
グローバル・ベストアルバム・プレイリスト(1)なぜかものすごく好評なブラジルの100枚
どうも。
先日、「ロック70周年に、グローバルな視点からロック史を語りたい」と書きました。
本当は通史でそれを書きたくはあったのですが、今回は時間がないし、まだそのためには抜けてる箇所があって完璧なのができないので、今回はその代わりに、そのヒントとなるべきことをやります。
このnoteでは、そのこと教えてなかったんですけど、何週間か前からXでは「世界各国の歴史を知るためのプレイリスト」というものを作って発表していました。これを7、8作ってたんですけど、これをここでも紹介したいと思います。題して「グローバル・ベストアルバム・プレイリスト」、これを今週1週間で紹介できるだけ紹介したいと思います。
まず、その第1弾は僕のすんでる国、ブラジルです。
ブラジルって、どういうわけだか知らないんですけど、日本だと音楽に関して高級イメージを持たれているようです。夢壊して申し訳ないですが、そんんな事は断じてありません(笑)。特にここ数年は決して褒められたもんじゃない。日本の方がマシだとさえ思ってます。
ただ、この国の音楽がすごくたようで、輝かしい歴史があることは僕も認めます。認めるからこそ、すごく良い100枚も紹介できます。
ブラジルの100枚、こんな風に選ばせてもらってます。編年体で、左上隅が一番古く、右下隅が一番新しい感じです。
10枚区切りで説明入れていきましょう。

Chega De Saudade/João Gilberto (1959)
Caymmi E Seu Vilão/Dorival Caymmi (1959)
O Nordeste Na Voz De Luiz Gonzaga (1962)
Samba Esquema Novo/Jorge Ben (1963)
Getz Gilberto/Stan Getz & João Gilberto (1964)
Herb Alpert Presents/Sergio Mendes & Brail '66 (1966)
Vou Deixar Cair/Wilson Simonal (1966)
Chico Buarque De Hollanda/Chico Buarque (1966)
Os Afros/Baden Powell & Vinicius De Moraes (1966)
Vinicius De Moraes/Vinicius De Moraes (1966)
ブラジルの場合、ポップ・ミュージックの世界で人々をふりまかせるきっかけとなったのがボサノバです。1959年にジョアン・ジルベルトから生まれて、ジャズの世界を通じて世界に広がっていきます。作曲家として加わってアントニオ・カルロス・ジョビン、作詞家のヴィニシウス・ジ・モラエスあたりも当然初期では選ばれます。ジョルジ・ベンも然り。

ただ、ここで僕がそこに加えて選んでるのはドリヴァル・カイーミとかルイス・ゴンザーガ(写真)みたいな、北東部のレジェンドですね。ブラジルでは南北問題があって、南にあるリオとかサンパウロが都市文化が栄えてて、赤道に近くて暑い北東部で貧しい構造があるんですが、ただ黒人居住者が多い北東部からいろんな音楽が生まれてます。ボサノバの原型であるサンバも元はそうだし、あと、バイオンとかフォフォーとかいろいろ。ルイス・ゴンザーガなんて格好からしてインパクトあるでしょ?
あとウィルソン・シモナルはブラジルのジャズ〜ソウルの走り。レジェンドのシコ・ブアルキのその笑顔と仏頂面のジャケ写はブラジルでは有名なミームでもあります。
Boi Soberano/Tião Carreiro & Pardinho (1966)
Em Eitmo De Aventura/Roberto Carlos (1967)
Francis Albert Sinatra & Antonio Carlos Jobim/Frank Sinatra & Antonio Carlos Jobim (1967)
Domingo/Caetano Veloso & Gal Costa (1967)
Wave/Antonio Carlos Jobim (1967)
Caetano Veloso/Caetano Veloso (1968)
Tropicália Ou Panis Et Circensis/Variois (1968)
Os Mutantes/Os Mutantes (1968)
Gal Costa/Gal Costa (1968)
O Iminitável/Roberto Carlos (1968)
ここは思い切り60sですね。

