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沢田太陽の2023年間ベストアルバム. 40~31位

どうも。

では、年間ベストアルバム、続けていりましょう。

今回は40位から31位。こんな感じになっております。

はい。素晴らしい作品ばかりですが、早速40位から行きましょう。

40.Everything Is Alive/Slowdive

40位はスロウダイヴ。もう今となっては、「今日のイギリスの大物バンドのひとつ」ですよね。90年代に名盤を1枚出して忽然と消えた、シューゲイザーのシーンのみで知られたバンドが22年の時をこえ、その名作「Souvlaki」に違わぬ評価で突如スポットライトに。そして、6年後に今作を出したらイギリスやドイツでのトップ10をはじめ、「1作待てばフェスのヘッドライナーも夢もないのでは?」な大物バンドぶりですよ!こんな復活の仕方をしたバンドは他に知りません。活動の目処が全く見えないマイ・ブラディ・ヴァレンタインより活動が見れる分だけ代わりに大きくなってる感じですよね。そして、そのリアリティは今年のプリマヴェーラ・サウンド・サンパウロで体感したばかりです。スケールの大きなファンタジックでクリエイティヴな音の壁、そしてそこに乱反射する儚さと密かな力強さ。そうしたものを聴かせられる存在としては唯一無二でした。その中でこの最新作を「Souvlaki」や前作「Slowdive 」並みに聴かせてくれたらもっと良かったんですけど、最高傑作でこそないものの、彼らの唯一無二の美学を証明するには十分の力作だし、最新アンセムの「Kisses」に酔ってほしいです。

39.Endless Summer vacation/Miley Cyrus

39位はマイリー・サイラス。彼女は2000年代のどアイドルから見てるとホント「世話のかかるやんちゃ娘」みたいなヤツなんですが、年間ベストに入れても不思議ではない感じに成長してきました。2020年の前作「Plastic Hearts」のときは40位台に入れましたが、今回は自己ベスト更新ということで30位台に乗せました。去年のロラパルーザ・ブラジルで見せたパフォーマンスは彼女の長年の努力の賜物によるロックシンガーとしての見事な化けっぷり。声の出力だけならスティーヴィー・ニックスにも負けてませんからね。そこで今回はどうくるかと思いきや、ソングライティング・パートナーにキッド・ハープーンを選び、さながら「女版ハリーズ・ハウス」を狙ったかのようなかなり洗練されたポップ・ロックを展開していました。これまでの自己ベストだった前作でさえアルバムの並びに雑なところがあった彼女で一番まとまっているアルバムで、ちょっとお行儀良すぎるのが逆に気になったくらいです。ただ、どうでしょうね。「マイリー版・愛のサヴァイヴァル」とでもいうべき哀愁歌謡ロック「Flowers」が幸先良く世界中で1位の大ヒットになったのに、その後のフォローが彼女自身のプロモーション、露出、ツアー稼動なしで勢い殺してしまいました。「おい、こんなタイミングで鬱かよ」とも思ったし、稼動してたらグラミーだって主役になれたかもしれないのに。そういうとこではまだまだ不安定なのかな。

