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沢田太陽の2024年4~6月の10枚のアルバム

どうも。

では、3ヶ月に1度の恒例企画、10枚のアルバム・ベスト、いきましょう。今回対象となったのは今年の4月から6月までの作品。

このようになっております。

はい。良いアルバムがたくさんんならんでますけど、早速こちらから行きましょう。

Right Place,Wrong Person/RM

はい。最初はBTSのリーダー、ナムジュン、RMのソロ・アルバムですね。一昨年の12月にもアルバム出してますけど、それに続く2枚目。兵役につく前に製作したんですね。前作も、BTSでポップに大成功した人とは思えない、超王道なネオ・ソウル系のヒップホップでセンスや意識の高さをうかがわせたんですけど、今回はこれ、もう現在の世界のヒップホップに対しての彼なりの批評を込めた大胆な作品になってますね。トラックはより多様性が出るように生バンドを起用。前回のベストで紹介したQuadecaみたいな作りになってるんですけど、それを韓国のインディ・ロック界の雄や日本のアーティストたちとのコラボで作って、しっかり彼自身のいるアジアをレペゼンする形で表現しているのが脱帽ですね。その視野と民族意識の高さが。大成功したアイドル・グループのメンバーが、まるで音楽批評サイトを隅々まで見てるようなマニアが喜びそうな作りしてくるんですもん。バンタンは一方でジョングクがスクーター・ブラウンにがんじがらめにされたようなセレブで四方固めた方程式通りのしょっぱいアルバムがある一方で、もう片方でこんなに自由な作品がある。これが彼らの多様性でもあるんですね。


Por Cesárea/Dillom

続いて、これはご存じない方も多いと思われます。ディロンという、これもアルゼンチンのラッパー。なかなか紹介する機会もないので顔も見せておきましょう。

一見普通の南米の白人青年ですけどね。年齢も若く23歳です。この彼なんですけど、とにかくトラックが自在なのと、一度聴いたら忘れられない癖のあるフローで耳への残り方が強烈なんですよね。ケンドリックを意識してるのか、ソウルフルで時にややトラップみたいなパターンがこの前の作品まで目立ってたんですけど、今回はロックの強い国でもあるアルゼンチンの特性もしっかり活かした、インディ・ギター・ロックみたいな曲調も目立って、しかも彼自身もだいぶ歌ってます。ヒップホップが今っぽいクリシェに陥らないよう、1曲1曲が凄く考えられてて、これまたナムジュンやQuadeca同様、トラックの自由度を高めた現状に対する批評的な作品になっていますね。こういう人が「自分たちのエミネム」と呼ばれ、アルバム出せばSpotifyの上位独占するくらいの圧倒的な人気のアルゼンチンって凄くいいなと思いますね。

Born In The Wild/Tems

続いてはテムズ。ナイジェリアのアフロビーツの今のムーヴメントの中の女性代表ですね。これまでも積極的にEPは出してましたけど、フル・アルバムは今回が初めてです。今、とりわけヨーロッパあたりではヒップホップのトレンドが完全にトラップからアフロビーツに移ってきてるんですけど、テムズはそれにも乗れるんですけど、このアルバムで展開されているのはアフロビーツというよりは、すごく抑制され音数の少ない中、磨かれるように洗練されたソウル・ミュージックですね。それもシャーデーやエリカ・バドゥと言ったレジェンドをアフリカで自然発酵させた感じの。そして、強いナイジェリア・アクセントの英語とともに、クールな中にどこか熱も帯びている彼女自身のハスキーで魂のこもった歌声。声とサウンドのコンビネーションが抜群で既に完成されていますね。長い時間をかけて、ナイジェリア、並びにアフリカを象徴するディーヴァに君臨していきそうな予感は今から大ですね。


