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2020年代前半のベストアルバム 40〜31位

どうも。

では、2020年代ここまでのベスト・アルバム、続いては40位から31位いきましょう。

40.Unreal Unearth/Hozier (2023)

40位はホージア。彼は何かと今年の「Too Sweet」のヒットで「一発屋がカムバックした」と言われがちなんですけど、それはSpotify以降のリスニング状況を知らない人の大きな間違いです。「Take Me To Church」の入ってる2014年のデビュー・アルバムって大ロングセラーで、あそこの収録曲、だいたいストリーム、めちゃくちゃ多く、2019年のセカンドも地味ながらヒット。2023年の本作も「Eat The Young」を始めグローバル・チャートにランキンしてた曲が数曲あり、英米初登場1位。その水面下人気での固定ファンたまっての大ヒットだったんですよね。ソロのソウルフルな実力派ロッカーとしては素直に評価すべきだし、身長2メートルのセクシーなイケメンぶりで女性人気も本当に高い。フェスでもヘッドライナー格。実は見逃しちゃいけない存在です。

39.Ants From Up There/Black Country, New Road (2022)

39位はブラック・カントリー・ニュー・ロード。BCNR。2021年に突如起こった、主にサウス・ロンドンを拠点とする新たなポストロック/パンク・リバイバルの4バンド、ブラック・ミディ、スキッド、ドライ・クリーニングの中ではBCNRが頭ひとつ抜けってる感じがしますね。それは音楽そのものよりも、こういう難しそうな音楽してるバンドの中にあって、楽器演奏するメンバーに女の子が3人もいて大学の軽音部みたいなポップな出で立ちしてて、これからのバンドの未来的なものを感じたからですね。で、このセカンド・アルバムで、アンサンブル主体からよりシンガーソングライター的な楽曲志向に移ろうとした矢先にフロントマンのアイザック・ウッドがメンタルヘルスを理由に脱退。バンドの存続が危ぶまれましたが、ベースの、アンダーワールドのカール・ハイドの娘でもあるタイラー・ハイドを中心とした複数ヴォーカルのフリートウッド・マックのような再建を遂げ、次を待っている状態です。唯一無二の音楽性に加え、このドラマでこの時代の伝説になりそうな予感がします。


38.The Ballad Of Darren/Blur (2023)

38位はブラー。2010年代半ばにつぐ2度目のオリジナルでの復活でしたけど、これはこの年代を代表する「3つのカムバック」の一つですね。ゴリラズ始め幾多のソロ・プロジェクトで衰え知らずのデーモン・アルバーンでしたけど、まさかブラーに対しても、これまで彼にあまり似合わなかった「UKギター・ロックの円熟」という形での未来を付与しようとは。グレアム・コクソンの鋭いままのギターも見事にそれに応え、ボウイ亡き後のUKロックの継承とも言える音を鳴らしてるのが頼もしい。アレックスもチーズ作ってるだけじゃない、デイヴも政治家になる準備してるだけじゃないところを証明して嬉しかったです。このカムバックが成功して世界も回ってましたけど、これでまたさらに一旦活動休止は本当に惜しい。コーチェラの若造たちをギャフンと言わせるさらなるカムバックを待ちたいとこなんですけど。


37.Charm/Clairo (2024)

37位はクレイロ。まだ、そこまでみんなが知ってるスターというわけではないですけど、クレア・コトリルはビーバドゥービーと同じく、すごく20sっぽいシンガーソングライター、ロッカーだと思ってます。2人ともストリームの時代にDIYで音楽始めて、静かに草の根的に評価を得てきた意味において。ただクレアの場合はかなり当初から変わった成長してきてますよね。最初はもっとガール・イン・レッドみたいなベッドルーム感が強く元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムがプロデュースしてたりしてましたけど、セカンドを売れっ子のジャック・アントノフを作った際に70sのトラディショナルな女性SSWに接近。そっちの「Sling」てアルバムにしようかとも思ったんですけど、やはりこの今年出たばかりのサードの方が、キャロル・キングやローラ・ニーロを昨今のオルタナティヴR&Bのフィルター通してより伝統芸をモダナイズさせたうまさがあります。かなりの音楽マニアでもあるし、まだまだ成長が期待できます。

36.Songs Of A Lost World/The Cure (2024)

36位はザ・キュアー。この時代のロックのベテランの新たな歴史の1ページに刻むべき底力の傑作が3枚あると言ってきていますが、その3枚目がキュアーですね。実に16年ぶりのアルバム。遡って、その16年前ぐらいの彼らが良い時期を過ごしていたかと言われれば疑問で、「いつ以来の傑作か?」ということになればそれこそ30年以上ぶり。そういうことが可能になる時代、しかもそれを彼らは最年少でも57歳の昔ながらのメンバーで達成したわけですからすごいです。その間にも休まず、どのショーも軒並み3時間くらいの長尺セットを続け、そのパフォーマンスで生んだバンド・ケミストリーを新たな傑作に繋げた意味ですごく意義深いです。しかも円熟した彼らだから出来るドリーミーでメランコリックな壮大なサウンドスケープ。それをまるで彼らがたどり着いた境地のように生み出したのが感動的でもあります。

35.Promises/Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra (2021)

