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Netflixドラマ「阿修羅のごとく」 小学生時代の記憶を呼び覚ました、1979〜80年の日本

どうも。

年が明けて僕は映画、ドラマも見てましたが、見終わったドラマがひとつあります。これです!

はい。Netflixの日本のドラマ「阿修羅のごとく」。これは僕が言うまでもないくらいに有名な作品ですけど

1979〜1980年にNHKで放送されていた同名のドラマのリメイクです。このドラマは伝説化しまして、21世紀に入っても映画で1度、演劇でも3度リメイクされたほどの名作です。伝説の脚本家、向田邦子の最高傑作だからというのがあると思います。ちょうど、この作品が世に出た翌1981年に飛行機事故で亡くなるというショッキングな死もありましたしね。あの当時、ワイドショーで連日ニュースになっていたのも覚えているし、手は伸ばさなかったもののやはりレジェンドとしてずっと作品が語られ続けていたのも知ってましたしね。

僕は実はこれ、オリジナルは見たことなかったんですよね。話には聞いてたんですけど、なかなか見る機会がなくて。日本ではオンデマンドのサービスで見れるようですけど、日本でのそういうサービスって国外ではまず使えないので、今回のものを見る前に一度目を通したかったんですけど、それもできず。なので、ぶっつけで今回のリメイク見てみたんですけど

期待以上にすごく面白かった!


いやあ、食い入るように見てしまいましたね。これ、「期待以上」なんて言葉では生ぬるいくらいですね。

僕の人生の一場面に関して、猛烈に食い込んで思い出させるくらいに、すごい大事な感じさえした!


お世辞抜きで、それくらいの視聴効果が僕にはありましたね。

最初、何を期待してたかというと、このドラマのオリジナルに出ていた

この4人のうち、3人がすごく好きだったんですね。僕の中で、日本も含めて70年代って女優さんが最強の時代だと思ってて。僕の70s最強美人女優リストの中にいしだあゆみと風吹ジュンの2人は大原麗子、秋吉久美子、原田美枝子と並んで入っててしかもプライオリティもすごく高い。あの2人がいがみ合う姉妹とかって最高だな、とか思ってて。

あと、八千草薫は僕ら世代からしたら「理想のお母さん」みたいな印象でしたね。名作ドラマ「岸辺のアルバム」の印象がすごく強かったから。決して上品さを崩さないあの独特のスタイルが特にね。

そして、この名作を、かの是枝裕和が監督を手掛けるというのも多いに期待した理由でもあります。遠く離れたブラジルで、アニメ以外の映画で毎作必ず新作が公開されるほぼ唯一の監督。その意味で僕もお世話になっているんですけど、物語の進め方と演技に関しては文句つけようのない人なので、まず外すことが考えられなかった。そこも、ネットフリックスで宣伝がはじまったときから「これは見よう!」となった理由でした。

ところが、いざ、ふたを開けて見てみたら、まず驚いたのは、話の中身そのものよりもまず、

舞台となった時代の恐るべき再現力!


これがまず、びっくりだったんですよね。

1979年とか80年という時代、僕は小学校の3年生から5年生だったんですけど、よく覚えてるんですよね。その頃は多感な時期だったから、自分の家のことも、遊びに行った友達の家のこともしっかり観察してよく覚えてるものなんですけど、建物とか街並みがまんまその当時の僕の記憶と完全に一致するんですよね。

あの頃はちょうど時代の変わり目で。新築の一軒家はそれなりに80年代に向けてモダンになりつつあったんですけど、安アパートはそろそろ60年代の鉄筋初期の感じが古くなり始めてて。そして、4姉妹の育った実家の、庭と雨戸のある大きめの木造の日本家屋。僕も小学校の頃、ああいう庭と雨戸のついた家に住んでたので「えっ!」となりました。それだけで他人事とは思えなくてですね。

あと、それだけじゃなくて、喫茶店とかスーパー、商店街の佇まいが当時とほぼ同じでしたね、あれ。「あの当時なりのモダン」が詰まった場所なんですけど、今の基準で見たら微妙に垢抜けない。特に喫茶店なんてあの当時、中高生の集う場所だったんですけど、その辺りのこともしっかり反映されてて。それこそ是枝氏がその当時にその年齢のはずですけど、そこは彼なりの記憶が働いたとこではないでしょうかね。

さらには

こういう小物類がことごとくそそるんですよね。「ああ、細かいとこ、よくついてるなあ」と。これ、思い出さそうで思い出さないものですからね。特に、「ジャンプじゃなくてチャンピオン」とか、「70年代は果物の缶詰、よく食べた」とか、そういう記憶。しかもサンヨーの缶詰って、なぜか常備食のようにどこの家庭でもあった。こういうディテールをついてくるので、自分のあの当時に生きてた世界をどうしても思い出さずにはいられなかったんですよね。

そこに加えて、人だと誰に一番驚いたかって

モッくんですよ。本木雅弘。劇中では尾野真千子演じる次女・巻子の旦那さん鷹男。彼の喋り方が、もうまんま、昭和のオヤジそのものだったんですよね!なんかもったいぶった、喉から搾り出したような、息多めの低めの声。設定的に40代後半から50代前半といったとこでしょうけど、あのしゃべり方がなんか「あの当時の中年男性、みんなああいう喋り方してた!」とか思い出して。年の頃からしたら今の僕が同じくらいの年齢層なんですけど、あんな喋り方したこともないし、できない。もう完全に昭和のソレ。あれ、よくできたなあと思ったんですけど、モッくんも自身の父親でも思い出しながら演じたのでは、と勘ぐってしまいたくなるほどの感じでした。

