沢田太陽の2022年間ベスト・アルバム 10〜1位
どうも。
では、沢田太陽の2022年間ベスト・アルバム、残すはトップ10のみとなりました。
これまでの発表ではランダムなコラージュ写真を使いましたが、毎年そうなんですけど、トップ10だけはガチです。この見たまんまが、そのまま順位となります。
今年の、本当に大好きなアルバムばかりですが、トップ10、こうなりました!
いや〜、眺めているだけでもいいですね。
では、10位からいきましょう。
10.Mr.Morale And The Big Steppers/Kendrick Lamar
第10位はケンドリック・ラマー。5年ぶりのこのアルバムが入りました。このアルバム、実はあやうくトップ10から漏れかけました。文句なしに素晴らしいんですけど、どう聴いても「good kid MAAD Cityや「To Pimp A Butterfly」とは並びようがない作品なので。トップ10にも選びたい作品多いし、外れてもらおうかな・・と思ってたんですね。でも、このアルバムより好きじゃない「Damn」が2017年の僕の年間で11位でそれより低い順位なのは気が引けたし、これ外すと僕の年間ベスト史上、はじめてトップ10にヒップホップが0枚になるので「それは少し厳しすぎるかな」と思い、もう1回通しで聴いた末に10位にしました。このアルバム、素晴らしいのは、いわゆる「トラック」の概念を超えて、「楽曲」としての完成度を1曲1曲で目指していることですね。そこはアレンジャーにジャズにも通じてる人を据えたりしてますし、音楽的に従来のヒップホップを超える努力をしているのがわかるし、トラップに過剰に固執する今のUSのシーンからしたらきわめて良心的です。ただ、なんかレディオヘッドにおける「Hail To The Thief」みたいな作品ではあるけど「Kid A」的では決してないよなあ、それって過小評価されて再評価を促したいタイプの良質作品にはなりえても傑作というのとは少し違うなと、どこか引っかかってしまう自分がいることも事実です。「We Cry Together」「Purple Hearts」「Auntie Diaries」「Mother I Sober」など個人的に愛してる曲も多いんですけどね。
9.Mr.Money With the Vibe/Asake
9位にはアシャケを選びました。アフロビーツ注目の新鋭です。今回、ケンドリックほどの存在をそこまで上にしなかったのは「2022年はヒップホップよるレゲトンやアフロビーツ」という理解が僕の中であって、そちらの方を優先したかったからです。そんな「もっとアフロビーツのこと知らなきゃな」と思っていた矢先の9月に出会ったのがこのアルバムでしたが、これがちょっとした衝撃でした。アフロビーツって、エレキギターとかホーンとかの生楽器使ってて、そこも僕が好きなポイントではあるんですけど、このアルバムはその状態でノン・ストップのDJミックスみたいな作品を作ってるんですよ。しかもリズムが複数の生楽器をポリリズミカルに使ってて。それが人力クラブ・ミュージックみたいですごくかっこよくて。さらに1曲ごとの長さは実は2分程度とかなり細切れだったりするのに、それが生演奏なのにうまい具合にシームレスにつながってることにも驚かされます。加えて、ただオールド・ファッションなだけでなく、場合によってはエレクトロっぽいベース音かましたり、ヴォーカルでオートチューンとか、トラップっぽいフロウを使ったりなど今どきのブラック・ミュージックっぽいアピールもちゃんとやっていて。こういう彼みたいな勢力がアメリカのR&B/ヒップホップのいいオルタナティヴになるといいんですけどね。
8.Harry's House/Harry Styles
