒の1620年のアメリカ上陸を歌った「The Pilgrim」、1944年の第二次世界大戦でのノルマンディ上陸を歌った「Longest Day」はその観点から評価高いですね。

6.Brave New World (2000 UK#7 US#39)

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6位は「Brave New World」。これがいわゆるメイデンの復活作。ブルース・ディッキンソンとエイドリアン・スミスの二人が戻ってきて、6人編成になっての最初のアルバムです。90sにオルタナにオールド・ウェイヴ扱いされて主要メンバーが脱退したり解散したりしたバンドが再始動する時って普通、完全なる懐メロ扱いになりがちだったんですけど、メイデンに関しては完全なる例外で、この当時猛威をふるってたニュー・メタルに唯一対抗できた80sからのサヴァイヴァーとして浮上し、もうある時期からニュー・メタルさえ凌駕して完全あるメタルの王者になりましたからね。オルタナティヴ・メタル畑に強いケヴィン・シャーリーがプロデュースについたことも大きかったと思うんですけど、ハリス、スミス、ディッキンソンの3人プラスにやニック・ガースの4人でソングライティングが完全に復活したのが大きかったんだと思います。あと、ハリスが前からやりたがっていたアイリッシュ・フォークを大胆に導入してのスケールアップした、「ジェスロ・タルの正統後継者」的な長尺楽曲もここから目立つようになって、これが21世紀の彼らの強いアイデンティティにもなっていると思います。いくら過去に栄光があろうと、これなければ今の彼らはないですね。

5.Senjutsu (2021 UK#2)

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そして5位に最新作の「センジュツ」を選びました。これ、大絶賛されているアルバムですけど、僕もそれは賛成ですね。すでに何度も言ってる「復活後」の、これが最高傑作だと思います。「復活」といっても、そこから20年経っているわけですけど、もう今や、80s前半のクラシック・メイデン調のパンキッシュでスピーディなロックンロールから、アイリッシュ・フォーク、60s後半から70s前半のメタル、プログレ黄金期のエッセンスを自在に操れるし、ファンタジックな歌詞の世界も今回とうとうアジアまで飛んで、日本、中国にまでイマジネーション広げてそれをメイデンの世界観にうまく溶け込ませてますね。で、なにより一番いいのが、今回のアルバムの構成ですね。いわゆるメイデンの古くからのファンが喜びそうな「Stratego」「The Writing On The Wall」「Days Of Future Past」みたいなライブで人気出そうな曲を1枚目。10分を超える曲群をまとめたものを2枚目に配して、すごく聴きやすくしています。2枚目の方はほとんどがスティーヴ・ハリス単独のソングライティングによる楽曲なんですけど、彼がそこまでの曲を自ら進んで積極的に書くこと自体がすごく久しぶりのことで、創作に関してのモチベーションが高かったことを伺わせてうれしいですよね。一つの高みに到達し、さらに今後も見せ得る構成になっているところに彼らの充実を感じさせます。これ作れるメタル・バンド、今、ほかにいないと思います。

4.Piece Of Mind (1983 UK#3 US#14)

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4位は1983年発表の4枚目のアルバムですね。「頭脳改革」。もう、ここから上の4枚に関してはほとんど差がないですね。このアルバムに関して言うと、ある意味、今日まで強烈に印象に残っている「クラシック・メイデン」なシグネチャー・サウンドがきわめて強烈に出たアルバムのような気がしています。いわゆるスティーヴ・ハリスが捲したてる「デンデケ、デンデケ」という速いベースラインにまくし立てられるサウンドと、それに支えられたファンタジックな世界観。「Where Eagles Dare」「Flight Of The Icarus」、そしてそして、彼らのもっとも有名な曲のひとつだと思います。「The Trooper」。このあたりの曲は現在の彼らのライブでも鉄板中の鉄板の曲ですからね。その意味でも、「知っておかないことにはライブに行っても話にならない」レベルで知っておかないといけない印象がやっぱり強いですね。あと、クリミア戦争での民衆の抵抗を描いた歌詞に見られるように、世界史知識に裏打ちされたメイデンの歌詞の世界観の醍醐味もこのあたりからしっかり確立されているような気もします。

3.Powerslave (1984 UK#2 US#12)

