2020年代前半のベストアルバム 10〜1位
どうも。
では2020年代のここまでのアルバム・ベスト、いよいよトップ10の発表です。今のところですけど、このように選びました!
いずれも力作揃いというか、何かしらでこの5年を代表したかと思うのですが、早速10位から見てみましょう。
10.Teatro d'ira/Måneskin (2021)
10位はマネスキン。彼らが2021年3月、大ブームを作るきっかけになった、ユーロヴィジョンの2ヶ月前に本国イタリアで行われたサンレモ音楽祭の頃にリリースされた勝負作「Teatro d'ira」。これがイタリアのポップ・ミュージック史、さらに世界のロックの勢力地図を書き変える快挙を成し遂げることになりました。これまで世界的なロックシーンと何の関わりもないところから、容姿端麗の20歳そこそこの少年少女たちが下手したら時代錯誤的なグラムメイクで登場し、インディもニュー・メタルも自然と混ざったハードなロックンロールを展開。それを彼らは、ロック界でいつのまにかご法度とされていたテレビのオーディション番組、コンテスト番組で鍛え上げられた生演奏で圧倒。それはユーロヴィジョンでの優勝で瞬く間に全世界に広がり、tik tokの話題で世界的な人気者に。これだけでも立派にシンデレラ・ストーリーだったのですが、翌年にフェス市場に参加しだすと、彼らはそこでも注目を浴び、日本でも豊洲、さらにサマーソニックのステージでセンセーションを巻き起こし、2023、24年には世界的なフェスのヘッドライナー・アクトにまで成長。英語を話さない国から、ある時期からロックで当たり前になっていた「ジャンル主義」「スター拒否」「若い人たちへのアイドル性否定」といったものがロックの足かせになっていたこと、同時に、「ロックで最も必要なもの」がいつの時代も普遍的に文句なしのライブ・パフォーマンスであることを証明しました。これだけで十分奇跡的です。ただ、あまりにオリジナルでかつ孤高すぎてその価値がまだ一般にわかられていない、いや、もしかしたら本人たちでさえわかっていないかもしれない。そこが本作最大のネックでもあります。向こう5年でどっちに転ぶかな?
9.Romance/Fontaines D.C. (2024)
9位はフォンテーンズDC。2度目のランクインとなりますが、今度は最新作の「Romance」です。マネスキンで「ロック復興」を信じたくない人に対しても、このフォンテーンズの台頭でならそれを信じられる。そういう雰囲気を今作り上げているのが彼らです。実際、本作のリリース以降、主に欧米のSNSへのグループ投稿ですけど、「フォンテーンズには期待している」と言う、うるさがたそうなロックファンの投稿、すごくよく見るようになりましたからね。そこに掛けられている期待とは、ズバリ、「アークティック・モンキーズ以来不在となっていた、正統派ロックバンドの後継者」のイメージでしょうね。日本でわかりやすく言ったら「ブランキーやミッシェルの若き後継者」、それが出てきたような強い信頼感。ズバリ、それだと思います。アイルランドのダブリンから出てきた当初からも、一部の人たちはその期待を抱いてきました。それは僕もそうです。そして一切の期待を裏切ることなく、彼らは早いペースで作られる3枚のアルバムを通じて、ヘヴィなポストロック・モードでのロックンロール。これをストイックに追求してきました。そしてこのアルバムで彼らは王手をかけた。それがレーベルの移籍であり、ダン・キャリーからアークティックを手がけるジェイムス・フォードへのプロデューサー交代。そして、サウンド、さらにファッションも大胆にイメチェン。「トレインスポッティングmeets KORN」とでもいうべき「Starburster」や同時代のスマパンをまんま彷彿させる豪快なロックンロール「Here's The Thing」、これまでにない爽やかなギターポップの「Favourite」と、過去最高に間口の開けたサウンドで、これまで彼らについてきがちだったマニア性をいい意味で減らし、その他の従来路線の曲と合わせて彼らのクールネスをダイレクトに伝えることに成功しましいた。これでヨーロッパのほとんどの国でチャート上位でアメリカでも初のトップ100入り。もう次が出る頃にはアメリカも・・と考えたら、正統派の意味での「ロック復興」を印象つける最短距離にあるのは彼らということになるでしょうね。
