全オリジナル・アルバム FromワーストToベスト(第37回) カエターノ・ヴェローゾ その1 30位〜11位
どうも。
では今回は、2ヶ月ぶりですね。恒例企画FromワーストToベスト、行きましょう。
この企画にとって、はじめて英語でないアーティストをやります。この人です!
はい。ブラジル音楽界が生んだ、大御所中の大御所ですね。カエターノ・ヴェローゾ。彼の作品で、彼自身の名義で出した作品、30作に順位をつけてランキングにしてみました。
カエターノといえば、1960年代後半のブラジルの反体制のサイケデリック・ムーヴメント、「トロピカリズモ」の時代からブラジルを代表し、先鋭的な音楽で牽引し続けてきてますけど、80歳が近づいても衰え知らずなのは、先週リリースの新作「Meu Coco」でも示されたばかりです。
最近のカエターノですけど、若々しさ、変わりません。
では今回は30位から11位までを見ていくことにしましょう。
30.Velô(1984)
ワースト30位は1984年作の「Velô」。たしかに彼のディスコグラフィーで目立ったことのないアルバムですが、それも納得です。このアルバムでカエターノ、この時代、彼もやってしまいました。「ザ・エイティーズ」な、シンセでゴテゴテした大仰なサウンド・プロダクション。これがまた、カエターノに似合ってなくてね。でも、彼ほどの偉大なアーティストでもこういう過ち、やってしまうんだと思うと、人間臭くてほほえましくもあります。
29.Caetano (1987)
29位は1987年の「Caetano」。これも「Velô」ほどではないにせよ、エイティーズのサウンド・プロダクションに頼った作品ですね。「Velô」ほど派手じゃなく、ちょっと抑えめの作品ではあるんですけど、微妙な音処理のところでダサ・エイティーズなプログラミングされたサウンドのかっこ悪さが出てしまうというか。
28.Uns (1983)
ワースト3位もエイティーズ半ばの作品ですね。「Velô」の一つ前の「Uns」。この中に比較的知られた「Eclipse Oculto」という、妙に明るいファンキーな曲があるんですけど、これがあんまり良くない意味で、この時期のカエターノのかっこよくないイメージになってますね。
27.Araçá Azul (1973)
27位は「Araçá Azul 」。これはいわゆる「賛否両論」のアルバムで、好きな人は絶賛してるんですけど、嫌いな人からの批判もそれなりに強いアルバムです。なんか、「声のミニマリズム」みたいなアルバムで、自分の声をサイケデリックにつないだりしたかなり実験的なアルバムなんですけど、決して聴きやすいタイプのアルバムではないし、聞いてて楽しくは決してないです。あと、どんなに実験的なことをやっても、基本、メロディ・ラインが美しいのがカエターノらしさであり、その意味では僕が彼に求めるものはここにはないかな。
26.Eu Não Peço Desculpa (2002)
26位は2002年、70sのカエターノのブレーンのひとりだったジョルジェ・マウチネルとの共作アルバムです。このアルバム、カントリーからサンバ、ポリリズムのファンキーな曲からサイケデリック・ロックまでやってて、ちょっとこの後の彼の音楽的展開を感じさせて興味深い瞬間もあったりはするんですけど、ちょっとセッション色が濃厚で、サウンドの方向性を特に考えないで作っている感じがするのが少し惜しいです。うまく整理してたら、もっと良い作品になったような気がします。
25.Fina Estampa (1994)
25位は「Fina Estampa」。邦題「粋な男」。これは文句言いそうな日本のファン、多そうで、申し訳ありません。日本でウケた絶頂の頃の作品ですからね。でも、これ、もとが南米のレコード会社がカエターノを世界的に売り出すために製作された南米音楽のカバー集だし、ちょっと甘口に作られてはいるのもたしかなんですよね。ブラジル国内での評価も「セルアウトした」的な声も、やっぱ耳にはしますからね。うちの奥さんはこの頃、大学行ってたりするんですけど、インディ・ロック好きな彼女の耳からして「世代が違う音楽な感じがした」と言ってますからね。僕自身もこの当時、周りの音楽マニアは絶賛するんだけど、いまひとつピンとこなかったし、それは今も正直なところ、かわりません。
24.A Foreign Sound (2004)
