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映画「ANORAアノーラ」感想 これがオスカー作品賞受賞したら歴史的快挙な理由

今日からはオスカーの作品賞ノミネートの作品のレビューをやっていきましょう。3本分あります。

まず今日はこちらで。

この「アノーラ」という映画。もう、少し前の記事でも書きましたが、かなり作品賞本命に近い感じで盛り上がってきています。どういう映画なのでしょうか。あらすじから行きたいと思います。

舞台はニューヨークのブルックリン。ヒロインのアノーラ(マイキー・マディソン)はロシア移民街でストリッパーとして生計を立てていました。

そこにロシアからの21歳の留学生ヴァーニャ(マーク・アイデルシュタイン)が顧客としてやってきます。ヴァーニャのキュートな魅力に心つかまれたアノーラは

やがて2人はビジネスの関係を超えて私生活で恋に落ちます。聞けばヴァーニャはアメリカ滞在中は富豪の両親の持つ豪邸に住んでいるようで。彼が勉強もせず、毎日のようにパーティできてるのもそのためのようです。

すぐにヴァーニャはアノーラに結婚んを持ちかけますが有頂天なアノーラはこれに大喜び。ヴェガスにわたって結婚します。

ただ、結婚の際、ヴァーニャはアノーラにその結婚の目的を「アメリカで両親と仕事するには誰かと結婚してた方がグリーンカードおが手に入りやすいんだ」との発言を行います。

「ちょっと話に違和感が」と思いながらもヴァーニャの家で暮らし始めていたアノーラでしたが、ある日、突然柄の悪い人たちが押しかけてきます。それと同時にヴァーニャの姿も見えなくなり・・・とここまでにしておきましょう。

これはですね

オスカーだけでなく、すでにカンヌのパルムドールを受賞したほど、非常に評判の良い映画です。どの方向からも絶賛の声しか聞こえてきませんん。

でも、このあらすじ読んで違和感感じた人もいるんじゃないかと思います。

これが、そんなに凄いと言われている映画話なの?


そう思う人もいるでしょうし、ちんぷんかんぷんの人もいるかと思います。

その疑問を取り除くにはですね。実は

この、ショーン・ベイカーという人がどういう監督なのか、ということを知る必要があるかと思います!


彼ですが、過去にこうした映画で注目されてきました。

彼はずっとアンダーグラウンドの映画作家だったんですが、映画マニアの間で名が知れ渡った最初は2015年のこの「Tangerine」という映画。なんとスマホで撮影された映画で、出演するのはトランスジェンダーの性産業従事者という内容。これ、賞レースで少し話題になってたので当時に見たんですけど、びっくりしましたね。なんか初期のジョン・ウォーターズの映画見ているみたいで。これで名前を覚えました。

そして知名度が一部日本の映画ファンの中でもぐっと高まったのがこの「フロリダ・プロジェクト」という映画。これはフロリダのディズニーランドの周辺にある超低所得者のためのアパートに住むシングル・マザーの話。子供にとって何一つ良いこともできてない女性の破綻した生活の傍ら、事情を知らない小さな娘の無邪気さが皮肉というか希望というか、という話です。

この映画、僕はすごく好きでオスカー作品賞にノミネートされそうな有力候補だったんですけど、最後の最後で落とされてましたね。あれはすごく残念でした。

そして2021年の「Red Rocket」。これは現実生活に戻った元ポルノ男優の人生奮闘記。これもかなり絶賛された映画です。

・・というように、ショーン・ベイカー、ここ3作で一部でかなりカルト評価を受けてきていたんですが、オスカーのノミネートには縁がなかったんですよね。

その理由は、「オスカーにしてはインディすぎる」というのもあったかとは思います。ただ、僕はそれ以上に、彼が題材として選ぶものが、アメリカであまりにも陽の当たらない人たちに焦点を当てすぎているからではないかと思うんですよね。

 だってこれ、「人種とか性とか」って話じゃないですもんね。「性産業従事者」って、アメリカ社会だと風当たり本当に強いですからね。そこに性的マイノリティだったり移民の問題が乗ってきたりするわけです。ウォークどこの話じゃない、社会的にタブーな領域に触れるような危うさ、しかし、そこに生きる人たちの懸命さ、それを描いているんですよね。

例えて言うなら、こういう感じですよね。

ヴェルヴェットアンダーグラウンド&ニコ。このアルバムが持つ空気感ですよね。

例えば「Im Waiting For The Man」って、ヘロインの売人待ってる男の話だし、「Venus In Furs」はSMの曲で、その名もずばり「Heroin」という曲もある。これらは1960年代後半当時のニューヨークの裏社会にいる人たちの現実社会を描いたものだったわけですけどね。

だからですね、今回「アノーラ」がカンヌでパルムドール受賞したとか、オスカーの争いでトップに立ちつつあるなんて話を聞くとですね

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドがグラミー賞のアルバム・オブ・ジ・イヤー取るようなインパクトですよ、これ!


グラミー賞でそんなこと、起こると思います?ヴェルヴェットじゃなくても、それと同じような危険な題材歌っているような人・・・、ヒップホップのかなりシリアスなものか、後、強いて言えばラナ・デル・レイかなあ、そういう作品がAOTY取るようなものです。まあ、オスカーの方がグラミーより、相当先に行ってますよね。

まあ、その、「オスカー飛ばしてんな」な傾向は2020年の「パラサイト」とか2023年の「Everything Everyehere All At Once」でもありましたけど、あれは国際的だとか、インディだとか、そういう領域でしたけど、隠微で猥雑で危ういものにここまで触れたものが受賞するようになったら相当画期的です。

今回のアノーラでも、夢や希望のあるとは思えない貧しいロシア移民街で育って性産業についた女性が、「人生最大の夢」とばかりに愛に飛びついたと思ったらとんでもないトラブル・・・というかなりビターな話です。こういう題材をコメディ・タッチでカラッと微笑ましく見せているのも手法的にうまいんですよね、これ。

そして、「ただ絶望で終わるのか否か」というのは見る人の目に委ねられることになりますね。なのでこれ、最後までじっくり見ることも要求されます。ここがまた大事な見せ場でもありますからね。

僕、これ見て

この主演のマイキー・マディソンって子、初めて知ったんですけど、すごく存在感のある神秘的なタイプの女の子ですよね。気に入ってます。まだ25歳とすごく若いんですけど、これから大きくなりそうな予感がします。

で、実は彼女

2019年のタランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」に実はちょい役で出てるんですが、この時、ちょい役に後のスターが一堂に集っていたことがわかって話題になってます。「エルヴィス」や「デューン」で注目されたオースティン・バトラー、「The Substance」でデミー・ムーアと熱演を繰り広げて話題となっているマーガレット・クォーリー、ドラマ「ユーフォリア」から出てきて今やハリウッドの主演級の売れっ子のシドニー・スウィーニー、そしてマイキー。映画って、後でこういう発見ができるから面白いんです。

とにかくこの映画、異色カリスマ監督の大出世作として長く語られる映画になるはずなので見逃さないほうがいいですよ!





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