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沢田太陽の2024年間ベストアルバム 10〜1位
どうも。
では、沢田太陽2024年間ベストアルバム、いよいよトップ10に発表です。
今年は面白い年だったと個人的には思ってるんですけど、トップ10、毎年言ってますが、順位帯のコラージュ写真、トップ10に関してだけはガチです!見たまんまがそのまま順位になります。
今年はこうなりました!
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はい。早速トップ10から見ていきましょう。
10.CAJU/Liniker
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10位はリニケルですが、僕の年間ベスト企画、8年目で最初の事がおきました。ブラジルのアーティスト、初のトップ10入りです!これまで50位には2アーティスト入れたことがあるんですけど、トップ10は初めてです。なぜトップ10にしたのかというと、2年前、宇多田ヒカルの「BADモード」を11位にしました。あれは日本にとっての特別なアルバムだと思うし、それゆえにその評価にしたんですけど、このアルバムはブラジルにとってそういうアルバムなのです。もう、このアルバム、国内の音楽賞、独占している上に、なかなかオルタナティヴな感じの音楽が流行らないブラジルにおいて商業的にも大ヒットしましたからね。実際僕もこれ、ブラジルにとっての20年ぶりくらいの傑作だと思ってますのでね。僕が「大所帯の生バンドを率いている黒人のゲイの男性がいる」との噂を聞いたのは2014〜15年のことでした。すごく話題になってライブのチケット即完みたいな感じで注目されて。それがリニケルだったんですけど、それから程なくしてロラパルーザみたいなフェスで見かけるようになって。僕も通算で3回くらいはフェスで見てます。当時の印象は「悪くないよね」ではあったんですが、自発的に聞くようなことはなかったです。ただ、アルバムは「だんだん良くはなってるな」との印象はあったので次は出た時からちゃんと聞いてみたいと思ったそのタイミングでブラジルの音楽ファンの騒ぎ方が尋常じゃなかったんですよ。「もう、これが世界でもAOTYだ」とか「ラテングラミー取れなかったら嘘だ」とか。で、僕も早速聴いてみたら、その覚醒ぶりに衝撃受けて!驚いたのは、リニケルが性転換して女性になっただけではありません。これ、世界広しといえども、オルタナティヴR&Bを進行形でここまで発展させられたもの、ないなと思って。いわゆるフランク・オーシャンとかSZAに共鳴するものだとは思うんですけど、ここにはそれに加え、サンバやボサノバ、ファンキといったブラジル音楽の要素も、レゲエもロックも、さらには流麗にして巧みなストリングスやホーンのアレンジまで加わって。アメリカのオルタナティヴR&Bの名アーティストなんて冬眠でもしたかのように傑作出したらずっと動かないものですが、その間に南半球でこういう怪作がすくすく育っているものなんですよ。もう、そのことを知らせたくてトップ10に選んだ次第です。あと、2017年以来、僕の年間ベストのトップ10に黒人が入らなかったことは1度もなかったんですが、今年は危なかったんです。そこに滑り込んだのがブラジルからのリニケルで。R&Bはグローバル化してるぞという話をつい最近書きましたけど、その良い証明にもなるはずです。
9.Imaginal Disc/Magdalena Bay
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9位はマグダレーナ・ベイ。この人たちに関しては知っている人たちと、全く知らない人、両極に分かれるんじゃないかと思います。この人たちはロサンゼルスを拠点に置くエレクトロ・デュオで、女性ヴォーカルのミカ・テネンバウム、サウンド・クリエイターのマシュー・ルーウィンの2人から構成されてます。この人たち、僕は不覚にもこのアルバムから知ったんですけど、2021年に出たデビュー・アルバム「Mercurial World」の時からレビュー総合サイトのRate Your Music(RYM)ではかなり話題で、そこで新人とは思えない高得点を記録して話題になってたみたいなんですね。で、そこでつかんだファンベースで前評判が上がっていたこともあり、このセカンド・アルバム、RYMで年に1枚出るか出ないかの、5点満点中4点超えのスコアを出して、一般の媒体レビューでも高得点を連発したんですね。