ブラジルにも「ザ・ヒットパレード」みたいなアメリカン・ポップスに似た曲を歌う人気の歌番組があってですね、それが「ジョーヴェン・グアルダ」って言うんですけど、そこで最大の人気アイドルになったのが、その写真のロベルト・カルロス。彼のアルバムを2枚選んでます。彼、まだ現役でバラの花束持ってステージ上がり続けてます(笑)。
ブラジルの場合、ビートルズやローリング・ストーンズみたいにバンドの時代になってもバンドが流行らず、ブリティッシュ・ビートっぽい歌もアイドル歌手が歌います。
ただ、サイケの時代になって世が荒れるとブラジルも変わります。

それがこの人たちですね。カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタ、そしてバンドのオス・ムタンチス。いわゆる「トロピカリア」と言われる人たちですね。ブラジルも当時、軍事政権で、社会の不公正叫ぶ若者たちはアカ扱いされて痛めつけられましたから、もう若い本気の人たちは人生かけて軍に反抗するわけですよ。サウンドもビートルズの影響受けて、世界でも世にも不思議なトリッピーな感覚になってます。
このトロピカリアの人たちの作品は英米メディアでも評価が非常に高いので、ピッチフォークの60sのオールタイム・リストに選ばれたりしてますね。
A Divina Comédia Ou Ando Meio Desligado/Os Mutantes (1970)
Tim Maia/Tim Maia (1970)
Nara Dez Anos Depois/Nara Leão (1971)
Carlos, Erasmo/Erasmo Carlos (1971)
Construção/Chico Buarque (1971)
Elis/Elis Regina (1972)
Transa/Caetano Veloso (1972)
Expresso 2222/Gilberto Gil (1972)
Clube Da Esquina/Milton Nascimento & Jô Borges (1972)
Acabou Chorare/Novos Baianos (1972)
ただ、ブラジル音楽の最大の全盛期ってここでしょうね。ここの名盤の揃い方が凄まじい。
軍事政権で亡命していた反抗の闘士カエターノ・ヴェローゾやシコ・ブアルキ、ジルベルト・ジルが帰国して傑作作り始めるわけですけど、彼らと同世代の才能も一気に開花するんですよね。最近、日本でもすごく聴いてる人が多いミルトン・ナシメントの「街角クラブ」がその代表ですけど、サンバ・ロックのノーヴォス・バイアーノスもそうですよね。

でも僕はミルトンよりはシコのこっちかなあ。プロテスト・バロック・サンバ・ポップ。この作品は世界の他では聞くことができないものですね。シコはブラジルでは有名な国文学者の息子でスーパーお坊ちゃんなんですけど、とにかく社会正義の人でして、言葉のセンスで掛言葉を多用し、軍事政権批判ソングを検閲に気づかれない形で通して、それが社会的に歌われるというテクニックを使ってた人でもありました。
Dança Da Solidão/Paulinho Da Viola (1972)
Krig-ha, Bandolo/Raul Seixas (1973)
Pélora Negra/Luiz Melodia (1973)
A Volta De Secos E Molhados/Secos E Molhados (1972)
João Gilberto/João Gilberto (1973)
Quem É Quem/João Donato (1973)
Adoniran Barbosa/Adoniran Barbosa (1974)
A Tábua De Esmeralda/Jorge Ben (1974)
Gita/Raul Seixas (1974)
Elis & Tom/Elis Regina & Antonio Carlos Jobim (1974)
ここもトロピカリアと同世代の人たちの才能が開花してるとこですね。
特にブラジリアン・ロックの本格的な始まりの頃ですね。

ブラジル社会では、ハウル・セイシャスと、セコス・エ・モリャードスのこの2枚が国内ロックの本格的始まりと定義されています。ロックンロールもなきのバラードも行けてドラッグ問題で常にトラブルメーカーのハウルに、キッスより先にメイクをして、ゲイ・アーティストの線区にもなったセコスのネイ・マットグロッソ。強烈なロックスターです。
Martinho Da Vila/Martinho Da Vila (1974)
Claridade/Clara Nunes (1974)
Racional Vol.1/Tim Maia (1975)
Minas/Milton Nascimento (1975)
Fruto Proibido/Rita Lee (1975)
Cartola/Cartola (1976)
Africa Brasil/Jorge Ben (1976)
Alucinação/Belchior (1976)
Falso Brilhante/Elis Regina (1974)
Refazenda/Gilberto Gil (1977)
70年代中盤も40年代生まれのトロピカリア世代による多様化の活躍の時代ですね。

