「ブラジル 消えゆく民主主義」のその後〜なんと、ハッカーに政治家生命を助けてもらった元大統領
どうも。
昨日、今日は我が家は大行事でした。20日はリーナの5歳、21日はトムの9歳の誕生日でした。さらにいうと、21日は僕がブラジルに越しての11年目の記念日です!
さらに言えば21日は祝日なんですね。これは何の記念日かというと、「チラデンチス」といって、18世紀にブラジルがまだ植民地時代の頃にポルトガルからの独立を求めて立ち上がった民間の英雄、その彼がクーデターに失敗して処刑された日です。ただ、そのチラデンチスの存在があったから人々の意識が促され、のちにブラジルが独立することができた。そんな由緒ある記念日です。
そんなこともあって、最近起きた、かなりホットなブラジルの政治ネタ、これをこの日までとっていました。
今日話すことは以前
2019年にネットフリックスで公開された、2013〜2018年の激動の政変を描いたドキュメンタリー「ブラジル 消えゆく民主主義」の話をここでもしました。このドキュメンタリーは世界的に話題になり、この翌年のオスカーのドキュメンタリー部門の候補にまでなりました。これは本当に話題を呼びました。
このドキュメンタリーでは
2003年から10年のブラジル未曾有の好景気を作った、左翼政党・労働者党のジウマ大統領が2016年に、国民に理由が不透明な形での罷免、さらに18年に、その繁栄の時代を築き、この年の大統領選での支持率が1位だったのにもかかわらず、不可欠な裁判で逮捕、実刑判決を受けたために出馬できなかったルーラ元大統領について描かれていました。
この2人が失脚のあいだに
「南米のトランプ」なんてあだ名もあります、僕もこのブログで何度となく批判させていただいています、元軍人のイカれ野郎、ジャイール・ボウソナロが大統領になりました。こいつが大統領になったのは2019年の正月のことでした。
ドキュメンタリーはボウソナロが当選したとこで終わり、
「ブラジル史上最大の汚職事件」と呼ばれるラヴァ・ジャット作戦の担当判事で、アメリカからも「ブラジルの英雄」と称えられたセルジオ・モロ氏、彼がルーラにかなり不可解な裁判結果でルーラに10年近い懲役刑を与えたことでルーラが大統領の出馬資格を失ったんですが、その彼をボウソナロが自分の政権の法務大臣に迎えてしまった。ここまでが描かれています。
が!
この後が実はかなりすごい展開だったんですよ!
それが2019年の6月から、ついこないだまで2年近く続いていました。そのことについて話したいと思います。
まず、2019年6月に、セルジオ・モロの携帯電話がハッキングされる事件が起きます。
そして、それからほどなくして
ジャーナリストの世界的権威、グレン・グリーンウォルド氏がですね、「セルジオ・モロの携帯電話で語られていることは、”正義の英雄”どころではない。こいつこそが本当の悪党だ!」という記事を、彼がその当時運営していたサイト「ジ・インターセプト」で連載をはじめるんですね。
このグレンですけど、この人といえば
2013年、アメリカのCIAの元情報員だったエドワード・スノーデンから機密文書を譲り受けて、CIAや国家安全保障局(NSA)が秘密裏に国際的に行っていたスパイ行為の実態を暴露した際の、インタビュー相手になったジャーナリストです。これを描いたドキュメンタリーも、オスカーでこれ、ドキュメンタリー賞受賞をしています。
そんなすごいジャーナリストがなぜブラジルにいるのかといえば、彼はですね、この上のスノーデンとの写真でとなりに写っている男性、この人はブラジルの議員なんですが、彼と恋人関係にありまして、それでリオ在住なんですね。で、モロの携帯電話をハッキングした人物が、グレンにハッキング内容を託して渡した、というものなんです。
で、
このハッキング内容がひどかった!
モロ、そして、「ラヴァ・ジャット作戦」をとりしきる検察主任のデルタン・ダラグノル、この2人がやってたことが、まあ、驚くばかりの内容でした。
例をあげていくと
「検察」と「裁判官」が密に連絡を取り合い、裁判の相談をしていた!
まず、これが激ヤバです。
セルジオ・モロはこともあろうに、裁判官でありながら「検察側の指揮」を行い、裁判で検察側がどういう振る舞いを行えばいいかの指示まで行っていたことがわかったんですね。
これ、実際に使われた表現なんですけど、サッカーの試合の主審が、相手チームの監督まで兼任してやっている、そういう言われ方をしました。
これだけでもひどいんですけど、この他にも、さっき写真で見せたラヴァ・ジャットの検察主任、彼がルーラの裁判の原告側だったんですね。ルーラはこのとき、別荘の購買を無償で行った疑惑を持たれての裁判だったんですが、これが国の石油公社との事業契約をあるゼネコン会社に結ばせるのの口を効いたお礼にタダにしろ、ということでの裁判だったんですね。これ、別荘の物色をルーラの奥さんがしたのは確かなんですけど「結局、買ってない」という反論が行われていた上に、「石油事業での口利きの見返り」の賄賂という推論、これが以前からかなり疑われていたんですね。で、この件に関して
「俺もこれ、確証ないんだよな」と言ってたことがバレてしまった!