それを見つけて「さすがにこれは聞いてみないと」と聴いてみたら、「もうびっくり!」となったわけです。CHARAとかラナ・デル・レイ、メラニー・マルティネス直系の小悪魔舌足らず系のミカの声のインパクトがまず強いのですが、そこにセンスの良い電子音とシティ・ポップ調の曲調が乗ってきてそれだけでも印象は良いものなんですが徐々にかぶさってくる音の絶妙なんですよ。曲にもよりますけど、それがグリッチ・ノイズの乱打から生のスネア・ドラムの乱れ打ち、ピアノやモーグ・シンセサイザー、そしてさらにはレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドをまんま彷彿させるフリーキーなギターソロまで!通常のシンセポップの規格外のことを次々と繰り出しつつ、曲はあくまで良質ポップの体裁を一切崩さない。確かにこれはこれまでに聞いたことのない感覚でした。なんでも調べたらこの2人、フロリダで同じ高校通っててプログレ・バンド組んでたんですって。多彩な音の組み合わせのアイデアとドラマティックな曲展開のルーツがそんなところに形を変えてあったことも素敵です。このレビューの大絶賛で今回は、前作ではあまり見られなかった年間ベストでも総合で20位台に入るくらいには名前見るようにはなったし、フェスでも名前が載り始め全米ツアー組めるようにもなり、噂の存在になりつつあります。かのロザリアも、これのジャケ写をハロウィンの仮装に使っていたし、知名度は確実に上がっています。
8.Lives Outgrown/Beth Gibbons
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8位はベス・ギボンズ。ご存知ポーティスヘッドのヴォーカリストのソロ作です。ソロ・アルバムそのものは22年ぶりですが、ポーティスヘッドの傑作アルバム「Third」からも17年ぶりと、まさに冬眠から覚めたような活動ぶりではあるんですけど、いやあ、さすがレジェンド。格の違いを見せつけてくれています。そして、リリースされるタイミングが極めて絶妙だったとも思います。世はちょうど、ビリー・アイリッシュやラナ・デル・レイといった、女の子のダーク・アイコンの全盛期。フィービー・ブリッジャーズやミツキのようなサッド・ガールズもそうですね。世のセレブ・アイコンでは自分の心の奥に潜んだ暗い満たされない思いは代弁してくれない。80年代におけるスミスとかキュアーみたいな立場のものが女の子で求めれる時代なんですが、そうしたもののルーツとしてちょうどフィオナ・アップルやポーティスヘッドが再注目されていた、いわば絶好のタイミングにベスが戻ってきたわけです。そんなベスが今回表現したのはいわば「剥き出しのポーティスヘッド」。ポーティスヘッドのようなトリップホップや壮麗なストリングス、はたまたクラウトロックのようなアレンジはなく、まるでMTVアンプラグドのような、あのディープなヘヴィ・グルーヴをアコースティックの生演奏再現したかのような世界観なんですが、こうして改めて聴くに、ポーティスヘッドの楽曲の骨格を形成していたのが他ならぬベスだったことがハッキリしましたね。アレンジとしてジェフ・バロウとエイドリアン・ユートリーの存在は不可欠ではあったけど、肝は「シンガーソングライター、ベス・ギボンズ」の歌が3世代にわたり強い影響力を持ってきた。そのことが改めて種明かしのようにわかった。この気づきがあるだけでも、このアルバムを聴く価値が十分にありますね。
7.This Could Be Texas/English Teacher
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7位はイングリッシュ・ティーチャー。マンチェスターよりさらに北東にあるリーズの4人組バンド、イングリッシュ・ティーチャー。今年のイギリスで最も成功したバンドの一つで、今年のマーキュリー・プライズにも輝いてますね。去年くらいから一部で注目されていて、ここにも収録されている「The World's Biggest Paving Slab」がNMEの年間トップ10シングルに選ばれるなどしてたからリリース・タイミングから注目してましたがリリースされるなり大絶賛で、全英トップ10、さらにはマーキュリーの流れで一躍ときのバンドとなっています。彼らの場合はフロントのアフロヘアの女性ヴォーカリスト、リリー・フォンテーンがまずは目立つんですけど、そこからソウルとかR&Bを想起するとかでなしに知性派のインディ・ロックがストレートに歌われます。