
デヴィッド・リンチ死去〜近づきたくても近づいた実感の持てなかったシュールなダークサイド
どうも。
これはやはりショックなニュースですよね。

鬼才デヴィッド・リンチが亡くなってしまいました。78歳。16日に家族が報告を行っただけで、直接的な死因はこれを書いている段階でははっきり
わかりません。ただ、病状が良くない中、LAでの大火災で避難を余儀なくされ、それが体調を悪化させたとの情報が入っています。
その話を聞くに、数奇な命の失い方で皮肉な気もしています。LAを舞台にした奇妙な世界を描き続けた人でもありますからね。
もうデヴィッド・リンチという人に関しては熱狂的マニアの方が物凄い数いらっしゃって、僕ごときで語って良いものか、迷うところでもあります。僕みたいに音楽や映画を語る立場にいるものとして「リンチ語れないなんて潜りだろ』みたいな側面までありますからね。
実際のところを語ってしまうと
2年前のちょうど今頃に個人的なオールタイムの映画100選を選ばさせてもらったんですけど、この時、基本1監督につき1作だったんですけど、僕、リンチの作品、入れてないんですよ。僕のパーソナルな好みにドンピシャなところに彼がいたかと問われると、恐れずに言うとそれはそうではなかったとは思います。
でも、だからと言って「嫌い」だとか「興味がない」とか、そういう感じともまたこれが違うんですよね。むしろ、「好きになりたくて接近したかったけど、できなかった」に近いのです。理解することに憧れたみたいな、そういう時も確実にありましたよ。
では、なぜそこまで彼の世界観にうまく接近することができなかったのか。そのことについて話してみたいと思います。
デヴィッド・リンチとの出会いは1981年5月。小学6年生だった僕は、その当時クラスでもっとも仲の良かった5人くらいの友人たちとともに

エレファントマンを見に行ったわけです。友達のうちの誰かが見に行きたいと言い出したのがきっかけでしたね。その日のことはなんだか覚えていて、その友達の中のお母さんが連れて行ってくれて、映画館に着く前に、その日に生まれて初めてマクドナルドのハンバーガー食べたことまで覚えてます。
子供の情報なんてものはかなりいい加減なもので、友達の一人が「エレファントマンは象と人間との間の子供だ」とかっていう誤報を流してたんですけど、生物をしっかり学んでたわけではなかったので僕らそれを信じきっててですね(笑)、それこそ怪獣映画的なものを見るようなノリで見に行ったら、まあ〜、これが心理的に怖いのなんの!
主人公メリックの奇形のメイクも怖かったんですけど、そうでなくても20世紀前半までの奇形の人々を見世物にしていた「フリークショー」って、作り物だとわかるお化けでないリアルなものだから見慣れていない子供だと直上反応的に怖いと思ってしまう。さらに劇中の19世紀の人たちが大げさに怖がる演技をするから、それが怖さを助長する。そしてそれでいて、エレファントマンことジョセフ・メリックに何も罪がないから、怖いと思うこと自体に道徳的な呵責も感じてそれが精神的な動揺と混乱にもつながる。
そんなドラマを、ものすごいどす黒いモノクロームの映像で見せるわけですけど、この色がまた怖くてね。いわゆるドイツ表現主義的な気味の悪さで。
そんなことが重なったために映画を見終わった道中、僕らはほとんど言葉を交わすことなく、放心状態で帰って行きました。翌日以降、この映画の話のことを誰も喋りたがらなかった。それくらいの心理的ショックがありました。見た年齢がもう少し上だったら印象もかなり違ったとは思うんですけど、11歳とか12歳だともう確実にトラウマになりますね、これ。
で、この映画の後に

アメリカとは逆の順番でデビュー作の「イレイザーヘッド」が出て。もう、これもこのモノクロ写真と「奇形」なんて聞くと、もうそれだけで怖くて。実は未だに見たことがありません(笑)。僕、この年齢になっても「ヘレデタリー」見て猛烈に怖くて、それ以降にアリ・アスターの映画、一切見てないくらいに怖がりなんですけど(笑)、それが10代です。いかに怖がっていたか、わかっていただけると幸いです(苦笑)。
だから、それ以降も、最初は心開こうとしませんでしたよ。いい評判とか聞いてもスルーしてて。ただ、大学生になった時に

