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「提案」はひとつより、ふたつがベター


皆さんが会社勤めをしている場合、上司に資料の作成をお願いされることは一度や二度の話ではないでしょう。またはフリーランスの場合、お客さんから企画やアイデア出しを求められることもあると思います。こんなポスター案を考えてほしいとお願いされるデザイナー、年間採算計画の作成を依頼されるコンサルタントといった具合に。

そのとき、ひとつの提案に全力を注ぐか複数の提案を用意するか。あなたはどちらのタイプでしょうか?時間があまりないときは前者にならざるをえず、そもそも私たちはいつも時間が不足しているので、少なくない人が「一球入魂」で宿題にとりかかるように思われます。ちなみに私もシングルトラック派。選択肢をひとつに絞って作業を進めるタイプです。

マルチトラック(複線化)はムダな作業につながることが多い。プランA、プランB、プランCを考えたとしても、採用されるのはひとつです。3つのうち2つがお蔵入りとなれば、わざわざマルチトラックに挑む人はそう多くないと思われます。ところが、複数の選択肢を考えるだけで、最終的にひとつしか選ばれないとしても、意思決定の質が改善されるという傾向が複数報告されているのです。

フィードバックがネガティブなものであれば、誰しも感情が揺さぶられます。つまり、自分のアウトプットを否定されれば、いい気はしません。ですが複数の候補を用意したデザイナーのうち80%が「どんなフィードバックでも好意的に」受けとりました。一方、候補をひとつに絞ったデザイナーは35%しかフィードバックを真摯に受け取りませんでした。

それどころかシングルトラックのデザイナーの半数以上が、フィードバックを「自分への批判」と感じていました。ちなみにマルチトラックのデザイナーでフィードバックをそのように受け止めた人はゼロ。しかも、この体験をへて、デザインへの自信が深まったと報告しました。これはいったい何を示唆しているのでしょうか?

一生懸命つくったアウトプットに対して私たちは強い愛着を抱きます。アウトプットがたったひとつであれば、否定的なフィードバックに過敏に反応してしまうのもある意味仕方ないことなのかもしれません。唯一の選択肢を否定されれば謙虚な態度も影をひそめます。逆に言えばマルチトラックは、自我を抑制するのにも役立つともいえますね。

余談ですが、「選択肢の過多」を指摘したのは心理学者のシュワルツさん。私たち人間は、選択肢が多すぎると選択できなくなるという傾向があるそうです。消費者の行動を観察するために、6種類のジャムを用意した日と、24種類のジャムを用意した日を比較した食料品店がありました。

お客さんは、6種類の日も24種類の日も大歓迎。選択肢が増えることに対して高い評価をしました。ところがレジで購入率を調べたところ、6種類のジャムを見せられた顧客のほうが、24種類のジャムを見せられた顧客よりも、なんと10倍もジャムを購入していたそうです。選択肢の多さに思考が麻痺してしまったことを明らかにした興味深い実験です。

資料作成やデザイン提出に際して、24案も用意する人はおそらくいないでしょう。でも複数(多くて5つくらい)の選択肢を用意すると、選ぶ人(上司やクライアント)には喜ばれます。かつフィードバックを経て作成者のモチベーションがあがるので、さらに高いクオリティのアウトプットにつながる可能性もあります。

会社の重役会における意思決定の結果を調査したキール大学の研究者たちは、重役会がふたつ以上の選択肢を検討した場合、「成功」だった意思決定が6倍に跳ね上がったことを明らかにしました。大量の選択肢を用意する必要はありません。でもひとつよりふたつ、できれば三つあればよりよいアウトプットにつながることが示唆された実験です。

ちょっとめんどくさいと感じても、提案やアイデア出しは複数用意する。マルチトラックの効用についてまとめてみました。参考までに。

久保大輔




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