むしろ、こういう華のある美人シンガーが表に立っていることで、見た感じはすごく地味な、しかしながら音楽偏差値高そうなバックの三人の才能が活きてる気もしますね。レディオヘッドあたりに強く影響を受けていそうな、ジョニー・マーやポストパンクに薫陶を受けていそうなプレイを展開するギタリストと、ジャズの素養を感じさせるキーボーディストとリズム隊、そしてキーボード・プレーヤーとしてのリリーにもその素地を強く感じます。数年前にBCNRやドライ・クリーニングといった、サウスロンドンのポストパンク新世代派が続々と登場しましたが、後発組の利点をうまくいかして、難しそうな中にキャッチーなメロディのキラーチューン作れるのも強みです。聞くところによると、元々四人はリーズの高等教育受けてる学校で出会ってそこからバンドを組んでるみたいですね。音楽教育的に恵まれたそうした環境はエイミー・ワインハウスやアデルを生んだロンドンのブリット・スクールが有名ですけど、バンドもこうした人たちを生みうる時代になってきているのかなと改めて思った次第です。
6.Hit Me Hard And Soft/Billie Eilish
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6位はビリー・アイリッシュ。彼女のアルバムもここまで3作、僕の年間ベストに入り続けていますが、今回は5年ぶりのトップ10返り咲きとなります。前作「Happier Than Ever」は人によって高く評価する向きはありましたが、どこか方向性が定まっておらず、曲そのものももう一つパンチが弱く地味な印象を個人的には受けました。成功で浮ついた雰囲気は全くないものの、生真面目すぎる性格ゆえにストイックに作品としては良いものの小さくまとまっていくかもしれない嫌な予感をその時に感じました。しかし2023年3月にロラパルーザ・ブラジルでヘッドライナーのライブ見た時に、ガランとした何もない空間でいつも通りの3人編成で、バギー・クローズで激しく飛び回るライブを見た時にちょっと惚れ直して、去年の夏にバービーで名バラード「What Was I Made For?」をあらたな代表曲にしてたのを見て「ああ、次はもう絶対、大丈夫」という予感めいたものを感じていました。そうしてたら予感は見事に当たりました。収められたのは10曲43分と、これまでの彼女のアルバムで最もコンパクトにまとまったものとなりました。曲の方は、ビリーらしいヒップホップ的なベースの低音を活かした曲を基調としながらも、フィニアス乗せてくるエレクトロの上音は過去一番にキラキラ輝き、その上をビリーがこれまでで最も熱い熱唱で、厳選された簡素で美しいメロディラインを歌いきっています。過去最高にシンガーソングライター色を高めた作風はどこか宇多田ヒカルの「BADモード」にも近いというか。それは、フィニアスのアレンジが生楽器やエレキギターに至るときに特に顕著にもなります。言葉の方は、これまでに聞かれがちだった、ネガティブでシニカルな鬱屈した青春模様はここでは聞かれず、彼女自身の、性別対象を越えたストレートな愛と、それに伴う悲喜こもごもを歌ったより個人的なものとなっているので、以前までのキャラクター像を望む人には少し肩透かしかもしれませんが、ずっとそればかりでもいられないわけで。でも、そこは全く心配ないというか。「Birds Of A Feather」「Wildflower」「Chihiro」をはじめ、今回は聴く回数をあげればあげるほどじわじわ染みてくる曲も多く、聴かれ方の転換はもう早速起こってます。長い目で見て大事な一作になりそうな気がしてます。
5.Prelude To Ecstasy/The Last Dinner Party
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5位はザ・ラスト・ディナー・パーティ。イギリス今年最大の新人バンドですね。もう去年のうちから「Nothing Matters」「Sinner」「My Lady Of Mercy」と強力なシングルを連発。年末から年始にかけてイギリスのあらゆるメディアが「2024年最大の新人」として、こぞって猛プッシュしました。その結果、このデビュー・アルバムはイギリスで初登場1位になって、期待に応えたことにはなりました。実際、存在的にはすごいんですよね。インスピレーションのもとがクイーンとスパークス、ケイト・ブッシュ、ボウイという、70sのシアトリカルなグラムでミステリアスなロックを。今をいきる女の子たちがたぐいまれな表現能力で今の時代にアップデートして。