一人はやっぱエリス・レジーナですよね。ボサノバからの生き残り、というか最後の象徴ですけど、ジョアンとアストラッドのせいで「ヘタウマ」の印象が持たれがちなボサノバ界に現れた超パワーシンガー。アレサ・フランクリンとかチャカ・カーンみたいな人がボサノバ歌ってるようなものですからね。だんだんボサノバから離れていく70sがやっぱ一番良さが出てきます。

あとはやっぱ、ブラジルのJBことチン・マイア(右)、そしてサンバからだんだんソウル色を濃くしたジョルジ・弁によるブラジル版のソウルですよね。ジルベルト・ジルも、彼もロックからレゲエに寄っていく時期ですね。

あとは個人的にどうしてもムタンチスやめてソロになったヒタ・リーのこれですよね。1975年、アメリカからパティ・スミスとかスティーヴィー・ニックスが出てきた時に同時代で負けないかっこよさを持つ女性ロッカーがブラジルに存在した。このことは忘れて欲しくないですね。
Bicho/Caetano Veloso (1977)
O Dia Em Que A Terra Parou/Raul Seixas (1977)
Zé Ramalho/Zé Ramalho (1978)
Chico Buarque/Chico Buarque (1978)
Alibi/Maria Betânia (1978)
Gal Tropical/Gal Costa (1979)
No Pagode/Beth Carvalho (1979)
Angela Ro Ro/Angela Ro Ro (1980)
Rita Lee/Rita Lee (1980)
Luz/Djavan (1982)
カエターノとかシコとかガルとかヒタ、カエターノの妹のマリア・ベターニアもそうですね。その世代がオールタイム入るくらいの最後の全盛がこの時期かな。
ここでは、北東部のシンガーソングライターのゼー・ラマーリョ、この一つ前に出てくるベルシオールという人もそうなんですけど、ロック色の強いこの当時の北東部新世代ですね。あと

サンバがポップとして強い頃でもあってベッチ・カルヴァーリョのこれなど選んでます。この前のとこに出てきますけどマルチーニョ・ダ・ヴィラとかパウリーニョ・ダ・ヴィオラとか、それ以前からの超大御所のアドニラン・バルボーザとかカルトーラとか、サンバの名盤を僕にしてはかなり多めに選べてもいます。
Tempos Modernos/Lulu Santos (1982)
Seu Espião/Kid Abelha (1983)
O Passo Do Lui/Paralamas Do Sucesso (1984)
Fullgás/Marina Lima (1984)Resoluções Por Minuto/RPM (1985)
Maior Abandonado/Barão Velmelho (1984)
Exagerado/Cazuza (1986)
Legião Urbana/Legião Urbana (1985)
Dois/Legião Urbana (1986)
Cabeça Dinossauro/Titãs (1986)
ここは完全に世代交代。ブラジリアン・バンドブームの時代です。生まれも1950年代から60年代にさしかかるくらいのアーティストが一気に台頭します。

その中心となったのは、ブラジルで軍事政権が終わったタイミングで始まった「ロック・イン・リオ」に出たアーティストですね。この写真のカズーサのいたバロン・ヴェルメーリョとかパララマス・ド・スセッソ、キッジ・アベーリャみたいなリオのバンドたちですね。
対抗してサンパウロからもチタンス、イラ!などが出てきますね。
でも、この時代最大のアイコンはやはり

「ブラジルのザ・スミス」ことレジアオン・ウルバーナですよ。特にそのメガネかけた「ブラジルのモリッシー」、「ブラジルのマイケル・スタイプ」でもいいかもしれないフロントマン、ヘナート・フッソに強烈な社会風刺は時代の象徴となってます。ロックだと未だに一番人気ですね。バンドはヘナートの1996年の死で存在しませんけど。
Vivendo E Não Aprendendo/Ira! (1986)
Mais/Marisa Monte (1991)
Arise/Sepultura (1991)
Angels Cry/Angra (1993)
Da Lama Ao Caos/Chico Science E Nação Zumbi (1994)
Usuário/Planet Hemp (1995)
Roots/Sepultura (1996)
Afrociberdelia/Chico Science E Nação Zumbi (1996)
Sobrevivendo No Inferno/Racionais MCs (1997)
Só No Forevis/Raimundos (1999)
90年代。ここはもういかにもな90sですね。