8位はハリー・スタイルズ。今年を文句なく代表する国際的大ヒット・アルバムですよね。思えばその前兆は2019年の前作「Fine Line」でしたね。あれはあの年の12月2週目リリースで本来ならその年の年間の対象にはしないんですけど、あの年は10年代から20年代の切り替えもあったので極力19年のものはその年に入れたかったんですね。で、これ、事前のバズからなんか気になってたものだから聴いてみたら気に入って24位にギリギリ入れ込んだんですよね。あのアルバムでハリーは、ソロ第1弾での大真面目なクラシック・ロック路線からアイドルの軽さを良い意味で受け入れた等身大のロック路線に変えて大成功。あれがすごくアイドル・ポップにとってのゲーム・チェンジャーになったんですけど、今作ではそれがさらに進行。商業的にも大爆発しました。今年最大のヒットとなった第1弾シングルの「As It Was」の「Take On Me継承型ポップ」を皮切りに、全体を覆うのがThe 1975風ソフィスティ・ポップとインディ・フォークという、昨今のインディ・ポップの流行をふんだんに取り入れ、アイドル・ポップのあり方を根本的に変えましたよね。それはミツキやウルフ・アリス、Wet Leg、アーロ・パークスを起用した自身のツアーのオープニング・アクトの選択もそう。インディやロック的エッセンスをメインストリーム・ポップに引き上げシーンの活性化と全体のレベルアップをはかる。頼もしい存在になったと思います。
7.Un Verano Sin Ti/Bad Bunny
7位はバッドバニー。今年全世界で旋風を巻き起こしたレゲトンの象徴ですよね。このアルバム、全米チャートでスペイン語のアルバムで初の1位になったのみならず、今年最長の13週1位を記録。さらにSpotifyでは200位以内に10曲以上を発売から半年経ってもずっとランクインさせていました。もう、こういう話だけで十分に偉業を成し遂げた歴史的名盤です。実は当初、宇多田じゃなくて、これを11位にしようとしてたんですよね。やっぱ。先行発表してる順位なので目立つ方がいいじゃないですか。でも、これ、聴いてるうちに「やっぱトップ10からは外せない」と思いとどまったんですね。しかも10位ギリとかじゃない評価が必要だと。まず、これ、何がすごいって、基本、全曲でレゲトン特有の「ドンッ、チャ、ドン、チャ」ってリズムを使いまわしているのに、1曲たりとも似た曲調になってないんですよね。23曲もあるのに。しかもこれ、彼がほとんど全曲で曲、プロデュースもやってて。まず、そこがすごいことだなと。あと、こういう全米進出を本格的に狙った作品なのに、ゲストに客寄せ的なアメリカのセレブが皆無で、レウ・アレハンドロをはじめとしたレゲトンのライバルや先輩、はたまたマリアズやボンバ・エステレオみたいなラテン・オルタナティヴのアーティストを参加させることで南米の活気あるシーンの誇示もできているし。非常によく考えられているんですよね。まだまだ体系化されてなく謎も多いレゲトンですけど、入門はもう、これでバッチリでしょう。
6.The Car/Arctic Monkeys
6位はアークティック・モンキーズ。4年ぶりのニュー・アルバムが堂々この順位です。前作「Tranquility Base Hotel & Casino」も2018年の年間で8位にしてたんですけど、やっぱ、個人的にあのアルバムより評価したいのでこの順位です。前作は、最高傑作、商業的最大成功作の「AM」を受けてのアルバムだったので、かなりアダルトな方向に進んだことに戸惑いと批判的な声も多かったものですが、今回はその前作で提示した世界観を高いグレードで完成させたのがこのアルバムですね。ラスト・シャドウ・パペッツで築き上げていたスコット・ウォーカーというか、「バロック・ポップmeetsフランク・シナトラ」みたいなストリングス・アレンジに、ディアンジェロ以降のネオ・ソウルを融合させた、彼らでしか作りえないロック。アレックス・ターナーもしっかりヴォイトレしたのか、声の通りと表現力が格段に増していて、それを聞くだけでも酔いしれることが可能です。あと、よく言われる「ギターを弾かなくなった」というのは大間違いで、ジェイミー・クックのワウペダル踏みながらの歪んだリフや、「Body Paint」やアルバムのタイトル曲でのソロは、このバンド史上に残る名場面の一つですよ。このアルバムは多少時間かけて寝かせた方が評価が上がるタイプだと思います。
5.Skinty Fia/Fontaines D.C.
