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映画「リコリス・ピザ」感想 先の読めない初々しい傑作!今の時代にあえてロマンスのPTA

どうも。

今日は映画評いきましょう。これです!

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はい。「リコリス・ピザ」。前から伝えてます、オスカーでは作品賞、監督賞、脚本賞の3つの部門にノミネートされている、今年のノミネート作品の中でも目立つポジションの作品です。監督は、僕も本当に大好きです。名匠ポール・トーマス・アンダーソン。

さあ、どんな映画なのでしょうか。早速あらすじから見てみましょう。

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舞台は1973年。カリフォルニアのサンフェルナンド・ヴァリー。まだ15歳の子役俳優ゲイリー(クーパー・ホフマン)はカメラマン助手をやっていたアラナ(アラナ・ハイム)に一目惚れして声をかけます。

アラナは25歳。頭の固いユダヤ人家庭に育った、本当は女優志望の女の子。彼女は10歳年下のゲイリーを子供扱いして相手にしようとしませんが、でも、なんだかんだでデートの誘いは受けてしまうなど、ゲイリーのことを気にしてる様子です。

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ゲイリーはCMのオーディションを受けたり、有名女優の舞台に参加したり、子役としてはそこそこの成功を収め金も稼ぎ裕福な暮らしをしていました。ある日アラナは、ゲイリーに誘われてニューヨークの彼の劇に誘われます。

 ただ、アラナはそこで出会ったゲイリーよりは若手俳優と恋仲になり、ゲイリーは振られたと思って意気消沈します。

(中略)

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ただ、ひょんなことでよりを戻したゲイリーとアラナ。今度はゲイリーが、ウォーターベッドの販売の会社を運営し、それをアラナが手伝うことになりました。

 また、ビジネスの一方で、アラナが女優としてのエージェント探しを行い、それにゲイリーが一緒に帯同しては口出しし、アラナの好きにさせてくれずに喧嘩。二人はなかなか、くっつきそうでくっつきません。

 そうしてるうちに

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アラナとゲイリーの前に変な人たちが現れ、話がかなり奇想天外な方に脱線します。

 そして、アラナ、ゲイリーの仕事の方も・・・・

・・・と、ここまでにしておきましょう。

これはですね、

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50代になって巨匠の域に達しつつあります、ポール・トーマス・アンダーソンの9作目の作品なんですが、今回、かなり意表をつく実験をしてますね。

何せ

主演の2人、映画そのものに初出演ですから!


いや〜、これは驚きましたね。

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主人公のクーパー・ホフマン、かの名優、フィリップ・シーモア・ホフマンの遺児です。もう亡くなって結構な年数経つから、昔の写真だと本当に子供ですね。クーパー君、現在、まだ18歳の若さです。

ホフマンはPTA映画に計5作出演してて、5作目にあたる「マスター」でついに準主役まで行ってたんですけど、その矢先の死。PTAは常連キャストの起用をすごく好むタイプなんですが、とりわけホフマンの貢献は大きかったので、クーパー君の登場を喜んでいるファンもかなり多いはずです。

そして

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アラナ・ハイム、あのロックバンドHAIMの末の妹ですよ。しかも、フロントじゃないので、普段、そんなに目立っているわけではありません。

HAIMはPTAの大のお気に入りバンドでして、ミュージック・ヴィデオを自ら手がけるほどの思い入れの入れよう。でも、だからって、メンバーがいきなり、女優経験もないままにいきなり自分の映画に主演って・・・。

だから最初、この映画の話を聞いた時、不安だったんですよ。「いくら天下のPTAだからって、そんな素人をいきなり・・」と思ってたんですよ。

そしたら、この手法ゆえに逆に成功しています、この映画!