8.SOS/SZA (2022)
8位はSZA。10年代に最もヒップな音楽となった「オルタナティヴR&B」を一世代経た後に最も大衆化させるのに成功させた人はやはりSZAということになるでしょうね。あの当時の評価だとフランク・オーシャンやソランジュのほうが評価高かった気もしますけど、両者とも進んでいる道が孤高で一度作品出したら次に帰ってくるのいつなんだ、という活動を送る中、SZAは彼女の世界観を固定ファンの中で閉じ込ませることなく、R&Bとか黒人コミュニティの域を超えて、あらゆる女性たちにとっての洗練されたサウンドトラックを作ってる印象ですね。それはこれの前作に当たる「ctrl」からの曲が20代黒人女性のアーバン・ライフを描いたドラマ「Insecure」に使われたり、ドージャ・キャットとの「Kiss Me More」が「Quawaii」文脈で広く愛されグローバル・ヒットしたことなどとも関係あるんですけど、その決定打となったのがこのアルバムでしたよね。元々、クラシックの印象主義的なフレーズ入れたりするのが得意だった彼女ですけど、ここではそうした洒落たコード進行なども駆使しつつ、フィービー・ブリッジャーズとの共演やさらにはロックにも挑戦。さらには最大ヒットシングルの「Kill Bill」のように、元カレへの復讐心を有名な映画のシーンとダブらせて語るリリシストとして洒落たうまさがある。彼女自身、「R&Bじゃなく、今を生きる黒人女性としての音楽だ」と自分の音楽を自称してるのですが、まさにそれの具現化ですね。幼い頃からいいろんな人種の女友達と接するのが当たり前(彼女は育ちが超リッチな家庭でも有名)で育った世代ならではというか。それは、「ソウルフル」と呼ぶのとは少しちがう、高音の伸びと張りが強い独自のヴォーカルにも現れていたりもしますが、あの圧倒的なライブ・パフォーマンスがフジロックのドタキャンにより日本のオーディエンスに届かなかったこと。あれだけが今も本当に悔しいです。
7.The Rise And Fall Of A Midwest Princess/Chappell Roan (2023)
7位はチャペル・ローン。ようやく、今回の企画のミッションでもありました、彼女を紹介することができました!チャペル、今年の活躍ならシングルだったら1位にできたんですけど、アルバムがね、これが去年の、しかも9月のアルバムだったから、どうしても今年のものに入れることができなくて。どうやって紹介しようかと思ったら、こういう形でしかないなと思ってたんですけど、でも、この5年で見てもこのくらいの順位で本作を位置付けるの、全然ありだと思います。だって、これは2020年代を代表するグラムポップ・スターの記念すべき金字塔なわけですからね。このアルバムがどうやって生まれたか。元々チャペルは天才少女で、10代の頃にはすでにメジャー契約を獲得。EPまで出していたんですが、その当時は「ラナ・デル・レイ・フォロワー」のゴスでダークなイメージで音楽も正反対。これが失敗に終わってメジャー契約も切られ、そこで一度故郷のミルウォーキーに昇進里帰り。そこから再びLAに上京し2022年からストリームで断続的に曲を発表するたび、自身の中のレズビアンとしての性に目覚め、ファッション的にもドラッグクイーンをモチーフにし出したあたりから曲調がガラッと変身。ネットで密かに話題になったこれらの曲を集めたデビュー・アルバムが本作でした。これが出た当初、僕、実は僕、彼女知っててリリース当日に聞いてはいたものの、その年に年間ベスト見送ったのが本当にこの5年最大の後悔でして。で、なぜその時に入れなかったのかというと、翌年に判明することになるライブでの圧倒的なカリスマ感と圧倒的な歌唱力について知らなかったのと、「決定的な1曲」、これがないと感じていたからです。それが今年になってアルバム未収録新曲の「Good Luck Babe」の特大ヒットと、コーチェラやロラパルーザでの大ロックスターばりのライブで証明されてしまった。もう、これが備わったら歴史的名盤、それだけで決定です。だって、「シンディ・ローパーとケイト・ブッシュとアラニス・モリセットが合体したみたい」とかってなったら、それだけで信頼に足るレジェンドってわかるじゃないですか。曲が決して作られたポップスター然としてない、本格的な評価していいタイプであることは出た時からわかってはいたものの、音盤に刻まれたところ以外の、生パフォーマンスとキャラクターに関しての情報が加わった上で評価するのとしないのでは、全く意味が違う。「Hot To Go」や「Pink Pony Club」も苦闘時代の成長を記す名曲ではあるのだけれど、その後のパフォーマーとしての成長が、今やそこに録音された以上の聞こえ方をさせてしまっている。今後も本人の成長とともに輝きを増していきそうな運命にある作品だと思います。