そんなバンド、オリジナリティ持ってしかも博識なバンドは野郎でもいませんよ。そしてそれをアイデアだけで倒れさせない圧倒的なステージでのパフォーマンス能力もある。ド派手なファッション感覚でもバンドを引っ張るアビゲイル・モリスの唯我独尊な歌いっぷりに、女性ギタリストとしては20年代早くもナンバーワンの腕前のエミリー・ロバーツの小柄なロリータ・ファッションから放たれる半ば強引でさえある力業のギターソロ。歴史的なロックのマネージメント・エージェントのQプライムが手掛けてるのも納得なんです。そんな彼女たち自身に何の問題もありません。それがあるとしたら、世の中がまだ「実力あるガールズ・バンド」に追い付いていないことです。昨今、ビリー・アイリュシュやオリヴィア・ロドリゴ、チャペル・ローンみたいな「ロックみたいなことをやってる女の子」に世の少女たちは熱狂しています。だけど、そんな彼女たちがそれを必ずしもロックとしてとらえてはおらず、「女の子がバンドをやる必然性」にもまだピンと来てない。そのクリックしてなさが僕は今年一年、すごく気になりました。この次の段階でそれがクリックするのか。僕の注目点はそこです。もっとも、TLDPのアメリカのレーベル、今年、チャペルとサブリナで当てまくったとこなんですけどね。
4.Charm/Clairo
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4位はクレイロ。彼女もこれで3枚目のアルバムとなります。21歳の美少女だったクレア・コトウィルが2019年にデビューしてから5年経ちましたが、順調に成長を積み重ねてますね。これで3枚目ですけど、その都度、クレアが具体的にどういう課題を持ってアルバム制作に臨んでいるかがすごくわかりやすいので、その生真面目な努力家ぶりが非常に気に入ってます。デビュー当時は割とガール・イン・レッドに近い感じのベッドルームのインディ・ロック・イメージ。プロデュースもヴァンパイア・ウィークエンドやめたばかりのロスタム・バットマングリで。このときはセンスの良さは感じたもののクレア自身が歌に自信ない感じがして曲にも幅がなかったので「才能は感じるけど大丈夫かな、この子」な印象でした。その二年後、今度は売れっ子ジャック・アントノフの元でセカンド「Sling」を発表。ラナ・デル・レイの名作「Norman Fucking Rockwell」を聴いてアントノフに頼みたいと思ったようですが、ここで70sのシンガーソングライター・スタイルに開眼。ここで僕が一気に気に入り、あの年のトップ20に入れました。そして3年して今回。テイラー・スウィフトで当て、今や世界一の売れっ子のアントノフのファミリー的に売るのかなと思いきや、クレアはそこで安易な道を選ばず、知名度的にはあまり高くない、ノラ・ジョーンズの近作などを手掛けるレオン・ミッシェルズを起用したんですが、これが大成功。キャロル・キングやローラ・ニーロのような70sのピアノ弾き語り系のSSW風な作品に挑みつつ、その先達たちが持ってたソウル・ミュージックのフィーリングを逃さず、それを昨今のオルタナティブR&B、僕が一番近いと感じたのはソランジュでしたけど、ああいう感じのフィルター通したようなリズム感覚で表現してるんですよね。これには一本取られました。いみじくもリニケルのところでも述べましたが、アメリカの黒人よりオルタナティブR&Bの発展のさせ方を知っているというか。これで彼女はアルバムが英米でトップ10いり。シングルの「Juna」「Sexy To Someone」も高いストリーム数、稼いでます。次でフェスのヘッドライナー・クラスに王手かけれるくらいな感じにまでなってますね。
では、いよいよトップ3、行きましょう!今年は割と妥当なものを選んだつもりです。
3.Songs Of A Lost World/The Cure
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まず第3位はザ・キュアー。実に16年ぶりの復帰アルバムでしたが、ここまで間を空けて出したアルバムが、これ、僕だけじゃない、本当にいろんな媒体の年間ベストの上位に食いこむなんて誰が予想したでしょうか。確かに去年、ストーンズが18年ぶりのオリジナル・アルバムで同じように大好評だったものですが、それ以上の反響の大きさだと思いますね。キュアーの場合、もういつからかわからないくらい「実はもう、新作ならレコーディングしてる」というのを、10年近く前なのかな、聞いた気もしてて「ハロウィンに出す」なんてことも囁かれた年もあったんですけど流れた、ということもありました。