38.Rat Saw God/Wednesday

38位はウェンズデー。この名前というと、Netflixのアダムズ・ファミリーのスピンオフを思い浮かべてしまう人もいそうですが無関係。この人たちは、USインディロック・ファンには待望久しい、待ちに待った期待の大物新人バンド。ノース・キャロライナ州を拠点とした女性フロントのカーリー・ハーツを中心とした5人組。自主制作を何枚か重ねた後に現在、フィービー・ブリッジャーズやミツキで飛ぶ鳥落とす勢いのデッド・オーシャンズからの本格デビューとなりました。やはり、このバックアップはかなり注目のきっかけとなったか、リリースのタイミングから一斉にレヴューでは注目されまして、ことごとく高得点がつきましたね。彼らが出たことで、今年のUSインディ界隈、久々に新人バンドで賑わったことは確かです。そこまでウケた秘訣はやっぱサウンド。基本線となるのはすこしグランジっぽい90sの正統派インディ・ギターロック。ブリーダーズみたいな雰囲気ありつつの少しフォーキーにREMみたいな雰囲気混ざったりする感じで。そこで最近トレンドの女性フロントですからなおさらですね。USインディ的にはこれで活気づくとは思います。ただ、それでも僕がそこまで上位にしなかったのは、まだ彼らが、ここから広がりを見せられる存在なのか、狭いシーンに訴えるだけの存在なのかがこのアルバムまでだとよく見えないから。今のままだと後者で終わることも十分あり得ます。実際、レヴューほどストリーム伸びていないことも事実なので。その意味で次回作こそ真価が問われるタイプだと思います。

37.My Big Day/Bombay Bicycle Club

37位はボンベイ・バイシクル・クラブ。僕の年間ベスト、はじめてから7年経ちますけど今回はじめてエントリーします。それどころか知ってから15年くらい経ちますかね。その頃はまだ彼ら10代でフロントマンのジャック・ステッドマンもちょっとした美少年でした。それがまさかあんな風にツルッパゲの丸メガネキャラになるとは夢にも思わなかったんですが、一度の解散も経て6枚目にしてようやく「これだ!」というアルバム手にしましたね。今までセンスはあるもののどこかつかみどころがなくそれで損してたところもあったんですけど、今回はすごくヒップホップ的な手法のギターロックを展開してます。すごくリズムそのものがブレイクビーツ的な使われ方をしていて、そこに多彩なフィーチャリング・ゲストが参加。そのメンツがジェイソム、ニルファー・ヤンヤ、チャカ・カーンにホリー・ハンバーストーン、そしてデーモン・アルバーン!すごくブラーや初期ゴリラズのテイストを感じる作品ですけど本人ご登場のところを見ると、これこそがジャックがずっとやりたかったことなのかなと思います。これからイギリス、ヨーロッパのフェスはよいスロットで安定して出れると思うし期待してます。

36.Desire,I Want to Turn Into You/Caroline Polachek

36位はキャロライン・ポラチェック。これは今年のあらゆるメディアでもっとも人気の高いもののひとつですね。全体の合計でトップ5に確実に入ってますからね。僕もこれはリリースの時から期待していた作品のひとつです。彼女は00年代の後半からブルックリンでチェアーリフトって男女ユニットやってるときから知ってたし、あの頃から既にビヨンセに曲提供したりでそのたぐいまれなソングライターの才能、認められてたものですけど、遂に自分が看板抱えての活動でも成功ですね。元々エレクトロを使った女性アーティストとしてはソロ前作で2019年の年間ベストにも入れました「Pang」の頃から秀でたものはあったんですが、今回はそこにトラッド・フォーク(ファルセット多用の歌いかたがモロ)にラテン歌謡、さらには今年の一大トレンドでもあるドラムン・ベース~2ステップまで器用な多彩さを展開してます。とりわけミレニアムっぽいとこはあるかな。彼女、去年僕が彼女のライブをみたとき、コアーズのカバーも披露してたんですけどフォークっぽいとこはそこが由来な気もするし。そういうとこでは彼女本来のルーツ開陳の作品でもあるような気もします。ちょうどそこがミドルティーンくらいですからね。ただ、それでもそこまで上位にしなかったのは、僕の中ではまだフロントに立つアーティストとして線の細さが拭えないから。大親友のワイズ・ブラッドのそれと比べるとなあ。あと、それは本作の発売の仕方にも出てて。これ、通常の金曜発売じゃなくバレンタインにあわせて火曜かなんかの発売にしたからチャート的には惨敗だったんですよね。売り出しかける作品としては戦略的にどうかと思います。評判がよくて救われてますが、もうそういうことは出来ないくらい売れてきている自覚はもってほしいですね。