6.Renaissance/Beyoncé (2022)
6位はビヨンセ。先日、ビヨンセがビルボードの選ぶ、「21世紀最大のアーティスト」に選ばれていたのですが、それは全くもって正しい判断だと思います。彼女の場合、ただシングルヒットが多いだけのアーティストではなく、アルバム制作に強い意味をもって臨むじゃないですか。それはとりわけ、2013年のセルフ・タイトルのアルバム以降の4作は特にそうで。それはまるで、マイケル・ジャクソンが「オフ・ザ・ウォール」以降に行ったやり方と全く同じで、「アルバムを発表すること」を一つの大プロジェクトとして、それに伴う大型コンサート、さらにツアーを一つの大きな「行事」にまで高める。彼女のこうした姿勢が、勢い「流行り物」として流され消費されがちで歴史に残りにくかったR&Bやダンス・ミュージックの価値を高めるのに一役買ったと思っています。それが特に顕著になったのはやはりここ4作の話ですけど、2020年代前半、いや、キャリア全体で見ても、これになるんじゃないかな。2022年の「Renaissance」。この前作に当たる2016年の「Lemonade」はいわばビヨンセ版の「スリラー」に当たる作品で彼女が全方位的なサウンドに対応したことで彼女の存在を一気に大きくしました。ただ、それにより、彼女のコンフォート・ゾーン以外の音楽も表現したことは事実。それもあってか、そのアルバムが彼女のライブの中心に来たことはないんですけど、この「Renaissance」の方が彼女本来のダンス・ミュージック・ディーヴァとしての本領を発揮させながら知的に考えられた高貴なサウンドの高みに達している意味で説得力がありますね。いわば「ドナ・サマーmeetsマーヴィン・ゲイ」の世界観。エイズで亡くなった彼女のおじさんも愛したというディスコの黄金期の持つきらびやかな魂の解放感と、マーヴィン的なヴォーカル・ハーモ二ーの持つ哲学的な荘厳さ。この2つの融合が絶妙な温故知新効果を生み、パンデミック後の活力として提示されたんですよね。こう言う歴史的な求道姿勢は続く「Cowboy Carter」にも生かされていますが、そういう創作姿勢こそが彼女をアーティストとして何周りも大きくしましたね。
5.Sour/Olivia Rodrigo (2021)
5位はオリヴィア・ロドリゴ。デビュー・アルバムの「Sour」を選びました。2021年、マネスキンと彼女の登場によってロックが救われた。そういう表現があの頃、巷にすごく溢れかえったものです。それを聞いて「何をそんな馬鹿な」との嘲りや、時には憤りの声もよく上がったし、それは実は今でも上がります。でも、そういう、旧世代の人たちが思わず否定したくなるようなパワー、これこそが本当の新しさだし、行き詰まりを見せていたロックが本来、乗り越えなければならなったものです。もっとも、それは彼女を売り出したレコード会社でさえまったく予期できていなかったことです。彼らにしてみれば、「テイラー・スウィフトのフォロワーになれそうな、音楽の才能を持ったディズニー・タレント」。それくらいの認識だったんじゃないかと思うんですよね。ところが、そんな彼女が、アイドルとしては前例がないくらいの音楽マニアで、しかもかなり求道的なまでのロック通だったことまでは想定できてなかったと思うんですよね。デビュー曲の「Drivers License」こそテイラー的なバラードできたものの、続く「Deja Vú」が「ビリー・ジョエルの曲教えたの、あたしでしょ?」と歌われるインディ・ロック楽曲。そこですごく驚いたんですけど、トドメ刺したのがパラモア調のエモ・パンクの「Good 4 U」。そしてアルバム・オープナーがガレージ・ロックンロールの「Brutal」。ポップ・ミュージック長年聞いてきてますけど、アイドルがここまで痛快にロックのだまし討ち食らわせた瞬間は見たことないですね。完全にオリヴィアと、創作パートナーのダン・ニグロにまんまとやられたというか。オリヴィアはこれを続く「Guts」でも展開。今やジャック・ホワイト、セイント・ヴィンセント、キム・ディール、ビキニ・キルにまで可愛がられる存在となりました。また、このオリヴィアの成功の後、チャペル・ローンをスターダムに押し上げたダン・ニグロが時代最強のプロデューサーになった瞬間でもありました。
