時を無視したサンプリングの道にしか見えない世界—DJイオ「Sampling Roads」(20221127)
mixやリミックス集などはコンスタントにリリースしているけれど、単独リリースとしては5年ぶりくらい? 2022年10月30日にLBTからリリースされたDJイオ/Sampling Roadsについて、初めて聞いた時の感想と受けた印象をつらつらと記してみました。イオくん自身による詳しい曲解説や紹介がされているようだし、リリースから約1カ月経った今だと私がなんやかんや言うのも少々今さら感があるかもしれませんが、よろしければどうぞ。
DJイオ/Sampling Roads http://lbt-web.com/sr/
そういえば、先日東京で開催された彼が運営するレーベル「LBT」の20周年パーティも大盛況だったようで喜ばしい限り。世の中で最も大変なのは継続だと思うから、20年って本当にすごいことだと思う。彼のアルバムやDJを聞けばわかるけれど、肩肘張って継続云々というよりは楽しいからやってたらこの歳になっちゃったよ〜、という感覚のほうが強いのかもしれない。だけど大人になるにつれて多かれ少なかれ目減りしていく「楽しい」って気持ちや「好き」って気持ちを持ち続けるのは一つの才能だから、やっぱりすごい。
ということで本題。いきなりm-flo/Come Again風のトラックに乗せてぎゅうぎゅう詰めのサンプリングをザッピングスタイルでかますM1は、アルバムのコンセプトをまるで体現しているかのよう。ヒップハウスやサンプリングものが大好きな私のような人間は、この段階ですでに期待値が上がりまくる。
そして空気感は一転、M2は透明感のあるinkoの歌声で始まる。あの曲のカバーかとよく聞いてみると……なんか違う。笑顔になる詞に音源のみならずオリジナルの歌詞をつくり直す著作権クリア魂と、更なる元ネタへと遡る「音で体現する中古レコード探し」感がある面白さ。一見ぶつかりそうなテイストのトラックも不思議にまとまっていてカッコいい。とにかくあれこれ興味深い。
イオくんといえばポケモンマスターかつゲーマーなので、M4はゲーム好きだと倍楽しめる。逆に言えば、クラブミュージック云々を知らなくてもゲーム音楽や昭和のアニメが好きならこの曲をぜひ聴いてみてほしい。タイトルやmix名、サンプリングすべてが絡んで一つの新しい世界をつくり出していることがわかるし、アニメ系のイベントでかかったら合唱起こるだろうな。
ここまでサンプリングネタのことばかり書いてきたけど(単純に情報量がものすごく多いので)、もちろんクラブトラックとしてもめちゃくちゃカッコいい。ボイスなし、ピアノトラックを乗せたハッピーハードコアで勝負したM5はその代表かもしれない。ヒップハウスにハッピーハウス、ハードハウス、ガバ、ハッピーハードコア、ドラムンなどをミックスしたアッパーなトラックでとにかく気分が上がる。2000年代のペンデュラムの登場なんかは顕著だったけれど、ドラムンとロックやメタルとの相性のよさが知られたこのテイストはメタルファンにも親和性が高そうな、大きめのフロアで映えるスタジアム系トラック。大好き。私にはわからないけど、もしかするとポケモンマスターのみなさんはまだまだ楽しい気づきがあるかもしれないな。
M7はもう笑顔にならざるを得ない、POP WILL EAT ITSELFや電気グルーヴやLaidback LukeでもおなじみLA BELLE EPOQUE/Black Is Blackのアレから始まるディスコハウス祭り。アッパー!
M8は、私のまわりでものすごく人気がある(のでオッ!と思った)DJありがとうさんがゲスト参加している、四国お遍路88カ所を唱えるファンキーとしか言いようがないディスコもの。ポケモン言えるかなミーツダフトパンク的なトラックは、できればラストまできっちり聴いてほしい。ハウストラックに乗せて地名を連呼されると妙に心が躍るの、やっぱり私がTheKLFトライブだからなんですかね……。
M12は、SMAPのSHAKE!に代表される往年の歌謡曲ネタのハウスブート盤なよさとか空気感があるハッピーハードコアミックス(そういえばLBTでもSHAKE!ネタのリミックスCDをかつて出していた)。もうサビとか無意識にハンズアップしてしまうので部屋の小さい音じゃなくてフロアの大きい音で聴きたい。しかしあの紅白歌手さんJ-POPですごいタイトルの曲出しててびっくりした。
シューティングゲームのサントラにもなりそうなM9、2000年直前頃の288モデムの音と2020年代J-POPネタのチョイスがいろいろ深いM10、M6やM13などジングル的に入るトラックもこの短さもったいなさすぎるでしょ、という密度でオリジナルパート終了。
M14からはリミックスが並ぶ。1997年リリースの名曲DJ SHINKAWA/Circuit On The MoonをイオくんとThe LASTTRAKさんがリミックス。イオくんの敬愛が伝わる比較的原曲に忠実なミックスM14、The LASTTRAKさんのピアノフレーズを随所に利かせつつ、SL2的ラガジャン風味も混ぜた超クールなドラムンへと大変身させたM17、同じ曲でもここまで変わるのかという違いが実感できるリミックスが2曲。柔らかでドラマチックなイメージの強かった原曲をフロア寄りのシブいハードハウスにシフトさせたM15のTelematic Visionsさん(田中フミヤさんのDJが好きな人とかに受けそう)。超アッパーな原曲を90’sニュージャックスイングやブラコンの空気を持つあたたかなディスコにシフトさせ、ディスコの解釈の幅広さと懐の大きさを感じさせてくれたMusicarusさん。リミキサーの人選も絶妙だった。みなさんの別の曲も聴いてみたくなったから、今回のコラボレーションは大成功していると思う。
よくインテリア誌を見ていると、例えばシェーカーの家具やアフリカの民族柄の布地、和箪笥、中国の花器のようにジャンルや時代はバラバラ、和洋も問わない家具が並んでいるのにしっくりまとまっている事例が出てきたりする。あれは部屋の主の審美眼やセレクトの基準に一つの芯が通っているからできること。それを当人が自覚しているにせよいないにせよ、無意識で自信があるからこそ見る人を納得させ、いい物だと感じさせてしまう。
このアルバム『Sampling Road』をリリースしたイオくんもたぶん、曲作りやDJスタイルにおいてそういう枠の人なのだろう。MOUNTAIN GRAPHICSさんの間違いないジャケが示すように、M2やM4、M11の洋の東西も時間軸も問わない元ネタ探し、全曲に通じる他人から見ればマッチしなさそうなトラックもどんどん選んでいく審美眼。
昔から変わらない好きなものをとにかく集めて繋いでいく中で、新しい世界を生みだしていく人がいる。それは「好き」が続かなければ絶対にできないものでもある。このアルバムを聴いてみて、改めてそんな風に思った。
DJイオ/Sampling Roads http://lbt-web.com/sr/
2023年1月には大阪でのLBT20周年パーティもあるらしいので関西の人はチェックしといたほうがよさそう。
Drinkers High! 20 -WEST-
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