沢田太陽の2024年7〜9月の10枚のアルバム
どうも。
ではいよいよ、沢田太陽2024年7月から9月の10枚のアルバムの発表です。
今回はギリギリまで何枚か入れ替わったりして本当に予断を許さなかったんですけど、結局、こうなりました!
はい。力作揃いで僕も大好きな作品ばかりです。早速行きましょう。
まず最初はイギリスのバンドです。ワンダーホース。これ、こないだの音声投稿でも話しましたが、かの国で久々に登場した男気溢れるロックンロール・バンドです。もともとはジェイコブ・スレーターというシンガーソングライターがやってたソロだったんですがそれがバンドに発展したものです。彼がニール・ヤングとか好きだったようなんですけど、その影響もあってかボブ・ディランとかルー・リードを思わせる苦味走ったロックンロールに時折グランジの要素が混ざる感じとなってます。最近の野郎主導のバンドにありがちな外面の地味さはやや残りはするものの、ここまで歯ごたえのある骨のあるストイックなロックンロールを若い人から聞くこともなかったのでこれは存在として貴重だなと思いましたね。こういう人たち増えていくと、ロックシーンもだいぶ安心できるんですけどね。
続いては一転してロサンゼルスのバンドです。ジュリー。僕は無条件い名前が好き(やっぱジュリーなんで、笑)なんですけど、この人たち、SpotifyのオススメになっていたりNMEの表紙に抜擢されたりと、最近注目度ウナギのぼりの存在です。それはやっぱり、まず見た目が今っぽくておしゃれなんですよね。男女のツイン・ヴォーカルのトリオ編成で、最近のそうしたバンドに典型的なシューゲイザー・バンド風のいでたち。さらに音を鳴らしてみれば、全盛期のソニック・ユースの一番わかりやすいところを抽出して強調した感じで、さらに部分的にニルヴァーナが混ざる感じですね。観念的になりすぎず編集的なところも今っぽくて気に入りましたね。本家がまどろっこしいところで商業的に損してたところも見てきてたりもするので。まだメジャーがこれに飛びつくほどロックの環境、甘くはないとは思うんですけど、コアな人気を強固にしていけばカリスマ化できる何かはある気はしましたね。
続いては東海岸に飛びましょう。The Dare。これも最初の2アーティスト同様、音声投稿で語った存在です。サウンドはパッっと聞きはバンドっぽいんですが、この人はDJです。ハリソン・パトリック・スミスという、なかなかスタイリッシュなイケメンです。彼がやってると、まんまぼくがHard To Explainのクラブで20年くらい前にやってた、ロックンロール・リバイバル、ポストパンク・リバイバル、エレクトロクラッシュ~ニュー・レイブのサウンドなんですが、これをバンドじゃなくてDJでやってます。あの時代でもエレクトロの反復ビートが長すぎるときがあってロックファン的に物足りないとこもあったんですけど、The Dareは曲が短くコンパクトにノレるんですよね。あの頃に欲しかった感じなんですけど、チャーリーXCXが推してるんですよね。これ合点がいきます。まさに彼女の最新大ヒット作「Brat」がまさにこのノリなので。「すごいパンクロックみたいなエレクトロだな」とあれ聴いて思ったものがよりダイレクトに聴ける感じ。もっとアピールしないかな。
続いてはニルファー・ヤンヤ。トルコ系のイギリス人の女性ロッカーですね。彼女のことは2019年頃から知ってて、その頃から評判は非常に高い人でしたが、今回、僕のベストに初めて入って来ました。僕的にはこれまで、うまいとは言えないヴォーカルの弱さがどうにも気になって「これでは広くアピールしない」と思ってたんですね。ただ、今回は彼女自身が繰り出すギター・サウンド、これがポスト・レディオヘッド以降のアンビエントとコードの作り方してて、そこにアコースティック・ファンクとグランジ混ぜた感じにギター・ロックの新しさを感じてグッとしました。あと、課題だったヴォーカルもなんとか及第点レベルになってきて。所属レーベルのプッシュが弱いこともあってこれも絶賛の割に全英53位と弱いままではあるんですけど、これからに手応えを掴めた感触はありますね。