4.Fine Line/Harry Styles (2019)
4位はハリー・スタイルズ。これもフォンテーンズに続いて2枚目のエントリーになります。これ、実は2019年のリリースだったりするんですけど、発売そのものが2019年12月13日。各媒体の年間ベストアルバム発表が終わったタイミングでのリリースで翌年繰り越し扱いになる対象なのでここにいれさせていただきます。さらに言うと、このアルバムなかったら、20sそのものがかなり語りにくくもなるので是非入れさせてもらいたいです。このアルバムで彼が成し遂げたことというのは「アイドルのサウンドをロック、ないしバンド・サウンドに変える」ということですけど、パンデミックに全世界の人があえいだ2020年夏、ここからのシングル「Watermelon Sugar」が全米チャートでナンバーワンになった。あれ衝撃だったんですよね。芸能界のど真ん中にいるアイドルがダンスポップでなく、渋いバンドサウンドの曲で1位になった。「これで何か変わるんじゃないか」と思ったら本当に変わりましたからね。あの瞬間なかったら、次の年のオリヴィアやマネスキンも、今のチャペル・ローンやサブリナ・カーペンターとか最近のtik tokのヒット曲とか全然なかったかも知れないなと思って。タイミングも絶妙だったというか。2017年に彼が1D後のソロで「Sign Of The Times」で大まじめにロックしたときは世がついていけず、彼自体もからまわってしまった。しかし、ややアイドルとしての良い意味での軽さを添えて再トライしたら、それが世の流れを変えた。「She」みたいな長いギターソロがあるブルージーな曲でさえオッケーにした。「芸能界にいるから報われない」ではなく、彼はロックに対しての真摯な思いを貫き通し、ポップな流行り曲の傾向まで変えた。そしてそれがロックが揺り戻してくる大きな要因になった。その意味でこのアルバムの持つ意味、実はかなり大きいのです。
いよいよトップ3ですが、ここからは全て、僕の年間ベストで1位になった強者ばかりです。
3.Punisher/Phoebe Bridgers (2020)
3位はフィービー・ブリッジャーズ。2020年の僕の年間1位の「Punisher」です。フィービーに関しては、大きな意味が2つありますね。一つはアメリカのインディ・ミュージックの灯を消さなかったこと。2010sの後半、前半までの盛り上がりが嘘のようにUSインディ・ミュージック、突然下火になりましたからね。2015、16年あたりから急にチャートで結果が出なくなる、新しいスターが生まれない。状況としてはヒップホップに押されっぱなしだったUSのインディ・シーン。そこに2017年の終わり頃にスーッと飛び込んできたのがフィービーのデビュー・アルバム「Stranger In The Alps」。本当に話題になるような新人さえいないくらいに冷え込んだシーンでそのアルバムが密かな話題になったことでその後のシーンに微かな望みが残りました。そして、それが同じレーベル。デッド・オーシャンズのミツキと「サッド・ガールズ」のムーヴメントをいつしかSpotifyのプレイリストで巻き起こしていたこと。こういうことが重なり、20sに向けインディ・ミュージックになんとなく新しい希望が芽生えた先にこの「Punisher」がありました。自身のどこか報われない背徳的な心情を骸骨のコスチュームを身にまとい表現した曲は、彼女のか細い声で囁きかけるように紡がれる、痛みと温かみの両方が伝わる説得力と生命力あふれる歌につながりましたが、それでいながらロクンロールにも、フォークにも、トゥイーポップなどサウンドのバラエティにも長けている。「Kyoto」「Moon Song」「Savior Complex」そして大団円ナンバーでもある「I Know The End」とスマッシュ・ヒット・チューンが続出しロングヒット。これがきっかけでアルバムは2020年の批評界を代表するアルバムとなりグラミー賞新人賞にもノミネート。それが、このアルバムでもセッションが実現している、2018年から組んでいたジュリアン・ベイカー、ルーシー・デイカスとのガールズ・トリオバンド、ボーイジーニアスの大成功に直結。アメリカのインディの世界でたくましく活動し続ける女性たちへの注目度上昇と地位向上に大いにつながりましたね。
