「ストリーム時代に世界で本当に聴かれているアルバム」 21世紀編②2000年代の動き
どうも。
では、「ストリーム時代に世界で本当に聴かれているアルバム」、21世紀編。①では、20世紀の際に「1000万ストリームが8曲以上」としていたアルバムを「1億ストリームが8曲以上」にレベルを上げて紹介しましたが、今回はまだ1000万ストリームに基準を戻して話していきたいと思います。
今回やろうと思っているのは、この20数年で「聴かれるアルバムがどのように変わっていったか」、この変遷に迫ることです。
20世紀でとりあげたアルバムを覚えていらっしゃる方は、それらのアルバムがほぼロックだったことに気がついていらっしゃるのではないかと思います。ところがそれが21世紀になると、ヒップホップや女性アーティスト、アイドルといった、20世紀には正直強いと思えなかったものがパワーを持つようになっている。これはどうしてできていったことなのか。これを編年体に近い形で迫ってみたいと思います。
①「フェスに強いインディロック」は、時代問わず王道
まずはここから話を始めたいと思います。
ロックの需要そのものは落ちても、「アルバムを聴くリスナーの比率が高いジャンル」といえば、やっぱりロックなんですよね。これはもう、伝統的なもので。やっぱ、普段、そんなにシングルって売れないじゃないですか、ロックの場合。やっぱり、リスナーが一番期待するのはアルバムであり、それに伴うツアー。そういう聞き方を当たり前のようにずっとしてますからね。
それがあるからなのか、以前ほど強くはなくなってはいるものの、ロック、とりわけインディ・ロックって、ストリーミングの中においては安定はしてるんですよね。でかいシングル・ヒット、10億ストリームくらい稼ぐようなものこそ多くはないんですが、浮動票の少ない安定したファン層がいるというか。だから、浮き沈みであったら、ストリーミングにおける人気曲とそれ以外の曲の格差も大きくないというかね。
あと、いったんキャリア上でその地位を確立してしまえば本当に強い。特にこのあたりは
コールドプレイ、ストロークス、アークティック・モンキーズ、The 1975。このあたりは強いです。なにせ、オリジナル・アルバム、デビューからすべて「1000万ストリーム8曲以上」、達成してますから!
これ、なかなかすごいことですよ。コールドプレイ9枚、アークティック・モンキーズが7枚、ストロークス6枚、1975が5枚。アークティックと1975は出て半年の最新作も含んでます。このあたりはブレずに文句なしに強いですね。
中でもやっぱりコールドプレイってすごくてですね。1億ストリーム8曲はないんですけど、6曲はこのセカンドともう1枚、5曲が1枚、4曲が2枚と、もうバンドでは破格ですね。ある時期からは、もうロックとは言えないとは僕も思ってはいるんですけど、少なくともファースト、セカンドで成し遂げたことというのは、同じ時期のリンキン・パークだったり、エミネムと同じくらい重要だった気は僕はしますけどね。
あと、「デビュー・アルバムからずっと」という点で続いているのがTame Impala、Bon Iver、Vampire Weekendの3組。彼らがいずれも「4枚連続」で迫ってます。
あと、フェスでヘッドライナー努めるようなバンドはやっぱ強いです。リストを並べておきますと。
8枚
レディオヘッド
MUSE
7枚
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
5枚
フー・ファイターズ
ザ・キラーズ
4枚
グリーン・デイ
キングス・オブ・レオン
アーケイド・ファイア
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ
3枚
THE XX
ザ・ナショナル
このあたり、長く強そうな感じするでしょ?
