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ロラパルーザ・ブラジル2022を振り返る (1)

どうも。

では、やっと、この話をするとしましょう。

はい。ロラパルーザ・ブラジルです。このゲートのロゴを見た時、ちょっとウルっときましたね。何せ3年ぶりですもん。毎年当たり前のように見てきたものがこれだけの期間見れず、今年だって「本当にやるのかな?」と思ってきたフェスですもん。この「あってあたり前」だったものがこうやってあるということがなんと貴重なことなのか。それをかみしめた次第です。

では早速、初日から振り返ってみましょう。

<初日>

ターンスタイル(第1ステージ 15時)

復活ロラパルーザ・ブラジルで最初に見たのはターンスタイルでした。昨年、アルバム「Glow On」が世界中の音楽メディアから大絶賛され、全米チャートでも30位にランクイン。一躍注目度が高まったアメリカはボルチモアの5人組バンドです。

 彼らに関しては「ハードコア」って言われ方するんですけど、僕からしたら「90s USオルタナティヴ・ロック・リヴァイヴァル」のイメージですね。しかもメインストリームで当たったタイプの方の重量感あるパンクバンドですね。ヴォーカリストの甲高い声もあって、イメージとしてはジェーンズ・アディクションとオフスプリングの間というか。ただ、こういうバンドがラウドロック界隈だけじゃなく、ピッチフォークみたいなメディアまで大絶賛だったので、すごく興味持ってました。

 で、全体で見てみると、イメージさらにわきやすかったですね。ヴォーカリストのブレンダン・イェーツはエモのバンドにいそうなフツーな感じのルックスでしたけど、リード・ギタリストがロン毛でキャップ後ろ向きにかぶった、30年くらい前のスラッシュ・メタルのバンドにいそうな感じで、黒人ベース・プレイヤーがカンゴール・ハットかぶってウルーヴィーなリフを放ってて。こういうところも90s前半のミクスチャー系のバンドみたいで面白いなと思いました。

 いざライブ始めてみると、ハードエッジな骨太グルーヴが、90s風のオルタナティヴ・ロックに乗りながらも、「Glow On」でも聞かれた緩急の繰り出し方、複合リズムやキーボードで作る変則的なコードの響きなどが絡むことですごく洗練されてるんですよね。ただ、こういう曲でありながらもオーディエンスを直情的に盛り上げていたるところでモッシュ・ピット作らせてたんですよね。変化球結構投げてるのに豪速球の効果をもたらす感じというか。そこがすごく新鮮でしたね。そして何より、オーディエンスが彼らに対して抱いている「俺たちはこういうバンドを待ってた」という待望感、渇望感を刺激するところが彼らにはありますね。そういうところはシーンの牽引者には求められるものですが、それがすでにある気がしましたね。今後型のしみです。

パブロ・ヴィッタル(第3ステージ 16:30)


続いて、メインステージから少し離れた第3ステージでやっていたパブロ・ヴィッタル。この人、まちがいなく、今、ブラジルで知らない人、いないくらいの超有名人です。

この容姿でわかるかとも思うんですが、この人、ドラッグ・クイーンですが、それで有名になったわけではなく、あくまでシンガーとして有名になってます。知ったの5年くらい前から。その頃から、「ライブいいよ」といろんな人言ってましたけど、直接的に僕のタイプの音楽ではなかったので興味持たずにいました。なかなか普段、ロラみたいなタイプのフェスには出てなかったので見てきてなくて、今回「いい機会」と思って見てみました。

 で、見たところ、これが本当にびっくり!いや〜、判断誤ってましたね。もっと早く観るべきだった。この人、ブラジルだけじゃなく、地球上のドラッグクイーンいちの歌のうまさですよ、これ!歌はファルセットなんですけど、こんなに太く響くファルセット、人生で聴いたことありません。例えて言うなら、その昔、イギリスのニュー・ウェイブ〜ダンス・ミュージック・アイコンにブロンスキー・ビート〜コミュナーズにジミー・ソマーヴィルというファルセットの名手がいたんですけど、彼の声を5倍くらいにした太さですね。いやあ、これは確かにうまい。というか、今、スポティファイのグローバル・チャートでアニッタっていうブラジル人女性シンガー、1位になってますけど、アニッタより先に知られるべきは彼女ですよ!