 Nontheless/Pet Shop Boys

続いてはガラッとイメージを変えてペットショップ・ボーイズ、行きましょう。PSBの場合、ポップなイメージが強くて、あまりこうしたアルバム・ベストみたいなものは似合わない印象があるのではないでしょうか。僕自身もそう思っていたところもあったんですけど、ただ全盛期だった80s後半から90sにかけてもですね、ハメ外してイケイケな悪ノリがあったのは確かなんですけど、その裏ではしっかりメロディックで哀愁味溢れた良心的なシンセ・ポップもやってたんですよね。で、ある程度。年齢が積み重なったタイミングでだんだんそっちの色の方が濃くなってきてですね、去年、プリマヴェーラ・サウンドで見たときはもう完全に真面目なベテラン・インディ・ポップアクトで、すごく貫禄あるライブ聞かせてくれてたんですよ。なので今作も
期待して聞いたら、もう案の定ドンピシャで。センチメンタルなエレポップという点でもここ10年くらいのニュー・オーダーよりは全然レベル上だし、ストリングスとアコースティック・ギターで、ヨーロッパのトラディショナルな大人の香りをエスプリ的に演出してるのも粋だし。これ、すごく批評的に絶賛されてて全英でも2位の大ヒットだったんですけど、プロデュースもあのアークティック・モンキーズ、そして最近ではThe Last Dinner PartyヤフォンテーンズDCも手がけるジェイムス・フォードですよ!やっぱ、見られているところはちゃんと見られてるということですよね。

Dark Matters/Pearl Jam

続いても、これまた大ベテランのパール・ジャムの新作。彼らもですね、どの時期に見ても、もうライブ・パフォーマンスに関しては、もう「シーンの手本」としたい上質のロックンロールをいつも披露してくれるんですけど、
ことそれがアルバムということになると、なかなかそうでもなくて。00sの後半に出たアルバムは良かったんですけど、10s以降はまばらなリリースの中、「まあ、悪くはないけど・・」という感じだったんですよね。それがこのアルバムでは、テクノロジー的に「今こそ奏でられるべきギター・サウンド」で録られたモダンなサウンドになってますね。90sの時のような、ただひたすら生っぽい音というのとは違う、生音なんだけどどこか技術でコーティングされた立体的で浮遊感のある音というか。これが新鮮でしたね。この音を作ってるのはアンドリュー・ワット。昨年のローリング・ストーンズの大復活作を陰で支えた立役者ですよ。そしてパール・ジャム自身もすごくパフォーマンスに脂が乗ってますね。マイク・マクレディのギター・ソロが勢いつんのめって長くなってる時はだいたい好調のサインなんですけど、それが聞けるのでね。

You Won't Go Before You're Supposed To/Knocked Loose

続いてはノックト・ルース。僕が選ぶものとしてはえらくハードでラウドなものだと自分でも思うんですけど、このテのもので久々に新しく、ジャンルそのものを先に進めてくれそうな感じのアルバムを聴いたの久々な感じがしたので「これは歴史残るよな」という感じの評価ですね。これ、アメリカのハードコア・パンクの疾走感があるんですけど、アタックの強さがヘヴィでかなり重く、鉄板投げつけるような、その昔で言うところの初期のインダストリアル・ロック的な工業都市感があるんですよね。それを実験的というよりはヘヴィな攻撃性にうまく落としこんで発展させた感じですね。ラウドなロックというのも、なかなか新しさを打ち出せずにいる感じだなあと、門外漢ながらも偉そうに思っていたところがあったんですけど、これはそんな認識をマス・レベルで修正してくれそうな、そんなヴァイタリティを感じさせます。こんなアフレッシヴなロックが今のこの時代にビルボードのアルバム・チャートのトップ30に入ったのは明らかに快挙だと思います。