あと、20年くらい前だったら、「アメリカのバンドは国際的に受けるけど、イギリスのバンドはウケない」とされてきてました。今でも、イギリスでローカルなままのバンドも多いです。
ただ、2000年代の、とりわけ後半からはそうでもなくなってきて、たとえばクークス、Two Door Cinema Club、フォールズあたりは1000万ストリーム8曲越えのアルバム、あるんです。このあたりは昔と少し違うところです。
なぜ、それが可能になってるか。それを支えているのは、やはりヨーロッパから広がったフェス文化ゆえですね。90sの後半からイギリスで強くなって、ヨーロッパ、そして日本で拡大して、2000sの後半からアメリカ、10年代が南米・・・と広がっていきましたが、ツアーに意欲のあるイギリスのバンドが増えていく印象ありましたね。あと、フランスですけど、フェニックスもこの時期に対象となるアルバム、ありますね。
ちなみに意外なこと言いますと、ホワイト・ストライプスだと、これがなんと1枚しかない!さらに、フランツ・フェルディナンド、ヤーヤーヤーズ、インターポール、LCDサウンドシステム、セイント・ヴィンセントにいたってはゼロです。これはちょっと悲しい結果だったんですけどね。
②メタルの凋落
続いては「メタルの凋落」。ここも注目です。
90年代までは、オールド・スクールもそうだし、ミレニアム直前のニュー・メタルもすごく強いんですよ。20世紀編の後編なんて特に顕著ですけど、メタリカ、ガンズが強くて、リンプ・ビズキットやパンテラ、TOOL、スリップノット、システム・オブ・ア・ダウン、デフトーンズ、インキュバス、さらにはディスターブドまで入ってて。
それが21世紀に入ったとたん、こないだの①でも例を示しましたけど、それらしいアルバム、全く入ってなかったでしょ?ここ、最大の変革ポイントです。だって、これまで「アルバム・リスニングの象徴」みたいな存在だったこの音楽が姿を見せなくなったわけですからね。
これ、ひとつはシーンのアンラッキーが連続して積み重なった結果でもあるんですよね。まず最初はウッドストック99。あのフェスで問題となった、、放火ヤレイプまでをも含むニュー・メタル・ファン、そしてそれを煽ったリンプ・ビズキット。これでニュー・メタルがフェスの出演対象から除外されて、ジャンル特化型のものしか出れなくなってしまいます。これは、リンプ、KORNを筆頭としたやんちゃ型のバンドには響きました。
その一方で、硬派な側のはずだったレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやシステム・オブ・ア・ダウンが長期の活動休止状態に入ってしまった。TOOLも13年くらいアルバムを出さなかった。
そうなってしまったから
リンキン・パークとスリップノットが引っ張っていくしかなくなってたんですよね。
リンキンは「Hybrid Theory」が1億ストリーム8曲以上のすごいことになってましたけど、その後も7枚のアルバム、圧倒的に強かったです。アルバム収録曲が1000万ストリーム超えるのはあたりまえだし、
セカンドの「Meteora」も1億ストリーム7曲、サードでも5曲、その後も6枚目だけ少し弱いんですけど、ほかもだいたい3、4曲は1億超えの曲がありますからね。
スリップノットも、去年出た最新作以外の6枚は1000万ストリーム8曲は余裕でクリアしてましたね。
それだけに2017年のチェスター・ベニントンの急死は本当に惜しかったんですよ。あれで本当に牽引する人がいない状況になっちゃいましたからね。
その間、人気になったバンドって、
ファイヴ・フィンガー・デス・パンチだったりアヴェンジド・セブンフォールドとか、いるにはいます。いずれも、1000万ストリームくらいの曲なら安定してたたき出せます。
ただ、①であげたようなフェスに強いインディのバンドに比べると、1億ストリーム・クラスのヒット、ましてやコールドプレイとかアークティックがいくつも持ってる10億ストリーム級のヒットは皆無。その時点でインパクトの勝負では弱いです。
そしてそれ以上に問題なのは、彼らのイメージですね。バリッバリの保守なんです。ニュー・メタルにはそれ系の人がメンバーにいるケースも多いんですけど、この人たちはその主張がかなり表向きですからね。特定ジャンル以外のフェスには出れない感じ。これじゃさすがに広がりません。
それよりは圧倒的に
Bring Me The Horizon、BMTHとゴースト、この2つですね。楽曲スタイルでの個性、曲の良さ、さらにメタル系意外のフェスへの積極性。この点で頭一つ抜けてますね。彼らもBMTHが5枚、ゴーストが3枚、1000万ストリーム8曲以上のアルバムを持っています。
あとは
ドイツ孤高のカリスマ、ラムシュタインですね。デビューから一貫してドイツ語でしか歌ってないんですけど、昨年の最新作まで8枚連続で1000万ストリーム8曲以上。この人たちの存在も見逃さない方がいいと思います。
③ブームが去っても根強いエモ
あとですね、エモ。これがものすごく影響力強い人気なんですよねえ。もしかしたら、一番強かったりするかもしれません。
このシーンを牽引したのって
もう、この4つですよね。マイ・ケミカル・ロマンス、フォールアウト・ボーイ、パラモア、パニック・アット・ザ・ディスコ。いずれもエモブームのときの2000s後半の写真使ってますけどね。
その中で特にストリーム多かったの、これですね。