24位は「A Foreign Sound」。これも「粋な男」とコンセプトの似たカバー集なんですけど、こちらはカエターノのフェイバリットのアメリカのジャズのカバー集で、英語で歌われたものです。こっちのほうが「粋な男」でちょっと耳につきすぎる甘ったるいストリングスは抑えめ(あってもこっちの方が音に緊張感あり)で、音数少ないアコースティックなサウンドで渋くまとめてある分、僕にはだいぶ聴きやすいです。
23.Caetano Veloso & Ivan Sacerdote (2020)
23位は、これは昨年出たアルバムですね。自分の息子くらいのクラリネット奏者、イヴァン・サセルドーテとの共演アルバムですね。これはカエターノがつまびくアコースティックのサンバにイヴァンがクラリネットのアドリブを載せるパターンで、聞いててどれもかなりセンスは感じさせる曲が並んでいます。ただ、だからといって、特に新しい何かがあるわけではないので、繰り返して聴きたくなる感じとは少し違うのですが、なかなか悪くない作品ではあります。
22.Outras Palavras (1981)
22位は「Outras Palavras」。カエターノの場合、本国ブラジルでもっとも売れてたのは70年代の後半から80sの前半で、これもそのヒット期間中の最中の作品です。この時期の作品は、「ちょっとコード的にふ区雑でエッジのあるAOR」的なことをやってるカエターノではあるのですが、この作品はその中では比較的つるっと聴き易すぎて印象に強く残らない感じがあります。サウンド的には良い時期ではあるんですけどね。
21.Circuladô (1991)
21位は「Circuladô」。これは1991年の作品ですね。これは、この前作に続いて、アンビシャス・ラヴァーズのアート・リンゼイのプロデュース。このとき、アート・リンゼイ、かなり人気あったので注目度も高かったものです。僕はたしかこの頃に、違う大学に行ってた高校のときの友人にこれを聞かせてもらったはずで、これがカエターノとの出会いになりました。この当時はそれなりに気に入ってたんですけど、そんなに長くそれが続いたわけではなかったですね。詳しくは前作のところで語りましょう。
20.Caetano Veloso (1986)
20位は1986年発表の「Caetano Veloso」。ワーストに選んだ前作や、その前の「Uns」みたいな、エイティーズなテクノロジーに頼ったサウンドから一転、アコースティックに回帰したアルバムです。ちょっとその前、躁状態な曲が目立ってましたからね。そこを落ち着いて丁寧に曲を書くことで、何かを取り戻そうとしていたのかもしれません。決して創作的に良い時期ではなく、曲そのもののインパクトは強くないですが悪くないです
19.Noites Do Norte (2000)
19位は「Noites Do Norte」。これは、実は前半だけでいうと、かなり好きなアルバムです。スカスカな音の隙間をいかした、かなりロウファイなロック色のサウンドを展開しています。これが2000sにおけるカエターノのメインのサウンドになっていくことを予想した人、たぶんほとんどいなかったんじゃないかな。ただ、惜しいのは、後半が結構とっちらかっているうえに、ちょっとむだに長くなって散漫になるところなんですけどね。でも、次を予兆させるものはすでにここにはありますね。
18.Estrangeiro (1988)
18位は「Estrangeiro」。これが90年代のカエターノ・ブームに先駆けることになる、「復活作」とまで呼ばれていた、この当時の傑作ですね。ここでアート・リンゼイのプロデュースをあおいたことでカエターノ、世界的に注目されます。このときのアート・リンゼイのギターのカッティングなり、シンセの音色なり、かなり鋭くハイブリッドでカッコ良かったんです。ただ、この音色がかっこ良く聞こえる期間があまりにも短かったですね。やっぱりグランジとかブリット・ポップみたいな、よりプロデュースされない生音回帰の現象が起こったことで、微妙にテクノロジカルなリンゼイの音、古く聞こえちゃったというか。それは久しぶりに今回聞き返しても同じ印象で。そういう意味では損をしている作品かもしれませんが、それでもカエターノを調子付かせる契機となった意味では重要だと思います。
17.Livro (1997)
