映画「アメリカン・フィクション」感想. これは黒人カルチャー、エンタメにとっての分岐点かも!
どうも。
今日はオスカー関係の映画評に行きましょう。これです!
「アメリカン・フィクション」。これ行ってみましょう。オスカーでも5部門にノミネートされて注目されている映画ですけど、このほど、世界的にアマゾン・プライムで配信解禁となりました。本当は映画館でみたかったんですけど、オスカーまでに見たかったのでそれでもいいんですけどね。
では、どんな作品なのでしょうか。まずあはあらすじから見てみましょう。
主人公はセロニアス・エリス(ジェフリー・ライト)。セロニアスというのがジャズの巨人セロニアス・モンクと同じなので「モンク」と呼ばれています。
彼はカリフォルニアの大学の文学部で教鞭をとっっていますが、もともとは売れない小説家で、ストレスが溜まっていました。それは彼が描きたかったものというのが、世間が求める人種問題であるとか、ドラッグ、ラップ、銃、貧困などのようなステレオタイプではなかったからです。
そんな彼は、まさに彼が嫌うそういう世界を描いて人気になっていた女性作家シンタラ(イッサ・レイ)を蔑んで見るようなところがありました。
そんな彼は、学生と人種論で口論となったりしたことから、周囲の勧めもあって郷里のボストンに帰ります。そこにはビーチ近くにキレイな豪邸があり、それが彼の実家でした。
実家にはアルツハイマーの症状を見せている母アグネスがお手伝いさんと住んでいました。モンクは地元で医者としてバリバリに働いている妹リサ(トレイシー・エリス・ロス)と家族団らんの時を過ごそうとしていましたが、その矢先にリサが心臓発作で他界してしまいます。
リサの葬式と入れ替わるように弟クリフ(スターリングKブラウン)も帰京します。彼は整形外科医で家庭生活をゲイの恋人の存在で崩壊させていました。現在はゲイ・ライフを満喫中です。
クリフは兄モンクを、自分と折り合いの悪かった父親のお気に入りだったこともあり対抗意識が強く、うまく打ち解けられません。
モヤモヤとした郷里での生活の中でモンクは近所の女性コララインと突如湧いた恋だけが唯一の心の安らぎでした。
その一方で、本屋に行っても自分の本が置いて欲しいジャンルに置かれず、人種だけで「黒人作家」のところに置かれることなどに嫌気がさしたモンクjは
偽名を使い、架空の黒人の荒んだ生活を描いた本を、半ばパロディのつもりで書きます。
するとこれが
白人の出版関係者たちから「これこそが私たちが求めていたものだ。黒人たちの過酷な現実がここにある。泣ける」などと大絶賛の声が起こり、たちまちハリウッドでの映画化の話まで進んでしまい・・・。
・・と、ここまでにしておきましょう。
これはですね
このコード・ジェファーソンという人の初監督作品です、元はコメディ系の脚本家みたいなんですけど、そうした出自の生きた、かなりきつい皮肉の効いたブラック・コメディを描いていると思います。
この映画ですけど、いやあ、僕にはかなり感慨深いですねえ。
だってこれ
僕がブラック・ムーヴィーに興味持ち始めた1990年代の初頭、例えばスパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」だったりジョン・シングルトンの「ボーイズ・ン・ザ・フッド」なんて映画が出てきた頃は、ハリウッドで荒廃する黒人のリアリティを強く見せる映画そのものが存在しなかったんですよ。だから、すごく衝撃だったんですよ。こういう世界が現実にあって見て見ぬ振りをしていたわけですから。
実際問題、
https://www.youtube.com/watch?v=QsWto8p7t1E
ヒッホップだってそれまではその後のそれとはだいぶ事情が違ってて、そんなに重くシリアスなものが流行っていたわけではなかった、特にバカ売れするものはダンス受けの良いようなタイプだったんですけど、こういう映画が流行りだした頃から、ドラッグ・ディーラーのこととか暴力といったギャングスタ・ライフが描かれるようになって、それがメインストリームではやるようになったんですよね。
今でこそパブリック・エネミーとかNWA、アイス・キューブ、トゥパックとヒップホップ史に燦然と名を刻んでますけど、最初からバカ売れしてたとかでは決してなかったですからね。彼らの主張が受け入れられるにはある程度の時間はかかってましたからね。
でも、それがストリート・カルチャーの主軸として受け入れられるようになった。それはカルチャー的にはものすごい転換期だったし、僕自身もこういう映画、ヒップホップを耳にして、「もっとブラック・カルチャー、ブラック・ヒストリーに耳を貸さなくちゃ」となっていたものです。
ただ、これが30年も時間が経ってしまうと、黒人の社会やカルチャーの置かれた環境もガラッと変わってしまう。今回のこの映画は、その事実を端的に示した形となりました!
