オスカー受賞作レビュー④「ミナリ」 国の内でも外でもアイデア豊富な韓国人の映画
どうも。
オスカー受賞作映画のレビュー、3つで終わるといいましたが、ちょうど今週からサンパウロの映画館、再開してまして徐々に受賞作、見れる感じになってきています。そして、早速1本見ました。
そこで今回はこれのレビュー、いきましょう。
これもオスカーで話題でしたね。韓国系のアメリカ映画です、「ミナリ」、こちらについて語ることにしましょう。
もう日本でも公開されてる映画なので、詳しく語る必要はないとは思うんですけど、見ていらっしゃらない方も少なくはないと思うので軽くあらすじいきますね。
ストーリーは農家を営むイー一家がカリフォルニアから、韓国製野菜、これをミナリと呼んでいましたが、これの栽培と商売を成功させるべく、アーカンソー州に引っ越すところからはじまります。
夫のジェイコブ(スティーヴン・ユン)は夢は大きいものの一度決めたらテコでも動かぬ強い意志の持ち主です。そんな彼に、内心はカリフォルニアに戻りたい妻のモニカ(ハン・イエリ)は閉口します。
夫婦には娘のアン、そしてまだ幼い息子のデヴィッドがいました。デヴィッドはいたずらっ子的な側面もあり非常に愛らしいのですが、心臓に持病を抱え、モニカとしてはいつ死んでもおかしくないとすごく心配な存在でした。
夫婦は近くの養鶏の工場で働いて共稼ぎしながら、ジェイコブは数少ない協力者のポールとミナリの生産に精を出します。
子育てを気にしたモニカは、故郷・韓国から母親のスンジャ(ユンヨジュン)を呼び同居を始めます。
スンジャはデヴィッドに対し、優しさと厳しさの両方で接し、デヴィッドの信頼を得ます。心配するモニカをよそに、スンジャは、体が弱いと思われることに嫌気がさしていたデヴィッドの心情を察し、もっと信頼するようモニカにさとします。
そして日曜になると、片田舎にひとつあるだけの教会に彼らはでかけます。白人ばかりで韓国人などろくにいない状況で彼ら一家は珍しがられたりもします。
そんな折、ある朝、デヴィッドが起床するとスンジャの様子がおかしく・・・。
・・と、ここまでにしておきましょう。
この映画ですけど、まず
ユン・ヨジュンが助演女優賞を受賞しました。この彼女の受賞って韓国映画史的にもすごく意味のあるものみたいですね。というのも彼女は
70年代初頭には韓国の伝説の鬼才監督キム・ギヨン、彼の映画2本に主演して、この時点でかなり話題になってたらしいですね。で、一度結婚して引退して渡米。2人の子供を育てていましたが1985年に離婚。帰国して女優活動を再開し、とりわけ2000年代以降がすごい。韓国の国内のアワード、毎年のようにノミネートされてて
2017年にこの「バッカス・レディ」という映画に主演して、これが大絶賛されたみたいですね。
その勢いもあり
2017年に、「ユン食堂」というバラエティ番組に、かの「梨泰院クラス」のパク・セロイことパク・ソジュンと共演して、かなり広い層に知られる存在になっていたようですね。
そんな韓国映画界に貢献してきた彼女に最大の褒美をオスカーという形であげることができたこと。それだけでもこの映画十分にすごいんです。
ですけど、僕はむしろ
この監督のリー・アイザック・チョンの監督ぶりと脚本にとにかくうならされましたね。
なにがいいかって、これ
題材!
だって、すごいじゃないですか。記憶にないですよ。オスカーの作品賞に、「野菜のビジネスをアメリカで成功させようと苦闘する移民一家の話」なんてものがノミネートされたって。
これ、今年のオスカーの傾向なんですけど、たとえば「サウンド・オブ・メタル」が耳の聞こえなくなったドラマーの話だったり、こないだ紹介した「アナザー・ラウンド」が、又聞きを信用して毎日酒を飲んで過ごそうとする、とかね。こういう話が引っかかってくるオスカー、今まで聞いたことありません。
それが、パンデミックで、オスカー参戦を断念した映画が多い年にクローズアップされ、そっちの方がむしろ高評価だったことは、これ、ハリウッドは考えなくてはならないことだと思いますよ。こういう意外性のあるストーリーがこんなにたくさん出てくるのであれば、人気映画の続編やリメイクに頼らずとも、面白い映画なんていくらでも作れることの証明なのでは、と改めて思いますからね。
そしてこれ、話の進め方がいいんですよね。劇中、それなりにドラマティックなこと、起こるんですけど、あくまでも主眼となっているのはこの一家の淡々とした日常で、その中に自然にドラマが起きている感じがすごくリアルなんですよ。作為性が薄いがために、大きなことが起こった時の見る人のエモーションがかえって高まるんですよね。このあたりも「うまいなあ」と思ったし、アワード対象作も含めて昨今の映画に不足しているものです。見ていて、古き良き日本映画を見ているような気分にもなりました。
で、これ、この監督のほぼ自伝なんですってね。つまりデヴィッドに監督自身が投影されていた、ということなんでしょうね。あんまりエイティーズっぽくは見えないんですけど、アメリカの田舎なのでそこまで気にならないかな。あと、劇中の音楽のセンスもすごくよかったですよ。
それにしても韓国は国内のこと描かせても、昨年の「パラサイト」で証明したように定評があるし、移民としての作品でもここまでの力作が残せる。クリエイティヴィティ豊かだよなあと改めて痛感します。
ちなみに
韓国系アメリカ人俳優でこの主演で注目度をあげたスティーヴン・ユンですが、作品オファー殺到中なんですって。ジョーダン・ピールの新作などに出演との噂が出てます。
あと
奥さんモニカ役のハン・エリですが、彼女は韓国の人気女優で、最新主演ドラマの、タイトルが原題ですごく長いんですが「私たちは家族です」みたいなのに主演してまして、このドラマ自体が今年のペクサン・アワードの作品賞にノミネートされていたりもします。