海外5媒体分を独自集計! オールタイム・ヒップホップ・アルバム100 その2 50-1位
どうも。
では、昨日に引き続いてオールタイム・ヒップホップ・アルバム100、今日はいよいよ50位から1位までを見てみましょう。
選考基準に関しましては
昨日のこちらの最初に書いたとおりです。すでにある結果を、点数をつけて換算しただけなので、完全なる客観集計であることをはじめに強調しておきます。「アメリカのヒップホップ・マニアはこういう見方をする」。そのことをわかっていただけたら、と思います。
では、まずは50位から11位を一気に見てみましょう!
50.Stillmatic/NAS (2001)
49.Ironman/Ghostface Killah (1996)
48.Lifestylez Ov Da Poor & Dangerous/Big L (1995)
47.The Great Adventure Of…/Slick Rick (1988)
46.Fear Of The Black Planet/Public Enemy (1990)
45.The Slim Shady LP/Eminem (1999)
44.Wu-Tang Forever/Wu-Tang Clan (1997)
43.Strictly Business/EPMD (1988)
42.Long Live The Kane/Big Daddy Kane (1988)
41.No One Can Do It Better/The D.O.C. (1989)
40.3 Feet High And Rising/De La Soul (1989)
39.Mecca And The Soul Brother/Pete Rock & CL Smooth (1992)
38.The Marshall Mathers LP/Eminem (2000)
37.Mos Def & Talib Kweli Are Black Star/Black Star (1998)
36.2001/Dr.Dre (1999)
35.Paul’s Boutique/Beastie Boys (1989)
34.Radio/LL Cool J (1985)
33.Licensed To Ill/Beastie Boys (1986)
32.College Dropout/Kanye West (2004)
31.Liquid Swords/GZA (1996)
30.Criminal Minded/Boogie Down Productions (1987)
29.The Infamous/Mobb Deep (1995)
28.Black On Both Sides/Mos Def (1999)
27.Death Certificate/Ice Cube (1991)
26.Madvillainy/Madvillain (2004)
25.Raising Hell/Run DMC (1986)
24 My Beautiful Dark Twisted Fantasy/Kanye West (2010)
23.AmeriKKKas Most Wanted/Ice Cube (1990)
22.Life After Death/Notorious BIG (1997)
21.The Miseducation Of Lauryn Hill (1998)
20.ATliens/Outkast (1996)
19.Midnight Marauders/A Tribe Called Quest (1993)
18.Me Against The World/2 Pac (1995)
17.The Reasonable Doubt/Jay Z (1996)
16.The Blueprint/Jay Z (2001)
15.Critical Beatdown/Ultramagnetic MCs (1988)
14.To Pimp A Butterfly/Kendrick Lamar (2015)
13.Only Built For Cuban Linx/Raekwon (1996)
12.All Eyez On Me/2 Pac (1996)
11.Doggy Style/Snoop Doggy Dog (1993)
はい。これがトップ10直前、ということになりました。
いやあ、100〜51位でも思いましたけど、「これでもか」っていうくらい90sクラシック、目白押しです。ここまで10年代なんてほとんど入ってないですよ。あと、こういうコアなヒップホップなリストであってもビースティとエミネムが案外強いことにも注目です。彼らの功績もしっかりと評価されてます。
あと、個人的には10位台、トップ10に入って欲しかった!トゥパック、ケンドリック、ジェイZ、アウトキャスト。実はこの4つって、僕の人生のベストラッパーなんですよね。そのすぐ後ろにアイス・キューブありますけど、ラッパーとしてはこの5人が好きですね。もう、少しでトップ10だったんだけどなあ。あっ、でも実はひとつ、トップ10には入ってますけどね。
では、トップ10にいきましょう。ジャケ写サイズをデカくして、10位からまずは4位までを見ていきましょう!