「ツイン・ピークス」が流行りまして、日本の民放でもドラマの放送した時に「これはなんか感じが違うな」と思って、これは断片的に見ましたね。あの当時、カイル・マクラクランやらシェリリン・フェン、ララ・フリン・ボイルなど、どの雑誌見てもグラビアやインタビューがよく載ってて、かなり一般認知も高かったですからね。あれが最大のリンチのブームだったと思います。
で、ちょっとこの辺で


このあたりは「ツイン・ピークス」のブームの時にビデオ借りてみましたね。すると印象は良くなりましたね。
この頃だと
こういう挿入音楽に耳が止まるわけです。特に「ワイルド・アット・ハート」での後者は全米トップ10ヒットにもなりましたからね。
で、97年なると
「Lost Highway」が出てきて
当時、あらゆる音楽の中でも本当に最先端だったNINのこの曲なんか入ってるわけですよ。ここで、「ああ、やっぱかっこいいよなあ」と思って、サントラ盤は良く聞きました。
ただ、映画にはまだ心理的距離感を感じていたのか、映画館行かなかったりしたんですよねえ。
そしてそこから、またしばらく距離が開いたままになっちゃうんですけど、僕は2010年代に入ってリンチを見直すことになります。
そのきっかけが実は

ラナ・デル・レイです!
彼女を聞いた時、「このゴシックなバロックポップ感、どこかで聞いた感じだ」と思っていて、「それってもしかしてデヴィッド・リンチ!」と思ったら実はそうで。彼女はリンチやジュリー・クルーズを影響元にあげてまして。
で、実際に「ブルー・ベルベット」、カバーしてますからね。彼女、1960年代にすごい憧憬を抱きつつ、LAという町にすごくダークでゴシックな影を見ているようなところがあるんですけど、「それってまんま、リンチの映画、そのものやんけ!」と思ったところでクリックして。僕の中ですごうkリンチが接近した瞬間でしたね、これが。
そうして親近感沸かせて見ると距離って縮まるもので。遅れて見た2001年の映画「マルホランド・ドライブ」では、僕の大好きな映画監督の一人であるイングマル・ベルイマンの「仮面(ペルソナ)」とそっくりのレズビアン的な絡みのシーンがオマージュで捧げられてもいたりして、そこでもパチンとくるところがあったり。さらに言うと、これも「歪んだハリウッド」描いていて、なんかすごくノワールでゴシックなLA描くのが好きな人なんだなという印象を強めることにもなりましたね。
で、それで理解を深めようとすれば良かったものの、なかなか億劫でそれが進まなくて。その後に見たのが
ちょうどドゥニ・ヴィルヌーヴが「デューン」をリメイクする際にリンチのオリジナルを見てみたら、まあ、これが結構なトンデモ映画で笑っちゃって(笑)。あれ、あの当時にポリスの「シンクロニシティ」の直後のスティング出てたの知ってたんですけど、「全然強くねえじゃん、この悪役」とか思ったり(笑)。その意味でもなんか摩訶不思議な映画でしたけど。
最後の最後はこれでしたね。スピルバーグの「フェイブルマンズ」のラストに、リンチが役者としてスピルバーグの憧れの監督だったジョン・フォードの役を演じて。この姿が結局、彼を見た最後になりましたね。この時はまだ、リンチ自身の新作も観れるものだと思ってたんですけどねえ。
・・まあ、僕に関してはそんな感じです。むしろ僕の方が色々マニアの方に教えて欲しいような状態で亡くなってしまって。その意味でもなんかすごく残念なんですよね。
ただ、そんな僕でも、リンチの作り上げた唯一無二のシュルレアリスティックでゴシックなミステリーの美学。これはずっと受け継がれ続け消えるこちはないだろうなということです。その意味では、商業的な成功以上の影響力とカリスマ性が誰よりもあると思いますからね。
むしろ、これからも色々こちらからも学ばせていただきたいと思ってます。改めてRIP