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ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ ニュー・ウェイヴ時代の「裏の裏カリスマ」はなぜ今、最盛期を迎えているのか

どうも。

今日は音楽の特集いきましょう。テーマとして語るのはこの人たちです!

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最新作「Ghosteen」が今、あらゆるところで大絶賛を受けているニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ。もうニック・ケイヴも今年62歳なのですが、この10年くらい出す新作出す新作、ことごとく傑作で、商業的にも今が彼らの最盛期を迎えています。そうしたことがなぜ起こっているのか。今日はその理由に迫ります。

ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの存在自体は1980年代からありました。そして、一部には知られている名前でもありました。それは

懐かしいですね。そして若い!1987年の名作ドイツ映画、ヴィム・ベンダーズの「ベルリン 天使の歌」。この中でパフォーマンス・シーンがフィーチャーされ、そこから知名度を上げます。

ただ、「知名度が上がった」と言っても、それはごく一部の限られたリスナーでの話であり、彼らがチャートの上位に入るように、イギリスでさえなるのは、もう少し先の話でもありました。

80年代というとニック・ケイヴは20代後半から30代前半の世代です。この時代はというと、表で華々しいファッション先行のアーティストが一般的にはやって、暗いものは本当にコアなある一定のファン層に刺さって、それが80sの末くらいから逆転現象を起こしていく・・・という感じでしたね。

でも、その「裏カリスマ」として浮上してきたアーティストって

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僕が写真アプリで作成するまでもなく、ネット上、いくらでも「四天王」のごとく写真が大量に存在するほどの英雄状態になっています。ザ・スミス、デペッシュ・モード、キュアー、ニュー・オーダー。こう言うカリスマたちが、時代の波長に合わないダークなフィーリングを求めている人たちにとってのカリスマでした。

ニック・ケイヴはズバリ、彼らとほとんど同じ世代です。むしろ、人によっては年下さえいます。ただ、やはり同世代では、彼らほどには注目されませんでしたね。それはやはり、ニック・ケイヴの方がもっとダークで、しかも、殺人者心理みたいなものを歌っていたので、よりマニアックだったんですよね。。しかも、上の人たちよりシンガ_ソングライター的な要素も強かった。当時から、若い人向きのアピールではなかったのは確かです。

あと、ケイヴがイギリスでなく、オーストラリアのアーティストだったことで、微妙に「別枠」扱いされていたところも、あったのかもしれません。

そんなニック・ケイヴが徐々に商業的な成功を始めたのは90s半ばです。

1994年から90s後半にかけて、アルバムが本国オーストラリアで確実にトップ10に入るようになり、イギリスでもトップ10に入るか入らないか、くらいの位置にこの頃に浮上してきます。北欧あたりでは1位になっていたりもします。聞いてもらえればわかると思うんですが、やっぱりサウンドがかなり渋く、かつ、バラード路線で一般的には浸透しています。真ん中のカイリー・ミノーグとのデゥエットは当時ヒットしましたしね。僕がケイヴを聴き始めたのもちょうどこの頃ですね。

で、彼らは1998年にフジロックに来て、その時にも僕、見てます。僕の斜め前には、よく見てみるとUAが半径1メートル以内にいたのを覚えています。そのあとがイギー・ポップだったんですよね。ただ、この時にケイヴ、悪名高い「楽屋破壊事件」を起こしているので、以来、日本には来ていません(泣)。

で、この頃にすでに40代前半。この後、しばらくはバラード路線が続いてファンには不評。ちょっと地味になっている時期がありました。

が!

50手前から、本格的な最盛期がはじまります!

そのキッカケとなったのは、これでしたね。

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2006年にサイド・プロジェクト、というより「変名バンド」グラインダーマンで出したこのアルバムが大好評だったんですね。このアルバムで彼らは、世のロックンロール・リバイバル・ブームに対抗したのか、かなりドギつい、そこらへんの若いバンドには出せない攻撃性と、同時に枯れた味わいさえも感じさせる貫禄のロックンロール・アルバムを作り絶賛されて、商業的にもケイヴ名義の作品と同等のヒットを記録しました。

そのグラインダーマンがこの4人なんですけど

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実は、この4人こそが、「遅く来た最盛期」を支えています!