10.The Score/Fugees (1996)
9.Straight Outta Compton/NWA (1989)
8.Paid In Full/Eric B & Rakim (1987)
7.Aquemini/Outkast (1998)
6.It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back/Public Enemy (1988)
5.The Low End Theory/A Tribe Called Quest (1991)
4.The Chronic/Dr.Dre (1993)
さすがにここまでくると、文句なしの名盤だらけですね。
ここ最近、映画化もされてましたけど、やっぱりですね、80s末からのNWA界隈の影響力というのは本当に強いです!NWAGファンクを作ったドクター・ドレーのサウンド・メイキング能力に、NWA時代の相棒だったアイス・キューブ、さらにソロでプロデュースしたスヌープ、さらにエミネムにまで影響力、及んだわけですからね。ドレー、NWAでトップ10、スヌープで11位。プロデューサー・ランキングだとドレーがトップなんじゃないかな。
また、今回のリスト、女性ラッパーはわずかに2人、関連アルバムは3枚で終わったんですけど、その中でローリン・ヒルがひとり気を吐きました。フージーズでの「The Score」で見事トップ10入り、そして唯一のソロが21位。伝説的な立ち位置を示しました。
そして今回、大健闘したアーティストがアウトキャストとトライブ・コールド・クエストですね。アウトキャストは本当にうれしいです。今回、100位以内で最多となる4枚でランクイン。しかも唯一入らなかったアルバムが一番ヒットした「Speakerboxxx/The Love Below」。上位に入ってきたのがコアなヒップホップに徹していた頃の3枚目の「Aquemini」(7位)と2枚目の「ATLiens」というですね。あと、洗練されたヒップホップの代名詞のACQTもセカンドの「The Low End Theory」で5位、「Midnight Marauder」が19位と、彼らもトップ10、トップ20に1枚ずつアルバムを入れました。これができたアーティストはトップ3にもいなかったわけですから、ある意味、一番の快挙だったかもしれません。
では、いよいよトップ3です。3位から一気にいきましょう!
3.Ready To Die/Notorious BIG (1994)
2.Enter The Wu-Tang/Wu-Tang Clan (1993)
1.Illmatic/NAS(1993)
はい。もう、見事なまでに「ヒップホップ黄金時代」とでもいうべき、1993〜1994年のアルバム3枚が圧倒的に強かったですね。
3位のノトーリアスBIG。ビギーはこないだドキュメンタリーに関して記事を書いたばかりですよね。トゥパックより代表作が選びやすい分、票割れせずにこの「Ready To Die」で3位に入りました。そして2位にはウータン・クランのファースト。今回、ウータンはかなり強くて、13位のレイクォン、31位のGZA、2枚入ったゴーストフェイス・キラー、100位のオール・ダーティ・バスタードまで、ソロも5枚エントリー。プロデューサーとしてならRZAがトップになりますね。
そして1位はNASの「Illmatic」。彼の場合、ある時期からそんなにセールスを稼げるアーティストではなくなったし、今回のランキングに入っている他のアーティストに比べてやや地味になっている印象も否めないんですけど、それでも「天才ラッパー」だし、この「Illmatic」が築き上げた小説的な手法、やはりこれがなければその後の、たとえばケンドリック・ラマーの「good kid MAAD City」あたりも生まれてなかったと思うと、やはり金字塔ですよね。
あと、今回の結果をアーティスト・パワー的にまとめると
1.Outkast
2.Dr Dre (NWA)254
3.Ice Cube (NWA)244
4.ATCQ 218
5.2 Pac (Makaveli)206
6.Jay-Z 198
7.NAS 197
8.Notorious 177
9.Lauryn Hill 171
10.WuTang Clan 156
入ったアルバムを1位100点・・・100位1点でまとめると、一番強かったのは4枚入ったアウトキャスト。2、3位にNWAの2人、4位トライブ、5位パック、6位ジェイZ、以下NAS、ビギー、ローリン、ウータンの順。ウータンはメンバー・ソロの5枚を足せば逆転して1位になれます。
さらに時代別に見てみると
80年代19枚
90年代60枚
00年代16枚
10年代5枚
なんと6割がたが90年代のアルバム。10年代は5枚しかありません!
