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沢田太陽の2023年間ベストアルバム. 30~21位

どうも。

では、沢田太陽の2023年年間ベストアルバム、続けていきましょう。

今度は30位から21位の発表。このようになっております!

 ここは僕の見解ですけど、他よりちょっと癖あるゾーンかもしれません。30位からいきましょう。


30.The Greatest Unknown/King Gnu

30位はKing Gnu。今年初の邦楽アーティスト、きました。ただ、選んだ僕自身がランクインさせるのがすごく予想外な1枚でもあります。アルバムのリリース、直前まで知らなかったんですから(笑)。もともとヌーだったりヒゲダンだったりといったところは僕のTL上ではなんだかんだで人気あって僕もそれなりに面白いとは思ってました。国を代表するようなビッグなバンドなのに面白いことするなと思っていたし、ヒゲダンは前にも記事書きましたけど。ヌーのこれまでの僕のイメージは、「凄そうなんだけどJポップっぽい」って感じだったんですね。だけど、これ聞いてびっくりしたんですよ。もう、音の情報量がすごいのなんの!鍵盤は数種類重ねる、リズムは複合的、ギターやベースは分厚い、そして曲はボカロみたいなめまぐるしさ。洋楽ロック聞いてると、オーヴァー・プロデュースって悪い見本みたいな言われ方もするんですけど、逆にレス・イズ・ベターみたいな感じになりすぎると味気なさすぎてつまんないんですよね。そこをこのR&Bみたいなトラックの作り方は僕には逆に新鮮で。しかもこれだけ音足しすぎると普通、かつてのビーイング系とか洋楽だとイマジン・ドラゴンズみたいに音つまりすぎてグルーヴなくなっちゃうんですけど、これはグルーヴがしっかり生きててちゃんとロックになってる。そういうサウンドの面白さがあって、洋楽であまり聞かないJポップ・メロディが流れることで、かえってその独自性が個性として生きるようにもなってる。「こりゃ、面白いな」と思ったんですね。今、世界に勝負かけたら良い意味で珍しがられて行けるかもしれないな、と思ってしまったくらいでしたよ。


29.Gigi's Recovery/The Murder Capital

29位はザ・マーダー・キャピタル。彼らは僕がベストで毎度絶賛しているフォンテーンズDCの、地元アイルランドのダブリンでライバル扱いされてるバンドです。アルバム・デビューしたのも同じ2019年ですしね。フォンテーンズはその後にアルバムを連発して昨年までに3枚出してるんですが、こちらは今年の初頭に時間かけてのセカンド・アルバム。フォンテーンズが進化を遂げようが基本、疾走感と直線的なグルーヴを持ち味にしてるのに対し、マーダー・キャピタルは最初からヘヴィで展開のスケールの大きなポストパンクだったんですが、そこを生かしつつ「キッドA」以降のレディオヘッドのように、音の隙間を生かしながらエレクトロを混ぜてくるようなこともやってくるようになりましたね。かなり実験的なアプローチをしつつも、わかりやすいところに落とし込んでいる、まあレディオヘッドよりは圧倒的に分かりやすいんですけど、そういう刺激を求める人にも向いているかと思います。かなりバンドとしての成長も見られるしもっと評価されてほしい作品なんですけど、1月という早すぎるリリースがたたってか、年鑑ベストで多くの人が忘れているのは残念なところです。