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トップ3に入って、まず3位は1984年発表の5枚目「Powerslave」。これも非常に人気の高いメイデンのアルバムですが、なにがいいかって、メイデン史上、もっとも速いアルバムなんですよね。とくにA面の冒頭数曲が、この当時の基準では速い速い。「Aces High」と「2 Minutes To Midnight」の最初の2曲は、メイデンから激しい刺激を求める人に特に人気の、今日のライブでも不可欠なものですよね。この2曲に限らず、このアルバム、全体の平均が他の作品よりBPM上なんですよね。1984年といえば、イギリスでハードコア・パンクがでてきて2〜3年で、アメリカでスラッシュ・メタルが生まれた頃なんですけど、そうした波に対応できたスピード感がありますね。これと同じ年にラモーンズがハードコアに影響された「Too Tough Too Die」を出してますけど、メタルの側で意識的にか無意識的にか対抗したアルバムと言えるかもしれません。全体、やや短めのファスト・チューンで攻めつつ、最後に13分の大曲「Rime Of The Ancient Mariner」で締めるところもまた彼ららしいですね。また「Aces High」が有名なチャーチルの演説に導かれて第二次大戦時のイギリス、タイトル曲とジャケ写でエジプトのピラミッドの時代の奴隷制を描き、その中で「ヒトラーやファラオには屈しないぞ」という民衆の力を見せる歌詞もメイデン・ワールドそのものです。

2.Iron Maiden (1980 UK#4)

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いよいよ残り2枚ですが、まず2位は記念すべきデビュー・アルバム「Iron Maiden」。いわゆる「New Wave Of British Heavy Metal(NWOBHM)」というものが、その後のヘヴィ・メタルのイメージを決定付けたものとして今日にも生き続けているわけですけど、そのロール・モデルとなったアルバムこそ、メイデンのこのファーストですよね。スティーヴ・ハリスの荒々しいパンクロックの影響を受けたランニング・ベースに導かれて蘇生した60s後半からのハードロック。40年のキャリアを持つメイデンでありますが、やはりいまだにこの中からのライブの選曲が多くて、2000回以上演奏されているタイトル曲をはじめ「Sanctuary」「Running Free」「Phantom Of The Opera」「Prowler」と代表曲目白押しですからね。そして、この荒削りなパンク風サウンドゆえに、このアルバム、非メタル・ファンに対しての一般人気もすごく強いんですよね。そういう声を僕はいまでもメタルじゃない人たちからたくさん聞くし、僕自身、90sの半ばにこれを聴いたときに「メイデンってこんなにパンクだったんだ」と発見して、そこから遡って聞くようになったきっかけの作品だったりします。その意味で、決してうまいとは言えない初代ヴォーカリストのポール・ディアノの不器用なヴォーカルが逆説的に生きているアルバムでもあります。

1.The Number Of The Beast (1982 UK#1 US#33)

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そしてそして1位はやはり「魔力の刻印」こと「The Number Of The Beast」。やはり、いくらデビュー・アルバムがNWOBHMの象徴となろうが、メイデンそのもののその後につながるものは、あの時点ではまだ完成してませんからね。やはり、ブルース・ディッキンソンの攻撃性と抜群の高低のレンジを生かしたヴォーカル、そして、キャラクター”エディ”の存在が生きるための、世界史知識に裏打ちされた悪魔物語、これが確立されないと、メイデン世界を理解したとは言えないと思っています。ある意味、ファースト・アルバムが大好きな非メタル・ファンの人がメイデンをバンドとして好きになれるか否かが、このアルバムにかかっているといっても過言ではない気がします。収録曲的にもきわめて大事です。「666は獣の数字」と歌われるタイトル曲は、やはり「Iron Maiden」とならぶ最大の自己アイデンティティ・アンセムだし、アメリカで植民が始まった際に開拓に抵抗した勇敢なアメリカ先住民を歌った「Run To The Hill」、死刑囚の最後の1日を描いた「Hallowed Bt Thy Name」。このB面の中の3曲はいずれもメイデンを語る際にもっとも外せないオールタイムで必要な5本の指に入る曲ですからね。他にも重要なアルバムは少なくないメイデンですけど、やっぱり直接的なバンド・イメージと強く結びついてる分、このアルバムがやはり最高傑作ということになると思いますね。

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