「Notes On A Conditional Form/The 1975」 混沌のまま投げ出すのもアリだけど、「幻のアルバム」というテもあったかもよ
どうも。
今日はこのアルバムの感想を語ることにしましょう。
THE 1975の新作「Notes On A Conditional Form」。このアルバムですね。このアルバムは、大絶賛され、僕も2018年の自分の年間ベストの1位にしました傑作「A Brief Inquiry Into Online Relationships」。あのアルバムがリリースになったときから、「同時に進行している」とも伝えられ、当初は昨年のうちにも出ると言われていたアルバムですね。先行発表曲も頻繁に出ていて、前作にはなかった感じの曲なんかもたくさん聞けたことで、このアルバムへの期待値はすごく高まっていたと思います。
ただ、僕の中ではなんとなくですけど、「前作ほど、良くはならないかもなあ」という予感があったことは否めません。あんまり事前に騒いでなかったでしょ?その理由のひとつは、アルバムの発売が延期に延期を重ねたこと。延期が多いアルバムって、ジンクス的にあまりいいものってないんですよ。プラス、先行で諸々先出しされてた曲が、「いいけど、Love It If We Made ItとかSincerity Is Scaryみたいに震え上がるほどの名曲はないな」と思ってたこと。そして、アルバムが22曲もあること。だいたい、曲数が多すぎるアルバムも名作、あんまり多くないですからね。
で、聞いてみたんですが
やっぱり、前作ほど、良いとは思いません
彼らの場合、デビューのときから、アルバムをまとめるのがあまりうまくない傾向があります。前作であれだけ曲数があるながら60分以内にギリギリおさめたのに拍手送りたいくらい、まとめるのうまくありません。そこに関して言えば、デーモン・アルバーンにも同じ傾向があるのでそこまで気にしなくていいことかもしれませんが、ただ、「数曲削って、別の出し方でもいいんじゃない?」と思える曲はどのアルバムにもありますからね。
でも、それが今回、22曲もあるうえに、アルバムの曲の流れがなめらかじゃないんですよ。エレクトロニカとかストリングス使ってうまく流れるようにしたのかなと思いきや、そういう使い方も部分的で、曲の流れもDJ的ではなく、前後のつなぎも「唐突だな」と思える瞬間も少なくなかったし。
でも、だからといって、
決して悪いアルバムではない
これもまた、事実です。
なぜなら、今回のアルバム、前作で聞けなかった要素もいっぱいあるから。「People」みたいなインダストリアル・パンクも、フィージー・ブリッジャーズ迎えたフォークも。全体的にフォーキーな曲、多めなところもそうですよね。あと、冒頭のグレタ・トゥーンベリの演説も、あれ、嫌な人には嫌なんだろうけど、僕はマティの性格考えたらあれは絶対あったほうがいいと思います。ポリティカル(というか環境問題ですけど)な訴え、あふれている人なんだから。これらがある限り、アルバムの存在が無になることはないと思います。ほかにも「Me & You Together Song」みたいな、長きに渡ってアンセムになりそうな曲もありますしね。
僕の邪推ですけど、これ
「もう、まとまらないなら、まとまんないままでいいや!」
という感じで出したアルバムなんじゃないかな、と思いましたね。これまでの延期も、結局は最終形がまとまらなかったがゆえのものではないかと。でも、それもアリなのではないかと。1枚、そういうアルバムを仮に出したとしても、それがダメージになって勢いなくすみたいなことも、今の彼らからは考えにくいですしね。それはさっきも言ったようにプラス面もアピールされたアルバムでもあるのでね。
ただ、マティとしては
前作が「キッド A」なら今作は「アムニージアック」みたいにしたかったところが
前作が「ロンドン・コーリング」なら今回は「サンディニスタ」みたいなアルバムに、結果的になっちゃったというか。
いいじゃないですか。「サンディニスタ」も「人によっては」ではあるけれど、名作扱いされてるアルバムですから。このアルバムも、「ロンドン・コーリング」みたいな奇跡的な曲の流れに欠けたアルバムで、録音した曲が無秩序にただボンッと投げ出されたカオスを聞くアルバムですからね。「ビートルズのホワイト・アルバムでは?」という声もあるんですけど、あれは無秩序に聞こえつつも、整合感、実はそんなに悪くないんですよ。前後の流れとかは意識的か無意識的か、それなりに考えられた感じがするというか。「サンディニスタ」とか今作に関して言えば、それ、感じませんからね。
今作に関していえば、これはこれで出してよかった作品ではあるし、ここからの曲でライブのセットリストから消えずにずっと演奏される曲も出てくるかとは思います。クラッシュだって、「サンディニスタ」のあとに、自己最高ヒットとなった「コンバット・ロック」という素晴らしいアルバム、出しているわけだし。まあ、その「コンバット・ロック」も、1枚本当は作った長大なアルバムをボツにしてできたアルバムなので、1975以上にまとめベタではあるのかなと思いますけど(笑)。
ただ!
同時に、こうも考えました。
まとまらないならまとまらないで、いっそのこと、「幻のアルバム」という手もあったのではないか
今の世の中、そういう「ロックの伝説」も聞かないですからね。久しぶりに、そういう作品作って、「出なかったことで何10年も想像上ですごいものにされてしまうアルバム」を作ってみても面白かったかもしれないですね。
たとえば、こんな感じで
ビーチボーイズの「Smile」、ザ・フーの「Lifehouse」、ニール・ヤングの「Homegrown」。いずれも「幻のアルバム」として、後世に語られてるアルバムですね。
「Smile」はこれが結局出ずに、短縮された「Smiley Smile」が出た後に、さらに「Surf's Up」みたいな、そのときの曲が後にバラで出されてますね。「Lifehouse」はそこからまとめられて作り直したのが「Who's Next」で、一部がピート・タウンゼンドのソロに流用されたりもしてますね。「Homegrown」はニールのその後のいろんなアルバムで完全にバラな形でいろんなアルバムの中で収録曲が発表されてたんですけど、今年、ついに再現される形でアルバムがでますね。
こういうのもありますね
マーヴィン・ゲイの「You're The Man」にプリンスの「Dream Factory」。前者はマーヴィンが前作「What's Going On」のあとに「政治的なアルバムを作ろう」として、先行シングルまで出してたのに、「ファンのウケが悪かった」ことにガッカリして制作中止。その後も出ることがなかったんですが、去年、マーヴィンの没後35年でついに日の目を浴びましたね。プリンスの方はこれ、80年代のバックバンドのレヴォルーションと録音してて、86年にも出るのではと言われてた作品ですけど、結局でず、これもフーの「Lifehouse 」みたく、一部の曲群が名作「Sign O The Times」に回されたことで、伝説の価値があがった幻の作品でもあります。
・・・と、こんなふうにしてもよかったのかもなあ、とも思いましたね。だって、これ、共通して言えることは、いずれのアーティストも想像上のピークで作ってしまった幻のアルバムだから。決してはずかしがることはないし、それがむしろ勲章になってしまってもいるし。1975にそれが作れるとしたら、今こそが絶妙なタイミングだったとも思うしね。そういう、久しく聞かない「幻伝説」でも面白かったのかなと。
こんなふうな想像を聞く人にさせてしまってるということは、これ、魅力的なアルバム、ということかもしれませんけどね。