はい。マイケミの「The Black Parade」。これは惜しかったんです。1億ストリームが7曲。もう少しでこないだのリストに入ってたんですよね。2000年代で入ってたアルバム、わずか3枚でしたけど、それに匹敵するアルバムだった、ということです。
この頃、この4バンドってものすごくアイドル人気で、低年齢層のファンすごく多かったんですよ。そこは日本とかなり事情違ったような気がします。僕がサンパウロ行ったのがちょうどそのブームの最中だったんですけど、今、Kポップ関連の写真集でいっぱいのキオスクが、その頃、エモバンドでその需要が満たされてましたからね。
そういうこともあって、批判も多かったんですよ。僕の聴いてたFMのロック局、エモバンドは頑なにかけてませんでしたからね。
あと、コーチェラ・フェスティバル、あるでしょ?あのエモブームの当時、ただの一つも出演させないくらい、お高くとまったインディ・フェスだったんですよ。今では信じられませんけどね。
そういうこともあって、ブーム、つぶされちゃった感がありましたね。これがねえ、結果的にはロックにとって大致命傷だったんですよ。だって、ロックがキッズを獲得できる要素がこれで失われてしまったんだから。
実際、この後に続いていく後続のバンドがなく、ブームは終わってしまったんですけど、ただ、解散したマイケミは除いても他の人たちの人気はまだ続いたんですよね。
前回も言ったようにように、パニック・アット・ザ・ディスコはこのあと復活してメガヒット・アルバムを出すし、パラモアは、僕のブログ読んでる
人ならいかに良質なインディ・ロックバンドへと脱皮したかはもう何度も聞いてるかと思います。
さらに
フォール・アウト・ボーイ、2013年のアルバム「Save Rock n Roll」。これ、驚いたんですけど、1億ストリーム、5曲もあるんですよ!それ以外もストリームの多いアルバム、満載で。この人たちがここまで根強かったのは僕もマークしてなかったですね。
あと
ブリンク182。この人たちの場合、ポップパンクだと思うんですけど、頑なにエモを主張(実際、初期に「Emo」って曲、ありますしね)するトラヴィス・バーカーの商売上手にも乗せられたか、この人たちも6枚で1000万ストリーム8曲以上ですよ。グリーン・デイが4枚なのに。このあたりに、エモ・アピールした彼らのうまさがあると思います。
エモがなんでそこまで人気なのかというと、暗い心情を刺激する存在だからだと思います。Spotify、そういう暗い歌詞のアーティスト、大人気なんですよ。ザ・スミスはほぼすべて1000万ストリームの曲だし、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのファースト、ジョイ・ディヴィジョンの「Unknown Pleasures」、ニック・ドレイクの「Pink Moon」が大人気であることは20世紀編でも語ったとおり。それが21世紀にポップに展開されたのがエモ・ブームだったと思うんですよね。だから、ここの層は意外と多いし、音楽を長く語り続けてくれる人たちでもあるんですよね。
④21世紀型アダルト・ポップ
続いて、あえてこういう言い方をするんですけど、「21世紀型のアダルト・ポップ」、これがなんだかんだで一般層には一番強い音楽だと思ってます。
これはなにかというと、70、80年代までのAORまでとはちょっとちがう、90年代ではオルタナティヴ・ロックのチャートに区分されていたようなものの中で、アコースティックやソウル、ジャズなどのテイストを強めた感じのものですね。
代表的な存在といえば、2000年代なら
やっぱ、マルーン5とかジョン・メイヤーですね。この2組とも2000年代の初頭にデビューしてて、もうほぼ全部のアルバムで1000万ストリームほぼ全曲行ってるレベルです。
特に驚くべきはジョン・メイヤーで、平均ストリーム数が高い。どのアルバムも3曲以上は1億ストリームがあって
この2006年のサード・アルバムなんて、1億ストリームが5曲もあるんですよ。そこまでビッグとは正直思ってなかったですね。
これに加えて、ジャック・ジョンソン、マイケル・ブーブレ、そして女性だとノラ・ジョーンズとかジョス・ストーンあたりが加わるイメージかな。ノラ・ジョーンズがブームになったので注目されやすいですけど、彼女の1000万ストリーム8曲以上は最初の2枚だけなんですよね。
ただ、もう、ノラもですしジャック・ジョンソン、ブーブレあたりはちょっともう商業的な勢いの点では下降してまして、その代りに
やっぱ、エド・シーラン、ブルーノ・マーズ、アデルの3人ですよね。もう、この3人が長く売れるロングセラーを独占してる感じですね。
⑤2000年代はまだそこまでアルバムは聞かれる感じではなかったR&B/ヒップホップ
あと、「21世紀の1億ストリーム8曲のアルバム」でR&B/ヒップホップのアルバムがやたら多かったんですが、これが20世紀だと、かなり限られたすくなさだったんですよね。しかも「ヒット作」というよりは「名作」と謳われるような作品しかなかった。
これはですね、実は2000sでも同様なんですよ。この時代、かなりこのジャンル、売れてはいたんですが、
ちょうどいい写真が見つかったのでそのまま載せますけど、すべてのオリジナル・アルバムが1000万ストリーム8曲以上のアルバムだったアーティストなんて、それこそエミネム、ビヨンセ、カニエ、この3人だけだったんですよ!