17位は「Livro」。これも他の人が選ぶよりはかなり低いかもしれません。これ、個人的には、先ほど述べた「粋な男」みたいなトラディショナルで甘い曲調が正直好きではないんですけど、それでも、この当時のはやりでもあった、カルリーニョス・ブラウンが流行らせた、カエターノの故郷でもあるバイーアの力強いポリリズムのグルーヴが心地よいケミストリーを与えています。たしかにこっちの方が「Estraneiro」みたいなタイプの音よりは磨耗せずに聴けることはたしかではあるんですよね。
16.Zii E Zie (2009)
ここくらいからは、もう僕自身も素で好きな作品ばかりになりますが、16位は「Zii E Zie」。これの前のアルバムが突然のオルタナティヴ・ロック化でみんながアッと驚いたわけですけど、このアルバムも基本線はそのアルバムと変わりません。前作ほどハードな曲はなく、パターンもわかってきたのでそこまで驚かないんですけど、それでもインディ・ギター・バンドとしてはかなり良い曲を書いてるし、カエターノ自身が長く培ってくたサンバ由来のコード感覚も生きてるから、やはりふ通のインディ・ロックには終わってませんよね。そのあたりはさすがです。
15.Domingo (1967)
15位は「Domingo」。これが実質的なデビュー作となります。同郷のバイア州サルバドール出身の女性シンガーで以降もなんども共演するガル・コスタとのデュオ・アルバムです。この後のカエターノからすると、かなりストレート・アヘッドなボサノバに聞こえます。実際、ボサノバのアルバムとしての評価の高い作品でもあるし、僕もその観点からこのアルバムは評価します。それプラス、歌詞に政治的な要素を取り込むことで、ボサノバの都会的で安心感のあるイメージを変え、それがこの直後に彼が迎える激動の時代の幕開けにつながっているところでもやはり興味深いものがあります。
14.Qualquer Coisa (1975)
14位は「Qualquer Coisa」。これも非常に評価の高い作品で、人によっては最高傑作にも選ぶアルバムです。これは、これと同じ時代のジェイムス・テイラーみたいな感触を感じさせるアルバムですね。全編穏やかなんだけど、どこかソウルフルな熱いフィーリングの漂うアルバムというか。その意味では僕も好きなアルバムではあるんですけど、僕個人的には、これと同じ年に出たもう1枚のアルバムの方が好きなので、そちらを高順位にしました。このアルバムのもうひとつの特徴は、3曲のビートルズ・ソングのカバーが収められていて、ビートルズがカエターノに与えた影響の強さを物語っています。
13.Cinema Transcendental (1979)
13位は「Cinema Transcendental」。カエターノが商業的に最も売れてたときの象徴的作品でそのイメージで最高傑作にあげる人も少なくない作品です。たしかに「Lua De Sao Jorge」は今でもよく耳にする人気曲でもありますしね。このアルバム、とりわけ今ならシティ・ポップとの相性も非常に良い作品ですから、その観点で好きな人もかなり多いかとも思われます。ただ、僕の趣味からすれば、そういう路線の場合、「聴き易さ」より、ちょっとエッジィなことをやってるアルバムの方が好きなので、このアルバムの直前の作品の方を上位に選ばせてもらってます。でも、すごくカエターノらしい好作品だと思います。
12.Abraçaço (2012)
12位は「Abraçaço 」。最新作が出るまで、これが長いこと「最新作」と呼ばれていました。これ、出た時覚えてるんですけど、すっごく好評で、顔に回された奇妙なジャケ写がいろんなところに並んでいたのを思い出します。これも前2作同様、バックバンド、バンダ・セーをしたがえたインディ・ロック的作品ではあるんですけど、より緩急とリズムの多様性を生かしたかなり技ありな一作になってますね。トップ10、入れたかったんですけど、あえて最新作にその座を譲らせていただきました。
11.Cores, Nomes (1982)
そして、惜しくもトップ10入りを逃したのが1982年の「Cores, Nomes」。このあたりまでがビッグヒットの出てたカエターノのイメージですね。70sからのヒット・ストリークの中ではだんだん実験性みたいなのは薄れるんですけど、このアルバムはとにかくメロディの立ち方が美しく、「Queixa」「Trem Das Cores」といった目立ったキラー・チューンもありますしね。特に前者は名曲です。これも人気あるアルバムのひとつですね。
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