これもひどいでしょ。原告なのに(笑)。
あと、セルジオ・モロに関しても
このエドゥアルド・クーニャ。彼がジウマを罷免にかけた下院議長なんですけど、もともとジウマの罷免は、この人がラヴァ・ジャットでの収賄が、おそまつにも収賄を行った口座の顔写真つきの証拠で見つかったのをジウマに責められた腹いせで起こったことだったんですね。こいつもジウマが罷免になった後、自分も議員罷免にあって逮捕、服役となった。この彼が「獄中から供述を行いたい」と申し出た時、警察や検察はもうそれを行う準備ができていた。そこをモロは
「そんなことはやめてくれ!」と言ってとめた。
これも変でしょ?なんで一介の、しかも彼、裁判でも1審担当のヒラだったんですよ、そんな立場でなんで検察に命令してるんでしょうか?
もともと、このモロという人もですね、「汚職の多いブラジルで政治家相手に立ち向かい断罪した」という評価で人気が出て、アメリカでさえも話題いなった・・という触れ込みだったんですけど
これはハッキング事件の前から有名だった写真ですけど、2014年の大統領選でジウマに負けて次点だった、対抗馬のアエシオって保守政党の政治家がいるんですけど、こんな風にねんごろでした。このアエシオ、大統領を狙ってましたが、2017年、収賄の現場を録音され、逮捕直前まで行ってそのまま失速しています。
・・まあ、こんなことが出るは出るは。19年7月頃って報道、面白かったんですよ。しかも、ことごとく「検証の結果、ハッキング内容は本物」との鑑定結果も毎回出てね。
で、これ最初、「ハッキング先はロシア?中国?」とかって言われ、国際犯罪が疑われていたんですね。モロもこのときはボウソナロの法務大臣だったから逮捕に躍起になってて。
で、「犯人捕まったぞ!」ってなったんですが、それが
サンパウロ州のど田舎のやつで、しかも元々がボウソナロ支持者だったことまで発覚しました(笑)。最初、「国際左翼によるサイバー・テロ」とか言われてたのに。これ、なんで彼がこの犯行に及んだのかいまいち謎なんですけどね。
で、こういうことが重なってしまった結果
最高裁が2019年11月、ルーラに釈放処分を出します。これは、これもすごく変なんですけど、憲法では4審有罪でムショ入り完全確定なんですが、「国際的にこれ甘いから2審にしない?」と、正式な憲法改正を経てないのに、ルーラ、2審でムショ入りだったんですね。これがただでさえ曖昧だったところに、モロのハッキング・スキャンダルが重なった。これでルーラが出所になりました。
ただ、この時点で、ルーラは3審まで、そして2審まで有罪なままの裁判はまだ消えてなかったんですね。そして、ブラジルの場合、2審有罪で出馬できないシステムなので、この時点では政治家としての名誉、回復してませんでした。
で、このあと、
モロが20年4月に法務大臣、辞めます。理由はボウソナロが、汚職事件で長男が逮捕するのを避けるために、リオの警察本部の人事異動を強行するのに反対したから。この大統領の長男の疑惑ってのがひどくてですね、この人も議員なんですが、秘書に大量に自分の父親の友人一家とか、元妻の一族とかを幽霊社員にしてつけて、その給料を父ボウソナロ一の親友に全部振り込んでたのがバレたんですよね。モロもさすがにこれは守ろうとはしませんでした。
ただ、ブラジルにおけるボウソナロの信者の狂信ぶりはひどくてですね。この一件でモロの人気が上がるかと思いきや、極右信者の中で下がったんですよ。で、もともと左翼からは敵視されていた。中道、やや保守にはまだ人気はギリギリありますけど、前に比べればこれでかなり落ちましたね。
で、さらに今年の3月、モロの携帯のハッキング内容の全部が一般公開されることが認められ、モロが判事として正しかったか否かの裁判がはじまりました。
この新たに公開になったハッキング内容からも、デルタン主任がやたらと「アメリカとの連絡が」とかという言葉をやたらと使っていたりとかで、裏でアメリカとつながってた説も濃くなったり、
さらに
フランスの新聞、ル・モンドにも「モロは、アメリカがブッシュ政権の頃から”良い保守判事”と目をつけられていた」との記事を出されたりしてました。
「アメリカがバックに回ったつくられた判事」のイメージは前からありましたからね。それにブラジルのマスコミが乗っていた、ということが有力視されてますね。
その結果
「ルーラが抱えていた裁判は無効」の判断が3月に出ました!4月にこれが確認され、もう問題なく、来年10月の大統領選に出馬できるようになりました。
一方、モロも最高裁で裁かれ、「偏りのある判事だった」の烙印が押され、今やルーラ以外の被告の裁判もひっくり返される可能性がでてきています。
で、これによって
来年の大統領選、ボウソナロとルーラの対決が有力視されてて、今、世論調査ではルーラ、上回ってますね。まあ、妥当ではあるんですけどね。ボウソナロ、コロナ対策があまりにひどくて、世界2位の37万人の国民死んで、支持率下がってますからね。頭の痛くなるような困ったコア層はいますけど、それだけになってますからね。
・・・このこと、前から話したくてたまらなかったんですけど、今日、一気に話しました。
この国なんですけど、前は「この国の左翼は行きすぎ」みたいな話も聞いてたんですけど、いやあ、この国の金持ち連中とか企業家、「典型的な嫌な金持ち」でホント嫌なんですよ(笑)。信用できないですね。もう、僕も今では、日本のときから左ではあったんですけど、ブラジル基準でも「中道」はもうないですね(笑)。あのドキュメンタリーで描かれていた、「2013年からのおかしな道」っていうのは、もういい加減で軌道修正されていってほしいですね。だっておかしいじゃないですか。「不正政権は嫌だ」とかって言って、取り締まる側そのものが不正で、その結果に生まれた政権が、あの頭おかしい人なわけですからね。早く終止符が打たれるのを待つばかりです。
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