今年のリリース・ハイライト!ビリー・アイリッシュとベス・ギボンズ、ダーク・ポップ・クイーン並び立つ!
どうも。
先週末のアルバム・リリースは今年マックスだったかな。
ビリー・アイリッシュ、そしてポーティスヘッドの声ですね、ベス・ギボンズ。もう、世代を超えたダーク・ポップ・クイーンがそれぞれに最高のアルバムを出してくれましたね!
ビリーのアルバムは「Hit Me Hard And Soft」。これがサード・アルバムになります。
今回のビリーには、彼女、そして兄のプロデューサー、フィニアスに満を持して賭けていたものがありました。それは、事前にシングルのプロモーションを一切行わず、アルバム全体でまとめた作品を世に出す、ということでした。
しかもアルバムはコンパクトに10曲。ここのところ、特にメジャー・レーベルで、ストリーミング・サービスの容量に制限がないことを利用して20曲とか30曲のアルバムを作る人も多かったんですけど、そこをあえてミニマムな単位で世に出すことを決めています。
で、この発言が癇に障った人たちがいてですね。それは特にスウィフティーズなんですけど。ビリーが事前に「アナログのヴァージョン違いを大量に出す人がいるけど、エコに悪い」といって批判したんですね。それはメディアもテイラーのことだと結びつけて報道して。ビリーは慌てて「特定の人物はさしていない」としたんですけどね。ただ、アルバムにかんしての発言などもあって「なんだ、偉そうに」みたいな反応をするリスナーもいたことは確かです。テイなんて、こないだのアルバム、31曲もあったもんだから、「何を生意気な」と思った人がいても、不思議ではないです。
ただ、僕としては「こう言う意志の強い発言を事前にできてるというのは、表現にも強い自信があるときだろう」と判断。これは心配することはなさそうだ、と思っていたら
最高でした!
この兄妹、妹ビリー22歳に、兄フィニアス26歳ですけど、この2人、もう、この若さにして、一部の限られた特別なアーティストにしか表現できてないようなことを、今回のアルバムでやれてるんですよね。
先行シングルとなったこの「Lunch」、このアルバムの中ではアッパーなビートで引っ張るタイプの曲でかっこいいんです。これだけだと分かりにくいんですけど、もう、いつも通りではあるんですけど、音数は極限まで絞ってミニマムなんです。なんですけど、ビリーの歌、そしてメロディへの熱量、インテンシティがこれまで以上に強い作風でもあり、さらに絞られた音の数の中でフィニアスがたたみかけてくる効果的な楽器の音色。もう、そらがあれば、それだけでおのずと名作ってできてしまう。もう、聞いててあっぱれでしたね。
聴いててですね
レディオヘッドの「In Rainbows」や宇多田ひかるの「BADモード」を思い出すんですよね。すごく簡素化されたアレンジなのに歌の強度が強く、一つ一つの音が細く研ぎ澄まされているという点において。どっちとも曲によりますけどね。宇多田の場合は3曲目ん入ってる、その名も「Chihiro」って曲にそれ感じますね。ちらっと耳にしてたりするんじゃないかなと思ったくらいです。あれ、国際的に聞かれた作品でもあったんで。
もう、十分な傑作だと思うんですけど、今回のビリー、「やるぞ!」という予感はあったんですよね。
この2023年3月に見たロラパルーザ・ブラジルでのライブ、これがもう、とにかく圧巻だったんですよ。あれだけの大スターになった後なのに、ステージ、何にもなく、ビリーとフィニアスともう一人の3人だけのステージ。それでこのカジュアル・ウェアでしょ?それだけあれば十分だ、という意思表示の強さに惹かれましたね。それだけで十分酔わせること出来るんだから。
僕、これの半年近く前のLordeのライブにすごくがっかりしてまして。いきなりブロンドでピンクのレオタードで、完全台本あるみたいなMCの司会進行を彼女自身がやって。あれ見た時にもう本当にカッコ悪すぎて残念で。天国にいるボウイに「音楽の未来、ビリーに替えた方がいいですよ」と言いたくなったほどでした。逆に言えばLordeのような才女でも間違う時は間違う(その前のサードアルバムも全く良くなかった)のにビリーは腰を落ち着けたまま冷静なままいられるの、すごいなと脱帽しましたけどね。
そしてやっぱ、これですよね。あの全世界の人が注目していた映画「バービー」のクライマックスでかかる曲という、絶対外せないタイミングの曲で最高の曲を繰り出してくる度胸と才能。これで僕は「ああ、この人は間違いないね」という判断になってました。その上で今作でしょ?このジェネレーションを代表する存在と言い切ってしまって大丈夫だと思いますね。
で、その傍でですよ
ベス・ギボンズのアルバム「Lives Outgrown」、これがまた素晴らしいアルバムでね。
ベスといえば
https://www.youtube.com/watch?v=4qQyUi4zfDs
未だにいたる所の名盤紹介に出てきます、ポーティスヘッドの名作「Dummy」、これのヴォーカリストとして知られる伝説の人です。
ビリー出てきた時って、もう僕は直系でポーティスヘッド思い出したんですよね。ベース音生かしたヒップホップっぽいあれんじっって、まさにポーティスヘッドのとリップホップ・サウンドを思い出させるところがあったし、そこに加えて
フィオナ・アップルであったりだとか、マジー・スターのホープ・サンドヴァルであったりだとか、そういう90sのダークなカリスマを思い出させたりもして。ベスもやはり、そうした「Beforeビリー」な位置付けの不可欠なカリスマにおいていい存在だと思いましたね。
ポーティスヘッドって非常に寡作なんですけど
1997年と2008年に2枚しかアルバム出してないんですけど、そのいずれもが傑作で。前者はトリッポホップ色を残しながらもすごく不安定で強くなるようなバロックポップで、後者はトリップホップ色が薄まった代わりにモダン・クラウト・ロックとでもいうべきサイケデリック・ロックの怪作で。
で、以前はポーティスヘッド全体として解釈してるところがあったんですけど、通して聴くたびに「中心にあるのはベスによるソングライティングと歌なんだな」ということもわかりましたね。
2002年に出たこの最初のソロ・アルバム「Out Off Season」でも体裁はフォークとバロックポップですけど、歌の骨格の部分は完全にベスなんだなというのがわかりますからね。
今回のソロは、そのソロからも22年、ポーティスヘッドからも16年という、ものすごい長いブランクの後の作品なんですけど、その前に
一昨年にケンドリック・ラマーのアルバムで1曲共演して、その時にカリスマ性を存分に発揮。これも記憶に新しかったので「間違い無いだろう」と思ってましたけど、まあ〜、すごかったですよ。
これ聞いてもわかるんですけど、もうまんま「アンプラグド・ポーティスヘッド」。しかも、あの混沌としちゃグルーヴを生演奏で解釈してやってます、今回。
いやあ、圧巻ですね。これを作ったのが
ジェイムス・フォードですよ。今年の彼、冴えまくってます。The Last Dinner Partyに、まだシングルだけの時点ですけど「Starburster」がいきなりの傑作のフォンテーンズDC、そして4月に出たペットショップ・ボーイズ改心の新作。もう、どれとっても最高ですからね。このアルバムでポーティスヘッドの核がベスだとわかったことに加えて、フォードの手腕とのケミストリーが圧巻ですね。
あと比較でいうと、ソロになって以降のロバート・プラントとか、80sや90sのトム・ウェイツとか、そうした孤高の響きもありますね、これ。
ビリートベス。20代と50代と、世代の違いはありますが、芯の部分でどこか共振するダークポップなカリスマにしばらく酔いしれたいところです。