沢田太陽の2024年間ベストアルバム 50〜41位
どうも。
では、お待ちかね、年間ベストアルバム2024、発表に参りましょう。
例年通りまずは50位から41位の発表となります。今年のこな順位帯はこのようになっています。
はい。では早速行きましょう。
50.Two Stars And The Dream Police/mkgee
50位はMkgee。マギー(ギにアクセント)と言う、ロサンゼルス拠点のシンガーソングラターです。彼は数年前からバズがあってオマー・アポロとかちょっとブルー・アイド・ソウル系の人だったり、ドレイクのトラックでフィーチャーされたりしたことで注目された人です。そうしたこともあって曲の方もThe1975とかフランク・オーシャンみたいなソウル・テイストを、スタジオ内ですごく歪ませて曖昧模糊にした感じにしたことで、ある時期からインディ・ファンにも人気のテイストを実験的に聞かせることで今、ヒップな存在にもなってますね。僕としては、ヒップホップでのQuadecaとかもそうなんですけど、才能は認めるんだけど、その表現の先をどうするか。もっと開けた層にアピールしたいのかローファイで宅録っぽい路線で行きたいのか、それが見えないから二の足踏んでたところが正直ありました。後者だったらはっきり言って興味なかったので。ところがここにきて、「Rock Man」と言う新曲出したらこれが全盛期のポリスみたいなかっこいいロックで、この曲を「サタディ・ナイト・ライブ」に出演して歌ったらえらく見栄えもかっこよかったので、「これはいける」と判断し、エントリーさせました。僕はむしろ、これの次作への期待がすごく高まってます。名作になりそうで。
49.Access All Areas/FLO
49位はFLO。これは僕自身、かなり予想外なランクインでしたね。彼女たちはイギリスのR&Bトリオで、2023年のBBC Sound Ofで1位に選ばれたくらい業界的には大ブレイクを期待されていました。ところが、この国のR&B/ヒップホップ業界の非常に悪い癖でリリースの計画性がなく2023年はアルバムが出ずじまい。2024年もここまで大きな話題性がないままこのアルバムが11月の終わりにポツンと出ただけ・・・・だったんですけど、蓋開けてみたらこれが予想外に良い作品でした。彼女たちがやってるみたいなR&Bサウンドって、今、Kポップの格好の雛形で使い古されてる感も強くそれがR&B人気そのものを下げてたところもあったかと思ってます。しかし、ここで鳴らされているのは70sソウル色の濃いテイストのバックトラックに、バッチリとシンクロした美しいハーモニーに、ゴスペルで鍛えたかのような力強いヴォーカル。これはKポップの人たちがどんなに鍛えたところで習慣的なレベルでどうしても表現しようのない、本来の黒人っぽさなんですよね。「ああ、こういう側面ちゃんと活かせば、この音楽まだいけるぞ」みたいな気づきがあったんですよね。そうした良い芽を今後、彼女たちや業界が育んでいけるのかにも注目したくなっています。
48.My Anti-Aircraft Friend/Julie
48位はジュリー。バンド名がなかなか素敵なんですが、このバンドは男女のフロントによる、LA拠点の3ピースのインディ・ギターバンドで、地元では着実に支持を集めてきているようでSpotifyなどでも注目されてきてますね。今、インディのバンドのシーンって女の子の参加が強まっていて、そこでシューゲーズのバンドが人気を集めているところもあるのですが、このバンドの場合はそのテイストに加えて黄金期のソニック・ユースっぽいニュアンスまで広げて、90sリバイバルをさらに強めているところがあります。男性との掛け合いヴォーカルもまさにそんな感じで。リアルタイムの時にライブハウスに行けば多く存在はしていたけれど、メジャーで大きくは決してウケてきた音楽でない分、再利用・再活性させるにはうまい目の付け所だし、ちょうどこれからガールズ・バンドが一般的に当たっていくか否かの可能性が見え始めている時期なだけに、かなり面白い存在だと思いました。当たれば次世代のバンド希望者のロール・モデルにもなりうるかも、と思ってます。
47.Where's My Utopia?/Yard Act