もっと言ってしまえば、2000年代の後半もすごく少ないです。2005〜2009年に関していうと、なんと、たった1枚ですよ!僕自身、その5年の名作、実際のところカニエしか思いつかないものですけど、やっぱり本場のヒップホップ・マニアのあいだでもそれはそうだったんだなあ。
でもねえ。これ、この選び方をみると、すごく納得なんですよ。というのも、
やはり、パックとビギーの2人を96、97年に立て続けて失ってしまったこと、これが尾を引いていたことがわかります。あのあと、ラップで過激なことを言う感じがだいぶ薄れて、さらに、ヒップホップのビッグ・ビジネス化が顕著になってしまった。それを牽引したのがビギーのプロデューサーだったパフ・ダディというのがなんとも皮肉なんですけどね。
そこを
アウトキャストとかザ・ルーツ、さらにモス・デフやタリブ・クウェリのいたローカス勢とかMFドゥーム(マッドヴィレイン)などのインディに託そうとしてたのはわかるんですけど、ローカスやMFドゥームって、この頃、セールスでは悲しいくらい売れませんでしたからねえ。僕自身もそこはすごくガッカリだったのでよく覚えてます。
2000年代入ったあとになるとジェイZ、エミネム、アウトキャスト、カニエ頼みになって、悲しいかなジェイZ、エミネム、アウトキャストが活動ぱったり止まっちゃったりもしたでしょ。そうなると、もうカニエ頼みになってしまうというかね。個人的な本音言うと「ミッシー・エリオットとか、入ってもよかったんじゃない?」とは思うんですけど、このあたりは選ぶ人たちとマチョイズムが強かったのかなあとは思いますけどね。
・・となると、こう思う人もいるかもしれません。
なんでカニエのMy Beautiful Dark Twisted Fantasy以降、今のヒップホップがこんなにないの??
ここで評価されてるのって、実際問題、ケンドリックしかいないんですよねえ。あと、ラン・ザ・ジュエルズとフレディ・ギブスだけ。あとはさっぱりです。
「なんで?ドレイクは?」と思うでしょ?彼は1枚だけ、「Take Care」が250位のやつの190位くらいに1枚あっただけ、Jコールの「2014 Forest Hill Drive」がそれより若干高いだけ。トラヴィス・スコットが同じやつの200位代に1枚。そのほかはフューチャー、チャンス・ザ・ラッパー、タイラー・ザ・クリエイター、エモ・ラップ全般はランク外でした。
このあたりはなあ、僕も実はこの事情、知ってたんですよ。ピッチフォーク的なメディアだとこのあたり強い印象あったでしょ?だけど、ヒップホップ専門メディア、たとえばRAP PAGESとか、そういうサイトの投稿欄読んでても、こういう新しいとこの流れにいまひとつファンが懐疑的な感じだったんですよね。トラップとエモ・ラップは敬遠されてるところがあります。とりわけマンブル・ラップは批判の対象にもよくなってます。
僕が思うに、多分これ、日本のロックでいうところの「98年世代」と「2000年代のロキノン系」くらいの距離感がアメリカのヒップホップ・ファンの中にあるのかな、という感じが、リスト作りながら感じられましたけどね。たぶん、こういう感覚って、今のドレイクとかトラップ好きなキッズが批評的に選ぶくらいの年齢になったときに一気にリストに加わる感じなんだろうなとは思います。ドレイク、Jコール、トラヴィス、初期のフューチャーくらいは入るんじゃないかな。あと、タイラー・ザ・クリエイターはちょっと過小評価されてたような気もします。
ただ、そうしたものよりも、たとえばNonameだったりラプソディといった硬派の女性ラッパーの方が高くランクインもしてたんですよね。彼女たちはあるランキングでは100位以内に入ってましたからね。このあたりには「何をラップするか」の質も問われているんだと思います。ケンドリックとラン・ザ・ジュエルズなら今のアーティストでも評価されるというのにも、それ、象徴的に現れてると思いますのでね。あと、アール・スウェットシャツとかティエラ・ワックみたいなアヴァンギャルドな感じのものが今後どう評価されていくかとか、そういうとこも気になります。
そんな感じでしょうかね。