特に、この人の存在が大きいですね。

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ウォーレン・エリスですね。こんな風貌してますけど、ケイヴより8歳年下です(笑)。彼は90s半ばに、もともとはストリングスのセッション・メンバーとしてバンドに関わってるんですけど、以降は、ギター、キーボード、ストリングスとなんでもこなすマルチ・アーティストを務めていて、実質、今、アレンジも彼がやってますね。

実はこのケイヴとエリスなんですが、映画のサントラ・ビジネスでかなり儲けてます。このコンビで2005年から現在に至るまで、15枚のサントラを手掛けています。その中にはブラッド・ピット主演の「ジェシー・ジェイムスの暗殺」や、数年前にオスカーの作品賞にノミネートされた「Hell Or High Water」みたいな有名な映画のものも含まれています。

そしてグラインダーマンの写真の2人目のジム・スクラブナス。彼も才人ですね。スタジオでもステージ上でも、相当数のパーカッション自在にこなしますからね。「Red Right Hand」の「カーンッ!」って鐘は彼が叩いてます。

 このグラインダーマンの成功から、彼らに強い運気がやってきます。

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2008年、ケイヴ名義最大のロックンロール・アルバム「Dig Lazarus Dig」、これがキャリア史上自己ベストのヒットになります。オーストラリア、イギリスだけでなく、ドイツ、フランス、北欧でもトップ10入りし、アメリカで初めて100位以内にも入りました。この時、ケイヴ、51ですよ!

さらに、グラインダーマン名義でもう1枚挟んだ後、

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2013年には「Push The Sky Away」。これがヨーロッパ全域でトップ10、アメリカでも初めてトップ30に入るヒットになります。

これ、本当に大好きなアルバムで、この「Jubilee Street」なんて鳥肌ものの名曲なんですが、これはもう、ルー・リードを失った世に残された最高のストリートのストーリー・テリング・アルバムでしたね。

この頃になるとケイヴ自身の、それまですごくマニアックに聞こえていた内容もだいぶ人々が咀嚼できるようになっていたんですよね。2000sには、「殺人者の心情を歌った元祖」とでもいうべきジョニー・キャッシュの再評価があったりしたでしょ。もう、この頃になるとケイヴはジョニー・キャッシュやルー・リードあたりがいなくなった世の、そうした路線の継承者の位置にもいたんですよね。

さらにはイギリスで大ヒットしているドラマ、19世紀のイギリス国内のギャングを描いた「ピーキー・ブラインダーズ」、これの主題歌に「Red right Hand」が選ばれたりと、ここに来てようやくケイヴのイメージがポップになったんですね。

ただ、いいことばかりでもありませんでした。

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2015年、ケイヴの長男アーサーが、自殺と思われる転落死をしてしまい、それがケイヴに大きなショックを与えます。

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2016年には、その亡きアーサーへのレクイエム・アルバム「Skelton Tree」を発表します。これは、ディストーションのかかった電子音をバックに、リズムがあまりならない中、かなり荘厳で実験的な楽曲の数々でしたね。ここでも彼は「最高傑作をまたも更新!」と絶賛されました。

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そして、今回リリースされたのが、この「Ghosteen」。これは2枚組大作で、前作のアーサー追悼作の続きなんですが、こちらでは天国を意識したかのように、アナログ・シンセとストリングスの壮麗なアレンジをバックに、もともと優秀なバラッディアーであるケイヴが、彼なりのゴスペルを力強く歌い上げた傑作です。しかもこれ、あえて2枚に分けているのは、2枚目に1分を超える曲が2つあり、それを強調しているためです。

これもかなりすごい評価になっています。レヴュー集計サイトの点数を見てみると、Metacriticで99点、Any Decent Musicで9.1点、AlbumOfTheYearで94点。こんな点数記録したの、この10年だとケンドリック・ラマーぐらいしかいませんよ!

悔やまれるのは今回のアルバム、デジタルとフィジカルのリリースが別々になってしまったので、チャート上での上位にはこれません。ただ、ここまでの絶賛になっている作品です。何らかの栄誉はあるでしょうね。

こんなに素晴らしいニック・ケイヴ、そして偉大なる才能のバッド・シーズです。是非とも一度、ステージでその雄姿を見てもらいたい!僕にとっては、2018年10月にサンパウロで見たこのライブは本当に忘れられません!ただでさえ、「職人芸とロックンロールの双方が高純度で結びつく」という、今、他にこれできる人たち、世界でもほとんどいないんじゃないかっていうくらいすごいライブだったんですけど、そこに加えて、この時僕ら、極右大統領誕生前夜ですごく落ち込んでいたんですよ。ケイヴ、そのことわかってて、激励するような曲や行動、かなりやったんですよ!意図的にそれを示唆する曲歌って大喝采浴びたり、女性をステージに上げて、その大統領の批判を叫ばせたりね。これ、かなり精神的に勇気与えました。この年のブラジルのメディアが選ぶ「ベスト・ショウ」にも選ばれたくらいですからね。僕はこの恩で、彼には一生感謝します。

 ケイヴに関してはおなじみの企画「FromワーストToベスト」もいつでもできる状態にはしてあるんですが、「どのアルバムがベストか」論じるほど、日本で浸透しているとは思えないので、まだやりません。少なくとも、来日公演をやるまではやりません。フジロック、楽屋の件、許してやってよ!

なので、代わりにSpotifyに初心者用のプレイリストをい作りましたので、興味のある方はこれから聞いてみましょう。難しそうな印象ある人ですが、ライブだと昔からやってる大定番に忠実なので、案外、入門そのものは簡単でもあるので。そして、是非、近作を聞いていただきたいです。

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