続いて、目下大ヒット中ですね、サブリナ・カーペンター。自分で選んでおいて、こういうのもなんですけど、正直このアルバムを僕がここに置くとは、これを聞くまで予想してなかったです。オリヴィア・ロドリゴが2021年にデビューして彼氏の取り合いしてた頃、彼女のやってた音楽、昔からどこにでもいるようないかにもアイドルなダンスポップでしたからね。それが去年の夏に出たシングル「Feather」から変わり始めて、バンド・オリエンテッドなシティ・ポップ風サウンドになって。なので気になって聞いてみたら、これがアイドル・ポップの風向きをさらに変えそうな仕上がりで。ソングライティングはワン・ダイレクションのソングライター陣とジャック・アントノフが交互にやってる感じなんですけど、まさにハリー・スタイルズがやったロック寄りの新たなアイドル・ポップと、彼女のボスであるテイラー・スウィフトのポップ・フォーク・エッセンスをグレイシー・エイブラムズみたいなモノマネっぽい感じじゃなく取り入れたりで。すごく優れたコーディネイトというか。アリアナ・グランデが10年前にR&Bでやったことをポップロックでやったみたいな作品というか。彼女自身の主体性が見えずまな板の上の鯉みたいなところはありますがポップ作品としては上質なことに変わりはないです。
ここらくらいから上になると、年間ベストでも上位クラスの手ごたえあります。まずMJレンダマン。彼も音声投稿で語った一人。元はと言えば昨年の各媒体の年間ベストで軒並みトップ10に入ってたUSインディ久々の大物バンド、ウェンズデーのギタリストです。ウェンズデーはカーリー・ハーツマンという女性フロントがバンドの顔なんですけど、その傍らで、ビッグ・シーフでいうところのバック・ミークみたいな存在感を出しているのがMJ。彼がサウンドの要のようですね。彼は今年の上半期に出ましたUSオルタナ・カントリーの代表アーティスト、ワクサハッチーのアルバムにも全面参加。そこでも切れ味鋭いギター聴かせて、「これ誰だ?」と僕も思わずクレジット
確認して、それで彼の名前を覚えた経緯がありました。すでにもうソロでも結構出してた彼なんですが、パワー・ポップの甘みとルーツ・ロックの滋味、そして切れ味鋭いザクザクしたギターのコンビネーションがこれ、絶妙です。昔から聞きなれたようなトラディショナルなサウンドのロックがギターのタッチ一つでここまで新鮮に響くマジックはちょっと感動的でさえありましたね。
続いてマグダレーナ・ベイ。このLAの男女シンセポップ・デュオも音声投稿で語っているんですけど、この人たち、この8月、ネットの熱心な音楽リスナー界隈の間でものすごく盛り上がったんですよ。国際的アルバム採点サイトRate Your Musicで、年に何枚出るか出ないかの4点台を獲得。2024年で最も高評価を受けたアルバムになっています。確かにこれ、インパクト強烈なんですよ。CHARAによく似た官能的な歌声を聴かせる女性ヴォーカルと、鮮度の高い鋭い電子音響かせるエレクトロ・サウンドがシティ・ポップ風に洗練された楽曲をやりつつ、時折、初期レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドのギターに似たアヴァンな音まで表現してしまう。音楽の振り幅が影如く、さらに楽曲的な完成度も高い。絶賛も当選なんですけど、問題はそれがまだ一般社会の音楽ファンにまだクリックしきってないところですね。何がまだ足りないのか。それが気になる作品でもあるんですけど、或る日突然、いつ爆発してもおかしくないポテンシャルはすでにあると思います。