 そして歌だけじゃなく、ステージでの動きDIVAになりきっててですね。ダンス、すごい鍛えられてて、もうビヨンセとかレディ・ガガになりきってるんですよね。腰の振り方とか見事ですよ。人間、自信とプライドって大事なんだなということを、この人のステージから教えられます。いやあ、これは絶対に見たほうがいい、というか見ないとわからないです。早く世界に紹介されることを願いますね。

マリーナ(第2ステージ 17:30)

夕食がてら、第1ステージに移動しようとして、広い第2ステージでやってたのがマリーナ。その昔、マリーナ&ザ・ダイアモンズといってた人です。

「懐かしい」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、人気結構根強いんですよ。本国イギリスでもまだトップ10には入るアーティストでもあるんですけど、ブラジルで彼女、すごい人気でして。2015年にはファンの要望でロラ出演が実現したんですけど、彼女が飛行機に乗り遅れてキャンセル。翌年、1年遅れで実現して、第3ステージのヘッドライナーだったんですけど、かなり盛り上がりました。ファンの忠誠度が本当にこの人はすごい。

 なぜ、そこまでブラジルで人気なのかは僕も正確な理由はわかりません。一つ言えるのは、彼女の抱えるコンプレックス、そしてそれがありながらも自分に誇りを持って生きる姿勢。その歌詞世界が、特にゲイの心情に思い切りつき刺すみたいなんですよね。もう、ゲイ・ファンベースがすごいんですよ。左右のモニターで泣き叫ばんばかりに合唱して映し出されるのも必ずゲイの人たちで。マリーナ、ラナ・デル・レイの親友でも有名なんですけど、ブラジル、ラナ人気もすごい国柄ですからね。絶対影響あると思います。

 ここ2作が正直イマイチではあるんですけど、それでも最初の3枚までの曲はそれなりに楽しめましたね。

 マシンガン・ケリー(第1ステージ 19:00)

そしてマシンガン・ケリー(MGK)です。第1ステージの夜の一発目という、美味しい時間です。

 MGKに関して言えば、ポップパンク転向が思わぬ大成功をもたらし、文字通りのロックスターになって、さらに、いかにもな「ロックスターズ・ワイフ」なメガン・フォックスと婚約したりもして、もう随分長い間聞かれなかったアメリカン・ロックンロール・スターを満喫している最中です。彼に関しては、音楽そのものよりも「存在」の確認に出かける。そんな気分でしたね。

この人、ロックになるとすごく00年代まんまのポップパンクをやるんですけど、この日、登場BGがいきなりマイ・ケミカル・ロマンスの「Welcome To The Black Parade」まるまる1曲というベタさ。それに乗ってピンクのギターを持って登場後もひたすらポップ・パンクの連打連打。

ただ、まあ、彼、歌はびっくりするくらい下手だった!聞いてて思い出したのは反町隆史でしたね。声質は違うんですけど、聞いてて声に高低の感覚がなく、全体がボワ〜ンとこもった感じというか。いわゆる藤子不二雄で言うところのジャイアンの「ボエ〜」の感じというか。ただ、それでも本人も周囲もすごく盛り上がってるんですよね。楽しんでそれを共有しようとする一体となった空気感は見ていて伝わりました。

 この日は彼の新作「Mainstream Sellout」の発売日でそこからも数曲やりましたけど、昔とった杵柄でラップもやるんですよね。そこで披露されるエモラップ調の曲でのラップの方が歌よりも断然うまいんですよね(笑)。今後の彼がどういうキャリアを積むかはわかりませんが、手段としてとっておくのも手かなと思いましたね。

