広島に行ったときのこと(前編)〜岩国・呉編
半月程前に二泊三日で広島に行ってきた。目的はふたつ。『この世界の片隅に』を読み、観た時からいつか行ってみたいと思っていた呉の街を散策すること、敬愛する小説家・詩人の原民喜にゆかりのある場所を巡って回ることだ。
初日は広島空港行きではなく、敢えて岩国空港行きの飛行機に乗って錦帯橋を観てきた。広島にはツアーで何度も行っているので、折角だからこれまでに行ったことのない場所に行ってみたいと思ったのだ。
錦帯橋は日本を代表する橋で、主要な構造部は釘を全く使わずに組まれている。小雨が降っていたけれど、山の方には靄が出ていて、それはそれで風情があって良かった。
錦帯橋の周辺にはこれといった観光地が無いので、茶屋で抹茶ときな粉餅を食べた後バスで広島市に行き、ツアー『俺たちの旅』での御用達である若貴というお好み焼き屋で飲み食いし、翌日の呉散策に備えて早めに寝た。
『この世界の片隅に』は作者であるこうの史代さんの独特のタッチと、戦時下での市井の人々の日常を生き生きと描きながら、それらを徐々に脅かしていく戦争の残酷さをも見事に対比させて描いた素晴らしい漫画だ。映画化されるに当たってあの独特の質感がどう映像化されるのか不安もあったけれど、果たして実に見事な出来だった(映画版について書き始めると目茶苦茶長くなると思うので、ここでは割愛する。ただ一点だけ、主役の声を当てたのんの演技が鳥肌が立つくらい素晴らしかったことだけは明記しておく)。
『この世界の片隅に』で見事に描写されている呉という独特の風情が感じられる街。原作を読み、映画を観た時からずっと抱いていた「いつかあの街に行ってみたい!」というちょっとした夢が、この日ようやく叶うのだ。
呉に着いて先ず最初に海上自衛隊呉地方総監部を見学してきた。総監部第一庁舎と旧電話総合交換所が毎月第一・第三日曜日に一般公開されており、旅行日程を組んだ時にタイミングが合ったので、滅多に無い機会だからと参加することにしたのだ。
見学を終えた後は自由軒という食堂でオムライスを食べ、松本零士の作品や貴重なコレクション等が展示されているヤマトミュージアム零に。こぢんまりとしたスペースなので展示品の数は多くないけれど、松本零士ファンならば一度は足を運んでみる価値有りな場所だった(撮影NGぽかったので写真は無しです)。
次はいよいよ『この世界の片隅に』の聖地巡りといきたいところなのだけれど、公開後間もない頃に片渕監督から住宅付近の巡礼は控えて欲しいとのアナウンスがあったことを覚えていたので、小春橋と三ツ蔵を観に行くにとどめた。灰ヶ峰に登って呉の街を見下ろしてみたかったのだけれど、雨が降ったり止んだりと天気が不安定だったので断念した。
三ツ蔵を観た後は海上自衛隊呉資料館(通称:てつのくじら館)と大和ミュージアムへ。
呉散策のラストは呉護艦船巡り。「くれない5」という観光船に乗って呉湾を巡るショートクルーズで、自分が参加したのは日の入り時刻の特別便である「夕呉クルーズ」。この特別便ではラッパの吹奏とともに海上自衛隊の艦船から自衛隊艦旗が下ろされる儀式を至近距離から観ることが出来る。
ガイドさんによると、この儀式で演奏されるのは通常の「君が代」とは全く旋律が異なる「ラッパ君が代」と称される曲で、自衛隊のラッパにはピストンが無く、口の形だけで音程を変えるとのこと。
少しずつ日が暮れていく呉の港に響くラッパの旋律には郷愁を誘うものがあった。儀式というものが持つ独特の美しさに暫し見惚れながらも、その美しさは時に愛国心をくすぐりもするのだということが脳裏を過った(同じことはYouTubeでエリザベス女王の葬儀を観た時にも感じたし、ナチスの軍服等のデザインの美しさにも言えることだろう)。
夕呉クルーズの後は高速バスに乗って広島市の八丁堀の居酒屋で飲み食いして宿に戻り、即寝落ちした。相当な距離を歩き回ったので疲れ果てていたのだろう。
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