残り3つとなりましたが、これはブラジルのアーティストです。リニケル。この人は日本盤も前作は出ているようで、それで日本のブラジル音楽ファンにも知られた存在のようなんですけど、この8月に出たばかりの新作「CAJU」。これは現地の音楽ファンの間でかなりの話題になっています。価値としては、日本の音楽ファンにとっての宇多田のBADモード、あれとほぼ同等の価値の「おれたちの国の今の名作」くらいの勢いですよ。なんせ、ここ数年、Spotifyのブラジルのデイリー・チャートなんてひどくて見れなかったんですけど、予てから批評評価の高かったリニケルのこのアルバムからの曲が複数曲トップ50内に入った。これだけでもかなりの快挙扱いでしたね。最近なんてピッチフォークのインスタにブラジル人の音楽ファンが「CAJU聞いてないだろ。聴け!」と書き込むくらいの勢いです。そんなこのアルバムなんですけど、もう分かりやすく言えば「ネオ・ソウルのブラジル版」。予てからそういう作風目指してはいたんですけど、ここでの感性の純度が高い。イギリスのネオ・ソウル系の名プロデューサーInfloを思わせる壮大なオーケストラ・アレンジに、ブラジル古来のボッサやサンバ、さらにレゲエ、ハウス、ファンクなどが有機的に入り組みあって完成度高く結実してます。フランク・オーシャンあたりで高まったネオ・ソウルの行方を南半球で継承発展させたような、今聞くべき見事のアルバムですよ。
ただ、この3ヶ月で2枚と言ったらやっぱり僕はこれですね。一つはクレイロのサード・アルバム「Charm」。ベッドルーム・ポップと呼ばれていたデビュー当時からよかったんですけど、より彼女本来の趣味のマニア性とセンスの高さが光ったの前作「Sling」。ここで売れっ子ジャック・アントノフの教えを仰ぐことでクレアのそうした潜在能力が引き出された傑作アルバムでした。このままテイラー・スウィフトやラナ・デル・レイを手がけるアントノフの一派になるのかなと思いきや、大胆にもクレアはそこから一歩踏み出し、ノラ・ジョーンズの金策を手がけるレオン・ミッチェルズをパートナーに次の一歩を踏み出したんですが、これが数多い近い世代のSSWにも差をつけるくらいの傑作になりましたね。元々、キャロル・キングやローラ・ニーロのような70s初頭の女性SSWのテイストがありましたけど、さっきのリニケルじゃないですけど、彼女もまたそれをソランジュあたりに通じるネオ・ソウルのフィルターを通して再構築してるんですよね。それはベッドルーム的なより密室性の高いアンビエント性を高めることだったり、リズムの手数を多くしてよりグルーヴィーにしてみたり、みたいなことですけど、学習効果の高い見事な温故知新サウンドになっています。しかもロングヒットの可能性をうかがわせるチャートの動きも見せているし、今後も楽しみです。
そしてラストは「やはり」というか、フォンテーンズDCの「Romance」で。それはやはり、ロックバンドで今後ビッグになり得るものがあればそりゃ嬉しい、という僕自身も本音もありはするんですけど、それ以上に「これまで地道に実力を貯めに貯めて成長してきた人たちが、これから商業的なブレイクスルーに向けて王手をかけた」記念すべき瞬間だからこそエキサイトするし、こういう瞬間はそんなに簡単にやってくるものではないからです。2019年のデビュー以来ここまで3作、アイルランドのダブリンでポストパンクを重厚感たっぷりに大きなスケールで表現できるようになり批評的に文句なしレベルになった時点で、今度はその評判を一気に一般人気につながるように思い切り勝負をかけてきた。もう、それが90年代末頃のKORNのファッションをアレンジした仰天の新ファッションに始まり、あの当時のビッグビートの息吹を取り込んだような新機軸「Starburster」を皮切りに、これまで勢い「通にはわかるかっこよさ」だった彼ら流のポストパンク・ロックンロールを緩急と陰影を巧みにつけ、これまでにない多彩な広がりで届かせることに成功した。これは大きかったと思います。これでリリース・タイミングでイギリスのSpotifyの200位内に全曲エントリーさせたのを始めヨーロッパでは全域ヒット、さらに全米でも初めてトップ100入り。次のロックばんどの主役が誰になるかを決定づけた。これは世界のバンドシーンの未来には明るい一歩になりましたよ。