47位はヤードアクト。ここ数年デビューするイギリスのバンド、そこそこイギリスの小さなマーケットにはいいんだけど小粒が多いかな、という印象もなくはない中、彼らはその次元で切り捨てるには惜しい逸材だなとは、前作のデビュー作の際にも思ったことなんですけど、それを改めて確認したのがこのセカンドですね。ポストパンクと言うより、もっとソウルフルなファンクというか、言うなれば70s後半以降のストーズだったり、ハッピー・マンデーズ〜ブラック・グレイプでのショーン・ライダー的でもあり、ヒップホップを意識し始めて以降のブラー並びにデーモン・アルバーンであったり、「ファンキーに目覚めて以降のイギリス人」の系譜を正しく受け継いでいる感じがして好感持てるんですよね。それに加えて、国内でなくむしろアメリカの市場見据えてしっかりツアー重ねてたりする姿見てても、もっと今以上にスケールの大きなバンドになりたいのであろう野心も見て取れるんですよね。アメリカのフェスとかにも積極的に参加して強いファンクネスあふれるライブアクトとしてアピールしていければ道が開けそうな、そんなポジティヴな予感を抱かせた今作でしたね。
46.Por Cesária/Dillom
46位はディロン。ここ数年、年間ベストを選ぶ際、極力、地域性を重視するようにしています。中南米も何かしら入れるようにしてるんですが、「今年、何にしようかな」と思った時に、去年みたいにモダン・メキシコ歌謡(コリド・トゥンバード)も考えたしレゲトンからラウ・アレハンドロあたりも候補には上がったんですけど、それらを選ぶなら現在アルゼンチンのナンバーワン・ラッパーであるディロンを選ぶべきだと思って選びました。彼なんですが何年か前に偶然知って以来注目してます。ロック国のアルゼンチンでは最近になってヒップホップのシーンが活性化してるんですが、彼はその中で最大なだけでなく異端であることからロックファンからも注目されてたんですね。トラックでありきたりなことそないし、あの国のトランプみたいなクソ大統領を批判したりもして。このセカンド・アルバムではトラックをバンドを主体にして展開してまして、曲によってはもう完全インディ・ロックでもあり、トラップ以降になかなか次のサウンドが展開できない今のアメリカよりはかなり自由に音楽展開できています。中南米全土で一度大きくドカンと当たって欲しいですが、そこに近いところまでは来てますね。
45.This Wasn't Meant For You Anyway/Lola Young
45位はロラ・ヤング。イギリスでバズが強まっている23歳の注目の女の子です。この子、もともとはティーンの頃から注目されてたんですが、R&Bとして売り出して小規模に当たってはいました。ただ、去年の後半に長い髪をバッサリ切ってマレットヘアに大変身して、さらにサウンドもインディ・ギターロックに路線転換。今年の始め頃にはストリーミング・サービスでネクストブレイク候補として押され、プレイリストでもよく見かけました。この時、彼女の迫力あるハスキー・ヴォイスと、かなり癖の強いブリティッシュ・アクセント調のヴォーカルが強烈に耳に残って、僕もインスタのフォローを始めたりしています。ただ、その割にはアルバムが夏前に出た頃にあまり話題にならなかったのですが、秋になって、タイラー・ザ・クリエイターのアルバム「Chromakopia」の中の「Like Him」で彼女がフィーチャリング・ヴォーカリストとして起用されて注目度をあげ、さらに本作収録の「Messy」がtik tokでバズリ、Spotifyのバイラル・チャートに入ってきたりと、確実に評判をあげてきています。次作が出る頃にはかなりヒットが期待される状態になっっているのではないかと予想してます。
44.Cool World/Chat Pile
44位はチャット・パイル。中西部のオクラホマで2019年に結成された4人組のノイズ・ロックバンド・・・という話はこれを聞くまで全く知らなかったんですが、硬質のハードな男臭さ全開のロックでは久しぶりにかっこいいの聞きましたね。というか、聞いててすごく90s思い出すんですよね、ジュリーとは異なる感じで。あっちがソニック・ユースなら。こっちはジーザス・リザードにヘルメット、ダイナソー・ジュニア。ヘヴィなリフでグイグイ攻めるのにリズムがキレがあってしかも規則的にグルーヴィー。ヴォーカルが荒く非メロディックにグラウルしているのにふとした瞬間に哀愁のフレーズを垣間見せてきたり。「ロックは攻撃的に聞かせてナンボ」な、忘れていたかっこよさを思い出させるのに、それが過去の遺物の強がりには決して聞こえず聞いててすんなり入ってくることにも新鮮さを覚えました。まだマニアな領域のものだとは思うんですけど、口コミでじわじわ広がっていけば面白い存在になりうるかなと思ってます。