一つはやっぱセパルトゥラですね。オルタナティヴ・メタルの時代にパンテラとかと人気上げてきた印象あります。スラッシュからダウンチューニングになってポリリズムに移行したサウンド変遷。当時、僕もかなり衝撃でしたね。

あと、ブラジリアン・ミクスチャーの代表格ですね。シコ・サイエンス&ナサオン・ズンビ。レッチリをもう一段ブラジル流に煮込んだタイプで、これも当時に日本盤出た時に一部で騒がれたものです。この当時のブラジルはミクスチャーでプラネット・ヘンプとかオ・ハッパ、ヒップホップでハショナイスMCsあたりが出てきた時代ですね。
僕がブラジルに興味持ち始めたのがだいたいこの時期です。これプラス、ベスト盤で聞いたムタンチスを「ベックも大好き」なんて情報とともに聞いたのがきっかけでしたね。
Lado B Lado A/O Rappa (1999)
Com Você..Meu Mundo Ficaria Completo/Cásssia Eller (1999)
Los Hermanos (1999)
Tribalistas/Tribalistas (2003)
Cosmotron/Skank (2003)
Ventura/Los Hermanos (2003)
Admirável Chip Novo/Pitty (2003)
Cansei De Ser Sexy/CSS (2005)
The Life Aquatic Exvlusive Studio Sessions Featuring Seu Jorge/Seu Jorge (2006)
Céu/Céu (2008)

90年代通じて、セパルトゥラとかシコ・サイエンスじゃなく、洗練されたとこでの人気ならマリーザ・モンチでしょうね。J-Waveとかでも人気あった気がしますが、彼女がチタンスのアルトゥール・アントゥヌスやカルリーニョス・ブラウンと組んだトリバリスタスは南米やヨーロッパでメガセールスになってましたね。

ただ、この時代のブラジル音楽の良心的な存在でカリスマだったのはロス・エルマーノスですね。言うなればウィーザーとストロークス足して2で割って、70sのカエターノの世代の音楽性をまぶした感じ。今聞いてもすごくかっこいい。CSSも世界的にクールに成功しましたけど、国内での信奉ではエルマーノスの比ではないですね。彼らが2007年に活動休止してツアーでの再結成だけで集まる存在になったのは非常に惜しいです。
あと、この時代はブラジル・ロックの最後のいい時代。カシア・エレールやピチィなどの女性ロッカーにスカンキあたりがそうですね。
O Glorioso Retorno De Quem Nunca Esteve Aqui/Emicida (2013)
Marília Mendonça Ao Vivo/Marília Mendonça (2016)
Melhor Do Que Parece/O Terno (2016)
Recomeçar/Tim Bernardes (2017)
A Mulher Do Fim Do Mundo/Elza Soares (2018)
Casas/Rubel (2018)
Não Pará Não/Pabllo Vittar (2018)
Goela Abaixo/Liniker E Os Caramelows (2019)
Te Amo Lá Fora/Duda Beat (2021)
De Primeira/Marina Sena (2021)
10年代以降ですけど、ここがなあ〜。

今、ファンキっていうブラジリ流のダンス・ミュージックか、セルタネージャっていうブラジルのカントリーのどっちかしか売れない状況です。前者からドラッグクイーンの見事なファルセット・ヴォイスのパブロ・ヴィッタルと飛行機事故で夭折した「ブラジルのアデル」ことマリリア・メンドンサは一応選びましたけど。

強いて言うならオ・テルノ、そしてこのバンドのメガネ君のチム・ベルナルデスですね。カエターノとエルマーノスの正統継承者。彼のタイムれ品ソングライティング・センスはすごくマジカルですし、その才能はフリート・フォクシーズのアルバムにゲスト参加で請われるほどですけどね。
あと、デューダ・ビートとかマリーナ・セナみたいな自作の女性アーティストがどこまで成長できるか。あと、国際的スターなんですけど、どうしても選ぶには弱かったアニッタあたりがもう少し伸びて欲しくはあるんですけどね。
プレイリスト、つけておきますので、ここで楽しんでくださいね。