自分の価値を高められるポジション
近年は副業を認める会社があったり、社員の個人事業主化を推進する事例も見られるようになりました。働き方の自由度が高まるという見方や、終身雇用の限界と社員を「体良く切る」手段、なんて冷めた評価をする人もいます。何が正しいかはわかりませんが、世間のスタンダードは多様化しています。
ある程度安定した職業を持ち、リスクヘッジをしながらチャレンジングなことに取り組むことを「バーベル戦略」といい、認識論の研究者、レバノン人のタレブさんが言語化しました。とある研究では、独立や起業を成功させた人の多くには「毎月の安定収入」という土台があったと報告しています。一方、会社員を辞めるなど安定収入を捨ててチャレンジする人は失敗する傾向があるようです。
月々の定期的な収入という安心感が、チャレンジを活性化させる。そして副業として細々と稼いでいた収入がいつしか、本業の収入を超えたときはじめてその職を辞め、浮いた時間をさらなるチャレンジに費やすことで事業が拡大していきます。「それはそれ、これはこれ」という感覚。どっちにしても未来は不確定、不安定なので、複数のモノサシを同時並行的に扱うことで、視野狭窄から抜け出すことができます。
アインシュタインは、ベルンの特許庁で仕事を務めながら、余暇の時間を利用して「公量子仮説」の論文を書き上げました。不確実性に背を向けていると、人生が「化ける」可能性がなくなってしまいます。リスクのタイプが異なる複数の仕事を持ち、「向いていない」仕事をひたすら我慢して努力するより、自分には何が向いているのかを真剣に考え、新たな可能性を探す努力をすべき。タレブのロジック、アインシュタインの事例を知ると、柔軟な思考で、自分の価値が高められるポジションにい続けることが大事だと気づかされます。
挫折して逃げる。ただしタダでは逃げない。盗めるものはしっかり盗んで、新しい場所でちょっとだけでも成長できるように。失敗と改善を繰り返して、徐々に精度の高い仕事ができるようになる、長期的な成長曲線をイメージできれば、目の前の失敗を糧にできます。そのためにも、失敗の経験を言語化して、改善するための情報収集を怠らず、来るべきタイミングに常に備えておくことが重要だと思います。
本来の自分らしい自分であろうとする人を「コナトゥス」といいます。人生を楽しむためには、さまざまなものを試し、どのようなことが自分のコナトゥスを高めるのか、あるいは毀損するのかを経験的に知っておくことも大切です。いろんなことを試し、自分なりに「良し悪し」を判断する軸を作っていきます。「良し悪し」と「好き嫌い」を混同することなく、自分自身の軸を固めるために、たくさん経験して、たくさん失敗することを追求していきたい。結局のところ試してみないことには何もわかりません。努力はむしろ、「いい偶然」を手繰り寄せるための計画と習慣にこそ向けられるべきだと思います。
久保大輔