28.Rustin' In The Rain/Tyler Childers

28位はタイラー・チャイルダーズ。これは知らない人の方がほとんどでしょう。このジャケ写からわかるようにカントリーの人です。ただこれ、ビルボードのアルバム・チャートのトップ10入ってきて、ピッチフォークでレビュー載ったりロック系のラジオでもかかってきたりしてたので気になって聞いてみたら、これ、びっくりでしたね。確かにこれ、今時珍しい、代々昔からのカントリー、真正面からやってはいるんですけど、しゃくりあげてかすれた歌い上げがどう聞いてもパンクっぽく、ギターとかリズムの鋭角性、スピード感もこれ、どう聞いてもロック、しかもインディとかオルタナ通過してないと出せないフィーリングなんですよね。尖り方だけで言えば、「実はほとんどキングス・オブ・レオンやブルース・スプリングスティーン」なザック・ブライアンより荒々しいですからね。で、この人、経歴調べてみたら、何年か前に、アルバム全部を人種差別反対の歌に特化したカバー・アルバムなんかも出したりしてて、ポリティカルにもかなりとんがった人みたいなんですよね。その精神性で、もう今やポスト・グランジみたいなことしかやらなくなりつつある産業カントリーに一石投じるようにパンクな王道カントリーやってるという、かなりひねくれた、これぞ正真正銘なオルタナ・カントリー。聞いてみると面白いですよ。


27.I Inside The Old Year Dying/PJ Harvey

27位はPJハーヴィー。前から彼女の大ファンを公言してる僕ですが、年間ベストに入ってくるのはこれが初めてです。というのは、その間、何も彼女が今ひとつなアルバムを出していたとかそういうことではなく、単純にリリースそのものがなかったのです。前作「The Hope Six Demolition Project」のリリースが2016年、僕の年間ベストが始まったのが2017年。それだけのことです。そして、本当に嬉しい待ちに待ったリリースでした。毎回音楽表現がカメレオンのように変わる彼女、今回はどんな表現になるのかなと思っていたら、これまででもっとも素に近い感じでしたね。剥き出しの生。ミニマムに限られた音数で、アコースティックなサウンドと、歌い方もよく変わるんですけど、一段と疳高く震えるようにか細くなった声で紡がれる曲の数々。50代を迎え、老いを迎える前の女性の孤独や不安を赤裸々に歌ったかのよう。いみじくも表現方法としては、トム・ヨークがまさに今、ザ・スマイルで取り組んでいることに近い感触も受けましたね。PJとトムは年齢も近く、かつてのデュエット相手で、ともにずっと音楽的な進化を弛まずやってリスペクトされ続ける存在ですけど、近いベクトルを感じました。ただ、曲そのものの紡ぎ方はPJの方が圧倒的にわかりやすくスーっと入っていけるものです。もちろん貫禄の傑作。しかし、今年みたいにロックで女性が本当に強い年だと、ちょっと聞こえ方は地味すぎになってしまうかもしれないな、ということでこの位置でした。


26.Javelin/Sufjan Stevens

26位はスフィアン・スティーヴンス。この人も僕の年間ベストでは初登場ですね。彼に関してはなぜかこれまで語る機会がなくて僕自身がどう思ってるのかわかられていなかったような気が自分でもしています。で真相を話すとですね、ハマった時期はあるんです。しかもかなり早い。かの「Illinois」よりも前なので。2004年の「Seven Swans」、あれが大好きでハマって。続く「Illinois」も大好きで、その次くらいからセールス的にもついてきたんですけど、タイミング悪く、僕、そこからピンとくる彼のアルバムがなかったんですよ。「Carrie & Lowell」も「だったらSeven Swansの方がいいや」みたいな感じだったんで。映画「君の名前で僕を呼んで」の中の曲は好きだったりしたんですけど、「好きなのになんかハマれない」というもどかしいい時期が続きました。で、ようやくこのアルバムでリコネクトした次第ですね。理由は単純です。僕の好きだった2枚思い出したので。「イリノイの頃のような極彩色のアレンジ戻ってきたなあ、やっぱあれがすごいんだよ!」ってとこなんですよね。マンドリン版エリオット・スミスみたいな悲しくも美しいセンチメンタルなフォークもすごい好きなんですけど、やっぱあのアレンジがないと。そこが肝にあるからなのか、彼が合間にやってきて僕がいまひとつ好きになれなかったエレクトロ・テイストもここだと気にならずにむしろ学習的に生きてますね。その意味で「総決算」的な言われ方をしてますけど、彼が持ってる表現、精一杯使ってるのも、やはり亡くなった恋人エヴァン・リチャードソンへの弔いの気持ちの強さゆえでしょうね。