いよいとトップ5です。5位はフォンテーンズDC。アイルランドはダブリンの若き大物です。このバンドも2019年にデビュー作を7位にしてまして、「USはビッグ・シーフ、UKはフォンテーンズがシーンの主役にならないとロックに未来はない」と主張していたものですが、その感じで進みつつあることは今年確認されたような気がしてます。一昨年のセカンドは僕的には「我、関せず」な態度がやや期待外れだったんですけど、今作はもう文句なしですね。これまでの疾走感のあるポストパンク調のロックンロールから、ジョイ・ディヴィジョンを減速させてヘヴィにしたかのような、これまでに聴かれたことのない独自の路線を開拓してます。あと、フロントマンのグリアン・チャッテンのカリスマ性に注目が集まりがちなバンドではあるんですけど、このアルバムはギターのフレージングがとにかく秀逸です。「Big Shot」「Jackie Down The Line」そして「Nabokov」といったあたりの曲を聴いてると、ザ・スミス、キュアー、デペッシュ・モード、ニュー・オーダーといったいわゆる「ニュー・ウェイヴ四天王」の歴史的名盤の代表曲に勝るとも劣らない完成度なんですよね。普遍性が高い曲が書けて、なおかつ新しさを感じさせる。これこそ、ロックの新しいスタンダードになりうるものです。すでにUKチャートでは1位のバンドですが、次あたりで誰もが知るバンドになってほしいです。
4.And In The Darkness, Hearts Aglow/Weyes Blood
4位はワイズ・ブラッド。僕の年間ベストに入ってくるのはこれがはじめてになりますが、いきなりこの順位での登場になるほど、もう大好きな作品です。彼女は2016年の「Front Row Seat To Earth」のときから注目の女性インディSSWで2019年の「Titanic Rising」は媒体の年間ベストでもかなりの話題にもなっていました。ただ、僕の趣味にしてはちょっと上品でコンサバすぎるかなあと思って二の足を踏んでたんですよね。ところが、このアルバムの先行カットの「Its Not Me,Its Everybody」1曲を聴いただけで、これまで抱いていたことは一切流してとにかく何度も聴くほど魅了されましたね。もう曲そのものが70年代初頭に本当に存在したかのようなキャロル・キング、カーペンターズの架空の代表曲のように聴こえたんですよね。「これは相当な覚醒の瞬間だ」と思ってアルバム聞いたらこれがもう、「エンヤがジュディ・シルの曲をもとにしてペット・サウンズ作った」ようなすごいアルバムで度肝抜かれましたね。70sの女性SSWの中でも微妙に教会音楽っぽいところでジュディ・シルっぽいかなと思ったんですけど、最盛期のブライアン・ウイルソンみたいなピアノのコード進行と打楽器類、リズム・ボックスの使い方、それらの要素を未来に進めるべく加えられたアンビエントなシンセサイザーによるウォール・オブ・サウンド。圧巻です。彼女は、ファンを公言しているラナ・デル・レイやキラーズなど大物の作品にすでに客演もしてますが、昨今の女性インディ・アーティストに顕著な横のつながりの強さの点でも今後楽しみなんですよね。
3.Wet Leg/Wet Leg
3位はWet Leg。「ウェット・レッグ」と書いたら妙に間延びするので必ずWet Legと書くようにしています。背の高いリアンとブロンドのヘスターという、アラサー女子の2人のデビュー作、もういきなり大好評でしたけどね。彼女たちの場合は、普通に音だけ聞いても「ストロークスの女性版」みたいな感じでカッコよく聞けるとも思うんですけど、、彼女たちの功績って、「サッドガール・インディの別のベクトルを提示した」ことですね。もう、リリック、これがものすごく大事です。彼女たちの場合は、歌詞がもう日記そのものなんですけど、もうすごく自虐的ユーモア満載で、どう考えても「自称・負け組」で、開き直ってあっけらかんとした感じへの強い共感なんですよね。女子のスクール・カーストの今や古典映画の「ミーン・ガールズ」のセリフそのまま引用した「Chaise Longue」とか、車運転してる時に突然欲情はじめちゃう「Wet Dreams」(これをハリー・スタイルズがBBCでカバーしたという!)とか、三の線の女の子のギャグ漫画のセンスなんですよね。90年代にウィーザーとかナンバーガールが切り開いたものを女の子もやれる道筋を作ったというか。本人たちの見せ方も、本当は仲良しなのに、リアンばかりがステージでもMVでも目立って、ヘスターがバックバンドと変わらないくらい存在感薄いのを自虐的に演出したりと、お笑いコンビみたいだし。フィービー・ブリッジャーズとかミツキのようなサッドガールの女王たちとはまた違った、自分の満たされない何かをロックに求める女の子の受け皿になる気がしてます。