まず一つはやっぱり
やっぱ、この写真が一番象徴的なんですけど、裕福な黒人の家庭だって少なくないわけです。今でも白人やアジア系に比べたら、裕福な家庭のj比率は少ないかもしれない。ただ、30年前に比べればやはり成功する人は目立つようにもなってはきているし、学校生活でも人種差別があった時代のように黒人が隔離されて学校に行くようなシチュエーションそのものも、よほど因襲的な地域でない限りはなくなっていっているわけです。特に最近のハリウッド映画の学園ものでも、やっぱ社会的な配慮から、黒人の学生、必ず出てくるようになってきてたりするでしょ?そう考えていくと黒人だからといって、誰もがギャングスタ・ライフを体験しているわけではないし、それが自分の人生にとってピンとこない人だっているわけです。
それに近いことは
このSZAの大ヒットアルバム「SOS」のレビューでも書きましたけどね。これも、「黒人だからといって、何もみんながR&Bを聞いてるわけではない」と彼女自身が言っていて、一人の黒人女性として、表現できる音楽をボーダーレスに表現した作品なんですよね。そこにはクラシックだったりフォークだったりロックの要素も含まれ、男性ラッパーとのコラボもすれば、フィービー・ブリッジャーズのような白人のロック系のシンガーソングライターとも共演する。その昔の、ゴスペルやソウル、ファンクと、「黒人の誇り」を込めたタイプの頃の黒人音楽から、これがいいのか悪いのかまではわからないですが、その肩の力の抜け方がかえって現在の黒人のリアルな一面を表していたりもするんですよね。
最近は特にこういう素直な表現を女性のシンガーやラッパーの方がうまくできてるから、彼女たちの方が国際的にもシングル規模で受けてます。その一方で、強面でトラップにこだわってるようなタイプはアメリカでこそウケてますけど国際的ヒットは激減してるし、もうビッグネーム以外はアメリカでもそこまで売れなくなってきている。なんとなくこうした最近のブラック・ミュージックのシーンのシチュエーションも、どこかこの映画に似たものを感じさせるんですよね。
それに、「強面でマッチョなストリート・スタイル」みたいなものを業界がコア層狙って求めたところで、それはそういうところにはまらない黒人アーティストの商業的に売れる可能性を狭めてしまいかねないでしょ?最近、このスティーヴ・レイシーなんかもそうですけど、そういう業界が押しつけるイメージにはまらない黒人表現者の方が面白いんですよ。
このレイチェル・チヌリリって女性アーティストも彼女はイギリス人ですけど、インスタで「私の音楽を顔を見て決めないで。私はずっと昔からインディ・ロックで育ってるの」とロック宣言してます。そうしたタイプの黒人アーティストたちが出てくるようにもなってきてるんですよね。
そういう、「黒人としてのステレオタイプを求められること」が窮屈になってきている人たちが黒人に増え始めている現象があること。これは僕も事実だと思います。
ただ、とはいえ
この映画、なにも「今現在のギャングスタ・ライフを描いているものなんてみんな嘘だ」みたいな帰結になっているわけでもないところに救いはしっかりあるんですよね。そこもしっかり逃さないで見て欲しいところです。
あと、この映画、見ていてですね
見ていてウッディ・アレンを思い出したりしましたね。基本的に時頭は良く、たいしたこともないのに偉ぶってる俗物を嫌うくらいの頭の良さはあるのに、でも、本人自身に何かが欠けてるみたいな。主人公のモンクって、まさにこのパターンというか。
あと、
ロバート・アルトマンの90年代の傑作「プレイヤー」も思い出しましたね。特に話が映画化に及ぶところですね。作り手が意図してくだらない方向に作ろうとすればするほどウケてしまうカラクリを皮肉とともに描いてるところなんて特にね。
今回の「アメリカン・フィクション」、オスカーでは作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞、オリジナル・スコアの5部門でノミネートされました。
主演のジェフリー・ライトって忘れてたんですけど、90年代にアート界の伝説ジャン・ミシェル・バスキアの伝記映画でバスキア演じた人ですね!アンディ・ウォホールに扮したデヴィッド・ボウイが見れるやつです。
あと助演男優ノミネートのスターリングKブラウンはドラマ「This Is Us」の真面目で堅物の役からガラッとイメチェンしてます。これも見ものです。
ただ個人的には
売れっ子作家シンタラ役がイッサ・レイだったのが刺さりましたね。「バービー」で女性大統領バービー演じてた人です。今、「頭の切れる黒人女性」の役、みんなこの人に行ってますね(笑)。この人、HBOで主演と脚本かねた「Insecure」ってドラマでウケて、それを引きずってますけど、都会に生きるクレバーで洗練された黒人女性演じたら、今、一番の人ではあります。
あと、すぐに死んじゃうんですけど、妹役のトレイシー・エリス・ロスはダイアナ・ロスの娘さんで、「ブラキッシュ」という黒人ホームドラマのお母さん役でウケた人でもあります。