2.Brat/Charli XCX (2024)
2位はチャーリXCX。2024年、ついこないだ1位に選んだばかりの「Brat」です。これ、1位にしたばかりの余韻もあるとは思うんですけど、これはこの順位ですごく妥当だと思ってます。あの時のレビューでも書きましたけど、このアルバム、「歴史的名盤」として語られるべき要素が満載ですから。一つはやはり「Brat」という言葉を社会的な流行語、しかも主に進歩的な女性を意味する言葉として結びつけた。こういうのは確実に後年に残るんですよね。そしてもう一つはこれ、歴史とかそういうことだけでなしに、エレクトロの作品として金字塔的な作品でもあるから。一つは、エレクトロという、一般イメージとして「ミニマリズムによる長尺」のイメージのあるものに、短期燃焼型のロックンロールなイメージを付与したこと。そして、インストゥルメンタルのイメージが強い音楽性のところに、「詞」の重要性を与えた。ここが大きいですね。クラフトワークみたいに、アルバムのコンセプトが重要視された話なら聞くんですけど、1曲ごとの歌詞が聞き手の内面に響いたという話はほとんど聞いたことがなかったですからね。これは今後、一つの潮流になりえそうな気もするんですよね。そして彼女は、この2つの要素を巧みな曲順に落とし込んで、一つのアルバムとしてトータルなものを築き上げた。もう、アルバムの構成要素としては非の打ち所がない。今後似たような作品が登場したら、そのルーツはみんなここだと言えるような、そういう強い影響力を持ち得るものだと僕は捉えています。そして、それを、2010年代の前半から常にハイペースで作品を作ってきたチャーリがなしとげたことにも意味があります。20sに入ってからも3作目でしょ?そして彼女自身がエレクトロ界のの女性たちにとっての若きリーダー的存在であること、さらに本作のリミックス版でも示されたように、エレクトロの枠を超えて音楽界全体のキー・パーソンであることもすごく説得材料になっていると思いますね。
1.Motomami/Rosalía (2022)
そして1位はロザリア。2022年の年間ベスト1位の怪作「Motomami」。これもすごく意味のあるアルバムですね。だって、ポップ・ミュージックの歴史が本格的に始まって、100年とかそこらになるのに、いつの時代も最高のものとされてきたのは英語の作品だったじゃないですか。でも、ストリーミング・サービスによって世界中の音楽を聴こうと思えば聞けるようになった今の時代、ついに他言語の音楽が世界のトップに立つことが可能になった。それを2022年に実現させたのがロザリアなんですよね。元はスペインのバルセロナで、伝統的なフラメンコを歌っていた若き女性。それが実はヒップホップ好きなことが判明し、フラメンコにヒップホップのトラックと混ぜて表現したら世界的な注目を集めた。それが前作、2018年の「El Mal Querer」の頃の話。この作品にすっかり魅せられた僕は、その次のアルバムが出るのを首を長くして待っていましたが、とんでもない怪作を彼女は世に届けたわけです。このアルバムが出るまでの4年間、彼女はレゲトンの客演などを通して、スペインのみならず中南米のアーティスト、さらにはアメリカの大物たちともコラボをしましたけど、そこでのケミストリーがこのアルバムに全て打ち込まれているんですよね。ラッパーとしてはスペイン語圏を代表できる実力にまで達し、ウィーケンドとの共演ではあの大物の彼にスペイン語でラテン・バラードをデュエットさせ、ファレル・ウィリアムスの前では日本語で「ヘンターイ」と官能的な愛情表現を披露し、レゲトン、1940年代調の古いボレロ、そしてもちろんフラメンコまでを縦横無尽に展開。最後はその名も「サクラ」なるバラードで締めて終わります。この、やたらと雑多な音楽要素の導入を「だって好きなんだもん」と何事もない自然のことにように無邪気に受け止め、さらに、連発される謎の日本語の数々も、タイトルになった「モトマミ」も結局意味がわからずじまいのまま。こういう天衣無縫の意味不明のエネルギー。これこそが天才の証。「ラテンが生んだ陽キャ版のビヨーク誕生」を大いに喜び、歴史の証人になりたいところです。