2.Renaissance/Beyoncé
そして2位はビヨンセでした!もう、すごいですよね。前作「レモネード」って、歴史的にすごい傑作アルバムが連発されたあの2016年の中でも限りなくトップに近い評価でしたよ。フランク・オーシャンとか、ソランジュとか、デヴィッド・ボウイの遺作とかあった中で。あの年は僕はまだ年間ベスト、つけて発表してなかった頃でしたけど、1位の評価でしたよ。やっぱりそれは、あのアルバムが「ビヨンセ版スリラー」みたいなアルバムで、R&B/ヒップホップに限らず、インディ・ロック、エレクトロ、はたまたカントリーにまで、その道の大家たちと作った作品でしたからね。しかもBLMの影響で黒人の主張そのものが1970年前後とか90年代前半並みに高まってい時代の後押しもあって。そんな重要な意義のアルバムの後、どうするんだろうと正直思ったんですけど、同じかそれ以上の熱量ですごいアルバム作りましたね。今回は「ポストコロナの解放感」「歓び」がテーマになってるんですけど、そこでエイズで亡くなった自身の叔父さんへのオマージュでディスコ/ハウスを導入するんですけど、このやり方が70s後期のドナ・サマーのようなシームレスなDJ仕様で、しかも同じ時期のマーヴィン・ゲイのディスコ・アレンジ混ぜるという、現在からの最上の批評性を持ってやってるんですよね。そこに彼女自身がここ数年興味を持ち続けている現代アフリカ音楽のエッセンスや、新人女性プロデュース・チームのNova Wavの起用などフェミニズムの観点に立った姿勢も崩していない。あと、「レモネード」がシングル・ヒットを出さなかったことでやや引いたファンを「Break My Soul」「Cuff It」のダンス・ヒットで喜ばせる気前の良さも見せて。もう、完璧なんですよね。すごい。
ズバリ、これが1位でも良かったとも思わないでもないんですけど、でもそうはいかなかった。1位は結局、これでした!
1.Motomami/Rosalía
はい。1位はロザリアの「Motomami」でした。自分で言うのもナンですけど、おそらくこれを1位にすると読んでた人はかなりたくさんいたのではないかと思います(笑)。それくらい、このアルバムに関しては今年たくさん言及したし、うれしいことに僕が勧めてることで存在が気になって聞いてみたとおっしゃってくれた方達もいたくらいなので。8月には幸いにしてライブも見ることができたし、もう、2021年のマネスキンじゃないですけど、22年は僕にとってロザリアの年だったと言い切ってもいい気がします。
バッドバニーのとこでも書きましたけど、今年はとにかくレゲトンをはじめとしたスペイン語音楽の年でした。なので、それを象徴する存在こそがトップになって然るべきタイミングでもあったんですけど、もう、そうなったら「Motomami」しかありません。ロザリアのことは2018年秋に前作「El Mal Querer」を聴いた時が出会いなんですけど、「スペインに突然変異のフラメンコの女の子がいる」と聞いて「フラメンコ??」と思いながら聞いて、R&Bにフラメンコの手拍子のリズム取り入れてジャージを着て歌う彼女に衝撃を受け、その年の年間ベストでいきなり14位に選んだんですよね。
あれだけでもかなり気に入っていたので、そのままの路線でも十分に喜んでいたと思うんですけど、もう、彼女ははるかに斜め上を行ってて度肝抜かれましたね。もう、本物のラッパーばりにヒップホップをしょっぱなからぶち放ち、エレクトロっぽい曲調でバラード歌ったかと思ったら、ウィーケンドとベタなラテン歌謡をなんとスペイン語でデュエットするは、レゲトンはやるは、忘れた頃にジェイムス・ブレイクをゲストで導入するは、さらには彼女本来の本格的なフラメンコの絶唱を披露するは・・・。しかも、音楽だけじゃなくて、言葉自体もかなり開拓してて、冒頭の「Saoko」での「パンパラ、コッタラ」はスペイン語での隠語っぽいし、日本語で「Chicken Teriyaki」「Hentai」とラップや歌(変態で大のラヴ・バラード!)を披露するわ。
僕が好きなのは、それを彼女自身が「私にとっちゃ、普通なんだけどな」とでも言いたげに、ケロッと平然としてるとこなんですよね。そこがすごく笑えるというか。ビヨークの「Post」、1995年の2枚目の頃ですけど、あの感じにちょっと近いかな。ロザリアの方がラテンで天然っぽいからもっとカラッと明るいですけど「才能の熱量の放射」の意味合いでは近いものを感じます。とにかく、この1年、聴いていて痛快でしたね。