そうしているうちに2023年12月、プリマヴェーラ・サウンド・ブラジルでキュアーがヘッドライナーで出演することになりまして。で、その直前からのツアーで新曲を披露し始めている、という話になりまして、僕もそのライブを体験できたわけですけど、その時に「あれ?!これ、よくない!!」となりまして。いずれも長尺の、スロウダイヴあたりのシューゲイザー、ドリームポップの影響を受けたスケールの大きな美しい楽曲で。そのライブの時点で「Alone」「And Nothing Is Forever」「A Fragile Thing」「Endsong」は聞いてたんですけど、過去の黄金の名曲となんら遜色なかったんですよ。すごく入るのが自然で。これ聞いた時に「こればかりは狼少年ではないね。これは早めに出るよ」の手応えだったんですよ。それからしばらく音沙汰はなかったんですが、秋になって「ハロウィン終わった夜に出る」の昔の約束も遅ればせながら守って。それだけでもめちゃくちゃ楽しみだったわけなんですけど、いやあから。長尺ナンバーってそれこそ最高傑作「Disintegration」の時から目立ってきてはいたものの、そこに特化して、サウンド・アイデンティティとしてここまで雄大に進化するとは思いませんでした。00sに入って方向性に迷いを感じさせた時もあったんですけど、長時間ライブでツアーし続けることによってパフォーマンスを磨き続けているうちにジャムが固まって、メンバーの最年少で57歳という状況でキャリア最高級の結晶が出来上がるとは。いやあ、これ、本当にバンドやる続けている
人たちにとっての新しい宝であり、目標にすべきことですよ。何歳にあろうが自身の創造力の可能性信じて努力し続ければ奇跡的な次のピークに達することも可能。そこにロックのさらに新しい可能性を見ましたよ。
2.Romance/Fontaines D.C.
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2位はフォンテーンズDC。いやあ、こういう、今を代表するロックバンドの精鋭をこれくらいの順位で紹介できるのはすごく嬉しいことです。フォンテーンズって僕の年間ベストにおいて、最もアベレージ高いアーティストなのではないかと思います。これ含め、過去4枚のアルバムは全て入れてるし、そのうちの3枚はトップ10。さらにフロントマンのグリアン・チャッテンンのソロまで入れていて。でも、今年は、これまでのそうした評価は一気に花開いた記念すべき年だと思いますよ。2019年に出てきた時は、アイドルズやシェイムにつながる「新世代ロックンロールの若手有望株」みたいな出てき方をして、その時は全英トップ10に入った程度でしたけど、2022年の前作「Skinty Fia」はダークでヘヴィなポストロックをアンセミックなロックンロールに昇華させた怪盤で、あれがヨーロッパの国々で軒並み上位に入りました。そして4枚目の今作ではレーベルをパーチザンからXLに移籍。さらにプロデューサーをポストパンク重鎮のダン・キャリーからアークティック・モンキー雨を手がける名匠ジェイムス・フォードに変えてい一気に頂点かけた勝負に出たんですけど、この思いっきりの良さと言ったら!先行シングルの「Starburster」からして90s末期のバッドボーイ・イメージ、ニュー・メタルをトレインスポッティングのフィルター通して表現したみたいな、時代を経たからこそできるミックス感覚でビッグビーと風のロックンロールという意表をついた変化球で来ました。ただ、これでセルアウトしたわけでなく、あくまでサウンドはこれまでの下地にあるヘヴィなポストパンク。しかし、その表現仕方の多彩さが一気に広がりました。全盛の期のスマッシング・パンプキンを彷彿させる「Here's The Thing」にストリングスにグリアンのファルセットが光る「Desire」、哀愁味の光る「In The Modern World」「Bug」、そしてこれまでにない晴れやかで明るいギターポップの「Favourite」。とりわグリアンの、従来の「ラップ調のリアム・ギャラガー」みたいな歌いっぷりにセクシーな色気が備わり始めたのが効いてます。もう、このアルバムの成功でヨーロッパでは全土でヘッドライナーは決定的だし、アメリカでも初めてトップ100入り。いろんな人のSNS投稿見ても「久々に楽しみなバンド出てきた」みたいなことを言うアメリカの音楽ファンもかなり身始めてます。なんとなく90s後半のミッシェル・ガン・エレファントみたいな雰囲気出てきてますね。楽しみです。
では、残すところ、あと一つとなりました。1位の発表。今年の1位はこれでした!