This Could Be Texas/English Teacher

続いてはイングリッシュ・ティーチャー。今年は新人のインディ・バンドが良いアルバムだしてきてるのが収穫なんですけど、このバンドはその筆頭格ですね。リーズ出身のこの四人はまず黒人の女の子リリー・フォンテーンがフロントを務めていることで注目されてますけど、確かにリリーの人種全く関係ない感じも興味深くはあるんですけど、それ以上の強みは、彼らが今のイギリスのシーンのすごく「らしい」存在であることですね。サウンド的にはきわめて昨今のサウス・ロンドン的なポストパンクを聴かせているんですけど、それを00年代のレディオヘッドの基礎値をもって表現している感じがするんですよね。昨今のインディ・ロックの流れをすごく高いレベルで受け継いだ、すごく理想的な継承者というか。その意味でフォンテーンズDCと共に期待をしたくなる人たちの気持ちもすごくわかりますね。

Lives Outgrown/Beth Gibbons

続いてはベス・ギボンズ。ポーティスヘッドのヴォーカリストを務めていること、もうそれだけで十分レジェンドで高いリスペクトを集めてますけど、この22年ぶりとなるソロを聴くに、彼女がポーティスヘッドの「声」なのではなく、「本体」そのものなのだということが改めてよくわかります。これ、本当に、生楽器にストリップ・オフされただけのまんまポーティスヘッドそのものだし、他の二人が彼女の作品を土台にいかに肉付けしてきたのかが垣間見れるくらいに「芯」を感じさせる内容ですね。その生身の迫り方も、ソロになってからのロバート・プラントとかトム・ウエイツくらいしか表現できていない、隙間だらけのスカスカ空間の中で声だけで生々しさを伝える生命力の強さを感じさせるギリギリの表現になっています。改めて、シンガーソングライターとして優れた人だったことがハッキリわかりましたね。

Hit Me Hard And Soft/Billie Eilish

でも、この3ヶ月の主役は次の二つでしょうね。一つはビリー・アイリッシュ。彼女はどいしても、あの衝撃のデビュー作ということになってしまうんですけど、続くセカンドで多少やりたい方向性を拡散させた後、どうするかと思ってたんですけど、10曲と、抑えた楽曲数でしっかりとコンパクトにまとめてきたところがさすがです。それをしっかりと、昨今の過剰楽曲収録でのアルバム制作への批判を込め「従来どおりのアルバムの意義どおりのものを作る」と宣言して、それを有言実行するんですから、さすがですよね。そして表現そのものも相変わらずミニマミズムの極地なんですけど、生の歌の強さと練りに練った楽曲、抑えた中にテクノロジーを駆使したアレンジを使うだけで簡単に新しいものを作ることが可能であることという、一部の熟練されたアーティストだけが体得したワザを使ってレベルの違いを表現してますね。本当にレディオヘッドとか宇多田ヒカルとか、それくらいでしか聴けない次元のものに進化していると感じました。やはりビリーとフィニアスの兄妹、ただものではないですね。


Brat/Charli XCX

そしてもう一枚がチャーリーXCXですね。今の音楽界で多作と言ってすぐに思い浮かぶのはやはりラナ・デル・レイですけど、チャーリーも相当なもの。ここ数年は特に毎年のようにアルバム作ってはその都度話題になり続けてて「すごいな」とは思ってましたね。僕もほぼ毎作、年間ベストに入れてましたから。ただ、今作は、そんな彼女の中でも群を抜いて傑作だし、それは評価の点でもセールスの点でも圧倒的に結果出てますよね。彼女の場合、その時々の自分の表現を吐き出すやり方なので、作品そのものがそこまで変わりにくいところはこれまでありました。そこのところが、サウンド・コンセプトを固めてからアルバム出すタイプの人が表現しうる「サウンドのフェーズの変化」をうまく表現できないデメリットがありました。ところが今回のアルバムでチャーリー、その得意の「衝動性」の良さがこれまで以上に出た作品になってるんですよね。電子音のエッジの立った曲を、リズムのミニマリズムを聴かせるのではなく、あくまで起承転結のあるコンパクトな楽曲志向で矢継ぎ早に聞かせる。ありそうでなかったエレクトロ版のパンクロックみたいですよね。そのきっぷの良さがなんともカッコいい。ある意味、彼女の一番の良さが発揮された形になりましたね。





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