25.Rush!/Måneskin

25位はマネスキン。僕の読者の方のなかには、僕がこのアルバムを何位に置くかに興味を持っていらっしゃった方がかなり多いような気もしてたんですが(笑)、前作「テアトロ・ディーラ」の時のような年間1位ではなく、今回は折り返し地点の25位に選びました。25位って僕の中で意味がありまして、やっぱ毎年そうなんですけど、25位くらいまでがかなり本気の愛聴ゾーンなんですよね。その意味を込めてます。このアルバムに関しては、彼ら自身も試運転だったような気がしてます。これまでのイタリアにいた時とは全く勝手が違う全世界市場。ローカルのメジャーじゃなくワールドワイドなメジャーが自分たちをどう料理してくるのか。本人たちもそこにアダプトしていくべきところと、だからと言ってバンドを生かすために受け入れちゃいけない部分がある。そこに果たしてどう折り合いつけるか。僕もこれ、正直、出るまでは心配だったんですよ。「フィーチャリング・ラッパーとかつけられてたらどうしよう」とか本気で心配してましたからね。そこがフィーチャリング・・トム・モレロで済んで、慣れない英語楽曲メインをそつなくこなせた意味では成功だったと思います。前作はマネスキンがイタリアの駆け出しバンドのところから世界に打って出るために挑んだ大バクチ作で、等身大よりも背伸びして王道クラシック・ハードロックに挑んだもので、その結果奇跡が起きました。今回の場合はそこまで背伸びをせず、さらに一つ前のアルバムまでの本来の「ファンキーなインディロック・バンド」的なところまで立ち戻って今の自分たちに合う形を模索した感じだから、奇跡とかよりもとにかく「足場を踏み損なわないこと」だけを願っていましたが、無難に行ったと思います。ここから自信持って次に繋げて欲しいです。

24.Heavy Heavy/Young Fathers

24位はヤング・ファーザーズ。この人たちも年間ベストにいれたのはこれが初めてだった気が。イギリスの黒人、白人混合グループの彼らは2014年にオルタナティブ・ヒップホップの期待の若手としてデビュー・アルバムがいきなりマーキュリー・プライズ取ったんですよね。それ以降も、期待はいつも高く出るたびにレビューは良かった気はするんですけど、そこまで大きなインパクトもなくちょっと地味な印象まで抱かれてました。ところが4枚目の今作で一気に化けましたね。これ、もう「ヒップホップのオルタナ」ではなく、「あらゆる音楽に対してのオルタナ」ですね。トラックそのものはしっかりロックやファンクの生バンド・スタイルで、ときに性急に叩かれるハンド・クラップで身体から生のグルーヴをサイケデリックに煽り、またあるときには崇高な讃美歌、そうかと思えばアフリカからの大地の歌のような瞬間もあり。なんとも名状しがたい世界観ではあるんですが、言うなれば「最先端のゴスペル」。その意味では、プライマル・スクリームの「スクリーマデリカ」辺りが一番近いかな。その意味ではロックファンへの訴求力も強い気がしますね。そしてこういう創作上の自由がもっとアメリカでも受け入れられたりしないのかな、などと思ったりもしましたね。