1.Brat/Charli XCX
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はい。今年の1位はチャーリXCX。流行語にもなった「Brat」。これが1位。というか、これじゃなかったらおかしいくらい、文句なしの1位だったと思います。やっぱり、まず単純な話、ヒット・アルバムから今年を代表する言葉が生まれて、それが2024年における、音楽シーンで本当にパワーと勢いのあった女の子たちを象徴する言葉になった。もう、そのことだけで1位にする価値は十分にありますよ。いや、女の子たちだけじゃなく、すべての生き生きした人たちが「Brat(やんちゃ、みたいな意味ですね)」になれる可能性があるという意味でもすごくポジティヴな力を与えてくれました。
最も、そういう現象的なことだけでなく、音楽的にもこれ、画期的なアルバムでしたけどね。そこまで年季入ったエレクトロのファンってわけでもないんですけど、さすがに音楽リスナー生活長いといろんな名盤も聞いてるわけなんですけど、そうした中で、ここまでパンクロック的な短く燃焼する曲群を抱えたアルバム、なかなかないんですよね。まず、そこがすごく新鮮に映りました。エレクトロの世界って、ミニマリズムで反復しながらつないでいくものだとばかり思っていたものですけど、このアルバム、曲が短い時間で短期燃焼してグイグイ次に進むんですよね。この辺りにロック的なテンポ感をすごく感じでグイグイ乗っていけたんですよね。この辺りは2000s前半くらいのエレクトロクラッシュ、ポストパンク・リバイバルに近いもの思い出したし、むしろあれよりもロック的です。
で、そういうアルバムでありながら、すごく内省的SSW的な要素もはらんでいるんですよね。Bratが行きすぎちゃってしくじった、反省してまーす、みたいな感じで。で、その時に使われる語彙がすごく文学的で洒落てるんですよね。「Sympathy Is A Knife(同情はナイフ)」「時にはリワインドしたくなるのよ」「ガール、女の子でいることで人を困らせることもあるのよ。どうよガール」とか、言葉がすごく曲に乗って溢れるように流れてるんですよね。エレクトロの作品で、言葉がこんなに強い作品というのもなかなか聞きません。
あと、聞いててエンタメ感覚で楽しいんでよね。上質ポップソングがいろんな種類入ってて。押しも引きもしっかりメリハリあるのあって、各曲が強いキャラづけされてるんですけど、「Apple」みたいにみんなが踊れる振り付けあったりすると印象としてはやはりかなりのキラーになりえますよね。
そしてこれ、本編だけでなく、ッリースからそんなに立たずにすぐリミックス盤出してるのもいいんですよね。そこにはクラブ・カルチャーらしいことをしっかり実践しようとする彼女の誠意と、音楽ジャンルに関係なく多岐に交友関係を持つ彼女の親しみやすさとバイタリティを表すものになってるんですよね。LordeからRobynからキャロライン・ポラチェックからアリアナ・グランデから、、はたまたジュリアン・カサブランカス、さらにはチャーリのカレ氏、ジョージ・ダニエルのいるTHE 1975。リミックス用の追加収録曲ではビリー・アイリッシュ登場というサービスぶり。ここまで豪華に、音楽のいろんなところに配慮しながら徹頭徹尾楽しむことに徹したアルアムというものもそうあるものではありません。
これまでも早いペースでアルバム作っては能力の高さ示してきた彼女ですが、やっと出た決定的一作は1年というか1世代をも象徴しかねない特大の存在となりましたね。