35位はフローティング・ポインツ。これも力作ですね。この時代、そこまでエレクトロ、目立って強い印象もないですが一人あげるならフローティング・ポインツ。彼のアンビアントの音色も個人的に好きなんですけど、それを60~70年代の前衛ジャズのレーベル、インパルスを支えた名サックス奏者のファラオ・サンダースとロンドン交響楽団という、ジャンルを越えた、今の時代だからこそ出来るセッション。緊迫感が全編に漲りながらも、そこから漏れて聞こえる電子音とストリングス、そしてファラオ御大から奏でられるソロのフレーズ。これらの旋律が重構造で織り成す美しさ。どんなジャンルが好きな人であろうが、包み込むような強い説得力がここにはあります。

34.Hit Me Hard And Soft/Billie Eilish (2024)

34位はビリー・アイリッシュ。つい最近、年間ベストで入れたばかりで、その時は6位なんですが、その時のアルバムよりも高い順位をつけてるのは、このアルバムだけじゃなく、その前のアルバムからの評価、この5年の活動に関して加味されているからです。このアルバムは後から見た場合、恐らくですけど、「悩める等身大のZ世代少女の代弁者」的なところから一歩踏み出して、本格的なプロフェッショナルなアーティストとして巣立った、いわば転機と言える作品になってるのではないのかな、という気がしてます。まあ。年齢的にもこのアルバムで彼女も23歳。ちょうど大学卒業して就職する年齢ですからね。そうなっても自然というか。ユーミンが「ミスリム」から「コバルト・アワー」に行くタイミングがちょうどそのくらいの年齢だったことも思い出しました。「All The Girls Go To Hell」とか「I'm Not Your Friend」から始まる「Therefore I Am」みたいなダークなブラックジョーク発するビリーが完全に消えて欲しくはない(というか、そこは消さないはず)ですけど、そこだけで止まる人ではこれからはないような気がしてます。

33.The Record/Boygenius (2023)

33位はボーイジーニアス。ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリッジャーズ、ルーシー・デイカス。USインディ・シーンで活躍中の1994〜95年生まれの女性SSWが3人集まったロック・トリオ。これ、2018年のEPが大好評でその後に3人ともに大きく成長したことから実現が強く待たれていて、それがアルバムとなって世に出たことで、2023年の世界中の音楽通きっての話題になりましたよね。グラミーでもこの年、最もノミネートを受けたうちの一つにまでなりましたからね。僕自身は前述のEPとか、この前のフィービーのアルバムに比べたらクオリティは正直物足りなくはありました。ただ、これ以前を知らない人にはあの3声ハーモニーjの美しさは圧倒的だし、3人が民主的に曲を持ち寄ってリードとってもまるで違和感の出ない統一感、そして欧米圏で未だ偏見の強いガールズ・バンドの存在が、インディ・ロックバンド。カルチャーさえ弱まっていたアメリカのシーンに投げかけた意義。これらのインパクトは本当に大きかったことは大いに認めるところです。ここから何か新しい動きが起こることを期待しています。


32.Mr.Morale & The Big Steppers/Kendrick Lamar (2022)

32位はケンドリック・ラマー。ケンドリックといえば、2010年代はトップクラス評価のアーティスト、僕も実際自分の10年代ベストでも2位にしてましたけど、それ考えるとこの順位はいささか低い感じを与えてしまうかもしれません。作品そのものはとても素晴らしいんです。名作「To Pimp A Butterfly」を思わせるジャズ、ソウル・バンドの従えた感じは本来、かなり好みでしたからね。このアルバム内でも延々と女性との口論描いた「We Cry Together」、トランス女性になった自身の身内描いた「Auntie Diaries」、ポーティスヘッドのダーク女王ベス・ギボンスとの夢の共演となった「Mother I Sober」などのインパクトは強かったし、個人的にはサマー・ウォーカーとのソウルフルなコラボとなった「Purple Hearts」とか好きです。ただ、面白い試みや他の追随を許さないセンスの良さこそあるものの、5年かけて2枚組で臨んだ割に多くの人の脳裏に刻まれやすい決定的なキラー・チューンは結局生まれなかったなという印象なんですよね。渾身の労作なのはわかるんですけど、ケンドリックであってもそれだけ産みの苦しみの時期だったのかもしれませんね。

31.Blue Rev/Alvvays (2022)

31位はAlvvays。オールウェイズと読みますが、VVの方がインパクトあるので言語表記の方がいいですね。カナダのプリンス・エドワード・アイランドと言う、「赤毛のアン」でおなじみのところから登場してきた彼女たちも、もういつの間にか、インディ・シーンのカリスマみたいになってますよね。ブロンドのロング・ボブのモリー・ランキンの力の入らない歌い方が、もういかにも60sのスウィンギング・ロンドン、はたまたネオアコ〜渋谷系の女の子みたいで、そこがもういわゆる「伝統芸の雛形」になりやすくてアイコン化してたとこがあったんですけど、それがこのアルバムで決定的になりましたね。とはいえ、これ、ただ単に型通りなわけではなくて、ギターの音色聞いたら想像以上に凝ってて、思ったより音が歪んでてかつハードだったりもするんですよね。シューゲイズの要素がありながらも、意外と音にガッツもあったりして。そこのところはギタリストのアレック・オハンリーの手腕が生きてますね。あと「Tile By Tile」とか幾つかの曲でペット・サウンズ的なピアノの分数コードからソフィスティ・ポップへと流れる曲には今後の可能性も感じます。じわじわとカルト評価が広がっている感じがしますが、かなり強烈にクセになります。





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