あとがですね、ジェイZが「アルバムによる」感じです。通算で、この「The Blueprint」を含む5枚だけ。しかも、うち3枚は2010年代のリリースです。あと50セントが最初の2枚だけ。ネリーなんて、あの頃、めちゃくちゃ売れてたのにゼロですね。フローライダーも同様。
それよりも驚いたのが、批評評価抜群だったはずのアウトキャスト、ミッシー・エリオット、アリシア・キーズ、メアリーJブライジ、このあたりも1000万ストリーム8曲のアルバム、ないんですよ!アウトキャストが一番多かったの、98年に発表したサードアルバムで、「Stankonia」「Speakerboxxx/The Love Below」はシングルヒットしたもののみなんですよね。
あと、ディアンジェロの名作「Voodoo」でさえも、1000万ストリームを超えたのは5曲しかありません。
R&Bに関しては、アッシャーが2枚くらいあった程度で、あとは本当に少なかったですね。ビヨンセにしても、ソロになってからは全作ですけど、デスチャの時代はシングルになった曲のみ強いだけで、1000万ストリーム8曲のアルバムはありません。
これ、「このジャンルのリスナーが極端に後ろを振り向かない性質」なのか「このジャンルのリスナーの多くがアルバムよりもシングルばかりを聞く傾向が強かった」かのどちらかで両方あると思うんですけど、僕は後者だと思ってます。
この状況が、次のたった10年でガラリと変わるんだから、本当にリスニング環境が与える影響力は大きいですね。
⑥2008年に4人の女性が全てを変えた
あと、20世紀までだと、女性アーティストのアルバム、ほとんど売れてないことにお気づきではないでしょうか。だって、あのマドンナが、1000万ストリーム8曲以上のアルバム、ゼロですよ!それはホイットニー・ヒューストンであろうが、ジャネット・ジャクソンであろうが同様です。マライアはXマス・アルバムしかないし、TLC、アリーヤ、スパイス・ガールズも同様です。
あと、自作自演やロックにしても、入ってたの、アラニス・モリセットとクランベリーズが、それも1作ずつ程度でしょ。大昔を紐解いても、アレサ・フランクリンとキャロル・キングが1作ずつだけ。
おそらくR&B同様、女性アーティストも、「シングルヒットで聴く存在」だと見なされすぎていたのでしょう。
それが2000年代の後半からガラリと変わります。ひとつは
エイミー・ワインハウスの「Back to Black」ですね。これが1億ストリーム位以上の曲が6曲。惜しかったんです。これも最終的には、前回のリストに乗るものになると思いますが、
ただ、女性アーティストのアルバムが聞かれるようになったタイミングはここでしょう。
左からケイティ・ペリー、テイラー・スウィフト、レディ・ガガ、そしてリアーナ。この4人のブームが2008年に一斉にきたことで、アルバムの聴かれ方が一気に変わりましたね。彼女たちを境に、女性アーティストのアルバムのストリーム数がシングルに関係なく、一気に跳ね上がってます。
なんか日本の音楽における「宇多田と林檎とaikoとMISIAとあゆはみんな98年デビューだ」みたいなやつ、ありますよね。あれの洋楽版がこれかなと。洋楽も、これに二つ前のとこで言及したアデルを足してもいいと思います。
ここでの変化で一番象徴的だったのはリアーナかな。
このサード・アルバム「Good Girl Gone Bad」。このアルバムも1億ストリーム7曲のモンスター・アルバムなんですけど、その前2作がどうかといったら、典型的なそれまでのR&Bまでのアルバムの作り方だったんですよ。どの曲がシングルで、どれがただの埋め合わせの収録曲かが、目つぶって聴いてもわかる感じだった。ところがこのアルバムでは、その欠点が一気に解消され、アルバム・トータルごと、進歩的なサウンドで高いクオリティを保っているんですよね。そこはやはりかなり画期的でしたよね。
あと、テイラーとかケイティの歌詞が、女の子の気持ちを喚起する、いわゆるエンパワメントといわれるものなんですけど、女の子の関心が
シングル曲だけのところから、アルバム全体へ、アーティスト像そのものへの強い関心に切り替わって行ったのもこの頃だったんじゃないかなと、僕は推測しています。
では、次回、2010年代のことにいきたいと思います。