話の方は、綱子、巻子、滝子、咲子の竹沢家4姉妹が私生活でそれぞれに抱える恋愛事情を、4姉妹の父親の隠れ不倫をきっかけにして描いていく、という構成です。取引先の料亭の主人と不倫する華道の師匠で未亡人の綱子、鷹男の不倫を疑う二児の母の巻子、一家一の堅物から愛に目覚めていく滝子、新進ボクサー陣内の愛に身を焦がす「できそこないの現代っ子」みたいな育ち方をした咲子。綱子から咲子までが20歳くらい離れているのが、戦中挟んだ昭和っぽいんですが、歳の間隔の離れた姉妹を通じてそれぞれの世代間の違いをすごくうまく出せているし、そこに父母の世代も加えた5世代にわたる恋愛観と生活観の違い、これが絶妙に表現されてますね。

とりわけ、舅に当たる竹沢の父の不倫を「一家の大黒柱として働いてきて、楽しみも失われてきた中、年をとって恋愛に走る立場もわかってくれ」と擁護する鷹男の言い分が、「ああ、これはもはや通用しない、昭和の男の理屈だなあ」と思ってそこに時代を感じたり。これ、今のコンプライアンス的にそうとかいうのではなく、あの当時でも、戦後生まれ派の滝子、咲子の世代にとっては古くなりかけてる考え方かなとも思って見ていたり。

このあたりも他人事じゃないというか。実は僕、まさにこの1979〜80年に家庭崩壊体験してるんですよね(苦笑)。滝子が父親の不倫調査を興信所に頼むところなんて、「えっ、それ、ちょっと待ってよ」と思ってしまいましたからね。あの当時にあれ、よくあったことなんでしょうかね。そういえばあの当時にテレビでも、蒸発した夫、もしくは妻に対して「帰ってきて」と訴える配偶者や子供の訴えを伝える番組みたいのがあったりしたものですけど。夫の不倫に妻が耐えなくなり始めた時代の断片を捉えたドラマでもあったのかな。

僕の年齢でいうと、巻子の家庭がジャストに同世代なんですよね。親がまだ戦前生まれで、ティーンの子供を2人持っている環境。僕はここで描かれていた子供(いずれも中学以上)よりは年下ではあったんですけど、姉が高校生だったので、もうほとんど同世代の感覚として見れました。結局のところ、僕の実体験に比べると鷹男と巻子の一家、断然平穏ではあるんですけど、ここの一家に関してはすごく自分のことのようにして見てましたね。

男性側の感覚はいささか古くはあるんですけど、救いになっているのが滝子の彼氏になる興信所の勝又さん(松田龍平)の存在で。無口で朴訥で、恋愛にもかなり奥手で。このことを向田邦子がどのくらい意識したかはわからないんですけど、すごく平成から増えるタイプの男性像の先駆けというか。知人にすごく雰囲気の似てる、僕の2世代くらい下の知人がいるんですけど、彼のことを思い出しながら見てました。若い人なら勝又さん、特に共感を呼ぶキャラではないかな。

あと、蒼井優演ずる滝子と、広瀬すず演ずる咲子の激しい対立。これもこのドラマの大きな見どころなんですが、これも戦後女性の典型的な2例だなと思って見てましたね。勉強、仕事で出世できるようになったタイプと、不良少女的感性で真面目な人からするとやや「女を売り」にしてるのではと誤解されるタイプ。これはなんか戦後以降にずっとあるコントラストというか、そういう点でもこの脚本、うまいですね。

これ、この話で唯一役者の実年齢が合わない設定ではあります。蒼井優って40近いはずなんですけど、三十路近辺を演じていて。咲子とは年齢が近い分対立するという設定のはずなんですけど、そこはおそらく、その年齢層で理想の滝子が他にいなかったということなんでしょう。蒼井優の演技力は僕がまだ日本にいた時から知ってますし、童顔でもあるから全然気にならない。そこはさすがだなと思いましたけどね。滝子はいしだあゆみ、深津絵里と、かなり演技力のある女優さんが歴代演じた役でもあるので、そこは彼女じゃなきゃだめだったのかなと。

そしてこれ、オリジナルだといしだあゆみと風吹ジュンということで、それを想像しただけでも壮絶だったろうなとも思ったんですよね。若いときの風吹ジュンって、その役でなくてもかなりはすっぱな不良少女っぽい感じでしたけど、そこを違和感全くなく引き出せた広瀬すずも大したものです。彼女の演技、見るのはこれが初めてだったんですけどね。

そして

宮沢りえの綱子役も、僕はこれ、すごく評価したいですね。彼女のことはそれこそバリバリのアイドルだった中学生の時から見てますけど、いい女優になったなあとつくづく思います。一番変わったのは発声ですね。昔の息多めの、裏返る癖もあった声が、すごく訓練された通りの良い発声になってて。僕が長年見てなかっただけではあるんですけど、かなり努力したんだなと思いましね。

この役に関して言えば、初代を加藤治子さんが当時57歳で演じたこともあって「若い」との声もあったようですが、これは違います。設定年齢は50歳。彼女は1973年生まれなので、かなり適正年齢です。そんな彼女が華道の師匠という、去り行く古くからの日本の美を艶やかに象徴した役を演じたのも暗示的なものを感じて。料亭の主人とのこじれた不倫も谷崎潤一郎あたりの大正、昭和初期的なモダニズム、つまり1979年当時から見てもすでにレトロだった美学を思い起こさせたりもして。それを演じるには適役だったと思います。加藤治子さんは情念がすごかったと聞いているので、そこは見てみたかったところではあるんですけどね。

・・と、そんなこともあり、すごく個人的にも没入して楽しめた一作となりました。もともと、普遍的に多くの人を考えさせる力を持った作品だったと思うのですが、是枝マジックでそれがさらに促進されたように思います。


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