 それが終わると、後半はまたポップ・パンク〜エモなんですけど、パラモアの「ミザリー・ビジネス」なんて、またコッテコテのカバーも披露してね。どこまで「そのまんまなんだ、この人(笑)」と思いましたね。

 ちなみに、終始「美しいワイフも一緒に来てるぜ」と言っていた彼ですが、メガン・フォックスが出てくることは最後までありませんでした。

 この人に関しては、「ロックじゃない成金野郎が、下手な歌でありきたりなことやって売れやがって」みたいな批判、今、ロックの世界ではかなり強くあって、ワースト・アーティスト的な役割も担ってます。ただ、「では、なんでそんなヤツが今、この路線で世界のチャートの上位に来てるのか」。これもまた事実です。僕としては、この正体がなんなのか、確認しに来たところもあったんですが、ぼんやりではありながら、それが見えたような気はしました。それに関しては、また改めて話そうかと思ってます。

ドージャ・キャット(第2ステージ 20:00)

「今日、一番、客いたんじゃないかな」と思えたのがこの日の第2ステージのトリでした、ドージャ・キャット。サンパウロだとですね、全米トップ40聴いてるタイプのティーン、20代、非常に多いんですね。だからラインナップ決める際に、ヒット曲出してる実績のある人を呼びたがる傾向が前からあります。ドージャに白刃の矢が立ったのはそういうところが強かったような気もします。

 彼女のイメージとして、「歌も歌えるポップな女性ラッパー」の印象があるのではないかと思います。実際、僕もそういう印象でしたから。今もヒット継続中のアルバム「Planet Her」もとにかく「曲が楽しめるアルバム」というイメージで、エンターテイニングなイメージが強いですよね。

 ただ、今回の彼女のステージは、それをかなり良い意味で裏切りました。ステージに控えていたのはフル・バンドで、ライブのはじめから終わりまで、基本、本格的なバンド演奏なんですよ!ギターなんて結構、ハードで厚めでね。そして、ダンサーたちと一緒にドージャが現れるわけなんですけど、マイク音量大きめの生声で聞こえてくるのは彼女のなかなか切れ味鋭いラップなんですよね。しかも、カーディBやニッキ・ミナージュ顔負けの!カーディなんてライブ、どこでもほとんどリップシンク(これは本当に残念)なんですけど、ドージャは生で勝負できる分、力量に関して上かなあ、と思わざるをえませんでしたね。

 歌も歌うわけなんですけど、むしろ歌の部分が後ろで流れる録音された歌に、合いの手入れるだけのことが多くて、そこまでちゃんと歌ってないんですね。これを見て、「ああ、この人、ラッパーとして認知されたいんだろうな」と思いましたね。

 あと、彼女の小柄で、あまりセクシーとは言えない、ちょっとステージでの立ち姿的に不利な感じも逆に印象あげましたね。同性目線で見たら、「そういう感じなのに、実力一本でのし上がってきた」の共感が湧くんでね。しかも、本来、そういう一本気な感じなのに「Kiss Me More」みたいなキュートなガールズ・アンセムであくまで勝負する感じもね。そういう意味も含めて、自分のアピール・ポイントをしっかり把握した、すごく自分のアイデンティティがはっきりしたアーティストなんだなということを確認できましたね。これは今後、思ったよりも長いヒット・アーティストになる気がしました。

ストロークス(第1ステージ 21:00)

そして、この日の目玉はなんといってもザ・ストロークスです。ストロークス、ブラジルでは非常に人気高いんですよね。理由はドラマーのファブリシオ・モレッティがブラジル人だから。2011年にサンパウロでやってた、これまで売り切れたことのなかったフェスが即日完売になったり、ロラパルーザでも2018年にヘッドライナーやって大盛況でした。