いやあ、びっくりしましたね。

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この2人の名誉のために言っておくと、PTAによる指導もあったからなのか、演技、2人とも、めちゃくちゃうまいんですよ。とても、映画1回目の素人とは思えません。そういうレベルではありません。

 でも、この2人、以前に何の映画にも配役されてないから、どんなパターンの映画になるのか、見ていて想像がつかないんですよ。

 これはロマンス映画にとっては非常に美味しかったですね。なぜなら、いまどき、ロマンティック・コメディってでる人だいたい決まってて、もう見る前から予想つくこと多いじゃないですか。「ああ、この女優さんだったら、話がこういう風にいくんだろうな」みたいなの。そういう、ある種の予想できるパターンも、昨今、恋愛作品が生まれにくい要因になっていたかと思います。

 だけど、この映画では、主役2人のこれまでのイメージがないから、そういう前もっての予想ができず、余計な先入観なしに話を追うことができる。

 そして、それに加えて、話自体も他で聞いたことのないような展開です。「子役俳優が一念発起して、ウォーターベッド・ビジネスに身を投じる」なんて、意味わかんないじゃないですか(笑)。しかも、ストーリーそのものに一貫性がなく、いろいろ脇道にそれるので、「話の筋」を考えて追うのではなく、まるで作り手の「意識の流れ」のようなストーリーを、深く考えないでただ受け止めるような見方が要求されます。

実はこのパターンって

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これの前作の「ファントム・スレッド」に似てるんですよね。これもただ、いろんな逸話をただただ見せていくだけの映画なんですけど、その連続の中で、ダニエル・デイ・ルイスと、奥さん役のフランスの女優さんの愛の絆の深さをじっくり見て感じ入るような作りになっていたと思います。

 登場人物への先入観がつきにくく、話も偶発性の強い、一切の予定調和がない。だから、パターンにはめ込むことなく、自由度が高く生々しいラヴ・ストーリーを堪能できるんですよね。

 僕としてはPTAが今こういうアプローチを取るのがすごく嬉しいというか。僕はもともとロマンティック・コメディとか、ロマンスものって、映画の中でもかなり上位に入るほど好きなジャンルなんですよね。でも、この10年、特にスーパーヒーローものが台頭して以来、映画館受けのロマンスって本当減ったし、アワードものでもほとんどかからなくなってもいて。。それこそKドラマくらいしかまともに題材にしないなと思っていてですね、なんか寂しかったんですよね。だって、恋愛って、時期による流行り廃りなんてものではなく、いつの世の中にも普遍的に必要なものじゃないですか。

 普段からこういう風に思っていたタイミングだったからこそ、PTAみたいな現代の巨匠が、ロマンスを軽視せずに、「まだまだいくらでも可能性がある」とばかりに創意工夫に溢れた新しいタイプのロマンスを提示してくれるのはグッときますね。

 あと、この映画はその一方で

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PTAにとっては「インヒエレント・ヴァイス」に続く、「1970年代前半のカリフォルニア」を描いた2本目の作品でもあります。これ、まさにその時代にカリフォルニアで生まれ育ったPTAに取っての人生の原風景でもあるんですよね。描き方が全体に生き生きしてるのはそのせいもあるでしょう。

 そして、この「インヒェレント」と「リコリス」の両方にも日本料理店が実はでてくるんですよね。これに関しては「日本人をからかって馬鹿にしてる」みたいな評も見るんですけど、僕はこれ、素直にPTAが子供の時にこうした店から受け取ったインスピレーションをただ楽しく描いただけで、特に深く考え込む必要はないと思ってます。

 そして、この奇想天外の話を、上の写真でも見せたように、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、そしてブラッドリー・クーパーという、実に豪華なちょい役が、短い出番ながら話の盛り立てに貢献してます。すごく面白いです。全員変人で(笑)。なんか聞いたところによると、彼らの役にはモデルが存在し、伝説的逸話をこの映画用にうまくアレンジしたとのことです。

 もうこれ、見てる間に全く飽きがこずに最後まで新鮮に楽しく観れたんですけど、もう一点。

 これ、日本での公開がいつかよくわかってないんですけど、もしご覧になる際は

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アラナの一家をよ〜く見てください。面白いことに気づきますから(笑)。

 いずれにせよ、これは今回のオスカー候補作の中でも、そしてPTAの中でも上位の部類に入る傑作だと言っておきましょう。



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