35位はブロンドシェル。本名をサブリナ・メイ・テルテバウムというLAの女性ロックシンガーのデビュー作です。まさにこの「女性ロックシンガー」というのがすごく肩書きの似合うタイプですね。この人の曲を聴いてると、ちょうど彼女がまさに生まれた頃のアメリカのロック・ステーションで流れてたタイプの女性ヴォーカルのロックをそのまんま思い出すんですよね。アラニス・モリセット、ホール、フィオナ・アップル、クランベリーズ。ちょっと物憂げでヘヴィな感じが。あの当時にこの音のまんまタイムスリップしてデビューしたら、すぐにスターになれますね。あと髪型がブロンドのフラッパーで、80年代半ばの売れ始めた頃のマドンナみたいなのもなんかトラディショナルなレトロっぽくていいんですよね。音とファッションが90sと80sのミックスみたいでいいじゃないですか。彼女はカーリー・ハーツ率いるウェンズデーと同じ日にアルバム・リリースになりまして、彼女の方はアイドルズやフォンテーンズDCと同じパーティザンと、フィービーやミツキのデッドオーシャンズから本格デビューのウェンズデーと対になってて、サウンドがともに90sっぽいことからも比較されましたね。ただ、世間はようやくオリヴィア・ロドリゴやフィービー、ミツキには追いつきつつありますが、まだ、こうしたいかにもな女性ロックには追いついていないのかな。セールス的にはウェンズデー共々まだまだ物足りないです。これがこの先どうなるかも見ものであります。


34.Mañana Será Bonito/Karol G

34位はキャロルG。たまに「カロルG」という表記を見ますが、この人の場合、カロリナさんという女性がアメリカかぶれした感じなのでキャロルと、どこでも発音されています。レゲトンの世界では2010sの後半からすでに大スターで、このアルバムでついに全米アルバム・チャートのナンバーワン。ついにはラテン・グラミー賞でも今年の最優秀アルバムに選ばれています。このアルバム、何がいいかって、いい意味での柔らかさ、多彩さですね。レゲトン、というか、それを含むウルバーノ・ラティーノ(ラテン・アーバン)ってヒップホップと同じで、基本、不良少年たちに訴えてナンボのところがあって、それが勢い単調なビートにメロディックさに欠けるラップにつながりがちなんですけど、彼女の場合は最初から声質がキュートで張り上げないでメロディックに歌うことが特徴だった上に、今回のように大ヒットした「Provença」みたいなキラーチューンを多発すると、それがなおのこと際立ちますよね。レゲトンの場合、ドンッ、チャ、ドンチャのリズムの繰り返しの音楽のわけですから曲調での牽引がすごく肝になりやすいタイプの音楽ではあるんですけど、この徹底した「楽曲至上主義」的な作り方はレゲトンを次の次元に持っていってる感じがしましたね。この辺りは男性アーティストだとなかなかしにくいことであり、いみじくもトラップ回帰してこけてしまったバッドバニーとは対照的な結果になったような気がします。


33.Chaos From the Fly/Grian Chatten

33位はグリアン・チャッテン。フォンテーンズDCの、あのリアム・ギャラガーがラップ調になったみたいな濃いアクセントで歌う彼のソロ作です。フォンテーンズは僕の年間では常連中の常連で、3枚のアルバム、すべてトップ20、そのうち2枚はトップ10入れてるくらい評価してるんですけど、それはソロでも同様のようですね。このソロ作、やはりバンドとは差別化してあっって、フォークの曲がほとんどではあるんですが、そこはさすがにバックにフォンテーンズ同様ダン・キャリーがプロデュースについていることもあって、リズムやストリングスのアレンジを大胆にいじってかなり実験的なシンガーソングライター作品になっています。そしてグリアンがいつもと全く同じ歌い回しで歌い、彼でしか生みえない空間を見事に作っています。僕の場合、バンドがちゃんと機能している時に出るソロに関してはあまり評価しないう主義で、順位がこのあたりになっているのもその意図が働いているからなんですけど、この路線はこれはこれで突き詰めて面白いと思います。ただ同時にこれ聴いて、やはりフォンテーンズというのは後ろの4人がいてのバンドなんだということもしっかりとわかった次第。グリアンがソロでの成果を果たしてフォンテーンズの次作に持ちこむのか、それとも全く別のものを作るのか。そこにも興味あります。