43.Dark Matter/Pearl Jam
43位はパール・ジャム。どういうバンドかは今さら言うまでもないですが、もう30年来ファンである彼らのような人たちの場合、いい作品作った時くらいはランクインさせたいもの。今回はそれに当たった、というわけです。今回、何が良かったかって、去年のストーンズの会心作手がけたアンドリュー・ワットのプロデュースで作品が若返ったことですね。しかも、ただ若々しくロックンロールしているというだけでなく、2020年代の今に鳴らすべきロックンロールの音作りにすごく敏感に作ってあるんですよね。生々しさはしっかり捉えつつも決して荒くはなく、サウンドそのものはすごくポリッシュされ、音の分離がかなり良い。「自然の生っぽさと、モダンさの両方を欲張った、これが2020年代のサウンド!」とばかりの自己主張がしっかりなされているのがすごく好感が持てました。そのサウンドに乗って、ここ数作では最も遠慮なくロックできてるのが気持ちいいです。それに乗ってマイク・マクレディの楽曲後半のギターソロに昔みたいな良い意味でのしつこさが戻ってきているのもファンとしては嬉しいものでしたね。
42.Midas/Wunderhorse
42位はワンダーホース。イギリスは南部コーンウォールを拠点とした4人組なんですが、昨今のUKロックには非常に珍しい、硬派な男っぽさを前面に出した、外連味のない渋いロックンロールで勝負する一本気なバンドです。例えて言うならローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ルー・リードに時たまニルヴァーナみたいなグランジっぽいテイストが入る感じですね。ポストパンク的なリズムの跳ねのほとんどない、キレのある叩きつけるリフに引っ張られるタイプのロックンロールですね。基本がフロントマン、ジェイコブ・スレーターのワンマン・スタイルなので、ニック・ケイヴみたいな男の魅力、渋みで攻める感じ、と言ってもいいかな。黒いジャケットが似合う感じですね。これが今の時代に馬いいこと全英トップ10によく入ってきたなと思ったものですが、さらに運の良いことに飛ぶ鳥落とす勢いでフォンテーンズDCのツアーのオープニングも任せられてるんですよね。世に飛び出たタイミングと人脈に恵まれてるので、うまくチャンスつかむといいなと思って見てます。
41.GNX/Kendrick Lamar
そして41位にケンドリック・ラマー。出たばかりの新作「GNX」が入りました。ケンドリックにしては低いかもしれませんが、でも、それは「そんなに名作感を目指したわけではない」雰囲気を出した彼自身の軽さに合わせた方がいいような気がしたし、そうしたものでもしっかり及第点以上のクオリティだと判断したので外さずにエントリーさせた次第です。前作のMr.Moraleが制作時間と長時間収録の大作で「いいけど、同時にすごく疲れる」作品だったことを考えると、今作のような高い音楽的完成度とオリジナリティを目指したわけではない、ミックステープのような肩の力の入らないリラックスした作風って、ローテーション的には納得いきますからね。で、その域の抜かし方が僕は絶妙に好きです。それが80sのミディアム・スローのブラコン調とか、90sのGファンク調とか、ケンドリック自身が以前から好む90sのR&B/ヒップホップのライトなクラシック感覚みたいな曲になればなるほどいいです。それが目立つ前半の流れは特に好きです。「Squabble Up」でスヌープ・ドッグ、「Reincarnated」でエミネムに思いっきりオマージュ捧げてる洒落っ気なんかもすごく楽しめます。ただ、後半に差し掛かると、「もう、それは今さらいらないんじゃない?」みたいなトラップ・ナンバーがちょっと目立っても来て、ちょっとだれるんですよね。ケンドリックにしては珍しいフィラー(埋めあわせ曲)というか。もっとレトロにチルした感じでメロウネス追求して、曲数もう少し削ってタイトにした方が良かったかな。そこのところがちょっと惜しかったんですよね。