23.My 21st Century Blues/Raye

23位はRaye。昨年の末にシングル「Escapism」が全英1位になって注目され、今年の2月に出したこのデビュー・アルバムが大好評。一躍、イギリスを代表するR&Bディーヴァとして注目されています彼女。現在26歳ですが、もともとはもっと早くから音楽業界には存在してまして、20歳だった2017年にはBBC恒例の新人ブレイク予想企画Sound Ofで3位に選ばれてたんですよね。ところがそこから2度にわたる性的暴行の被害にあい、さらにはそれも関係していると思われるメンタル・ヘルスの不調、そしてメジャー・レーベルからの解雇の憂き目にあいます。ただ、ソングライターとして彼女はそのうち引っ張りだこになり成長。それが「Escapism」、そして今作のヒットに繋がったわけですが、よほど募るものがあったのか、ことあるごとに彼女はメジャーに捨てられたことを公言し、このアルバムもインディでのリリースで見返すことになります。タイトルからして「21世紀のブルース」なんですが、歌われる内容は彼女のこの5年にわたる絶望と不安、そしてその克己。それを鼻にかかって時にかすれるソウルフルな歌いっぷりで表すわけですが、その様はやはりどうしてもエイミー・ワインハウスを想起させるものがあるんですよね。この恵まれた声を自分の手によるソングライティングでコントロールしてるところもエイミーっぽいです。ちょっと裏方仕事が長かった影響で程の良いポップな瞬間がちょっと毒消しになってるところがあるんですけど、もう少し良い意味でわがままに作るとさらに成長しそうな気がします。

22.Dead Club City/Nothing But Thieves

22位はナッシング・バット・シーヴス。僕のこの年間ベスト、半分くらいは欧米の媒体が選ぶ年間ベスト総合トップ50に毎年だいたい半分くらいは入るんですけど、僕が考慮してるのはそういうレビュー媒体だけではありません。フェスやサブスク・メディアでの人気やバズもかなり意識してるんですが、この人たちはまさにそうしたとこでの人気が今年急激に上がってきたバンドですね。年間ベストにはまだ駆け出しだった2017年にも入れたことあるんですけど着実に伸びてきてます。典型的な初期レディオヘッドやMuseのフォロワーではあるんですけど、彼らをただ完成度高く継承するだけでなく、今作はウィーケンドにも通じるアリーナ規模でも通用するエレクトロのサウンド・スケープを取り入れるなどしてサウンドを進化させています。でも、それ以上に光るのは、現在のロックシーンの若手では世界最強クラスのヴォーカリスト、コナー・メイソン、彼の高音のシャウトがツボにハマったとき、このバンド、ものすごく映えるんですよ。僕は2作前のアルバムで「Amsterdam」って曲でそれをビビっと感じたんですけど、このアルバムからは「Welcome To The DCC」「Overcome」そして「Tomorrow Is Closed」がストリーミング・サービスのロックのプレイリストの大定番曲になっていて。それで今やイギリスだとウェンブリー・アリーナ任されるバンドになって、フェスでもかなり後ろの方やってて、次作あたりでヘッドライナー狙える位置に来てます。アルバムの完成度はまだまだあげられる余地があるので、ポテンシャル的にかなり楽しみです。

21.Cuts & Bruises/Inhaler

そして21位はインへイラー。彼らもナッシング・バット・シーヴス同様、フェスとかストリームでの受けが批評上回ってるタイプの典型ですね。そうなりやすいのは、彼らがサウンドそのものが新しいことやってるわけでなく、標準型のインディ・ギターロックをやってるから。でも、これ、僕、二年前に彼らがデビューした頃の記事で書いたんですけど、イーライがボノの息子ということに加えて、お父さん同様、スケールの大きな歌唱表現ができるので、そこにハマるような覚えやすいキャッチーな曲出せるようになってくると化けるかも、とは思ってたんですよね。そしたら、そのタイミングが僕が思ってたよりも早くやってきました。昨年の夏前にアルバムの最初の先行曲だった「These Were The Days」聞いた時に、「そうそう、こういう曲のこと!」と思って嬉しくなったんですけど、その後もカッティング・ギターがキャッチーなモータウン調の「Love Will Get You There」や、お父さんたちよりも早く行きついたソウルフルなバラードの「If You're Gonna Break My Heart」、そしてアメリカのロック系ラジオ局でもスマッシュヒットしたメロウなアルバム・オープナーの「Just To Keep You Satisfied 」と、曲の粒が揃いつつあります。この調子で伸びていくと、向こう2作くらいでヘッドライナー狙える感じにもなってくると思うんですよね。U2のようにバンドの主張、キャラも込みで勝負する感じとは違う楽曲主体のタイプだと思うので、きっちり磨くとこ磨いていけば活路開けそうな気がしてきてます。


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