32.The Death Of Randy Fitzsimmons/The Hives

32位はザ・ハイヴス。この名前が僕の年間ベストに登場するのは、もうすごく嬉しいんですよね。なんてったって、11年ぶりのニュー・アルバム。いや、それだけじゃないですね。その前の2作がハイヴスとしては会心作とは言い難いものではあったし、年間ベストに名を連ねそうな作品ということで言えば2004年の「ティラノザウルス・ハイヴス」以来ですね。もう20年近くぶりというのに頭がクラッときてはしまうんですけど、よくよく考えたら「アークティック・モンキーズに影響を与えたバンド」の扱い(再評価の理由はそれが実は大きい)なので、それはそうですね。「Bogus Operandi」「Trapdoor Solution」「Countdown To Shutdown」と「いかにもな王道ハイヴス!」と快哉をあげたくなる序盤に、前作「Lex Hives」で試したオールドR&Bグルーヴ路線の中盤、そして後半は「ティラノザウルス〜」
の時に試したエレクトロのリズムに乗ったロックンロール。これまでのハイヴスのサウンドの歴史を知ってる人なら、いわばその集大成的なサウンドになってて、その意味でも嬉しいです。個人的には序盤の王道ハイヴスっぽい曲がもう少しあってもいいかなと思ったくらいですけど、ただ、序盤の4曲くらいは今後のライブのレパートリーの中核になりそうなくらいの久々の力強さです。これでもう少しリリース・ペース上げて、職人ロックンロール・バンドの揺るぎない代表格になってほしいものです。


31.This House Is Made Of Corners (EP)/Brigitte Calls Me Baby

そして31位はブリジット・コールズ・ミー・ベイビー。これは大抜擢なランクインです。今年、アメリカにはかなり有望なインディ・バンドが出てきています。これはすごい嬉しいことで、ここにもその例を幾つか紹介してるんですけど、でも僕が本気で一番好きなのはこのシカゴ拠点の5人組ですね。いわゆるレビュー・メディアでは紹介されてないと思うんですけど、インディでなくメジャーのATOからEPの形でこっそり出た彼ら。僕は、これも本当は今年僕が一番盛り上がったイギリスの2024年の黄金新人、ザ・ラスト・ディナー・パーティの全米ツアーの前座という形で知りました。そのBCMBなんですが、もう分かりやすく言えば「アメリカで40年遅れて登場したザ・スミス!」。スミスって、20年くらい前のエモ・ムーヴメントの時に実はアメリカでもかなり浸透してて、かの国では若い人がかなり聴いてたりもする(そのことはSpotifyのストリーミングでも明らか)んですけど、もう、フロントマン、ウェス・リーヴィンズの歌い方が思いっきりモリッシーなんですよ。しかも体の動きから、50〜60年代のハリウッド映画の意匠をあしらったりするところまで含めて。そしてそれでいて、その歌い方や曲調にエルヴィス・プレスリーやロイ・オービソンへのオマージュを込めるなど、しっかりアメリカン・アレンジもこしらえる賢さもあって。しかもプロデュースはブランディ・カーライルやジェイソン・イゾベル、クリス・ステイプルトンなどアメリカーナものの大物プロデューサーのデイヴ・コブ。こうしたところからも力入っていることが伺えます。この中の「Impressively Average」という曲は今、アメリカのアダルト・オルタナ系の局でトップ20に入ってきてるなど期待大きいんですよ。ルックスもすごく華があるし僕はすごく期待したいんですよね。

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