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映画「ハスラーズ」感想 J.Lo自己ベスト演技光る、ニューヨークの風俗業の女性たちの復讐劇
どうも。
今日辺りから、オスカーまでは、勢い映画レビューが多めになります。まあ、毎年のことではありますが。
今日はこのレビュー、行きましょう。
アメリカで昨年の秋にヒットしました「ハスラーズ」。これのレビュー、行きましょう。この映画での演技で、J.Loことジェニファー・ロペスがオスカーの助演女優の候補にノミネートされるのでは、とのムードも高まっているほど、なかなか評判のいい映画です。
どんな話なのでしょうか。さっそく、あらすじから見てみましょう。
話は、主人公のデスティニー(コンスタンス・ウー)が女性記者のインタビューに答え、回想していくところからはじまります。
話は2000年代に飛びます。デスティニーは当時、ニューヨークのストリップ業界に入ったばかりでしたが
そこにはスター・ストリッパーのラモーナ(ジェニファー・ロペス)がいました。彼女は容姿も圧倒的に美しかったですが、同僚ストリッパーたちにとってのリーダーで、皆から慕われていました。
デスティニーはラモーナのそばについてまわり、そんな彼女をラモーナも気に入り、常に一緒に行動します。
ときはまだ、ニューヨークがちょっとしたバブルで賑わっていた頃。大企業のエリートたちがストリップ・バーの顧客となり、大金を落としていきました。
だが、2008年にリーマン・ショックが起こります。デスティニーは顧客のひとりと結婚しますが程なく離婚して、小さな子どもの母親になり、ストリップ業界からは離れますが、生活には困っていました。
ラモーナも、ティーンの一人娘の養育のために気質の仕事につきますが、職場での男女差別などもあり、なかなかにつらい日々を送っていました。
2011年、ラモーナとデスティニーは、再びストリップ・バーに戻りますが、そのとき、ラモーナには新たな陰謀がありました。それは、金持ちの男性顧客を酔わせて行う犯罪行為で、デスティニーもそれに最初は抵抗を示しますが、成功します。
やがて新入りや出戻りのストリッパーも、その”計画”に加わっていきますが・・・。
・・と、ここまでにしておきましょう。
これはですね
実は本当の話でして、2010年代前半に、ラモーナの元となった人をリーダー格とした、ニューヨークのストリッパーたちが実際に犯した犯罪を題材にしたルポルタージュをもとに
このロレーナ・スキャルファリアという女性監督が監督した作品です。彼女は10年ほど前に、マイケル・セラとキャット・デニングスがニューヨークのライブハウス密集地で繰り広げたクールなロマンティック・コメディ「めぐりあえたら」の脚本家として注目され、スティーヴ・カレルとキーラ・ナイトレーの世紀末SFコメディ「エンド・オブ・ザ・ワールド」を監督した人としても知られています。
もともとコメディ畑の人で、その縁もあって、今回のこの作品、プロデューサーに、最近は「マネー・ショート」や「バイス」といった風刺コメディで出世した監督アダム・マッケイと、彼の長年の相棒ウィル・フェレルがプロデュースで参加していたりもしています。
アメリカン・コメディのファンとしては、やはりそういうところが気に入ってこの映画、見に行ったわけですけど、これ
僕的には大満足です!
アワードの真ん中に食って入るほどのスケール感こそないんですけど、「隠れた逸品」としてはこれ、十分面白いです。普段、あまり描かれることのない世界が、痛快なテンポとユーモアで、リアリティもってわかりやすく描かれているというか。欧米社会だと、こういう業界って、日本で考えられているよりもっと日陰で表に出てこない印象が強いので、なおさらです。
そういうことで、かなり世知辛い描写も多かったりもします。それが現実にリーマン・ショックで生活がどん底に突き落とされていたりもするから、なおさらです。
そういうこともあって、彼女たちは実際に過ちも犯してしまいます。なんだけど、これが不思議と嫌味にならずに、ちょっと同情したい気持も起こってしまう。この状況だったらやっぱり、顧客の金持ちの男性ですよね。自分たちの性的欲求を満たすだけのために、不景気でもそれなりの金を散財。一方、欲望を満たさせる女たちの方は、まるでモノ扱いでもされるように無下に扱われ、生活だって全く豊かじゃないですからね。
今年はこれ、本当にそういうメッセージが通りやすい年ですよね、これ
これも、やはり「ジョーカー」とか「パラサイト」に近いテイストがあるんですよねえ。格差社会における、心無い富裕層に対する「持たざる者」たちの憤り。その結果、かなり間違ったこともしてしまっているのに、見ている人たちの共感をも誘ってしまうようなところ。これは2019年の映画の一つの大きな流れでしたね。
そうした物語のヒロインを
J.Loがよく演じていたと思います。彼女、これまであまり「個人の内面」みたいなものがにじみでる役柄、あんまりやってきていた印象が正直なかったんですけど、これは役柄のイメージが彼女にピッタリだったこともあってか、かなり説得力持って見ることができましたね。
それも、ただ演技するだけじゃなくて
この、お見事なポールダンスをはじめとした、体を張っての体当たりの演技。これが役に風格と「それっぽさ」をリアルに与えていました。
これまでラテンミュージックの伝説のシンガー「セレーナ」のイメージばかりを引っ張り続けたJ.Loですけど、ようやく役者のキャリアに新たに加えるものができましたね。そうした印象を抱いたのは映画ファンのみならず、批評家たちもでして、彼女はこの演技で、結構な数の映画賞の助演女優賞を受賞したし、ゴールデン・グローブや、クリティック・チョイス・アワードみたいな大きな賞でもノミネートされています。
ただ、彼女の場合、「セレブ女優」としてのイメージ、偏見がやはり強いのか、SAGやBAFTAみたいな、オスカーにより近いアワードではノミネートを逃し、オスカーのノミネートの可能性も現状、5分5分なんですよね。できるだけ色眼鏡をはずして、演技そのものだけで判断してほしいんですけどね。
あと、これ、J Loのことばかり語られがちですけど、その他でもいいですよ。
まず
コンスタンス・ウーですね。彼女は「クレイジー・リッチ・エイジアンズ」の主演でいちやく有名になりましたけど、清潔感あふれる真面目なヒロインだったあの映画とは対象的な今回の役も違和感なく演じていましたね。2作続けてのハリウッド主演作があたったことで、この先も彼女、まだリーディング・アクトレスで行けるはずです。CRAからは相手役だったヘンリー・ゴールディングが「ラスト・クリスマス」でエミリア・クラークの恋の相手役、脇で存在感を放ってたアークワフィーナが「The Farewell」の演技が絶賛され、先日のゴールデン・グローブで主演女優賞(コメディ)を受賞したばかり。あの映画はアジア系にとって画期的な1作だったわけですが、こうしてまだまだ現実世界での出世物語は続いているわけです。
それから
ストリッパーの同僚役でカーディBとリゾの2人が、ちょい役に近くはあるんですけど出演し、存在感を放っていたのも目をひきましたね。彼女たちとコンスタンスとJ Loが、それぞれ黒人、アジア系、ラテン系と演じることで、「人種マイノリティからの反逆」的な見方もできるのも興味深いところでもありました。
ですので、この映画、J.Loがオスカーにかかろうがかかるまいが、なかなかおもしろいですよ。おすすめです。日本での公開は2/7だそうです。