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映画「アルゼンチン1985〜歴史を変えた裁判」感想. 今の世にも有効! 軍の圧力に恐れない勇気
どうも。
今週は映画づいてますが、今回も映画レビュー。これです。
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はい。アマゾン・プライムで配信の映画「アルゼンチン1985」、こちらのレビュー行きましょう。
これは国際的にかなり評判のいい作品なんですけど、一体どんな作品なんでしょうか。
まずはあらすじから見てみましょう。
時は1985年。アルゼンチンは反共軍事政権が終焉して2年。民主政治は戻ってましたが軍事政権の影響は強く残っていて、「軍に立てつくことがあればま軍政を!」と軍人がイキってる頃でした。
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主人公のフリオ・ストラッセラ検事(リカルド・ダーリン)は、1970年代のアルゼンチン最大の独裁者ビデラ元大統領の時代に軍警察が政治犯に対して行っていた悪事を裁判で訴える準備をしていました。
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ストラッセラ検事には年頃の娘、息子がいましたが、軍がスパイらしき人物を娘に近づけるなどの疑惑の行為も行われていました。
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勢い正義感で突っ走るストラッセラ検事に対し、若手のオカンポス検事は自身の保守的なバックグラウンドから、裁判をうまく立ち回ったやり方で行うことを提案します。
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オカンポスからのアイデアのひとつが、軍からの逮捕、そしてそこで軍から拷問などの類にあったと思われる人たちへの調査を、若者のボランティアにやらせることでした。
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その調査をもとに運命の軍を相手にした裁判ははじまりますが、原告となった被害者の口からは想像を絶する言葉の数々が聞かれます。「政治犯として誘拐した妊婦に暴力を振るい、レイプをした・・・」。このような証言が続いていきます。
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国民の期待と軍の圧力を受け、ストラッセラ検事がどういう判断を行うか・・・・。
・・・と、ここまでにしておきましょう。
これはですね
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実話に基づいた、アルゼンチン、南米にとって非常に重要な裁判の話です。このストラッセラ検事の勇気がなけれは、南米における「第2のキューバを作らせん!」ということを建前にした軍政による左翼迫害、拷問、殺戮は罰せられなかった、これがあったから南米に今日まで続くリベラルな気風が生まれたんです。その意味で僕にとってもこれ、重要な出来事なんですよね、これ。
それもそのはず、この
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裁判の対象になったヒデラって大統領、この男がとにかく鬼畜以外の何者でもありません。
僕、ブラジル来て何ベイの新聞記事を翻訳する仕事もしてるんですが、翻訳したことあるんですよ、この男の残虐行為を。こいつ、政治犯、飛行機の上から投げ落とすことを命じてるんですよ!あれを訳した際の、吐きそうになった気持ち悪さは未だに忘れません。
それに輪をかけてひどかったのが
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チリの独裁者、アウグスト・ピノチェトですね。1970年代、この男、政治犯を万単位で虐殺しています!
そのことは
1982年のこの名作映画「ミッシング」でも描かれてます。ジャック・レモンがチリで生活して政治犯として捕えられて行方不明になった青年の父、シシー・スペイセクが青年の彼女役なんですけど、これ、すごかったのは日常生活で死体が道端に普通に転がってるんですよ!そういうことを当たり前のようにやってたのがピノチェトです。
結局、「ミッシング」での青年は軍に殺されていたんですけど、南米音楽史を代表するフォークシンガー、ビクトル・ハラもスタジアムに連れていかれそこで処刑されてます。
チリがもっともひどかったわけですが、アルゼンチンもかなりのものでして
U2も1987年の名作アルバム「Joshua Tree」の最後の方で「Mothers Of The Disappeared」という曲を歌ってるんですが、これはまさにアルゼンチンの軍政時代に行方不明になった政治犯の子供の母親たちが作った組織のことを歌ったものです。
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この人たちですね。彼女らも、今回の映画でえがかれてます。
このストラセッラ氏の偉業を
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アルゼンチンの国民的俳優リカルド・ダーリンが熱演してます。
彼はですね
2010年にこの「瞳の中の秘密」という映画で主演してまして、そのときにオスカーの外国語映画賞を受賞してます。
2014年のこの映画も外国語映画賞にノミネートされてて、ブラジルではかなりのロングラン・ヒット。もうカリスマ俳優なんですよね。
そして、この「アルゼンチン1985」もオスカーの外国語映画賞あらため国際長編映画賞の有力候補です。
期待していたら
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早速ゴールデン・グローブ受賞ですよ。これは嫌が上でも期待がたかまります。
そして、これ、ブラジルでも無縁じゃないんですよ。同じ1960年代から80年代、ブラジルも軍事政権だったわけですが、その負の遺産が
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クソ大統領ボウソナロです。軍隊出身。何かあればすぐに軍事政権の復活をちらつかせる最悪の野郎ですけど、去年の秋の選挙で負けました。負けたあと、こいつは鬱になって黙ってたんですけど、こいつの支持者が2ヶ月、毎日のように軍施設の前で軍事政権の復活を嘆願する抗議運動をした結果
こないだの日曜に起きた、支持者たちの議事堂、最高裁、大統領府の襲撃ですよ。これで1100人が起訴。ブラジル、今、この話題で持ちきりですよ。
でも、ブラジルも屈してません。ボウソナロをしっかり選挙で落としてます。その背景には、選挙期間中、連日のように不正行為を繰り出してくるボウソナロ支持者たちに対して
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毅然と罰し続けたアレッシャンドレ・デ・モラエス最高裁判事の奮闘がありました。この人がコロナのときに「外出続けようぜ」と煽り続けたボウソナロからコロナ対策の権限奪ってます。ボウソナロの意のままだったら、現在世界2位の69万人だったかな、コロナでの死者数200万人くらいにはなってましたよ。あと、ブラジル内ではびこってたフェイクニュースを罰し、逮捕者続出させて、ネット環境をすごく良くしたのも彼です。彼がブラジルにおけるストラセッラ検事の現代版です。だから、他人事で見れないんですよね、この映画!オスカーにすごく期待しています。