ただ、日本で最後に見た2006年のフジロックも不満が残っていたんですけど、その2回のサンパウロでのライブが正直な話、全然ダメでしてね。ストロークス、ぶっちゃけライブでよかったのは初期、サマソニの準ヘッドライナーだった時のツアーまでですね。何が悪いか。すべてジュリアン・カサブランカスのせいです。彼がステージに上がる際の酒の量がコントロールできないがためにライブの集中力がないんです。それでいつの間にかメンバーの集中力も切れてライブがまとまんなくて自滅する。これがストロークスの非常に悪い循環になってました。

 ところが今回は風向きがよかったので期待してました。それは2020年のアルバム「The New Abnormal」が10数年ぶりに好評でついにはグラミー賞の最優秀ロック・アルバムまで受賞するくらいの成功で。本当は2020年に、このアルバムが出る直前にロラパルーザ・ブラジルのトリ予定だったんですけど、正式に世に出てからのライブの方がやっぱ嬉しいよな、と思ってました。

ライブは、その最新作からの「Bad Decision」からスタート。気を良くしてる様がそれだけでわかりました。ジュリアンも、高い方も低いほうも声がよく出てるし、演奏もタイト。レコーディング通りの、ストロークスにしか出せないギターとアンサンブル。こんなに状態のいいストロークスを見たのは久しぶりでした。

選曲の方も、これまで勢い「Is This It」に頼ってたところが、あの伝説のデビュー作からの曲はなかなかやらない。やるのはもっぱら最新作とサードの「First Impression On Earth」の曲が中心です。「いやあ、今回攻めてるなあ」と思って、僕はすごく嬉しくなりました。

 ただ、ジュリアンの持つコップの酒の量が増えだしてから、雲行きはだんだん危うい感じにもなりまして(笑)。「おい、何かポルトガル語で喋れよ、ファブリシオ」とよたり出してからが、いつものジュリアンで。ここから何が問題になってきたかというと、ジュリアン、これまでのようにデビュー作に頼らないように成ったのはいいものの、最新作、そしてサードであまりやってきてなかった曲の歌詞を覚えてなかった(笑)!だから、そのあたりの曲になると、フロア覗き込んでカンペ読みながら歌うんですよね(笑)。しかもサングラスはめてたもんだから見にくそうに。そういう姿、大型モニターでしっかり映し出されてるのに、「えっ、これ、なんて読むんだ」くらいのこと言いそうな勢いで独り言交えながら歌うんですよ(苦笑)。この日、僕が最新作から一番大好きな「Eternal Summer」なんてやってくれて、それだけですごく嬉しかったのに、歌詞がズタボロでした。

 ただ、いつもなら、ここで集中力切れてダメなところ、アルバートを中心んい、そんなジュリアンを無視して進行する姿勢が見られたのが今回収穫でしたね。「前から、それやってくれよ」って感じでしたけど(笑)、ジュリアンがなんかよたっていい始める前にアルバートがギターのリフ初めて曲進める、なんて展開までありました。このバンド、ジュリアンのソングライティングあってのバンドだし、そうじゃなきゃだめなことは最新作でも証明されたんですけど、今後、こういうだらしないフロントマンに対しては後ろの4人がこうやってシメるのがベストですね。その対処法見出しただけでも、僕は大成功だったと思います。それが理解できてない現地ジャーナリストには叩かれてましたけど、「これまでのライブのことも考えてくれ」と思いましたね。このバンドは、これでいいんです。

後半になって「Is This It」の曲が増え、そこはさすがにジュリアンも体に染みついているからなのかカンペ見ずに歌えてましたけど、それでもこの日の咲いた楽曲は新作からの5曲。ファーストとサードが4曲、セカンドが2曲。4、5枚目がゼロと言うセットリストで、このあたり「20年代になるにあたってモード変えてきてるな」という感じがしてすごく好印象でした。相変わらずなことはありつつも、これは今後に期待大です。

ちなみに、ファブリシオがステージ去り際に言った言葉は「フォーラ(やめろ)、ボウソナロ」という、ブラジル大統領に対してのディスで、これが翌日から、ロラパルーザで物議を醸していくことにもなりました(明日に続く)。


















































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